データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8首脳会合・政治問題に関する文書,不拡散に関するラクイラ声明(第35回ラクイラ主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] ラクイラ
[年月日] 2009年7月8日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 我々は、北海道洞爺湖サミット及びそれ以前のサミットにおいてそうしたとおり、大量破壊兵器とその運搬手段の拡散が世界的な課題であり、また国際安全保障への重大な脅威であり続けていることを認識する。我々は、効果的な多国間主義と各国による断固たる努力を通じ、我々の不拡散及び軍縮という共通の目標を強化するために、現在の好機と新たな機運を捉えていく決意である。すべての国は、関連の国際条約及び多国間取極の下で、軍備管理、軍縮及び不拡散のコミットメントを完全に果たさなければならない。不拡散体制の普遍化及び強化は依然として緊急性の高い優先事項である。我々は、核兵器不拡散条約(NPT)、化学兵器禁止条約(CWC)及び生物兵器禁止条約(BTWC)に未加盟のすべての国に対し、遅滞なく条約に加入するよう求める。

パラ2(NPT)

 我々は、NPTが依然として核不拡散体制の基礎であり、核軍縮の追求に不可欠な基盤であることを強調し、また、その三本柱(不拡散、原子力の平和的利用及び軍縮)の目的と義務に対する完全なコミットメントを改めて表明する。我々は、2010年NPT運用検討会議によりNPT体制が成功裏に強化され、NPTの三本柱すべてにおいて現実的かつ達成可能な目標が定められるよう、共に取り組んでいく。我々は、すべてのNPT締約国に対し、建設的かつバランスの取れた取組方法をもって、運用検討プロセスに貢献するよう求める。

パラ3(IAEA)

 保障措置は、NPT及びその不拡散上の目的を効果的に実施するために不可欠な手段である。我々は、IAEAに対する完全な支持を確認するとともに、IAEAの包括的保障措置及び追加議定書を検証の基準として普遍的に受け入れられるに向けた我々の努力を継続することにコミットしている。我々はまた、追加議定書を原子力供給取極の分野における不可欠の基準として確立することに取り組んでいく。我々は、追加議定書を締結していないすべての国に対し遅延なく締結すること、及び批准までの間、その規定を実施することを呼びかける。我々は、IAEAが極めて重要な憲章上の責任を果たすのに必要とされる技術、専門性、権威及び資源を有し続けることを確保することを追求する。我々はまた、国連安全保障理事会による適切な行動及びすべての関連する場所、情報及び人々へのアクセスを備えたIAEAの査察権限を最大限に利用することを含め、不遵守の問題に対処するため、及びNPTに違反したままNPTから脱退する国に対する真剣かつ即座の結果を含めるために措置が必要とされていることに合意する。)

パラ4(CTBT)

 我々は、オバマ米合衆国大統領が包括的核実験禁止条約(CTBT)批准を追求することを決定した旨発表したことを歓迎し、また、国際安全保障体制の主要な装置の一つであり、軍縮・不拡散の鍵となる手段の一つであるCTBTの早期発効及び普遍化に向けた努力を強化する。その間、我々はすべての関係国に対して、核兵器の実験的爆発、又は他の核爆発について、モラトリアムを遵守するよう求める。

パラ5(FMCT)

 我々は、軍縮会議(CD)において、2009年会期の作業計画が採択されたことを歓迎する。我々は、検証に関する規定を含む兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の国際的な交渉の早期開始を強く支持し、また、すべての関係国に対し、そのような物質の生産についてのモラトリアムを宣言し、維持するよう求める。我々は、G8メンバーである核兵器国が既にそのようなモラトリアムを宣言しているという事実を歓迎する。我々はCDにおいて可能な限り早期に実質的な作業が再開されるよう行動する。

パラ6(核軍縮)

 我々は皆、NPTの目標に基づき、すべての者にとってより安全な世界を追求し、核兵器のない世界のための状況をつくることをコミットする。我々はG8メンバーである核兵器国によってこれまでに実施された核軍縮措置を歓迎する。我々は、ロシア連邦大統領及びアメリカ合衆国大統領による2009年4月1日及び同年7月6日の共同声明を歓迎し、また、両国が、START条約が2009年12月に効力を失う前に、その条約に代わる法的拘束力のある合意を結ぶとの意図並びに核兵器を更に削減する意思を歓迎する。我々は、すべての国に対し、一層の透明性をもって更なる核軍縮措置をとるよう求める。

