データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8司法・内務大臣会議総括宣言

[場所] 東京
[年月日] 2008年6月13日
[出典] 警察庁,法務省
[備考] 仮訳
[全文]

前文

 我々、G8各国の司法・内務担当大臣は、鳩山法務大臣及び泉国家公安委員会委員長の呼び掛けによって東京で会合し、欧州委員会の代表者と共に、共通の関心事項について協議した。本会合には、EU議長国の大臣及び国際刑事警察機構(ICPO)事務総長がゲストとして出席した。会合の席上、我々は、国連薬物犯罪事務所(UNODC)事務局長と国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)所長のプレゼンテーションを聴取した。

 我々は、国際組織犯罪対策及び国際テロ対策について、各分野におけるG8各国の取組に焦点を当てるとともに、国際的な連携と協調を推し進めるための取組について議論した。また、より効果的な法制度及び法執行能力を整備する上で、助力を必要とする国に対するキャパシティ・ビルディング支援の重要性についても議論した。

本文

国際テロ対策

 各国における国際テロ防止のための協調的な取組にもかかわらず、国際テロは世界的な脅威であり続けている。2001年9月11日以降のニューヨーク、ワシントン、マドリッド、モスクワ、ロンドン等における大規模なテロ事件の発生は、テロの継続的危険と進化する性質を強調することとなった。我々は、動機を問わず、また、いつ、誰によって敢行されたかを問わず、爆弾攻撃、ハイジャック、誘拐・拉致を始めとするあらゆるテロ行為を、国際の平和と安全及び法の支配に対する最も深刻な脅威の一つとして、改めて厳しく非難する。国際社会におけるテロ対策に責任を持つ我々は、テロ対策への協調した取組を支持、強化し続ける必要があり、G8各国の有する知見と経験を共有し、焦点を絞った積極的な対策の一層の推進を図ることが、テロとの闘いに勝利するために不可欠であることを確認した。我々はまた、基本的人権への配慮はテロに対する国際的な取組の重要な要素であることを確認した。

 我々は、国際テロ組織によるテロ行為のみならず、テロ組織に属していない個人が過激化しテロ行為を敢行する事例が多くの国でみられるようになってきたことを深く憂慮する。2005年のロンドンの事件のほか、グラスゴー、バルセロナ等で発生したテロ又はその未遂事件に見られる一連の趨勢は、徹底的に対処すべき傾向である。過激化した個人によるテロの脅威は引き続き重大であり、暴力に結び付く過激化に対処することは、G8及び世界中のパートナーが協調して取り組むべき課題となっている。

 G8各国はこれまでも、暴力に結び付く過激化の傾向を分析し、これに対応する新たな対策を生み出し、自国民と国際社会の安全の強化に努めてきた。インターネット等の近代的情報通信技術の発展及び普及により、暴力的過激主義思想へのアクセス及びその頒布、爆発物製造方法の取得、並びに暴力目的でのネットワーク作り及びリクルートはますます容易になり、暴力に結び付く過激化を容易にする環境が更に整いつつある中、地域警察活動及び地域へのアウトリーチの推進、地域との良好な関係の構築及び維持、並びに暴力に結び付く過激化の防止とその兆候の早期把握等様々な取組がG8各国において試みられている。

 我々は、ローマ/リヨン・グループが、G8各国における過激化した個人の事例分析を行ったことを歓迎するとともに、過激化した個人によるテロを未然に防止するための対策を継続する必要があるとの認識で一致した。

 国際テロ組織は、相互の連携を強めながら、その勢力を拡大しようとしている。特に、近年、これまで主に国内で活動していたテロ組織が、国際テロ組織の支援を受け、又は、その傘下に入ることを選択し、その結果、従来よりもテロの対象を広げ、また、破壊と殺傷を最大化することを意図した手法を使用する事例が見られる。これにより、その地域におけるテロの脅威が高まるだけでなく、テロ組織の国際的な影響力も更に拡大されることとなり、国際テロの問題を一層深刻なものにしている。

 我々は、このような国際テロ組織の動向に特別の注意を払う必要があるとの認識で一致した。そして、国際テロ組織のこれらの動向に対処するためには、G8各国の関係当局における情報収集を一層進めるとともに、当局間における包括的かつ迅速な情報共有を継続することが重要であることを確認した。

 我々は、テロによる攻撃を受けた場合の被害が甚大なものとなる重要エネルギー施設について、テロの脅威に対する特別な防護が必要であることを確認した。また、経済や社会活動がインターネットを始めとする情報インフラに依存を深めている現状を踏まえ、重要情報インフラの防護についても同様の対策が必要であることを確認した。我々は、5年以上にわたり重要情報インフラの防護を先導してきており、鉄道、パイプライン及びエネルギーのインフラの防護の課題に対処してきている。

