[文書名] ハイリゲンダム・プロセス最終報告 シェルパが承認した最終報告-2009年6月27日
1.ドイツで2007年に開催されたハイリゲンダム・サミットにおいて、G8及びG5の元首・首脳は、特に以下の4分野における世界経済の極めて重要な課題について議論するため、新たなパートナーシップ-ハイリゲンダム対話プロセス(HDP)-を開始した。
・ 特にアフリカに焦点を当てた開発
・ 相互利益に向け国境を越える投資を促進すること
・ 知的財産権を含め研究とイノベーションを促進すること
・ エネルギー効率に特別の焦点を当てたエネルギー
対話の進捗状況に関する実質的な最終報告書はイタリアの2009年サミットにおいて首脳に提出されることが合意された。
2.HDPは首脳の個人代表-シェルパ-によって運営され各々の作業部会によって開かれ透明で建設的な形で進められてきた。対等な立場での交渉ではないプロセスとしてHDPは他の多国間・地域機関や会議における取組を補完し、共通の課題に対する互恵的な解決の探求を進めることに貢献してきた。OECD及びIEAは分析と専門的知見を通じてHDPを支持してきており、これは評価されている。
3.パートナー国は、行動力が各国の経済、社会、政治状況に関連していることを認識しつつ、責任を共有し、世界経済の地球的課題への取組みを主導することにコミットしている。対話パートナー国は以下の分野における目に見える成果の基礎として相互信頼・理解を構築してきた。
I.開発
4.対話パートナー国は、世界的な貧困撲滅に対する共有された責任を確信し、開発についての建設的な対話を追求してきた。これには、最も貧しく最も脆弱な国々、特にアフリカにおける協調的で効果的な対応を要する。共通理解を促進することは貧困撲滅における努力の影響を強化するとの信念の下、開発政策と協力の目的、原則、手段について対話を行った。対話パートナー国は、ミレニアム開発目標(MDGs)及び他の開発目標の達成に貢献するよう、適切に目標設定された援助と他の外部融資により各国の資源を補完しつつ、各国主導の健全な開発戦略を支持する。開発政策と協力に関する異なる経験を基に、異なる社会経済環境を認識しつつ、これらの努力を強化し得る相乗効果を発展させる機は熟している。
5.対話パートナー国は、持続可能な成長と開発に対する支援を通じてMDGs及び貧困撲滅の達成に貢献するという共有されたコミットメントを再確認する。パートナー国は開発の鍵となる課題を特定し、世界危機が途上国への資金の流れ、成長及び貧困撲滅に与える深刻な影響を十分に認識している。2008年の政府開発援助(ODA)の量の増加にもかかわらず、世界危機は、援助の流れの予測可能性を始め、ODAのコミットメントを維持する必要性を増大させる。パートナー国は、南北協力及び南南協力の双方を含め、開発協力の質及び効果を向上させ続ける必要性につき合意する。このために、パートナー国は、アプローチの多様性並びに援助効果に関する共通の目標及び原則を評価しつつ、開発協力の将来を構築するための共通した堅固な基礎を成すアクラ行動計画(AAA)の実施に完全にコミットしている。また、パートナー国は援助効果を超え、開発効果へ移る考えを共有している。パートナー国は、モントレー合意及び開発のための金融に関するドーハ宣言に沿って、効果的な国内資源動員のための途上国自身の能力強化を含め、すべての潜在的資源を開発のために動員する必要性を認識している。これら全般的な努力の一環として、G8諸国は、グレンイーグルズ及び他の場でなされたコミットメントを含むODAコミットメントを果たすために取り組むことに堅くコミットしている。
6.すべてのパートナー国は、ハイリゲンダム対話プロセスが提供する透明かつ対等な立場を基礎に国際開発協力に関する各々の政策と慣行についての情報共有を行う独特の機会を高く評価している。そこでの議論は、パートナー国が、平和と安全、持続可能な経済成長、開発及びMDGsの達成といった鍵となる目標を共有しており、開発協力の手段に共通の特徴があることを示した。
