データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8,中国,インド及び韓国エネルギー大臣会合共同声明(G8エネルギー大臣会合)

[場所] 青森
[年月日] 2008年6月8日
[出典] 経済産業省(資源エネルギー庁)
[備考] 仮訳
[全文]

 G8、中国、インド、韓国のエネルギー大臣は、2008年6月8日に青森で会合を行い、エネルギー安全保障及び気候変動に関し、グローバルな重要性を有する事項を議論した。世界のエネルギー消費の65%を占める参加11ヵ国は、各国が置かれた状況の多様性を認識しつつ、世界のエネルギー安全保障、気候変動緩和及び持続可能な発展を達成するために重要な役割を果たさなければならない。我々は、今次会合において以下のようなメッセージを発出し、G8北海道洞爺湖サミットでの実りある議論に貢献することを確認した。

石油市場と投資環境{前9文字囲み線あり}

1.我々は、最近の原油価格高騰に対する深刻な懸念を共有する。現在の原油価格は、異常であり、消費国・産油国双方の利益に反する。現在の原油価格の高騰は、とりわけ資源の乏しい発展途上国にとって重荷となっている。産油国・消費国双方は、グローバルなエネルギー市場の安全保障と持続可能性の更なる向上を図ることに共通の利益を有している。現在の経済問題を解決する上での、金融政策及びマクロ経済政策の重要な役割を認識しつつ、エネルギー政策に責任を持つ全ての関係者は、一致した行動をとるべきである。産油国・消費国間の石油市場に関する対話や協力を強化することを求める。

2.原油価格の形成要因は複雑であり、生産国やその集団の供給政策、在庫水準、地政学的緊張など短期的な要因が含まれていると考えられている。我々は、石油市場の価格形成要因を更に分析していくことを支持する。我々は、本年6月13‐14日のG8財務大臣会合において石油市場について議論されることを歓迎する。

3.石油市場に寄与する要因には、より構造的かつ長期的なものもあり、特に運輸部門における世界的な原油需要の増大や、エネルギー分野における時宜を得た十分な投資の不足、世界中で原油・ガス資源へのアクセスが増大していることなどが含まれる。開かれた透明な市場や公正で効果的かつ効率的な規制は不確実性を減じ、必要な投資を促進するのに重要である。我々は、自国の生産投資を極大化することの必要性を宣言するとともに、他の産油国に対し、世界需要の増大にあわせ、市場に十分な供給が行き渡るよう、投資を増大することを要請する。

4.我々は、供給中断リスクに対処するための緊急時の備えを強化し、エネルギー効率の大幅改善、非在来型石油・代替エネルギーの促進、供給ルートの多様化のための国内政策を、各国の状況を勘案しつつ、抜本的に強化する。代替輸送及び代替燃料に係る技術の開発は、運輸部門の石油依存低下にとって不可欠である。同様に、市場原理に則った石油製品取引の増大は石油市場の安定に貢献する。

5.我々は、2008年4月にローマで開催された国際エネルギーフォーラム(IEF)の前向きな成果を歓迎し、IEFに対して、早急にこのような成果を足場として、産油国・消費国双方が分析を進め、以下のような問題に対応するための行動計画を策定する。これらの問題とは、すなわち、エネルギー投資障壁、技術革新、市場の透明性、オイルメジャーと国営石油会社との協力、エネルギーセクター技術イニシアティブを通じた人材育成、エネルギー貧困などである。我々は、IEFに対して、2009年に、作業計画の進捗状況について報告することを慫慂する。我々は、共同石油データ・イニシアティブ(JODI)に全面的に参加し、迅速かつ信頼に足る完全なデータを提供する。このような協働により、産油国・消費国双方は石油供給の安定性に対する将来の不確実性を排除するよう努力するべきである。

6.我々は石油、ガス、鉱物資源輸出国が、採取産業透明性イニシアティブ(EITI)を実施し、自主的に透明性と説明責任を向上させることにより、ガバナンスを強化しようとする努力を歓迎する。

7.我々は、上記の点をとりあげた2008年6月7日の中国、インド、日本、韓国、米国のエネルギー大臣による共同声明を歓迎する。我々は、特に中国及びインドがIEAと更なる協力を行う用意があることを歓迎する。我々はこうした努力が市場の安定性を向上させるものと信ずる。

エネルギーセキュリティと気候変動{前16文字囲み線あり}

8.我々は、主要経済国会合のプロセスからの貢献を受けつつ行われている気候変動交渉において国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)が主要な役割を果たしていることを認識しつつ、エネルギー安全保障、気候変動緩和及び経済成長が互恵的に達成されるものと信ずる。

省エネルギー{前6文字囲み線あり}

9.エネルギー供給と需要の両面において省エネルギーを促進することは、経済成長を支えつつ、エネルギー安全保障及び気候変動緩和を費用対効果の高い形で強化するために必要不可欠である。我々は、エネルギー効率改善のための政策を今後とも強力に推進する。IEAの省エネルギーに関する勧告は、それに際して貴重なインプットとなる。我々が検討しうる行動には、エネルギー原単位統計の充実、電化製品のエネルギー基準の強化、最も非効率な照明器具の段階的な廃止、自動車燃費基準の強化、新規建築物に対する強制的な省エネ基準及び低エネルギー消費もしくはゼロエネルギー消費の建築物の推進が含まれる。