 我々は、ローマ/リヨン・グループが、この分野における取組により、好事例集等を取りまとめたことを歓迎し、関連する対策を継続するよう要請する。

ID犯罪

 我々は、ID犯罪と呼ばれる事象について議論した。「ID犯罪」というのは厳密な法的概念ではなく、ここでは、アイデンティティーの悪用にかかる不法な行為を広く指すものとして、当該用語を用いることとする。その中には、個人識別文書及び個人識別情報の偽変造のほか、これらの不正な取得、移転、所持及び行使が含まれる。これらの行為をID犯罪と総称することは、その全てが現に犯罪化されているとか、犯罪化されるべきであることを示唆するものではない。

 個人を一義的に識別する能力は、現代社会の不可欠の構成要素である。広範囲に渡る公的・私的な活動のために、様々な種類の個人識別文書・個人識別情報が活用されている。そのため、これらが悪用された場合の影響は広範囲に及び、かつ、程度も極めて大きい。個人識別文書及び個人識別情報の悪用は、G8及び世界中の国で、経済的詐欺の手段として、また、証拠を隠滅し、捜査や処罰を免れ、収益を隠蔽する手段として用いられている。情報通信技術の進歩とインターネットの普及に伴い、問題は重大性を増している。これらの進歩のおかげで、取引活動やコミュニケーションははるかに便利になり、かつ、迅速化したが、その一方で、犯罪、犯罪者、そして被害者の間の物理的距離が拡大し、ID犯罪に手を染める者にとって、新たな犯行機会が生まれるに至っている。統計的及び実証的なデータは限られているが、犯罪者はID犯罪を通じて巨額の利益を挙げており、我々は、ID犯罪の経済的影響が極めて大きいことについて認識が一致した。また、入手可能なデータによれば、ID犯罪はある種の組織犯罪やテロリストの活動と結びついているものとみられる。これらの結びつきは不穏なものであり、重大な懸念事項である。

 ID犯罪に対しては、積極的な対処が行われている。我々は、ID犯罪者の犯行手口について、また、これらの者を訴追し、処罰するための手段や方法について、経験を共有し、意見を交換した。また、G8各国は、ID犯罪者を積極的に追跡・検挙するだけでなく、予防措置の導入・拡充にも取り組んでいる。

 我々はまた、ID犯罪に対処するため、G8各国において取られている様々な法制面のアプローチについても議論した。G8国は、アイデンティティーを悪用する犯罪に対し、詐欺、偽造その他の一般的な罰則を適用して処罰するが、中には、より準備的な段階における一定の行為‐‐例えば、クレジットカード及び銀行カードの電磁情報を、不正な目的で取得、移転又は保管する行為‐‐を特定的に犯罪化することによって、このような伝統的なアプローチを補う国もある。他方、より基本的なアイデンティティーの悪用そのものに着目し、犯罪的意思による個人識別情報の取得、移転、使用一般を犯罪化し、又は犯罪化することを検討している国もある。法制面の違いに関わりなく、我々は、ID犯罪が警戒を要するグローバルな問題であり、刑事司法及び法執行に対する新たな挑戦であることについて、全面的に見解が一致した。我々は、この新たな問題の性質、射程及び程度について理解を深める必要があり、その目的のためには、国際的な場における経験の共有と議論が有益であることを承認する。これらの点では、国連の政府間専門家グループによって重要な研究がなされており、また、ローマリヨンの専門家により、国内的な身分認証制度の強化のための好事例集が作成されている。我々の専門家はまた、個人識別文書及び個人識別情報の犯罪的不正使用の問題を更に研究するための作業を行っている。我々は、これらの努力を評価するとともに、ローマリヨンの専門家に対し、ID犯罪を防止し、これと対抗するための作業を引き続き推し進め、その成果物を、望ましい範囲で広く共有するよう求める。なぜなら、この問題は我々の国だけでなく、全世界的な射程を有するからである。

 渡航文書の分野におけるID犯罪は、特別の注意を要するまた一つの懸念分野である。国境を適正に管理し、既知の犯罪者やテロリストが国境を越えて移動することを阻止する我々の能力は、入国時及び旅券・査証発給時における個人識別及び本人確認の精度に大きく依存している。これらの識別・確認の精度を高め、渡航文書の偽変造を探知する一助とするため、バイオメトリクス情報の活用が始まっている。プライバシーその他正当な旅行者の利益を尊重すべきは当然であるが、適正に行われる限り、バイオメトリクスの活用は、迅速で効率的、厳格かつ安全な国境管理に資するものであることを確認する。