7.これらの目標を達成するため、対話パートナー国は能力開発と良い統治に関する協働を効果的に促進し強化する必要性につき合意した。良い統治には様々な国特有のアプローチがあることを認識しつつ、対話パートナー国は、持続可能な社会、環境及び経済発展に資する適切な政策枠組みと意志決定プロセスを要することに合意する。また、対話パートナー国は、それには国家の政治力と公共資源の責任あるかつ透明性のある使用を要することに合意する。対話パートナー国は、能力開発を、時間とともに能力を創造、強化、維持するプロセスとして理解する。対話パートナー国は、AAAに沿って、能力開発での関与は、途上国パートナーのニーズに対応する際に持続的な影響を与え、現地で育まれるプロセスを補強し、途上国パートナーの行政構造における既存の能力に追加的な負担を課さないことを認識している。
8.対話パートナー国は南南協力及び南北協力の政策と手段を議論し、各々の役割、強み、差違を認識した。パートナー国は共通目標の上に立って、互いから学びながら、パートナー国間の補完性を強化するために取り組むことを決意する。
9.対話パートナー国は、南南協力と南北協力の間の相乗効果を高め得る重要な連結を提供する上で三角協力の価値に同意する。三角協力は強化さされた国及び地域のオーナーシップの機会、及び国際社会の平和、安全、開発努力の支援と調和と協調の増進を提供している。この精神の下、対話パートナー国は、ケース・バイ・ケースで、各々の能力に応じ、効果的な三角協力を追求することに合意する。対話を通じ、アフリカの機関と共に、そして自らの経験を基に、パートナー国は、効果的な三角協力を導くための参照として使い得る活動原則を特定した。途上国パートナーの三角協力を行う熱意や意思に然るべき敬意を払うべきことに合意する。
10.対話パートナー国は、開発努力への貢献は、途上国パートナーの優先順位に対応しており、そのリーダーシップの下でよく調整されている場合のみ意味を持つことに同意する。この精神の下、共通努力の影響を最大化する目的で、対話パートナー国はオーナーシップとアラインメントの原則を実施することにコミットしている。さらに、対話パートナー国は、時間、コスト、努力の面で途上国パートナーの行政負担を減らす必要性につき合意する。また、より強い情報共有に基づく、国が主導したより良い調整は、途上国の予算計画の能力、開発計画、結果に対する国内及び相互の説明責任を強化することに貢献することを認識する。
11.対話パートナー国は、平和と安全が経済成長、持続可能な開発及び貧困撲滅に必要不可欠であると固く信じている。対話パートナー国は、この領域における共通理解を向上する機会を評価する。対話パートナー国は、脆弱な状況下にある国家との効果的な協力のための経験を共有し、教訓を特定した。AUを含む地域組織及び準地域組織による貢献を高く評価し、途上国パートナーの優先順位とニーズを基礎に協力を構築することに合意する。例えば、アフリカによる、平和と安全の構築、治安、司法、統治、開発など鍵となる機能における国の機関と能力の強化、政府全体のアプローチの促進、すべての利害関係者間の調整と情報共有の増進といった取組を支援することを通じて行う。対話パートナー国は、これらの教訓を適用することで平和構築や開発により大きな影響を与える努力に貢献するであろうと強く信じている。
12.対話パートナー国は、世界的な発展にコミットし、経済金融危機が最も脆弱な国々に与える影響を最小化する必要性に合意する。この文脈で、対話パートナー国は、開かれた市場を維持する重要性を認識している。対話パートナー国は、貧困と食料安全保障の一層の悪化のリスクを認識している。この点、対話パートナー国は、より一層の努力、調整、効果の必要性を強調した。この目的のため、対話パートナー国は多国間利害関係者の国際基盤の価値を認識し、国連の下で発展している食料安全保障に関するグローバル・パートナーシップ(GPAFS)に留意する。この点、対話パートナー国はアフリカの特別のニーズを認識している。対話パートナー国は、地域及び大陸全体の今後の成長にとっての重要性にかんがみ、AUがインフラ及び農業開発に置いた高い優先順位を強調する。対話パートナー国は、2009年のAU首脳会議で承認されたアフリカ・インフラ整備計画(PIDA)、2003年のAU首脳会議で採択されたアフリカ農業総合開発戦略(CAADP)を通じてアフリカの指導者達が取った重要な措置に関心を持って留意する。対話パートナー国は、経済危機の影響を相殺し、また、食料・エネルギー安全保障を促進する上で、これらのイニシアティブの潜在的な貢献を認識する。