パラ7(原子力の平和利用、核燃料サイクル)

 我々は、NPTのすべての締約国が、原子力エネルギーをNPTのすべての義務に従って、平和的目的のために利用する奪い得ない権利を有していることを再確認する;遵守及び効果的な検証は原子力エネルギーの利用を妨げてはならず、むしろその安全かつセキュリティを確保した開発及びエネルギー源としての開発を促進するものでなければならない。我々は、IAEAとの協力において、核不拡散、保障措置、安全及びセキュリティを促進することにコミットしており、新興の原子力国における原子力に関する教育、訓練及びこれらの分野における組織的なキャパシティ・ビルディングに関する新たなイニシアティブを歓迎する。我々は、核燃料供給保証を含めた核燃料サイクルに関する多国間アプローチに関するIAEAの取り組みを、拡散のリスクを最低限にすることにおける世界的な利益を考慮しつつ、核燃料サービスのための拡大された必要性に手当てする効果的な措置として奨励する。この点に関し、我々は、ロシアが主導するアンガルスクの国際ウラン濃縮センターにおいて現在進行中の取組み、ならびにIAEAによって管理される核燃料バンクの構築に向けた進展を歓迎し、低濃縮ウラン供給を保証するというロシアの提案及びドイツの多国間濃縮サンクチュアリー計画の更なる発展を歓迎する。我々は、日本のIAEA核燃料供給登録システムの提案、商用核契約の実施における不介入の政治的保証のための英国提案及び米国の国家のセキュリティストックからの物質からの核燃料備蓄等のその他のイニシアティブに留意する。

パラ8(NSG)

 濃縮及び再処理関連施設、機材及び技術に伴う拡散リスクを減じるために、我々は、原子力供給国グループによる係る濃縮及び再処理関連の品目及び技術の移転に関する規制を強化するためのメカニズム進展を歓迎する。NSGは本件につき結論に達していないが、我々は、NSGの議論は2008年11月20日に作成されたNSGの「クリーンテキスト」に含まれる有用かつ建設的な提案を生み出したということに同意する。NSGにおける作業の終了に先立ち、我々は、このテキストを国ベースで今後一年間実施することに合意する。我々は、NSGに作業を加速し、濃縮及び再処理施設、機材及び技術の移転に関する強化されたメカニズムの世界的な実施を可能とするために、今年に迅速にコンセンサスに達することを呼びかける。

パラ9(1540)

 我々は、拡散の挑戦及び不遵守の帰結に対処するに当たって、国連安全保障理事会の主要な役割を認識する。我々は、非国家主体が大量破壊兵器、それらの運搬手段及び関連物質を入手することを防止することに関する、安保理決議1540の完全な履行をすべての国に対し呼びかける。我々は、1540委員会が更新されたマンデートを果たすことを支持する。我々は、すべての国に対し、履行状況の包括的な審査に積極的に参加し、その成功のために貢献することを奨励する。

パラ10(BTWC、CWC)

 我々は、化学兵器禁止条約(CWC)及び生物兵器禁止条約(BTWC)の下での現在の進展を歓迎し、両条約の完全かつ効果的な実施が極めて重要であることを強調する。

パラ11(イラン)

 我々は、イランの核問題の包括的、平和的かつ外交的な解決に向けた取組に対する我々の一致したコミットメントを再確認し、交渉を通じて本問題を解決するための現在の努力を強く支持する。我々はイランに対し、イランの利益並びに国際社会の懸念を扱う交渉による解決策を見出すため、相互尊敬の精神に基づき、イランが現在の国際社会との関与に向けた機会の窓を行使し、提示された提案に前向きに対応するよう求める。我々は、イランがNPTの下での民生用原子力計画に関する権利を有することを再認識する一方で、G8及び他の諸国との実りある幅広い協力を実現するため、イランが、関連国連安保理決議で再確認されているように、その核関連活動が専ら平和的性格であることについての信頼を回復する責任を有することを強調する。イランの核計画によって生じた拡散のリスクは引き続き深刻な懸念である。我々は、イランが関連安保理決議を遵守し、IAEA事務局長報告で提起された問題を解決するためにIAEAが要請するアクセスと情報を同機関に提供することで同機関と完全に協力するよう求める。

