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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8環境大臣会合,議長総括

[場所] 神戸
[年月日] 2008年5月26日
[出典] 環境省
[備考] 環境省仮訳
[全文]

1.G8の環境担当大臣および欧州委員会委員は、5月24日から26日にかけて神戸において一堂に会した。会議にはアンティグア・バブーダ、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、スロベニア、南アフリカの大臣および高官、ならびに地球環境基金(GEF)、地球環境国際議員連盟(GLOBE)、国際自然保護連合(IUCN)、経済協力開発機構(OECD)、国連環境計画(UNEP)、世界銀行、バーゼル条約事務局及び気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局の長・高官も参加した。この会合は、7月に開催される北海道洞爺湖サミットに向けてG8の環境担当大臣として適切なインプットを与えることを念頭に開催された。

2.会議は、現在国際社会が直面する地球環境問題の脅威を認識し、各国、地域そして世界全体のあらゆるレベルでの対応を一層強化していくことを再確認するとともに、こうした取組を国際的な協調の下で進めることの重要性を強調した。

3.「生物多様性」「3R」「気候変動」の3つの議題が設定され、議論が行われた。また、議論に先立って、大臣及び参加者は、関係する主体(ステークホルダー)の代表との対話を行い、有益なインプットを得た。G8の大臣及びその他の参加者による議論の要点は以下のとおりである。

気候変動

長期目標の達成に向けた低炭素社会への移行

長期目標

4.気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の知見に留意し、UNFCCCの究極の目的の実現に向けた長期目標を設定することの重要性が認識された。2007年のハイリゲンダムサミットで、G8の首脳が2050年までに世界の温室効果ガス排出量を少なくとも半減することを真剣に検討することに合意したことが想起された。北海道洞爺湖サミットでその合意を前進させ、地球規模の長期目標に関する共有ビジョンへの合意に達することについて強い政治的意志が表明された。世界の温室効果ガス排出量の半減のためには、先進国が大幅な削減の達成を主導しなければならないことが認識された。

低炭素社会への移行/低炭素社会に関する国際研究ネットワークの設立

5.長期目標を実現するためには、現在の社会経済構造を変え、低炭素社会に移行することが不可欠である。そうする中で、すべての国が低炭素社会についての明確なビジョンを持つことの重要性について一般的な認識があった。低炭素社会の研究にかかわる機関が国際研究ネットワークを設立することについて多くの国の強い支持があり、また他の国も設立の検討への支持を表明した。

低炭素社会の実現に向けた取組

6.低炭素社会の実現に向けては、すべての国が、革新的技術に加え、ライフスタイル、生産・消費パターン及び社会インフラを改革することが必要である。地球規模で低炭素社会を実現するためには技術移転と人材育成が必要であることが認識された。研究開発、情報基盤、制度設計の重要性についても指摘があった。また、炭素隔離・貯留やバイオ燃料のようなさらなる技術開発を促進することの必要性が強調された。さらに、カーボンオフセットは、市民、企業、政府等幅広い主体に緩和行動に貢献する機会を提供する有用なメカニズムであることが認識された。低炭素社会への移行のためにはカーボンオフセットに関する国際協力が重要な役割を果たすことが認められた。

排出削減のための経済的手法の活用

7.排出量取引、税制上のインセンティブ、パフォーマンスに基づいた規制、料金あるいは税、及び消費者ラベル等の市場メカニズムは、炭素に価格をつけ、価格シグナルを提供することを支援することが可能であるとともに、民間部門に対する長期的かつ確実な経済的インセンティブやCDMプロジェクトの推進のインセンティブを与え、一層の排出削減を進める上で有効な手法との認識が共有された。特に排出量取引についてはいくつかの国で実施されている取組が紹介された。各国がそれぞれの事情を踏まえ、こうした手法のあり得べき活用についてさらなる検討を行うべきことが認識された。こうした手法は、炭素リーケージが生じないように制度設計されなければならない。

カーボン・ディスクロージャー

8.金融・資本市場に関しては、カーボン・ディスクロージャーの取組を通じて、気候変動がもたらす重要なリスクと機会に関して株主に対する情報提供を進めることが有用であることが指摘された。