 我々は、ID犯罪が、古くて新しく、かつ、喫緊の全世界的な課題であることを改めて指摘する。我々は、政府、個人及び公私の団体の適法な活動を促進し、かつ保護するとともに、ID犯罪に対抗するための努力を継続するものである。

薬物犯罪対策

 我々は、薬物犯罪が、主要な乱用薬物の種類、流通の経路等に各地域で異なる情勢があるものの、国境を越えて敢行され、組織犯罪グループ及びいくつかのテロ組織の重要な資金源とさえなっており、公衆衛生に及ぼす影響も大きい現状を踏まえ、この分野においても、引き続き、G8各国として国際的な連携の推進に貢献していく必要があることを確認した。

 我々は、アフガニスタンにおけるヘロインやラテンアメリカにおけるコカインの取引がその地域の安全とも関連を有していることを憂慮するとともに、アフガニスタン及びコロンビア両政府の違法薬物栽培との闘いに対して強い支持を表明する。加えて、新しい種類の合成薬物や、そうした薬物の製造に必要な前駆化学物質が伸張していることについて懸念を有する。コカインやヘロインといった薬物と異なり、情勢の把握が困難である合成薬物対策に向け、我々は、微量成分分析を始めとする科学的手法等、国内外においてあらゆる手法を積極的に活用していくことについて、意見の一致をみた。

 我々は、また、引き続き違法薬物が世界各地で流通している現状を憂慮するとともに、この脅威によって、公衆衛生や薬物の製造、流通に影響を受ける国々の尊厳や安定が脅かされていることを懸念する。我々は、G8各国がこうした薬物流通ネットワークを遮断し、違法薬物の使用を持続的に減少させていくため、G8各国それぞれによる国際連携の強化のための施策を一層推進していくとともに、その成果の共有を継続していくことが有益であることについて意見の一致をみた。

 1998年6月にニューヨーク国連本部で開催された国連麻薬特別総会をフォローアップするための次期国連麻薬委員会におけるハイレベル会合が、翌2009年3月に開催される。我々は、G8司法・内務大臣会議という場において、薬物犯罪対策に係る知見を共有する機会を得たことの重要性にかんがみ、G8各国においても、国内外の情勢を踏まえ、薬物情勢の的確な把握と分析、薬物密売組織の壊滅に向けた効果的な法執行当局の協力等、有効な薬物犯罪対策を加速させていく必要があるとの認識で一致した。

国際組織犯罪に対抗するユニバーサル・ネットワークの構築

 我々は、社会の繁栄の基盤である市民社会の安全を脅かし、ひいては、法の支配、市場経済に対し、深刻な影響を与える国際組織犯罪が、国際社会において、更に拡大しているとの共通の懸念を認識する。

 我々は、捜査インフラの整備の面で、近年、ICPOが果たしてきた役割の重要性を認識した。ICPOは、盗難・紛失旅券データベースの整備やG8が主導してきたDNA型記録検索依頼ネットワークの整備のための基盤の提供を行うなど、その国際的、かつ、実務的な役割は年を追うごとに重要になっている。我々は、これらのICPOの捜査インフラを一層実効あるものとするため、G8各国の事情が許す範囲内で、所要の協力及び支援を行っていくことを決意し、この観点から、知的財産権犯罪データベースの構築に向けたICPOの取組を歓迎する。

 我々は、国際組織犯罪の取締りに当たっては、警察、出入国管理当局、税関当局等の関係当局が有する各種の情報を、各国の個人情報保護制度に配慮しつつ、有効に活用することが極めて重要であることについて確認した。今後とも、G8各国における情報集約のための制度や仕組みに関する知識を交換していくことを確認した。

 我々は、携帯電話、インターネット等の近代的情報通信技術の発展及び普及に伴い、多くの犯罪者が、より高い匿名性の下で犯罪を敢行し、かつ、世界中の被害者に到達する機会を得ており、また、電子的な証拠・痕跡がしばしば短寿命である状況の下で、G8各国の法執行機関の追跡能力が、これら近代的情報通信技術を悪用する犯罪者の能力の後塵を拝しつつあるとの懸念を共有する。このような懸念の下、我々は法執行機関が、世界中のどこにいようとも、そのような犯罪者を特定及び訴追することができるよう、その能力の向上を継続すべきであることを確認した。今年、ローマ/リヨン・グループは、G8各国の有益な情報を共有することを目的として、情報通信に関するこのような問題に取り組んできた。この取組により、電話産業と法執行機関の間の、より緊密な協力を確保するための勧告が取りまとめられた。我々は、この勧告を高く評価するとともに、G8各国において法執行機関と通信産業とのよりよい協力関係を構築するよう取り組むことを期待する。