10.エネルギー効率改善のための野心的な目標は、グローバルなエネルギー効率改善の豊富なポテンシャルを探求するための国際的な努力を推進する上で有益である。我々は、経済成長を確保しつつ、自主的国別の数値目標と行動計画を策定することにより、自国でのエネルギー効率改善のポテンシャルを最大限実現することを追求する。

11.我々の省エネルギー推進に向けた努力は、ベストプラクティスの共有、グローバルなパートナーシップの促進などの国際協力を通じてさらに強化可能である。このため、我々は、国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)の設立に合意した。IPEECは、参加国が付加価値を見いだすような、高いエネルギー効率をもたらす広範な行動を促進するハイレベルのフォーラムとなる。これらの行動には参加国や関連機関が推進中の活動の支援、政策ベストプラクティスの情報交換、主要エネルギー消費セクターの、あるいはセクター横断の官民パートナーシップの構築を含む。IPEECは、省エネルギーに関するハイリゲンダム対話プロセスの成果の実施方法を検討する。我々は、関心を有する国のIPEECへの参加を慫慂する。

12.我々は、自国の国情やセクター毎の状況を踏まえつつ、現在の省エネパフォーマンスの分析・計測、省エネポテンシャルの評価及び適用可能な技術の特定により、産業、発電、家庭、商業、運輸等の主要なエネルギー消費セクターに焦点を当て、各国の省エネ政策の有効性を強化することが可能である。我々はまた、こうしたセクター別アプローチがエネルギー効率の改善のために有益な方法であることを認識する。我々はこのアプローチの実用化に向け、協働して取り組む。我々は、主要エネルギー消費セクターにおける省エネ促進をもたらす官民パートナーシップを通じた国際協力やさまざまなイニシアティブを歓迎する。

13.我々は現在行われているエネルギー指標作業を高く評価する。個別の国情を考慮する必要性を認識しつつも、これらは、セクター別、国別、国際的な省エネパフォーマンス・ポテンシャル評価を支援する。これらの指標を更に改善するためには、時機を得た信頼できるデータの収集が必要であることから、我々は関心のある全ての国の政府・民間セクターが更に協力することを歓迎する。そのためには、統計に関するキャパシティビルディングが重要である。

より低炭素なエネルギーに向けたエネルギー多様化{前23文字囲み線あり}

14.省エネとともに、より低炭素なエネルギーの利用拡大を促進するエネルギー多様化は、エネルギー安全保障及び気候変動に対応するためのカギである。我々は各国の事情やプライオリティを基に、再生可能エネルギーや、化石燃料のクリーン利用及び、関心を有する国にとっては、原子力エネルギーなどの、種々のより低炭素なエネルギーを、適切な場合には、国別の自主的目標や行動計画によって、推進する。

化石燃料のよりクリーンな使用{前14文字囲み線あり}

15.今後数十年間の化石燃料の主要な役割を鑑みると、クリーンコール技術やよりクリーンな石油技術を含む化石燃料のクリーン利用は重要である。発電部門の大幅排出削減のため、我々は、国際協力や民間セクターとの協力を通じ、全ての新規建設石炭火力発電所が、進んだ、そして可能な限り最新型の技術を有したものとなり、可能な限り早期に古い非効率なプラントを代替し、アップグレードする等の政策を追求する。

16.我々は、二酸化炭素貯留・貯蔵技術(CCS)が、気候変動とエネルギー安全保障という世界規模の課題に取り組む際に重要な役割を果たすことを認識する。我々は、CCSが幅広く普及しはじめるよう、研究・開発・実証・普及を加速するための環境を整備するため、民間と協力しつつ、初期CCSプロジェクトの金融面のギャップやリスクに対応し、安全で大規模な地中貯留のための法的規制の枠組みを整備し、CCSの気候変動やエネルギー安全保障への役割に関する公共教育を強化する。

再生可能エネルギー{前9文字囲み線あり}

17.再生可能エネルギーは、エネルギー安全保障、エネルギーアクセスの改善、気候変動の緩和及び新産業・雇用の創出に大きなポテンシャルを有する。また我々は再生可能エネルギーの中には経済性、供給安定性、地理的制限の観点で課題を有しているものもあることを認識する。市場浸透の成功は政府の費用対効果のよい推進策による競争力の更なる改善に依存する。このため、我々は新・再生可能エネルギー技術の研究・開発・実証及びこれらへの資金供給を促進する。我々は国内で導入普及のための費用対効果の高いメカニズムを用意し、ベストプラクティスを共有する。我々はさまざまな再生可能エネルギー技術の発展段階を見据えつつ、適切な規制、インセンティブ、もしくはマーケットメカニズムを推進する必要性を評価する。商業的に実行可能なオプションが既に利用可能な分野においては、特に再生可能電力の送電網への統合を中心に、市場浸透を加速する。再生可能エネルギーの推進に当たって、我々は、持続的な発展との両立を確保する。