II.責任ある企業行動(RBC)/企業の社会的責任(CSR)を含む投資
13.国際投資は、動的な世界経済の主要な特徴の1つであるので、ハイリゲンダム対話の中核となる問題である。海外直接投資は過去20年間で急速なペースで伸びており、そうした流れは、均等ではないが、経済成長、イノベーション及び雇用を牽引する重要な役割を果たしている。対話パートナー国は特に以下の事項を認識している。
・ 投資パターンの主要な変更と海外直接投資の重要な源としてのいくつかの開発途上経済の台頭が、特に他の途上国地域において、G8とG5の協力をとりわけ関係のあるものにしている。
・ 責任ある企業行動と企業の社会的責任が投資環境を改善し、持続可能な開発に貢献し、また、開かれた投資政策への支持を持続する手助けとなる。
・ 対話パートナー国において、経済危機への対応として投資保護主義の傾向が出てきているとの証拠はほとんどないが、政策措置の中には対外対内双方における国際投資にあまり望ましくないものもあるとの懸念が高まっている。加えて、海外投資に関連して国の安全と「戦略」産業を守るという問題が依然として重要であり引き続き監視するに値する。
世界金融経済危機の文脈において、新興経済国と他の開発途上国における海外直接投資に関するものも含め国際投資は相当程度減速し、経済成長、雇用及び開発に実質的なマイナスの影響を与えている。
14.このような動向を考慮して、対話は以下の事項に焦点を当てた。
・ 経済社会開発を支持する目的で国際投資を促進し、保護し、円滑にすること。したがって、各国が自国の経済社会開発及び正当な国家安全保障上の利益の保護に第一義的な責任を有することを認識しながら、開かれた透明な投資制度を強化し規制を課す傾向に対抗する必要性がある。
・ パートナー国における異なる法的・制度的設定を尊重しつつ、より明確に定義され、予測可能で、安定的にすることによって投資環境を改善すること。
・ 国際投資の持続可能な開発に対する貢献を強化するために責任ある企業行動と企業の社会的責任を促進すること。
15.対話は開かれた投資環境を維持することについてパートナー国の共通利益を強調した。投資の決定に影響する措置について情報交換、意見交換を行うことは、マイナスの対外的影響を避ける国レベルでの政策対応の構築に貢献する。パートナー国は公共政策の声明が投資決定に与えるかもしれない影響を強調した。対話パートナー国は、また、OECDにおける投資の自由プロセス、国家安全保障と「戦略」産業の保護の文脈で行われた議論、関連原則を定義する点で得られた進捗に留意した。対話パートナー国はまた、国際投資政策における傾向に関するUNCTADの分析について議論した。対話は、特に金融経済危機の文脈において投資の自由を維持促進する際に直面する政治課題の相互理解を深める価値を示した。HDPは政策措置について及び、国内措置と危機に対する有効で調整された国際対応との関係についての非公式な議論を促進した。
16.対話パートナー国は、2009年4月のロンドン・サミットにおいて、投資への新たな障壁を設けず、直ちにそうした措置を是正するとのG20首脳のコミットメントを想起し、この点に関しWTO及び他の国際機関がそれぞれの権限の範囲内で遵守状況を監視し報告するよう求めたことを想起した。対話パートナー国は、OECD/UNCTAD/WTO/IMFの協力が開始したことに留意し、この迅速な対応を歓迎し、来る報告に期待している。パートナー国は、特に開発途上国への資本フローを制限する措置を含め、どのように市場を開かれた状態に維持し保護主義に対抗するかという将来の議論においてこれらを参考にする価値があるとの見方を共有している。