 我々は、また、インターネットの犯罪利用に対処するためには、違法情報に関する通報を受け付ける「ホットライン」と連携する形での、法執行機関とサービスプロバイダその他の民間組織との緊密な協力が重要であることを確認した。これに関し、我々は、ローマ/リヨン・グループが作成したいくつかの成果を高く評価する。

 最後に、我々は、現在、全世界の国々が参加し、とりわけ電子的証拠が関わる場合の国際協力を促進してきたG8ハイテク犯罪24時間コンタクトポイントネットワークの継続的な拡大と活用について留意する。我々は、このネットワークの更なる拡大、強化、訓練のための取組を賞賛する。

キャパシティ・ビルディング支援

 国際組織犯罪及び国際テロは、全世界的な取組を必要とする全世界的な課題である。G8のみならず、世界中の国が、これらとより効果的に取り組むための普遍的な法的文書‐‐すなわち国際組織犯罪防止条約及び付属議定書、国連腐敗防止条約、13のテロ防止関連条約及び付属議定書、サイバー犯罪条約‐‐を批准し、全面的に実施することが不可欠である。

 我々は、これらの批准及び実施を促進する上で、G8のリーダーシップが重要であることを、改めて確認する。

 我々は、国際組織犯罪及び国際テロと戦うための法整備、関連する諸条約・議定書・決議の国内的実施、警察及び法執行当局の能力構築、犯罪人引渡し及び国際捜査共助等の国際協力のためのメカニズムの強化等について、助力を必要とする国に対する支援の経験と好事例を共有した。これらの支援を供与することの重要性にかんがみ、本日我々は、「キャパシティ・ビルディング支援に関するG8司法・内務閣僚宣言」と題する別個の宣言を発した。我々はまた、アフガニスタンについて話し合い、アフガニスタンの再建が全世界及び地域の安定に資することにつき共通の理解に達した。

 我々はまた、司法分野における体制構築に対する支援の基本的重要性についても、意見を交換した。独立し、実効性を有する司法制度が存在することは、有効な犯罪対策・テロ対策の前提条件をなすだけでなく、それ自体として貴重な公共の財産である。我々は、司法制度及び基本法の整備、法曹養成といった司法分野における技術支援が、同様に重要な取組であることを強く確信する。

 我々は、適切な二国間、地域間又は多国間のチャネルを通じて、我々の権限の範囲内の支援を提供する努力を継続し、また、その質的向上を図る努力を継続することを改めて確認する。我々はまた、世界中のパートナーに対し、この重要な努力に参加するよう呼びかける。

児童の性的搾取との闘い

 我々は、外国に渡航して児童と性的接触に及ぶ行為や、インターネット上における児童の性的虐待画像‐‐いわゆる児童ポルノ‐‐の憂慮すべき氾濫をはじめ、あらゆる形態による児童の性的搾取を非難し、弾劾する。G8諸国は、揺るぎない意思のもと、児童に対するこれらの憎むべき犯罪を予防・捜査・訴追する能力を向上させる努力を続けてきた。

 我々は、これらの事項について例年の会合で議論を続け、昨年ミュンヘンにおいては、主要議題の一つとして取り上げた。また、「児童ポルノに対する国際的闘いの強化」と題する独立の宣言を発して、問題の重要性を強調した。

 我々はこれらの議論のフォローアップとして、最新の情報を提供し、新たな進展を共有した。この点で、性的搾取及び性的虐待からの児童の保護に関する欧州評議会条約の採択は、児童保護の取組の重要な進展であるといえる。我々はまた、我々の専門家がこの分野で推し進めた重要なイニシアティブを高く評価する。彼らは、児童の性的虐待画像の氾濫が児童に与える影響を検討する国際的な研究シンポジウムを準備し、また、児童に対する性犯罪者を、世界中どこにいてもより効率的に発見し追跡するためのメカニズムであるG8指名手配ウェブサイトの構築を進めている。また、法執行機関職員のトレーニングを改善するとともに、児童の性的搾取、とりわけセックス・ツーリズムや児童ポルノ‐‐それは、児童の性的虐待の恒久的記録にほかならない‐‐とより効果的に闘うための国際協力を拡充するための作業を続けている。それだけでなく、児童誘拐分野における協力の強化を念頭に、性的搾取目的による児童誘拐に対する法執行上の対応や児童誘拐に関する各国法制の検討に着手した。我々は、これらの取組を歓迎するとともに、これを着実に進めていくようローマ・リヨングループに対して指示する。併せて、児童の性的搾取との闘いを継続する我々自身の誓いを新たにするものである。