データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8首脳会合・政治問題に関する文書,テロ対策に関するG8宣言(第35回ラクイラ主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] ラクイラ
[年月日] 2009年7月8日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.共通の課題に立ち向かい、世界においてテロリズムを打破するため、従来からのパートナーシップを強化し、新しいパートナーシップを築く国際協力の新しい時代が今や到来している。

2.テロリズムは国際の平和、安定及び安全にとって最も重大な挑戦のうちの一つであり続けている。我々は、いかなる形態や兆候であれ、この現象に対する断固たる非難を、最も強い表現で改めて表明する。全てのテロ行為は、誰によるものであれ、その動機にかかわらず、犯罪であり、非人道的かつ正当化され得ず、特に市民を無差別に標的とし、負傷させる場合はそうである。とりわけ、自爆テロ‐そして、こうした行為を行わせるために若者や弱者を要員とさせることは、拉致や人質をとることと同時に許し難い行為である。

3.我々は、短期的な取組や長期的な政策の両方を含む、特に情報共有とキャパシティ・ビルディングの分野における多面的で、集団的かつ調整された努力によってのみ、テロリズムは効果的に打破され得ると確信している。こうした点において、テロ対策について普遍的なコンセンサスを形成するのに比類のない適切な機関である国際連合に中心的な役割が付与されなければならない。

4.関連する国連機関との不断の協力において、G8は、主として、テロ及び国際組織犯罪対策の専門家が集結するG8ローマ・リヨン・グループ及びテロ対策行動グループ(CTAG)を通じて世界的なテロとの闘いにおいて枢要な役割を果たしている。我々は、CTAGの強化されたアウトリーチ・イニシアティブ及び地域的及び現地での技術協力やキャパシティ・ビルディングの更なる重視を歓迎する。

5.関連するすべての国連の規定に盛り込まれている基本原則のとおり、我々は、テロリズムに対処しつつ人権を尊重するコミットメントを改めて表明する。

6.我々は、テロ行為の犠牲者に対しても、特別の注意が払われるべきことを強調する。我々の国々は、生存者及び犠牲者の家族を支援するイニシアティブをさらに発展させることを決意し、国際社会における他のメンバーによるこの方向に向けたあらゆる努力を歓迎する。

7.我々の社会に固有の強さは、我々が信じ、また常に守り抜くであろう社会の開放性及び真の自由の尊重にある。しかしながら、我々は、テロリストが我々の開放的かつ排他性のない生活様式を彼らの残忍な目的に利用することを、決して許容してはならない。この文脈において、我々は、テロリストの機動性や財源へのアクセスを妨げるよう努力するとともに、これもまた重要であるが、最後に、テロリストの誤ったメッセージの普及及び暴力への呼びかけに挑戦する。

8.暴力に結び付く過激化、特に我々のコミュニティにおける無防備な個人の間における過激化の増加は、我々すべてにとって、深刻な懸念の原因である。テロリストの主要な目標は、恐怖を広め、不安定の種をまくだけにとどまらず、我々の社会の基本的価値を蝕むことである。テロ組織による、プロパガンダや勧誘のための近代的及びより伝統的な公共のコミュニケーション手段の濫用には、特別の注意が払われなければならない。とりわけ、インターネットは、過激なメッセージを普及させ、暴力的行為を計画し、助長する目的で、テロリストに広く利用されている。我々は、テロリストがこれらのコミュニケーション手段を利用する方法に対し理解を深め、こうした濫用に対処するための協調を強めていかねばならない。

9.したがって、我々は、テロリストを阻害し、訴追することの基本的な重要性を強調しつつ、長期的には、彼らの犯罪的な戦略への最も効果的な対応は、依然として、民主主義、人権、法の支配及び平等な社会条件の促進であることを確信している。我々は、特に若い世代との間の対話の文化、非排他性、多様性の完全な尊重にコミットしており、これは暴力的な目的のために憎悪をかきたてる者に対処する最も効果的な対応である。この文脈において、我々は、ローマ・リヨン・グループが、G8各国の社会への移民社会の統合を改善するための協力を促進すると同時に、こうした複雑な事項に対処し続けることを要請する。

