データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「グローバル・アジェンダの推進」共同宣言

[場所] ラクイラ
[年月日] 2009年7月9日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1.我々、イタリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、日本、メキシコ、ロシア、南アフリカ、英国、米国の首脳と欧州委員長は、エジプトと(欧州理事会議長国としての)スウェーデンの首脳と共に、地球規模の課題に共に取組み、ガバナンスを改善することにコミットする。我々の目的は、強化された多国間主義の文脈で、真のパートナーシップを醸成することである。我々は、世界経済が全世界、特に最も脆弱な層に利益をもたらす、均衡のとれた衡平かつ持続可能な軌道に沿って成長を再開することを確保するために協力していく。我々は、保護主義に対抗し、貿易及び投資のための市場開放を促進していく。我々は食料安全保障及びエネルギー安全保障の確保に貢献していく。我々は、経済危機の影響に耐え将来の進展に向かう状態に回復できるよう開発途上国を支援する。我々は開発に関する共通の展望を共有し、また開発の緊急事態に対応しミレニアム開発目標(MDGs)を含め国際的に合意された開発目標の達成に向け前進するために資源を動員していく。

2.経済金融危機は、国際的な多国間協力の強化の必要性を明らかに高めた。我々は、これまでのいかなる経済危機の時よりも、より力強く行動しより十分に協力してきた。我々は、金融規制を強化し国際金融機関(IFIs)を改革するものも含め、ワシントン及びロンドン・サミットの決定を早急に実施すること、そのために十分な資源を与えることに完全にコミットしている。開発途上経済、特に低所得国がこの危機の影響に対処できることを確保することがより一層重要である。

3.2007年のハイリゲンダムでは、我々13カ国はグローバル・アジェンダの鍵となる問題について対等かつ恒久的なパートナーシップを開始するイニシアティブを発揮した。我々は、附属の最終報告書で強調されているとおり、開かれ、透明で建設的な方法で対話全体を前進させ共通の理解と信頼を構築した。この対話は、共通の解決を模索する際に価値を付加し、多国間機関及び会議における公式な交渉を補完する。我々は、グローバル・アジェンダの前進に向け鍵となる課題に関する共通理解を達成するために安定的かつ組織的に協力していく。我々は、ハイリゲンダム・ラクイラ・プロセス(HAP)附属覚書の説明に沿って、対等な立場で今後2年間にわたりパートナーシップを継続することを決定した。これは、我々の国々にとって共通かつ極めて重要な関心事項の地球規模の課題に焦点を当てた結果重視のプロセスとなるだろう。我々は、HAP運営委員会に対し、必要な行動を計画し、2010年のマスコカ・サミットへ向けた実質的な報告書を準備することを指示する。我々はそこで進捗状況をレビューし共通の取組の次の段階へのガイダンスを提供する我々の対話を通じて達成された成果を基礎として、グローバル・アジェンダを前進させる全体的な能力を強化するために、すべてのレベルにおいて我々の相互作用の強化を目指す。

均衡のとれた包括的かつ持続可能な成長のための世界的回復アジェンダの議論

4.我々は、持続可能で均衡のとれた革新的かつ包括的な中期的成長のための強固かつ持続的な基礎に基づく、世界的グリーン回復の確保のために協働することにコミットしている。我々は、マクロ経済パターン及び構造問題の双方の点に関し、世界的回復アジェンダ及び将来の成長の源について議論してきた。この目的のため;

- 我々は、需要回復を促進する国内民間支出の強固で均衡のとれた回復を支援するマクロ環境を醸成していく。そのような環境ではいくつかの国における銀行部門の再建及び健全な基盤に基づく貸出の回復が求められる。

- 危機を克服するため、あらゆる必要な措置により我々の経済を継続して支援する一方、我々は、景気回復が確実になった際に採用され中期的な金融と財政の持続可能性を確保する、危機に対応するためにとられた例外的な政策からの出口戦略の準備を開始する。

- 我々は、内需を支え、強固で、均衡がとれた、包括的で、持続可能な世界的回復を達成するための努力において協力していく。我々は、各国それぞれの状況に応じ、貯蓄と投資の適切な調整を確保することを促進し、協働していく。