17.こうした変化と変化がもたらす機会及び課題を踏まえて、対話パートナー国は、経済発展とより高い生活水準のための触媒として国際投資の好影響を最大化する政策戦略に焦点を当てた。対話パートナー国は、投資受入国における持続可能な開発のために国際投資を十分利用するには、また、グローバリゼーションのプロセスが公平で包括的であることを確保するよう支援するには、適切な制度と政策が必要であるということを強調した。パートナー国は、また、投資の開発的側面に関するUNCTADの議論に留意した。さらに、パートナー国は海外直接投資(FDI)に対する既存の障害について議論し、障害を減らすことがどのように利益をもたらすか検討した。
18.対話パートナー国は、開かれた投資政策において信頼・信用を構築することが海外直接投資への国民の支持を確保するために極めて重要であり、責任ある企業行動と企業の社会的責任の共通の原則がこの点で貢献していることに合意した。共通したRBCとCSRの原則が一層の透明性を提供し、経済、社会、環境上の持続可能性に資し、労働者と消費者の権限を強化する限りにおいて、ビジネスが社会で担う重要な役割を示している。企業の参加割合を最大限高めることを奨励するために、パートナー国は、多国籍企業及び社会政策に関する原則のILO三者宣言、OECD多国籍企業行動指針、国連グローバル・コンパクトを含む、国際的な自主的CSRガイドラインを強化・促進し得ることに合意する。これらインストルメントは政府による十分な規制政策や監督を補完するものであるが代替するものではないという理解である。
19.対話パートナー国は国際投資ルールと同ルールの国際投資促進への貢献に焦点を当てた。議論は、そうしたルールが海外投資家の権利尊重を確保すべきであり、政府が正当な公共利益に従って規制する政策的柔軟性を保つべきであるということを示した。政策的柔軟性に関連して、パートナー国は政策余地の問題及びそれと規制の予測可能性との関係に関し意見交換を行った。パートナー国は相互理解を強化するより一層の意見交換の必要性に合意した。
20.パートナー国は紛争解決プロセス及び投資家と投資受入国の権利義務に関する影響について検討した。パートナー国は政府と投資家のニーズを満たし、国際仲裁制度の透明性を向上させるバランスのとれたアプローチの必要性について認めた。パートナー国は、課題をより良く理解するために紛争解決の結果の一貫性について議論を継続する価値があるとの見解を共有した。議論には投資紛争の国際仲裁に関連する問題、それらの費用対効果、途上国が参加する能力も含むであろう。
21.対話パートナー国は、大部分の二国間投資協定や投資条項を含む他の協定が体系の一貫性に関する問題を惹起するかもしれないことに気づいた。ここ数十年における世界市場の統合のペースは、そうした投資協定の拡散と国際仲裁へのアクセスの増加を説明できるかもしれない。こうした背景を踏まえ、多国間協力を模索し国際投資ルールに関連する問題について意見交換を行う価値がある。HDPは、交渉というよりは開かれた対話の場としての性質のおかげで、開発を含め各々の利益と優先順位の理解を向上させる重要なフォーラムとして機能した。一貫性の意義及び既存の課題に取り組み、機会を利用する方法に関する幅広い議論の文脈の中で、多国間の枠組みの検討に必要となるであろう条件につき議論することも重要であろう。パートナー国はOECDとUNCTADがこれまでの議論に参加してきたことを歓迎し、これらと他の組織が将来の議論に貢献するため招待されるものと信じている。
III.イノベーション
22.パートナー国は、イノベーションが経済的発展、社会的発展、持続可能な発展に重要であるとの共有された認識からこの対話に参加した。気候変動、貧困撲滅、公衆衛生から現在の経済減速や雇用創出に至るまで、現代の鍵となる世界的課題に取り組むための中心的役割をイノベーションが果たす。パートナー国はすべての形態のイノベーションと創造性に対して十分な保護を提供する重要性を強調した。
