データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] グレンイーグルス行動計画に基づく、IEAのG8向け省エネ勧告一覧(G8エネルギー大臣会合)

[場所] 青森
[年月日] 2008年6月8日
[出典] 経済産業省(資源エネルギー庁)
[備考] 仮訳
[全文]

1.エネルギー効率の高い建築物

1.1 新しい建築物に対する建築基準

a)i)新規建築物のエネルギー効率に関する強制基準を建築基準にまだ設けていない政府は、このような基準を緊急に設け、執行し、定期的に更新すべきである。

ii)新規建築物のエネルギー効率に関する強制基準を建築基準にすでに設けている政府は、その基準を大幅に強化すべきである。

b)中央政府又は州政府は、新規建築物のエネルギー効率基準を設け、30年間の耐用年数にわたる総コストを最小限に抑えることをそのねらいとすべきである。

1.2 パッシブ・エネルギー住宅(PEH)及びゼロ・エネルギー建築物(ZEB)

a)各国政府は、エネルギーの純消費量がきわめて小さいか、ゼロの建築物(パッシブ・エネルギー住宅及びゼロ・エネルギー建築物)の建設を支援、奨励し、これらの建築物が、市場において普通に入手できるよう確保すべきである。

b)各国政府は、すべての新規建設について、これに占めるPEH及びZEBの市場シェアの目標値を2020年までに設定すべきである。

c)今後、建築規則を改正する際には、エネルギー効率のパッシブ・エネルギー住宅又はゼロ・エネルギー建築物を評価基準として利用すべきである。

1.3 既存建築物

a)各国政府は、既存建築物のエネルギー効率及びエネルギー効率改善への障害に関する情報を系統的に収集すべきである。

b)また、国際的に比較、監視し、最善の事例を国際的に選定するために、建築物のエネルギー効率の標準的な指標も算定すべきである。

c)各国政府は、この情報に基づいて、建築物のエネルギー効率改善への最も重要な障害に取り組むためのイニシアティブのパッケージを策定すべきである。

i)このパッケージにおいて、あらゆる建築物を改修する間にエネルギー効率が改善されるよう確保するための基準を定めるべきである。

ii)また、このパッケージは、効率に対する建設業界の意識を高め、建築物のエネルギー性能を市場において目立たせるようなものとすべきである。

1.4 建築物の認証

a)各国政府は、建築物のエネルギー効率をこれまでよりも目に見える形で示し、主なエネルギー節減機会について情報を提供するための対策を講ずるべきである。これには次の施策を含めるべきである。

i)建築物の買い手と貸し手が建築物のエネルギー効率及び主なエネルギー節減機会に関する情報を得るための強制的なエネルギー効率認証制度

ii)建設部門の全関係者がエネルギー効率に関する情報を常時利用できるよう確保するための構造

1.5 窓及び他のガラス部分

a)各国政府は、窓及び他のガラス部分のエネルギー効率を改善するための政策パッケージを策定すべきである。この政策パッケージには、次の事項を含めるべきである。

i)生涯コストを最小限に抑えるような窓及び他のガラス部分のエネルギー効率に関する最低基準

ii)自社製品に対する窓及びガラス製品メーカーのエネルギー効率ラベル表示義務

iii)各国政府が、効率的な窓の実証プロジェクトを立ち上げ、エネルギー効率の高い窓の調達政策を実施すること。

2.エネルギー効率の高い電気製品

2.1 強制的なエネルギー性能要件又はラベル表示義務

a)各国政府は、さまざまな電気製品及び電気設備のすべてにわたって、エネルギー効率に関する強制要件、適当な場合には、国際的な最善の事例に適合する水準の比較可能なエネルギー効率のラベル表示義務を採用すべきである。

b)要件の厳正さが維持され、要件が効果的に強制されるよう確保するために適切な資源(予算等)を配分すべきである。

2.2 電子機器の省電力モード

a)各国政府は、同一の1ワット制限を「一律に」採用し、限られた例外を除き、国際電気標準会議による待機電力の定義に該当するすべての製品にこれを適用すべきである。

b)各国政府は、使用していないときに、合理的な時間経過後に電子機器が自動的に省電力モードに切り替わるよう義務づけるような政策を採用すべきである。

c)各国政府は、電源管理に関する全業界共通のプロトコルを定めることに重点を置きつつ、ネットワークに接続された電子機器のエネルギー消費量を最小限に抑えるよう確保すべ