18.我々は、2005年の北京国際再生可能エネルギー会議、2008年のワシントン国際再生可能エネルギー会議(WIREC)、21世紀再生可能エネルギーネットワーク(REN21)や世界バイオエネルギーパートナーシップ(GBEP)を含む、再生可能エネルギーに関する多様な国際的イニシアティブの積極的な貢献を歓迎する。我々は、2010年初めにインドで開催されるこの会議が継続して有益な役割を果たすことを期待する。

原子力{前3文字囲み線あり}

19.我々は、エネルギー安全保障と気候変動緩和の目標達成に向け、さまざまな道を追求している。我々は、より多くの国が気候変動緩和とエネルギー安全保障を達成する手段として、原子力に関心を表明していることに留意する。これは、そのような国々が、原子力がベースロード電力供給として有効であり、発電過程で温室効果ガスを排出せず、化石燃料への依存を下げるとの立場を有しているからである。

20.我々は安全で平和的な原子力エネルギー利用を、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティを確保しつつ進めねばならないことを強調する。また、原子力損害に対する補完的補償に関する条約のような原子力損害賠償のためのさまざまな枠組みの重要性に留意する。我々は、廃炉措置、核燃料と放射性廃棄物の管理について責任ある政策の必要性を強調する。

21.核不拡散、原子力安全、核セキュリティを確保しつつ民生用原子力が利用されるため、国際機関及び既に民生用原子力エネルギーを導入した国とこれから導入する国との協力を合意されたフレームワークを通じ、人材育成、規制制度、資金を含むインフラ整備の面で推進する。原子力利用国または利用検討国は、先進的な原子力エネルギー技術の開発が、安全で効率的で平和的な原子力エネルギーの利用にとって重要な要素であることを考慮する。我々はIAEA等の国際機関の重要な役割について再確認する。GNEP(国際原子力エネルギー・パートナーシップ)、国際ウラン濃縮センターに関するロシアのイニシアティブ、核燃料供給保証のためのIAEAスタンバイ・アレンジメント・システムに関する日本のイニシアティブ及びIAEAのみのコントロール下におかれる濃縮センターに関するドイツのイニシアティブを含む原子力の更なる平和利用についての国内の/国際的なイニシアティブの重要性に留意する。我々は、革新的原子炉と核燃料サイクル導入環境整備支援プロジェクト(INPRO)、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)、国際熱核融合実験炉(ITER)の枠組みにおいてなされている努力に留意する。原子力の安全な利用に対する責任は、それを利用する国に存することに留意する。

より低炭素で効率的なエネルギー技術の普及{前20文字囲み線あり}

22.我々は、発展途上国におけるより低炭素で効率的なエネルギー技術の開発、商業化及び普及を促進し、現在の技術とより低炭素・高効率の技術との間の価格差を埋めるために、資金メカニズムの活用を含む国際協力の強化を確保する。

革新的技術開発{前7文字囲み線あり}

23.我々は、革新的エネルギー技術の研究・開発・実証(RD&D)は、長期的にエネルギー安全保障を実現し、気候変動に対処するためのカギであることを認識し、国情に応じてエネルギー関連RD&Dを促進する必要がある。我々のうち関心を有する国々は、IEA内の関連する組織及びIEAや各国により作成された主要な技術に対する技術開発ロードマップを用いること、技術協力に関する国際的なパートナーシップの現状を評価すること、そして、IEA非加盟国やその他の組織、関連パートナーシップとともに、追加的なものの必要性を検討することによって、率先してエネルギー効率が高くより低炭素な技術のRD&Dを加速するとともに、関心を持つ主要国に対して、このような努力への参加を要請する。我々は、民間市場を通じた革新的技術の商業化を誘発するための政策や財政措置を活用する。

24.我々は、炭素隔離リーダーシップフォーラム(CSLF)、水素経済のための国際パートナーシップ(IPHE)、国際原子力機関(IAEA)、革新的原子炉と核燃料サイクル導入環境整備支援プロジェクト(INPRO)、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)、国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)、IEA実施協定のような既存の国際機関、イニシアティブ及びパートナーシップを通じ、革新的な技術の発展のための協力を強化する。我々は、すべての国に対し、既存のパートナーシップやイニシアティブを活用して、最先端の技術に関する情報交換を強化するよう、また、適切な場合には、発展途上国のRD&Dのキャパシティビルディングを支援するよう、促し、また、我々は、IEA及び他の国際的なメカニズムに対して、発展途上国との間の技術に係るネットワークを強化し、最先端の技術に関する情報交換を強化し、費用対効果のよい方法で最先端の技術の適切な移転のための基盤を確立することを促す。

総括{前2文字囲み線あり}

25.我々は、G8、中国、インド、韓国のエネルギー大臣が初めて共通の関心事項について協議したことを高く評価する。我々は、引き続き、G8とその他の国々との間のエネルギー大臣の対話を深める。

26.我々は、2009年にエネルギー大臣会合を開催するという次期G8議長国イタリアの提案を歓迎する。