23.これら種々の課題に十分取り組むことは簡単ではなく、国際会議における協議はしばしば論争となる。共通項を形成する目的をもって、より良く各々の立場を理解するため実りある対話にパートナー国が参加してきたのは、こうした背景を踏まえている。すべての国の経済の利益にとってイノベーションと知的財産権(IPRs)の促進・保護を支援する形式で争点となる問題に取り組むため、パートナー国は建設的な対話を行う必要性を認識している。
24.パートナー国はイノベーションに関するハイリゲンダム対話がパートナー国の優先順位、知的財産権の社会経済的側面、すべての人々の利益となる国際制度の効率性を上げる方法についての共有理解を構築するためになした重要な貢献を認識している。イノベーションの活力は、経済のデジタル化、研究開発ネットワークの国際化、工業デザイン、オープンイノベーションの発展に示されているように、集中した政策的考慮を要する。国際対話・協力、科学研究コミュニティ、ビジネス界、市民社会に対する開放性を要する新たな課題が生ずる。
25.対話は、知的財産権が尊重されることを可能にする政策、ビジネス環境がイノベーション、知識、起業家精神、創造性に必要であるとの共通認識を補強した。よく機能する知的財産権制度はバランスがとれたものであり、公共利益を守りつつイノベーションと創造性を促進する。国の知的財産権に関する能力を構築しイノベーションと創造性を尊重することの重要性に関する理解を広めることは重要かつ困難な活動である。知的財産権の執行が現在弱い国においては、パートナー国は国民に対する啓蒙活動を通じて知的財産権への尊重を確立する必要性につき協議した。また、権利保持者がビジネス・モデル構築時に社会経済的現実について考慮することの重要性も協議された。
26.対話パートナー国はイノベーション政策の計画と実行についての課題を認識しお互いの経験を学び合うことに多大な価値があると強調している。各国のイノベーションの制度は、より一層相互利益に関連しており、世界的規模でのアイデアの流れによりイノベーションの生まれる方法が変わった。パートナー国の経済危機への反応は、イノベーションが経済回復において果たすであろう重要な役割の感覚を踏まえていた。効果的な世界知的財産制度は、これらの反応に対する重要な基礎である。特に、パートナー国は相互に合意した技術移転の役割について協議し、国内法及び国際的義務に適合するように促進すべきイノベーション普及の重要な要素としてとらえた。パートナー国は技術移転の複雑さ、この点における知的財産権尊重の重要性、各国・ビジネスに特有の状況を踏まえたイノベーションモデルや戦略を展開していく上で政府、産業界、学会など重要な利害関係者を巻き込んでいく必要性を認識している。
27.パートナー国は、すべての国の革新的企業が模倣品や海賊版により経済的損失を被っていると認識している。模倣品や海賊版に係る物品・サービスが製造、流通、購入、消費されるすべての国、領域において、知的財産権の侵害を防止する努力は強化された国際協調を要する。
28.パートナー国は、特に偽造医薬品の現象を懸念している。偽造医薬品はすべてのコミュニティ、とりわけ最も脆弱な諸国や集団に重大な公衆衛生上のリスクを投げかけるからだ。我々は、この課題を解決する方法について対話の継続を奨励する。
29.また、遺伝資源及び関連する伝統的知識は、とりわけ農業と医薬分野のイノベーションに貢献する。関連する国内法に規定されたように原住民集団や地域コミュニティの構成員の権利を尊重することは、我々相互の利益にかなう。イノベーションに関連するビジネスリスク、研究開発を促進する必要性を十分認識しつつ、パートナー国は遺伝資源へのアクセスを促進するよう、遺伝資源の活用と関連する伝統的知識から生じる利益が正当かつ衡平に配分されることを確保されるよう、共に歩みを進めることに価値を見いだしている。