きである。

i)各国政府は、電子的ネットワーク全体のエネルギー効率を高めるために次の対策をとるべきである。

I.ネットワーク機器を含む電気製品及び電気設備の電源管理をサポートするための全業界共通のプロトコルを開発するよう公的及び民間の関係標準化機関に指示すること。

II.このようなプロトコルが開発され、実施されるよう確保すること。

2.3 テレビ、テレビの「セットトップ」ボックス及びデジタル・テレビ・アダプター(DTA)

a)IEAの結論によれば、国際的に見て、デジタル・テレビ・アダプターの最低限の効率基準を定めることが、エネルギー効率の高いセットトップボックスに関する政策の最善の事例である。このような規制においては、

i)電源が「オン」の時と「オフ」の時の最大消費電力水準を定め、

ii)消費者が、端末を省電力モードに容易に切り替えられるよう確保すべきである。

b)二つ目のベストプラクティスは、政府補助を受けた端末がこれまでよりも高いエネルギー効率に適合するよう確保することである。

c)各国政府は、テレビ及びセットトップボックスのエネルギー効率に関する次の政策措置を実施すべきである。

i)現状においてエネルギー性能の最も高いテレビ製品及び技術を助長するもの。

ii)テレビのエネルギー消費水準を現状の半分にするための新しいテレビ技術の市場参入を促進すること。

iii)TVSP(TVサービスプロバイダー)の顧客がテレビサービスを受け取る際に使うエネルギーを最小限に抑制することを目的とする要件がTVSPに関するフランチャイズ契約又はライセンス契約に含まれるよう確保することで、TVSPの顧客が使うエネルギー消費量を最小限に抑えること。

2.4 テスト基準及び測定手順

a)政府は、次の対策をとるべきである。

i)現在利用されているエネルギー測定基準が、国内の政策要件に適合しているかどうかを判定するためにその見直しを行うこと。

ii)順守コストを削減しつつ、性能比較及び市場で取引されている商品につき、そのベンチマーキングを支援するために、適当な場合には、国際的な測定基準の開発及び使用を支援すること。

3.エネルギー効率の高い照明に関するベストプラクティス

3.1 最善の事例及び白熱灯の段階的廃止

a)IEAは、各国政府が照明に関する最善の事例を一律に普及させることを目標とするよう勧告する。

b)各国政府は、効率の最も低い白熱灯の段階的廃止が商業的かつ経済的に実現可能になり次第、これを実行に移すべきである。

i)この目的を追求するにあたっては、適当な時間枠と性能目標の両方を設定する必要がある。

ii)また、高品質かつこれまでよりも効率の高い代替的な照明器具の十分な供給を確保するために、政府と産業界の行動を国際的に協調させなければならない。

3.2 非住宅用建築物及び非効率な燃料方式による照明の段階的廃止

a)各国政府は、非住宅用建築物にエネルギー効率が高く、コストが最小限の照明が設置されるよう確保するために一連の施策を採用するべきである。具体的には、次の施策を含めるべきである。

i)商業部門、公的部門、産業部門、屋外部門及び住宅部門における照明の設置に適用される建築基準及び建築規則に照明システムのエネルギー性能要件を含めること。これらの要件は、次のとおりとする。

I.照明のこれまでよりも効果的な制御及び未使用スペースに照明を配置しないよう配慮した施策を含めること。

II.非住宅用の新規建築物又は非住宅用建築物を大幅に改装する際、一般的な施設照明システムにおいて、建築物全体にわたって屋内床面積の平方メートル当たりの平均電力消費量が10ワットを超えてはならない旨を定めること。

III.国内水準と国際的に適用されている明るさの水準との比較も含め、専門家によって、照明に関する明るさの水準の見直しを十分に行い、国内ガイドラインが必要以上に明るい照明を推奨しないよう確保すること。

IV.水銀灯など、非効率な街路照明技術の段階的廃止の進行を早めること。

b)各国政府は、たとえば、太陽電池式照明装置の普及を支援するなどの方法により、電力供給網から離れた集落において、燃料方式による照明に替わり得る効率の高い代替技術の採用を促すための国際的な努力を支援すべきである。

