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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 世界の食料安全保障に関する「ラクイラ」共同声明 “ラクイラ食料安全保障イニシアティブ”(AFSI)

[場所] ラクイラ
[年月日] 2009年7月10日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1.我々、ラクイラに集まった各国首脳及び国際・地域機関の長は、世界の食料安全保障並びに世界金融・経済危機及び昨年の食料価格の高騰が、増大する飢餓と貧困への対応が最も困難な国に及ぼす影響につき引き続き深く懸念する。食料品の価格は、2008年のピーク以降下落しているが、歴史的に高値で、不安定なままである。農業及び食料安全保障への長期に亘る過小投資、価格の動向並びに経済危機の複合的効果は、開発途上国における飢餓及び貧困の拡大につながり、更に1億人以上の人々が極度の貧困に陥り、ミレニアム開発目標の達成に向けたこれまでの進捗を危機にさらしている。飢餓と貧困に苦しむ人々の数は今や10億人を超える。

2.人類を飢餓及び貧困から解放する断固たる行動の緊急の必要性がある。食料安全保障、栄養及び持続可能な農業は政治アジェンダにおける優先事項であり続けなければならず、世界、地域及び国レベルでのあらゆる関係者も関与した横断的かつ包括的アプローチを通じて対処されるべきである。効果的な食料安全保障に関する行動には、気候変動並びに生物多様性の保護を含む水、土地、土壌及び他の天然資源の持続可能な管理に関連する適応対策及び緩和対策が伴わなければならない。

3.したがって、我々は、持続可能な世界的食料安全保障の達成に必要な規模及び緊急性をもって行動することに合意する。このために、我々は、食料安全保障戦略の策定及び実施を支援するために、脆弱な国及び地域と連携し、同時にこれらの戦略に投資するための資金・技術協力に関する持続したコミットメントを顕著に強化する。我々の取組は、食料安全保障に対する包括的なアプローチ、効果的な協調、国独自のプロセス・計画への支援及び適切な場合の多国間機関の利用により特徴づけられるだろう。時宜を得た、信頼のおける方法により我々のコミットメントを果たすにあたり、相互の説明責任及び健全な政策環境がこの努力の鍵である。我々は、包括的アプローチが次のものを含むと考える。農業生産性の向上、収穫前後での介入の奨励、民間部門の成長、小規模農家、女性及び家族の重視、天然資源の基盤の維持、雇用及び相応な就労機会の拡大、知識及び訓練、貿易の流れの増加、並びに良い統治及び政策改革の支援。

4.食料安全保障は、政治的安定及び平和と同様に、経済成長及び社会発展と密接に関係している。食料安全保障の課題は、持続可能な生産、生産性及び農村経済成長の促進による農業及び農村開発に焦点を当てるべきである。同時に、包括的かつ環境的に持続可能な経済全体の成長を促進するための一貫性のある政策は、最も脆弱な人々に対するセーフティーネット及び社会政策等の社会的保護メカニズムと連携して、追求されるべきである。農村地域におけるヘルス・ケア及び教育に対するアクセスの促進に我々が注意を払うことは、生産性向上や経済成長に大きく貢献し、同様に重要である栄養及び食料安全保障を顕著に改善するであろう。開発途上国におけるより衝平な所得創出・配分、雇用創出及び収入見通しを通じた食料へのアクセスを改善することが必要である。

5.持続しかつ予測可能な資金及び対象を絞った投資の増加が、世界の食料生産能力の向上のために早急に求められている。ODA増加へのコミットメントは実現されなければならない。農業へのODA及び国の財政拠出の減少傾向は、反転されなければならない。我々は、最貧困層に直接的な利益となり、国際機関を最大限に活用する短期、中期及び長期の農業開発に対する投資の増大にコミットしている。我々は、農業に関する資源の増大及び投資効率の改善を目的としたインフラの開発を適切に強調した官民連携を支持する。