先進国と途上国の協力

コベネフィット・技術移転

9.途上国の緩和へのさらなる取組を促進するためには、技術移転のための財政的支援と同様に技術革新、開発及び普及が必要であることが認識された。特に途上国の緩和への取組を促進するためには、コベネフィットのアプローチが有効な手段となり得ると指摘された。また、特に公害防止・森林保全・3Rといった分野で大きなコベネフィットを創出できるプロジェクトを特定するために、優良事例・技術マップ(適用可能な技術リスト)及び具体案件の発掘ツールを収集・作成することの重要性が指摘された。また、途上国がこうした知見や手法を十分に活用できる能力を構築していくために支援していくことの重要性が強調された。また、OECDにおける適応の気候変動関連政策や開発努力への統合作業を拡大し、コベネフィットの政策・措置をいかに開発へ主流化していくかについて検討することも有効であることが認知された。持続可能な開発に貢献するようにCDMを改良することの必要性が強調された。

適応

10.適応は世界にとって、とりわけ最貧国や島嶼国にとって喫緊の課題である。適応には水資源や災害防止、食料、公衆衛生、沿岸管理などの広範な分野で早急な対応が必要であり、したがって、これらの分野における人材育成が急務であることが表明された。その一環として、適応を開発政策や戦略の中で主流化させることが重要であり、この分野におけるOECDの作業が評価された。主流化の成功のためには、途上国の科学的な影響分析の能力を強化することが必要である。加えて現在及び将来の長期的な気候の状態及び自然災害の早期警戒のために、監視・モニタリングシステムのための国際協力の強化が必要である。これらに関して途上国を援助していくことの重要性も認識された。

途上国支援のための資金

11.世界全体として必要な公的及び民間の資金量の大きさと、現状の資金レベルとのギャップが認識されなければならない。このギャップを橋渡しするための方策と手段が検討されなければならない。途上国の緩和の方策を支援するために、公的資金に加え民間投資が必要である。そのためには炭素市場や官民協力(PPP)の活用のほか、革新的な資金メカニズムも検討されなければならない。世界銀行は気候変動と開発のための包括的な資金枠組みの設立への取組を紹介した。メキシコは気候変動に関する多国間基金の提案を説明した。また日、米、英が多国間の新たな基金を創設することを目指し、他のドナーにも参加を呼びかけていることが表明された。

人材育成・持続可能な開発のための教育(ESD)

12.持続可能な社会を担う人材育成を進めるため、国連ESDの10年が重要であり、ドイツにおける来年3月のESDの世界会議開催が歓迎された。ESDの一層推進のため、関係主体間の協働による取組事例等の各国の優良事例の共有や、途上国と先進国間での高等教育機関及び国際機関等のネットワークによる途上国の人材育成支援が有用と考えられる。

2013年以降の枠組み

国連交渉への貢献

13.2013年以降の枠組みに関する交渉について、バリ行動計画に沿って2009年12月末までに合意することの重要性が強調された。

中期目標

14.IPCCの科学的知見を考慮した実効的な中期目標の必要性が表明された。

先進国による約束と行動と、途上国による行動

15.先進国と途上国において既に多くの取組が行われていることが認識された。同時に低炭素社会への移行のための我々の努力を強化する必要性が強調された。共通だが差違のある責任と各国の能力の原則の下に、今後10‐20年の間に世界の総排出量をピークアウトさせるためには、先進国が積極的に温室効果ガス排出削減措置をとりつつ、国別総量削減目標を約束しなければならない。途上国のさらなる緩和の行動も必要であると同時に、途上国のそのような行動のためのインセンティブも必要である。排出量が急増している途上国は、その排出量増大のスピードの抑制に努力することが特に重要である。こうした約束や行動の詳細を明らかにしていくことは、バリ行動計画の実施の重要な要素の1つであり、このプロセスへの支援を提供することが必要である。

セクター別アプローチの有効性

16.温室効果ガス排出の削減ポテンシャルのボトムアップ分析が、国別総量削減目標の設定のために有効な手段となりうる。この関連で、ボトムアップ・アプローチによる削減ポテンシャルとトップダウン・アプローチにより計算される必要な排出削減レベルとの間に生じうるギャップは、環境上、十分なレベルを確保するために埋められる必要がある。これらのギャップは政策措置、革新的技術や国民運動によるライフスタイルの変革などによる更なる排出削減の模索によって、埋めていくことが可能である。セクター別アプローチの提案国は、同アプローチが国別総量目標を設定するために用いられるもので、これを代替するものではないことを明確にした。削減ポテンシャル分析は実効性のある将来の枠組み構築に貢献する科学的かつ客観的な知見を提供できる。途上国に比較的安価で多くの削減ポテンシャルが存在する可能性があり、その実現には先進国の援助に支えられた協力的セクター別アプローチが貢献することが指摘された。