4.エネルギー効率の高い輸送

4.1 低燃費タイヤ

a)各国政府は、

i)道路車両用タイヤについて、適当な場合には、ラベル表示義務、そして可能な範囲で転がり抵抗値の上限設定を行うという観点から、タイヤの転がり抵抗測定に関する新たな国際的試験手続を採用し、

ii)タイヤ圧が適正に保たれるよう促進するための施策を採用すべきである。

I.この取り組みには、UNECE(国連欧州経済委員会)を含む国際機関と協力し、タイヤ空気圧監視システムを新規道路車両に装備することを義務づけようとしている国も含めるべきである。

4.2 軽量自動車両に対する強制的な燃費基準

a)各国政府は、

i)軽量自動車両の燃費に関する強制基準がまだ存在しない場合には、これを導入し、存在する場合には、その基準をさらに厳格化、

ii)提案されている厳格な基準をできる限り早期に公表し、

iii)適当な場合には、今後の基準についてできる限り多くの要素を国際的に調和させるべきである。

4.3 重量自動車両の燃費に関する強制基準

a)各国政府は、重量自動車両について、次の方策を導入すべきである。

i)燃費基準

ii)ラベル表示義務及び車両の燃費に基づいた財政的なインセンティブ策を含むこれに関連する政策

4.4 エコ・ドライビング

a)政府は、エコ・ドライビングを、エネルギー効率を高め、二酸化炭排出量を削減することを目的とする政府のイニシアティブにおいて中心的役割を果たすものと位置付けるべきである。

i)エコ・ドライビングに対する各国政府の支援には、ドライバーに対する訓練及び車内反応装置の普及に関する助成を含めるべきである。

5.産業界のエネルギー効率の改善

5.1 産業部門別のエネルギー効率に関する高品質データ

a)各国政府は、産業部門ごとのエネルギー原単位に関する正確な時系列データがIEAに定期的に報告されるよう確保することにより、決定的に重要な政策分析を支えるIEAのエネルギー効率指標(インディケーター)策定作業を支援すべきである。

5.2 モーターに関する最低エネルギー消費効率基準(MEPS)

a)各国政府は、電気モーターの最低エネルギー消費効率基準に関する国際的なベストプラクティスに沿った強制基準を採用することを検討すべきである。

b)各国政府は、電気モーター駆動システムにつき、エネルギー効率の最適化を阻む障害を検討し、そのような障害を克服するための包括的な政策ポートフォリオを設計し、実施すべきである。

5.3 エネルギー管理

a)各国政府は、エネルギー管理(EM)手段の開発及び維持、訓練、資格認証及び品質保証を通じてエネルギー管理能力の開発を効果的に支援することを検討すべきである。

b)さらに、各国政府は、次の事項を含む包括的なエネルギー管理手続及び慣行を実施するよう産業界の主要なエネルギーユーザーに奨励し又は義務づけるべきである。

I.正規のエネルギー管理政策の立案及び採用

i.企業の役員レベルが、この政策の実施状況について報告を受け、監督し、これを企業の報告書に報告すること。

ii.企業は、この政策の枠内において、エネルギー使用設備の調達をめぐる決定が設備の予想ライフサイクル・コストに関する十分な分析に基づいてなされ、調達管理者に、ライフサイクル・コストを最小限に抑えるために効果的なインセンティブが与えられるような組織構造が存在することを実証する必要がある。

II.必要に応じて企業レベル及び個別工場レベルの両方における資格を備えた常勤のエネルギー管理者を任命すること。

III.個々の企業レベル、産業部門レベル及び国家レベルで産業界のエネルギー消費量及び効率を監視、評価し、報告するための仕組みを設けること。

i.この取組みの一環として、それぞれの産業部門において適切と考えられる水準で、エネルギー性能に関する適当なベンチマークを定めること。

5.4 中小企業

a)各国政府は、中小企業(SME)のエネルギー効率向上を促進するための政策及び施策のパッケージの開発及び実施を検討すべきである。このパッケージには、次の仕組みを含めるべきである。

i)資格を備えた技師により実施されるエネルギー監査が広く普及し、すべてのSMEが容易にこれを利用できるよう確保するためのシステム

ii)エネルギー効率をめぐるベストプラクティスに関する高品質かつ重要な情報の提供

iii)理想的には国際比較及び国内比較を可能とするエネルギーベンチマークに関する情報提供

iv)ライフサイクル・コストが最小の設備を取得し、調達するための手続が採用されるための適当なインセンティブ

6.エネルギー事業者とエネルギー効率

a)各国政府及びエネルギー事業者の規制官庁は、エネルギー事業者が、エンドユーザー段階においてエネルギーの節減を費用対効果の高い方法で実現するためのインセンティブを強化すべく、次のような仕組みの導入を検討すべきである。

i)エネルギーの売上からエネルギー事業収入及び事業利益を切り離し、エネルギーの節減成果がエネルギーの販売と対等な条件で評価されるような規則の制定

ii)エネルギー事業者にエネルギー効率改善を義務づけること。この場合、エネルギーサービス提供における継続的な費用対効果分析に基づいてこの義務の基準を定期的に引き上げる。また、