パラ12(北朝鮮)

 我々は、関連の国連安保理決議に対する明白な違反を構成する、2009年5月25日に北朝鮮が実施した核実験を最も強い表現で非難する。このような核実験は地域内外の平和と安定を損なうものである。この観点から、我々は、国際社会の明白かつ強い意思を表す2009年6月12日付国連安保理決議第1874号を歓迎する。我々はまた、国連安保理決議1718に違反して、北朝鮮が実施した2009年4月の弾道ミサイル発射を非難する。我々は、北朝鮮に対し、国連安保理決議第1695号、第1718号及び1874号を遵守し、これ以上の核実験又は弾道ミサイル技術を用いたいかなる発射も行わず、すべての核兵器、既存の核計画及び弾道ミサイル計画を、完全に、検証可能に、かつ、不可逆的な方法で、放棄することを引き続き求める。我々は、北朝鮮に対し、NPT及びIAEA保障措置上の義務を完全に遵守するよう要求する。我々は、北朝鮮に対し、直ちに無条件で六者会合に復帰することを要請し、また、六者会合の早期再開及び未解決の懸案事項の解決を含む2005年9月19日の共同声明の完全な実施に対する我々の強い支持を再確認する。

パラ13(核セキュリティ)

 テロリストが大量破壊兵器を入手するという脅威は、深刻な懸念であり続けている。我々は、テロリストにそれらの兵器及び関連物資へのアクセスを決して与えないことを確保するために協働し続けることを決意している。我々は、米国大統領が発表した、世界中のすべての脆弱な核物質を安全にするための新たな国際的な取り組みに関するイニシアティブの進展を期待している。我々は、「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」をさらに促進する。このイニシアティブは、その参加国が、国家の法的権威及び関連する国際的な法的枠組みの下の義務に従って、決意された制度的な基礎の上で、この世界的な脅威に立ち向かうためのキャパシティを重要な役割を果たしている。

パラ14(PSI、FATF)

 我々は、大量破壊兵器及びその運搬手段と関連物質の拡散を防止し、これに対抗するため重要な役割を果たしている拡散対抗イニシアティブ(PSI)に対する我々の支持を維持する。我々は、拡散活動への資金供給に対する闘いにおける進展と金融活動作業部会(FATF)の役割を認識する。

パラ15(HCoC)

 我々は、弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCoC)の重要性を、その普遍化と完全な実施を促進することにより、引き続き支持する。この点、我々は2009年のHCoC年次総会において発表された前向きな進展によって勇気づけられ、すべての参加国が、近々、そのコミットメントを完全に実施するであろうと確信している。我々は、同規範に未参加のすべての国々に対し、遅滞なく参加するよう要請する。

パラ16(GP)

 2002年のカナナスキス・サミットにおいて発表された「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ」は、国際的安全保障を強固にするための成功した大規模なイニシアティブとなっている。我々は、ロシア及びウクライナにおける現在進行中の事業の実施に対するコミットメントの再確認を行いつつ、それと並行して、CIS諸国を含む、カナナスキスでの原則及び指針にコミットする潜在的新規参加国の加盟によるパートナーシップの更なる拡大についての選択肢を議論している。G8はまた、テロや拡散の危険が最大の地域における新しい分野での協力を含める用意がある。特に科学者との協力を通じて、世界的な大量破壊兵器に関する知識の拡散を防ぐため、我々は、この分野における一致した取組みのための「提言」を歓迎する。

パラ17(チェルノブイリ)

 原子力安全に関しては、チェルノブイリ原子力発電所のサイトで実施中のプロジェクトにおける前回サミット会合以降の進展を認める一方、その完了には追加財源が必要となることにも留意する。我々は、そのサイトを安定的かつ環境面においても安全な状態へと変えるために、ウクライナとの共同の努力を行うコミットメントを再確認する。