途上国の緩和行動の支援

17.途上国における緩和の行動には、先進国からの支援とインセンティブを必要とすることが認識された。

測定・報告・検証可能性

18.バリ行動計画に基づく各国の約束や行動を測定・報告・検証可能とするための方法論の確立が重要である。環境政策の形成や推進のために各国が開発した手法を集約し、UNFCCCプロセスに提供していくことが重要である。途上国におけるインベントリー整備と運用が非常に重要であり、データ収集・提供を行うための途上国における人材育成支援をG8国が検討すべきであるとの指摘がなされた。

主要経済国間の対話の重要性と「神戸イニシアティブ」

19.実効ある2013年以降の枠組みの構築に向けた信頼醸成のために、主要経済国による対話の継続は有用である。「神戸イニシアティブ」と名付けたこの会議の結果に関するフォローアップを実施することに多くの支持を得た。英国が本年後半に、イタリアが来春に低炭素社会に関する国際研究ネットワークに焦点を当てた会合をホストすることに対して謝意が表明された。

「神戸イニシアティブ」

(1)低炭素社会に関する国際研究ネットワーク

(2)セクター別の削減ポテンシャルの積み上げに関する分析

(3)関連する政策間のコベネフィットの促進

(4)途上国のインベントリーとデータ整備のための能力向上支援(測定・報告・検証可能性)

生物多様性

生物多様性の重要性

20.人類の活動により、多くの生態系が劣化し、多くの生物種が絶滅の危機に瀕していることが強調された。また、生物多様性は人間の安全保障の根源であり、生物多様性の損失は人間社会の不平等と不安定を助長することが認識された。さらに、生物多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用並びに遺伝資源へのアクセス及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分という、生物多様性条約の3つの目的が再確認された。

生物多様性2010年目標達成への取組および効果的なフォローアップ

21.2007年ポツダムでのG8環境大臣会合において再確認された生物多様性2010年目標の達成と効果的なフォローアップを進めるためには、生物多様性国家戦略・行動計画の策定及び実施を含め、一層の努力が必要であることが認識された。

生物多様性の科学的な把握

22.科学的なモニタリング、評価、情報提供及び研究活動の強化の重要性が認識された。また、ミレニアム生態系評価およびIMoSEB(生物多様性に関する国際科学専門家機構)に関する協議結果を踏まえ、これらの活動と一般市民や政策決定者の連携を改善するために指導力を発揮するとの決意を、いくつかの国が表明したことが留意された。これらの活動に関する実践的な段階を議論するために開催される会議を含め、UNEPが主催するプロセスに積極的に関与するよういくつかの国が求めたことが留意された。

生物多様性の持続可能な利用

23.生物多様性の保全と持続可能な利用のためには、原生的な自然の保全に加え、日本の里山などのように地域住民が農林業などを通じて自然資源を利用している農地やその周辺の二次的自然地域において、生物多様性の保全と持続可能な自然資源管理を実現していくことの重要性が認識された。

違法伐採への取組

24.森林の減少は生物多様性の損失及び温室効果ガスの排出に繋がっており、森林減少の要因となっている違法伐採に国際社会として対処すべきであることが再確認された。森林ガバナンスの改善とともに、違法伐採木材を市場から排除するための輸出国及び輸入国による取組の有効性について認識が共有された。G8森林専門家の違法伐採報告書が歓迎され、2008年のG8議長に送付することが合意された。また、グローブ・インターナショナルを含む参加者からの違法伐採に関する具体的な提案が考慮された。

遺伝子資源の取得と利益配分

25.いくつかのアウトリーチ国から示された遺伝子資源へのアクセスと利益配分についての懸念が留意された。また、適切な国際的な体制構築の必要性がいくつかの国により強調された。現在ボンで開催されている生物多様性条約第9回締約国会議において、国際的な体制に関する議論がなされていることに注意が喚起された。

技術移転と資金協力

26.アウトリーチ国から提起された技術移転と資金協力に関する課題が認識された。開発途上国における生物多様性の保全と持続可能な利用を促進するために、国際社会による適正な技術と資金の提供が必要であることが認識された。既存の資金供与メカニズムを最大限に活用することに加え、この問題に十分な対処をするためには、更なる議論が必要であることが考慮された。