I.このような義務は、取引可能かつエネルギー料金を通じてエネルギーの供給費用を回収できるような構造を備え得るものとする。

II.この義務は、エネルギー事業者に課されている一切の義務的又は自発的な二酸化炭素排出目標に適合するよう設計する。

iii)エネルギー効率改善措置をエネルギー供給と対等の条件でエネルギー取引市場(プール市場)に算入できるようにすること。

iv)エネルギー事業者が、それぞれの顧客の最終エネルギー消費効率の改善そして又はそのための資金提供に積極的な役割を果たすことを奨励するために適当な政策措置を採用すること。

7.エネルギー効率改善を支援するための産業部門横断的な政策

7.1 省エネ投資の増額

a)各国政府は、次の施策により、エネルギー効率改善に向けた投資について民間部門の関与を促進すべきである。

i)省エネ投資がもたらす利益の定量化について存在する不確定要素を減らし、民間部門の関与拡大を促進するための共通のエネルギー効率改善成果の検証及び測定手続を採用し、これを民間部門に広報すること。

ii)職員を訓練し、省エネプロジェクトの評価基準及び資金調達手段を開発するよう金融機関に奨励すること。

iii)民間部門の省エネ投資を一層優遇するために、現在の補助金及び財政的インセンティブ・プログラムの見直しを行うこと。

iv)民間金融部門と協調して省エネへの融資を促進するための官民合同パートナーシップを創設すること。

v)証券化又は官民パートナーシップなどのリスク緩和手段を促進すること。

vi)省エネに関する課題をめぐる公的部門と金融機関との定期的な協力及び情報交換を確保するための制度的な枠組みを設けること。

7.2 国家的な省エネ戦略及び省エネ目標

a)各国政府は、IEAによるセクター別のエネルギー効率指標(インディケーター)の開発や、ベストプラクティス収集に関する継続的な取組みを活用し、それぞれの国内経済において各産業部門別に省エネ目標の設定及び行動計画の策定を行うべきである。

i)ベストプラクティスに即した行動計画は、

I.あらゆる産業部門の最終エネルギー消費量を評価し、

II.国内経済の省エネポテンシャルを特定し、

III.目的及び計画の成否を評価するための方法を定めるべきである。

b)省エネ施策の担当官庁に資源(予算等)を適切に配分すべきである。

7.3 政策の順守度の監視、強制及び評価

a)各国政府は、省エネに関する自発的施策と義務的施策の両方が最大限順守されるよう、これが適切に監視され、執行され、評価されるよう確保すべきである。これには、最低でも次の方策を含めるべきである。

i)新しい政策及び施策の策定時点に、その最適な順守、監視及び評価手続について検討し、これを計画すること。

ii)省エネ基準への順守を確保するための法律的及び制度的なインフラを整備すること。

iii)監視活動の方法、頻度及び範囲を定めた仕様書を含む、順守を評価するための透明かつ公正な手続を確保すること。

iv)違反事例の報告を含む、監視活動の定期的報告及び報告の公開を確保すること。

v)違反及び省エネが達成されなかった場合、その損失規模に見合った一連の強制活動を定め、実施すること。

vi)政策及びプログラムの実施中及び実施後にその成否を評価するために、強固なシステムを確立し、実施すること。

7.4 インディケーター

a)各国政府は、あらゆる種類のエネルギーについて、全産業部門にわたる最終エネルギー消費データ収集に向けてより一層努力することで、自国のエネルギー効率政策が、最終消費に関する適切な情報に裏付けられるよう確保すべきである。

i)そのためには、各国政府が、最終エネルギー消費データの収集に配分する資源(予算等)を増やす必要がある。

ii)各国政府は、最低でも、IEAが他の機関と協力して開発したエネルギー効率データテンプレートの記載及び提出を毎年行うべきである。

7.5 IEAのエネルギー効率改善勧告の監視及び状況報告

a)各国政府は、上記勧告についてそれぞれの実施状況をフォローし、IEAに定期的に経過報告を行うことに合意すべきである