30.パートナー国は、諸国が遺伝資源に関する主権を有し、遺伝資源及び関連する伝統的知識の使用には事前の同意と衡平な利益の配分が重要な問題であることに注目した。この点、国際機関において議論が継続している。パートナー国は遺伝資源及び関連する伝統的知識の不正使用を防止する方法を探る必要性を認識している。インドが開発した伝統的知識のデジタルライブラリ(TKDL)は有益な貢献ができる。
31.パートナー国は、急速に変化する環境に対応すべく効率的で利用しやすくバランスのとれた国際的な知的財産制度を発展させる上で世界知的所有権機関(WIPO)が果たしている重要な役割を認識している。特に、世界経済の変化が特に中小企業にとって厳しい特許出願手続きに関する実質的かつ制度上の課題を投げかけることに気付いている。そして、知的財産制度の効率性、正当性、信頼性を強化する必要性を認識している。こうした背景を踏まえて、パートナー国はWIPOに対し、これら領域における活動強化、開発アジェンダの実行、知的財産権を尊重し社会経済発展を促進する加盟国における活力のある知的財産制度の発展促進を継続するよう奨励する。
IV.エネルギー
32.エネルギーは世界の繁栄と持続可能な発展に不可欠である。対話パートナー国は、エネルギー需給の安全保障、エネルギー効率、再生可能エネルギー及びエネルギーアクセスの間の緊密な関係を認識している。対話は、エネルギー効率に焦点を当てこれらエネルギー政策の重要な側面について協議し、共通理解を発展させる機会を提供した。それらは全て気候変動の影響を軽減し、ミレニアム開発目標を達成するためにも不可欠である。パートナー国は、サンクト・ペテルブルク・サミット宣言にて言及され、かつG5が提案しているエネルギー安全保障に関連する側面について協議した。パートナー国は、エネルギー市場がより一層グローバルで相互依存が進んでいることを認識しており、共通課題に取り組むための多国間を含む国際社会の協力強化のための協調努力を求める。
33.対話は、エネルギー安全保障に影響を与える可能性の高いエネルギー政策問題、特に石炭火力発電におけるエネルギー効率向上、持続可能な建築物ネットワーク(SBN)の構築及び再生可能エネルギーの推進に焦点を当てた。対話パートナー国は、これらの分野における技術的で費用効果のある進展が各国の状況によるものであると認識している。対話パートナー国は進展に向けた協力を改善することに合意している。対話パートナー国はまた、すべての分野で途上国が入手可能でかつ途上国の状況に適合する技術を開発する必要性、これら技術へのアクセスを促進する必要性を認識している。
34.金融危機は、短期的及び長期的なエネルギー市場における状況を実質的に変化させている。現在、かつてない程、エネルギー分野における投資が持続可能で、入手可能でありかつ多様化したエネルギー源を確保するために重要である。とりわけ、エネルギー効率や再生可能エネルギーへの投資は、雇用を創出し持続可能な発展の基礎を築くことにより、経済回復と経済成長を支える上で決定的な役割を果たす。対話パートナー国は、包括的で環境に配慮した持続可能な回復が主要な目標であるべきということに同意する。このためには、投資家にとっての予測可能性、技術の開発及び普及並びに技術のアクセスを促進する一貫性のある政策枠組みを必要とする。
石炭火力発電所の施設の改良
35.石炭は、多くの国にとって経済成長及び発展に向け重要な役割を引き続き担うこととなり、最も入手可能なエネルギー源の1つである。しかしながら、石炭は最も炭素集約的な化石燃料であり、来る数十年間、電力生産のための石炭消費量の増加が温室効果ガスの排出において主要な課題となるだろう。対話パートナー国は、エネルギー効率向上のために広範な手段を用いることに合意しているが、より短期的には発電所と設備の改良を通じて既存の石炭火力発電所の効率性を上げる緊急性を認識している。パートナー国は、発電所の効率を1%向上させることにより、温室効果ガスの排出を2.5%減少することができるというIEAの見積もりに留意する。施設の改良は、資源を管理し、エネルギー安全保障を向上させ、気候変動に取り組むための包括的なエネルギー政策において重要な要素となる可能性を有する。