- 我々は、通貨の競争的切下げを回避し、安定的し良く機能する国際通貨システムを促進する。

- 失業と貧困に関する、危機の高い社会的費用への懸念から、我々は、人々の懸念を最優先として、危機の社会的側面に立ち向かうことにコミットする。我々は、セーフティー・ネット、保健及び教育を含む、社会保護政策を近代化し、強化し、効率を向上させていく。強化された持続可能な社会的保護はまた、雇用を支持し技能を向上させ、世界需要の維持と均衡を回復するのに役立つであろう。我々は、職を失った人々や失業に脅かされている人々への支援におけるベスト・プラクティスを交換していく。我々は、新しい労働市場状況に適応する訓練を行う我々の能力を強化していく。

- 我々は、好不況の循環を防ぐ金融システムと規制・監督の改革を継続する決意を有しており、国際経済・金融活動の適切性、健全性及び透明性の確保に取り組んでいく。我々は、世界経済及び金融の安定を促進する国際金融システムを支持する。

- 我々は、人的資本、調査研究、インフラ、技術革新の促進・保護の分野おける様々な政策を通じて、潜在成長力の向上を推進していく。我々は、経済回復をより包括的かつ強靭なものにするため農業及び小規模産業の発展をより重視していく。

- 我々は、炭素排出量を削減し生産から消費までのエネルギー効率を高め、結果としてエネルギー安全保障及びアクセスを改善する、クリーンかつ低炭素技術の開発、普及及び相互に合意した移転を奨励し促進していく。我々は、12月のコペンハーゲンでの国連気候変動枠組条約会議において共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力の原則に従い、包括的、公平、効果的かつ合意された成果に到達するための政治的意思を再確認する。

- 我々は、国際金融機関の適切性、有効性、正統性を高め、説明責任及び信頼性を向上させるとともに、最貧国を含む新興国及び途上国により大きな発言権及び代表権を与えるため、その権限、業務範囲及びガバナンスの改革を継続していく。

5.我々は、あらゆる適切な場において構造問題やマクロ経済問題に関する定期的な協議を推進していく。強化された国際対話と強化された協調は、より安定した、衡平で持続的な世界的成長モデルを構築するのに役立ち、その結果、世界経済の均衡の回復の漸進的な達成及び持続に資することとなる。

開放的な市場とドーハ・ラウンド妥結の支持

6.我々は、開放的な市場を維持・促進するとのコミットメントを再確認するとともに、貿易と投資におけるすべての保護主義的措置を拒否する。我々は、貿易と投資に対する障壁を導入しうる措置を控え、そのような措置を速やかに是正するという、ロンドンで更新された現状維持のコミットメントを遵守することの重要性を強調する。我々はWTOが他の国際機関と共にそれぞれの権限の範囲内で状況を監視し、四半期毎にこれらのコミットメントの遵守について公表するよう要請したことを再確認する。

7.我々は、オーストラリア、インドネシア、韓国の首脳と共にWTO事務局長の出席の下、モダリティーに関するものも含むこれまでの進展を基礎として、マンデートと整合的に2010年にドーハ開発ラウンドの野心的で均衡のとれた妥結を追求することにコミットしている。我々は、これまでの交渉結果の透明性と理解の向上が同合意の妥結を促進するために必要な手段と考えている。可能な限り早期に交渉の残り相違点を埋めるため、我々は、貿易担当大臣に対して、WTOの中で直接関与するためのあらゆる可能な手段について直ちに検討し、ピッツバーグ・サミットの前に会合することを指示する。

相互利益のための国境を越えた投資の推進と保護

8.我々は、国際投資を、我々の国々の成長、雇用、技術革新及び開発の主要な源泉であると考える。我々は、企業の社会的責任基準の一層の普及等を通じて、持続可能な開発のための触媒として投資の好影響を最大化し、保護主義的対応を最小化することにコミットしている。国際投資環境における予見可能性と安定性を高め一貫性のある共通の枠組みの基礎として機能し得る主要な原則について議論を継続することが必要である。