6.適切かつ購入可能な栄養のある食料へのアクセスは、食料安全保障に極めて重要な側面である。緊急支援は、国家当局がWFPや他の専門機関、基金及びプログラムに支援され、非政府機関とともに、深刻な飢餓に直面している人々への支援を提供することができる引き続き重要な手段である。緊急支援を通じた、また、労働のための食料及び現金、無条件の現金移転プログラム、学校給食及び母子に対する栄養プログラム等の国のセーフティーネット及び栄養に関するスキームを通じた食料、現金、クーポンの提供は、緊急の目標である。長期的には、政府主導の、現金を基盤とした社会保護制度及び対象を絞った栄養介入は、最も貧しく疎外された人々を支援するために必要である。我々は、すべての国に対し、十分で、より予測可能かつ柔軟な資源を提供することにより、これらの目的を支援するよう呼びかける。我々はまた、食料輸出制限または特に人道目的で購入された食料に対する過剰な課税を撤廃し、新たな制限を課す前には事前に協議しかつ通報することをすべての国に対し求める。人道的食料緊急事態を取り扱うための、または価格変動を制限する手段としての、貯蔵システムの実現可能性、効果及び管理方法は、さらに調査される必要がある。我々は、この特定の課題に関し、我々が責任ある戦略的選択ができるような証拠を提供するよう関連する国際機関に呼びかける。

7.開放的な貿易の流れ及び効率的な市場は、食料安全保障を強化するために積極的な役割を果たす。国家及び地域戦略により、農民、特に小規模農家及び女性の地域社会、国内、地域及び国際市場への参加を促進すべきである。市場は開放され続けなければならず、保護主義は拒否されなければならず、投機も含め一次産品価格の変動に潜在的に影響を及ぼす要因は、モニターされ、さらに分析されなければならない。したがって、我々は、貿易の歪曲を削減し、貿易及び投資に対する新たな障壁を設けず、また、WTOと整合的でない輸出刺激策をとらないことにコミットしている。このために、我々は、ドーハ開発ラウンドの野心的で包括的でバランスのとれた妥結を目指し、適時かつ成功裡の妥結をもたらす新たな、断固たる努力を求める。

我々は、情報へのアクセスの改善、良なビジネス環境並びに輸送、加工、貯蔵施設及び灌漑計画のような農村におけるインフラへの投資を促進することにコミットしている。

8.食料安全保障のための世界的及び地方のガバナンスの強化は、農村開発の促進と同様、飢餓及び栄養不足を打破する鍵である。改善されたグローバル・ガバナンスは、比較優位を活用し、協調と効率性を強化し、重複を避けつつ、既存の国際機関及び国際金融機関を基にして構築されるべきである。このために、我々は、世界の食料安全保障の危機に関する国連ハイレベル・タスク・フォースを支持する。同時に、我々は、FAO(国連食糧農業機関)の世界食料安全保障委員会において進行中の抜本的改革プロセス、国際農業研究協議グループ及び国際農業研究フォーラムを通じた世界農業している。調査システムを支持する。

9.世界中のパートナー及び関連する利害関係者との共同の努力により、我々は、世界の最貧困地域に重点をおいた効果的な食料安全保障戦略を共に計画し、実施することができる。我々は、国のオーナーシップ及び有効性を中核の原則とする世界的な努力を支持することに合意する。我々は、-食料安全保障に関するグローバル・ガバナンスの改善を目的とした我々の他の行動と整合的に-2009年末までに、農業及び食料安全保障に関するグローバル・パートナーシップの実施を前進させることを誓約する。この任務は、世界の食料安全保障を達成するための協力を強化し、国レベルでのより良い協調を促進し、地方と地域の関心が十分に表明され、考慮されるよう確保することを含む。我々は、グローバル・パートナーシップが政府、国際・地域機関、IFIs(国際金融機関)、市民社会、農業団体、民間部門及び科学界を含むすべての関連する利害関係者を関与させた、改善され効果的な世界食料安全保障委員会に期待することを意図する。