36.対話パートナー国は、発電所に特化した基準作り、目的のある刺激策及び適切な規制の枠組みが、既存の発電所の適切な維持を含む施設の改良を通じて効率性を一層向上させ得ることに合意している。対話は、能力開発の促進を含め政策措置を発展させる基礎として、また、具体的な行動と適当な刺激メカニズムを特定する基礎として、この分野における経験とよい実行を共有する歓迎すべき機会を提供してきた。
エネルギー効率的で持続可能な建築物
37.対話パートナー国は、電気器具及び機材を含め、パートナー国において建築物のエネルギー効率向上に大きな潜在的可能性があることに合意している。それらはエネルギー安全保障のみならず、気候、環境、経済成長及び雇用に対し、プラスの影響があると考えられる。したがって、エネルギー効率的で持続可能な築物の促進することにコミットし、すべての関心国や利害関係者に開放されている持続可能な建築物ネットワーク(SBN)の構築を承認する。
38.パートナー国は、「ネットワーク間のネットワーク」の価値を認識している。これにより、この分野におけるすべての関係者間の相互作用と協調を促し、新たな技術と政策についての主要なデータベースを構築・維持し、ベスト・プラクティスを普及させ、証拠に基づいた政策提言を提供する。対話パートナー国は、建築物における効率性向上のための技術的解決が可能であると認識している。対話パートナー国は技術面、規制面、実施面でのベスト・プラクティスについての経験を共有する必要性を認識している。ネットワークの主要な役割は、世界的に建築物のエネルギー効率政策を促進し、支持することであろう。
39.対話パートナー国は、SBNを推進することに合意している。エネルギー大臣会合で合意されたように、国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)とSBNとの間に適切な制度的連携を発展させ、相乗効果を実現し効率性を最大化すべきである。イタリアがG8議長国として、2009年後半に開催するハイレベルキックオフ会合を通じて、ネットワークを立ち上げるだろう。その後開催される定期的なハイレベル会合は、政治的機運を高め、建築物のエネルギー効率に対する世界的な注目を集めることを目的とすべきである。
再生可能エネルギー
40.エネルギー効率を補完するために、対話パートナー国は、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を増加させることが低炭素経済へ移行するために必要不可欠であると認識している。再生可能エネルギー技術の多様性は、より確実で持続可能なエネルギー供給へ貢献する。しかしながら、再生可能エネルギーの一部には従来のエネルギー源と比べて競争力のないものがある。従来の政策への支持は有効に機能している市場において再生可能エネルギーを発展させ大規模に普及させるために必要とされている。
41.再生可能エネルギーへの投資は、景気停滞の結果として世界的に減速している。この状況下、パートナー国は、彼らの努力を強化するために緊急の必要性を認識し、環境に配慮した経済回復への貢献として、再生可能エネルギーを経済刺激策に含めることを歓迎している。この点において、研究開発への投資は重要な役割を果たし得る。さらに、再生可能エネルギーの普及は社会経済的な利益を有し、それは持続可能な開発に貢献するものである。
42.個々の再生可能エネルギー政策の成功は、主として長期的・包括的な政策枠組みに左右される。この政策枠組みは、投資家に予測可能で一貫したシグナルを送り、同時に送電線網への統合を含む非経済障壁に取り組むものである。これは経済危機の観点からこれまで以上に重要である。
43.再生可能エネルギーは持続可能な経済成長と発展及び気候変動の軽減を支援するものであり、この技術を更に普及するために、各国の経験及びベスト・プラクティスを交換する国際協力を強化することは価値がある。