10.テロリストの移動、テロ資金調達、テロリストによる非営利団体(NPO)の濫用及びその他の武器を含む物資支援を阻害するための我々の共同の闘いは、主に国連安全保障理事会決議第1267号、1373号及びその他の関連する決議により設置された包括的な制裁制度を通して、また、テロ資金供与防止条約の実施を通して、目に見える進歩が達成されてきた。我々は、制裁の世界的実施を強化し、金融活動作業部会(FATF)の40の勧告及び9の特別勧告の完全実施、FATF形式の地域機関(FSRB)を通じ、テロ資金対策の分野における国際基準の普遍的な遵守に向けての我々の行動をさらに強めることにコミットしている。強化された協力やデータの交換、こうした情報共有メカニズムの向上は、世界的な遵守をさらに高めるであろう。現金密輸、送金制度の濫用及びその他の形態のテロ資金の移動には、特別の焦点が当てられなければならない。我々は、現金密輸及びテロ資金を調達するための現金運搬人(キャッシュ・クーリエ)の利用に対処するために達成された重要な作業、特に、約350万ドル、70件以上の押収の結果を収めたG8共同キャッシュ・クーリエ阻止オペレーションを歓迎する。

11.テロリズムと組織犯罪は異なる論理に呼応しているものの、国際組織犯罪防止条約が採択された際の国連総会(パレルモ、2000年12月)において留意されたように、我々はこの2つの現象の結び付きに、引続き深い懸念を有する。我々は、キャパシティ・ビルディングや他の形態の技術支援を供与することによって、特に統治組織が脆弱であり、武器・人の密輸や違法薬物のような他の不安定課題の温床を提供するような国において、これら2つの現象のあり得べき結び付きを断ち切るため、目標を明確化したイニシアティブを促進し続けることをコミットする。不安定要素及び国境を越える脅威に関する会議(ローマ、2009年4月23‐24日)において専門家から強調されたように、こうした犯罪活動はテロリズムに相乗効果をもたらし得る。

12.テロリストは、彼らの戦略と攻撃方法を多様化させてきた。我々は、それゆえ、化学・生物・核物質・核(CBRN)テロリズム、重要インフラ(重要情報インフラを含む)や機微な場所、交通システムに対する攻撃等のもっとも広範な種類の様々な脅威に対抗するための我々の努力を強化する。我々は、旅行者の生体身分認証を拡大し、すべての交通形態の安全を向上させるためのベスト・プラクティスを確定し、促進するローマ・リヨン・グループの努力を歓迎する。これはG8各国をはるかに越えて、肯定的な影響を与えるであろう。爆発物の探知や重要輸送インフラ防護のための実際的措置や技術(例えばビデオ監視技術)の研究及び発展と、重要化学インフラの脅威評価を実行するためのベスト・プラクティスに関する合意は、世界をすべての人にとってより安全で安心にすることについてのG8のリーダーシップを示している。我々は、すべての交通形態における脅威と闘い、状況の認知や、交通保安要件の受入れ・遵守を高めるためのアウトリーチ作戦を促進し、また、協力、訓練及び認証手続きの発展によって、交通保安における人材の要素が果たす役割を強化するための任務を継続するよう、専門家に要請する。我々は、グローバリゼーションは、我々のインフラが相互依存的になることを意味することを認識し、その結果として、我々は、重要インフラ防護の分野における専門家間の対話や協調を促進する。

13.テロリズムに対する我々のあらゆる行動は国連組織が設定した基本的原則に基づいて行われてきており、今後も常に同様である。我々は、各国に対し、テロリズムに対抗するためのすべての普遍的な条約や議定書の締結と完全履行を再度呼びかける。更に、我々は、国連のグローバル・テロ対策戦略の重要性を強調し、2008年9月に国連総会が同戦略をレビューしたことを歓迎する。

14.我々は、安全保障と我々の民主主義の根本原則とは両立しないという考え方を拒絶する。国際法の尊重と法の支配の促進は、テロとの闘いにおける基本的な柱である。すべての国は、国連の制裁制度を実施する義務を果たさなければならず、その際、公正性と透明性を増進するように努めるべきである。

15.このような文脈において、我々は、国連安保理決議1730(2006年)及び1822(2008年)により、もたらされた国連制裁制度の改革を歓迎する。我々は、G8が国連制裁制度の透明性と実効性の向上を目指す努力を促進し支持する上で重要な役割を果たし得ると信じている。この目的のため、我々は、対象となる制裁制度に一層の公正と透明性をもたらすための重要な一歩として、国連安保理決議1822(2008年)及び国連安保理決議1267(1999年)に続くその他の諸決議に基づく新しい義務を一層効果的に履行する方策を検討するよう専門家に要請する。