10.我々は、アクラ行動計画と整合的に、国連ハイレベル・タクス・フォースの包括的行動枠組及び既存の援助協調メカニズムを活用し、国主導の調整プロセスを通じた国及び地域の農業戦略・計画の実施を支持する。FAO、IFAD及び他の機関の経験を基に、小規模及び女性の農業従事者並びに彼らの土地、小規模金融及び市場を含む金融サービスへのアクセスに特別な焦点が当てられなければならない。持続的な努力及び投資は、農業生産性の向上並びに畜産及び漁業の発展のために必要である。優先的な行動は、より良い種子及び肥料へのアクセスの改善、水、森林及び天然資源の持続可能な管理の促進、相談事業及びリスクマネージメントを提供する能力の強化及び食料の価値連鎖の効率の向上を含むべきである。この点において、市民社会及び民間部門の関与の増大が、成功の鍵となる要因である。教育、研究及び科学技術への投資及びアクセスは、国、地域及び国際レベルにおいて実質的に強化されるべきである。それらの普及並びに南北・南南・三角協力を通じることを含めた情報及びベスト・プラクティスの共有は、知識を基盤とした政策及び国家の能力を促進するために不可欠である。我々は、バイオマスからの再生可能エネルギーに関連した機会及び課題を認識する。関連する投資は、我々の食料安全保障の目標と矛盾しないよう持続可能な方法で促進されるべきである。

11.アフリカにおいては、NEPADの包括的アフリカ農業開発プログラム(CAADP)が、資源が国の計画及び優先事項に向けられることを確保するための効果的な手段である。現地のオーナーシップは、健全な科学的根拠、包括的協議、国内投資及び明確な方向性に基づき、包括的な食料安全保障戦略を策定し、実施という国の政治的意思をもって開始しなければならない。我々はまた、アフリカ緑の革命のための同盟のようなアフリカ主導の官民連携の積極的な貢献を認識する。我々は、CAADP並びにアフリカ、ラテンアメリカ・カリブ諸国及びアジアにおける同種の地域・国家計画を支持するために、資金協力、物資協力又は技術協力にかかわらず資源を提供することにコミットしている。

12.我々は、これらの原則を行動に移し、世界の食料安全保障を達成するためにあらゆる必要な措置を講じる決意である。我々は、複数年の資源に関するコミットメントを通じることを含めた農業及び食料安全保障のための支援を顕著に増加することを目指す。この観点から、我々は、適切な緊急食糧支援を確保する強いコミットメントを維持しつつ、持続可能な農業開発に焦点を当てた協調され、かつ包括的なこの戦略を通じ、3年間で200億ドルの資金を動員するという目標に向けてラクイラに参加した各国が示したコミットメントを歓迎する。我々は、他の国々及び民間部門に対し、一貫性のあるアプローチを通じて、世界的な食料安全保障に向けた共通の努力に参加するよう奨励する。我々は、財政メカニズムの協調を改善する決意を有し、また、新たな資源が既存の基金及びプログラムを補完し、特に食料生産を増加し、食料へのアクセスの改善を改善し、小規模農業従事者が強化された投入、技術、信用及び市場へのアクセスを得る権限を強化するために、国家主導の戦略に対し追加的資金を投入することを確保する用意がある。

〔世界の食料安全保障に関する共同声明(「ラクイラ食料安全保障イニシアティブ」)は、G8並びに2009年7月10日に開催された食料安全保障に関するセッションに参加したアルジェリア、アンゴラ、オーストラリア、ブラジル、デンマーク、エジプト、エチオピア、インド、インドネシア、リビア(AU議長国)、メキシコ、オランダ、ナイジェリア、中国、韓国、セネガル、スペイン、南アフリカ、トルコ、AU委員会、FAO,IEA,IFAD,ILO,IMF,OCED,国連事務総長主催世界の安全保障危機に関する国連ハイレベル・タクス・フォース、世界銀行、WTO及びWFP、また、アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA),及び国際農業研究協議グループ(CGIAR),国際農業研究フォーラム及び農村開発のためのグローバル・ドナー・フォーラムによって承認された。〕