9.このプロセスの成果を基礎として、我々は、新興経済、開発途上国・先進国、関係国際機関及び他の主要な利害関係者を関与させつつ適切な更なる手段を検討していく。

包括的、持続可能な開発のための責任ある政策

10.我々は、開発途上国における成長と貧困撲滅にとって世界的危機の深刻な影響につき危惧している。我々は、特にアフリカにおける経済成長及び平和と安全保障に対する支持を通じ、ミレニアム開発目標達成に貢献する共有されたコミットメントを再確認する。我々は、結果として死亡する又は貧困に陥る人々、特に子供の数に関し、世界銀行及び他の開発機関の推計を大きな懸念を持って受け取った。我々は、気候変動が開発途上国に深刻な影響を与え、ミレニアム開発目標を含め国際的に合意された開発目標を達成する能力に対する重大な脅威となりつつあることを強調する。我々は、モンテレー合意及び開発資金に関するドーハ宣言の適切なフォローアップと実施を確保するため引き続き取組むに当たり、開発のための全ての資源を動員することにコミットしている。我々は、開発のための財源の動員及びすべての財源の効果的利用が持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップの中心であることを認識した。これらの全般的努力の一部として、G8諸国は貿易のための援助及び債務救済に関するものを含め、特にサブサハラ・アフリカに対する、ODAコミットメントを満たすことにコミットしている。

11.我々は、一連の中核的な開発原則に基づき、低所得国との対話及びパートナーシップを強化することにコミットしている。

- 持続可能な開発のための効果的かつ責任のある政策の促進: 我々は、低所得国、なかでも脆弱な状況下にある国と責任を持って取組んでいくことを決意している。我々は、開発の優先順位を明らかにし実施する際の開発途上国パートナーのオーナーシップ及びリーダーシップを尊重し支持するとともに開発パートナー間の協調を高めていく。我々は、それらの影響を最大化するため、開発政策の質、予見可能性及び有効性を改善するため、我々の協調を高め、アクラ行動計画を実施することに完全にコミットしている。我々は、他の会議で合意した債務の持続可能性及び透明性原則を引き続き促進する。我々は、気候関連措置が包括的な開発アプローチに統合されることを確実にしていく。

- 良い統治、説明責任及び透明性の促進: 我々は、持続可能な開発に資する適切な政策枠組と意思決定プロセス同様、公的資源の責任ある透明性の高い利用が求められる良い統治と法の支配を促進することの重要性を再確認する。我々は、開発イニシアティブに関する情報を利用可能にし、相互の説明責任を強化し、開発イニシアティブの進展を評価していく。

- パートナーシップ、対話及び能力開発の促進: 我々は、ミレニアム開発目標を含め国際的に合意された開発目標達成のため取り組んでいる開発の全関係者(中央及び地方政府、市民社会及び民間部門)の重要な役割を認識する。我々は、能力の高い実効的な政府、強力かつ透明性の高い機関及び健全かつ参加型の社会を作り上げるパートナー国の努力を支持することにコミットしている。我々はまた、南南及び南北協力間の相乗効果を増大し得る重要な結び付きを提供する三角協力の価値を強調する。我々は、ケース・バイ・ケースでそれぞれの国の能力に従い有効な三角協力を追求することに合意する。

- 多国間及び地域機関の強化: これら機関は所得や雇用の創出、経済統合、域内貿易や協力、平和と安全促進のための貢献を促進することにより、開発において一層顕著な役割を果たす。

12.我々は、現代の現実と課題を反映し、もって関連性、正当性、効率性を強化するため国連を含めた国際機関における改革プロセスを前進させることにコミットする。この関連で我々はHAP運営委員会に対し食料安全保障問題を扱う専門国際機関の改革プロセスを強化する協調されたアプローチを精査するよう要請する。我々は、多国間体制の一貫性の向上に専念しており、国際機関のより力強い協力を歓迎する。特に、我々は、関係する国連機関、IMF、FSB、ILO、OECD、世界銀行及びWTOが協調された方法で取組んでいくことを奨励する。