民間参画の推進

27.生物多様性の保全と持続可能な利用を促進する上で、民間セクターを含むあらゆる社会的主体の参画の促進が重要であることが再確認された。

気候変動との関連性

28.気候変動が生物多様性に深刻な影響をもたらすのみならず、人間の生存の基礎を脅かしていることが強調された。気候変動と生物多様性との間の相互の関連性について十分な注意を払う必要性が指摘された。

生物多様性と保護地域

29.保護地域の重要性が再確認され、世界的な生物多様性を維持するために重要な保護地域の生態系ネットワークを発展させることの重要性が強調された。

行動の呼びかけ

30.生物多様性に関する上記の課題に取り組むべく、さらなる努力を行う緊急の必要性が再認識され、議長が提案した「神戸・生物多様性のための行動の呼びかけ」にG8各国が合意した。また、議長国である日本は、SATOYAMAイニシアティブを含む「行動の呼びかけ」を実施するため、「『神戸・生物のための行動の呼びかけ』の実施のための日本の取組(Japan's Commitments)」を表明した。

3R

3Rイニシアティブの進捗

31.3Rイニシアティブが2004年にG8シーアイランドサミットで提案されて以来、G8各国及びその他の国々での3Rに関する取組の進展に貢献していることが確認された。3Rイニシアティブが、G8及びその他の国々の間の3R関連政策に関する情報共有並びに、意見及び経験の交換のためのプラットフォームを提供していることが認識された。また、3Rイニシアティブが持続可能な社会の実現に貢献するためのG8各国の決意を示していることに留意した。

3R政策の優先的実行及び資源生産性の向上

32.3Rの推進及び資源生産性の向上はG8及びその他の国の双方にとって、持続可能な開発の実現にとって重要なものであるという意見が述べられた。そのためには、規制的手法と市場を基盤とした手法の双方からなる製品のライフサイクル全体に対応した包括的な政策が必要であるという意見が述べられた。さらに、技術開発と革新を促進し、資源効率の高い製品の市場を創出するための政策が必要であることが認められた。他方、政府単独では必要な変化をもたらすことは困難であり、社会の全ての関係者とセクターの貢献が不可欠であるとの認識が示された。

33.環境上適正な廃棄物処理とリサイクルに加えて、廃棄物の発生抑制対策を優先することとした。レジ袋や他の使い捨て商品の使用削減についての取組が説明された。日本は、日本、中国、韓国が同様の取組を共同で呼びかけると述べた。廃棄物の削減と資源の有効利用を達成するために、意識とライフスタイルの根本的な変化が必要であることに留意した。

34.G8及びその他の各国から示された廃棄物の適正管理と3Rの推進及び温室効果ガス排出削減との間には、深い関連性とコベネフィットがあるとの認識に留意した。さらに、G8以外の各国から示された、各国の実情に合った3R推進のための技術の開発及び普及の重要性を強調するとの見解に留意した。

35.OECDによる物質フロー分析と資源生産性に関する作業の進展及び成果並びにUNEPによる持続可能な資源管理への貢献が歓迎された。

国際的な循環型社会の構築

36.開発途上国における電子電気廃棄物などの使用済み製品の不適正なリサイクル処理及び船舶の不適正な解撤と関係のある深刻な健康及び環境問題の発生につき検討された。しかしながら、それら物質の潜在的な資源価値についても認識された。3Rイニシアティブとバーゼル条約*1*の更なる協力が、開発途上国における適正な廃棄物管理の能力構築を促し、適正な国際資源循環を推進するであろうとの期待が表明された。

開発途上国における能力開発のための協力の重要性の確認

37.既存の枠組の上に構築される、途上国における3Rに関する能力開発に向けての技術面及び資金面での支援の重要性が述べられた。また、3Rに関連する国際的な支援をより良く調整する必要性が述べられ、本分野での開発援助機関による諸活動のより良い協調が要求された。更に、効果的な能力開発は、民間セクター、地方政府、NGOを関与させるマルチ・ステークホルダー・アプローチが求められることに留意した。

神戸3R行動計画の合意

38.G8の閣僚は、「神戸3R行動計画」に合意し、2011年にその進捗を報告することに同意した。最後に、日本は、神戸3R行動計画の精神に基づいた国際協力をさらに活性化することを希望して、「新・ゴミゼロ国際化行動計画」を策定したと述べた。

{(1)は原文ではマル1}

*1* 米国はバーゼル条約の加盟国ではない。