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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 議長総括(第35回ラクイラ主要国首脳会議‐G8サミット)

[場所] ラクイラ
[年月日] 2009年7月10日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

G8サミットは、2009年4月6日の地震によって甚大な被害を受けたこの地域の人々並びに世界中で自然災害の被害を受けた人々に対して連帯の意を表明するため、2009年7月8日から10日までラクイラで開催された。

G8首脳は、経済危機、貧困、気候変動及び国際政治問題の密接に結びついた課題について議論した。彼らは、開放的で、革新的で、持続可能で、かつ公正な世界経済につき、ビジョンを共有した。

以下の文書が採択された。

・G8宣言「持続可能な未来に向けた責任あるリーダーシップ」

・不拡散に関するG8ラクイラ声明・テロ対策に関するG8宣言・共同宣言「グローバル・アジェンダの推進」

・エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム(MEF)の宣言

・G8-アフリカ宣言(「水と衛生に関するより強力なG8

・アフリカ・パートナーシップ」)

・世界の食料安全保障に関する共同声明「ラクイラ食料安全保障イニシアティブ」(AFSI)

首脳は、彼らの行動が、主要な新興経済国の関与によって強化されることを認識した。2007年、G8はグローバル・アジェンダの鍵となる問題についての共通の理解を構築するため、ブラジル、中国、インド、メキシコ及び南アフリカとの対話を開始した。ラクイラにおいて、首脳は安定的で構造化されたパートナーシップの枠組みの中で共に前進することを決定した。

この精神に基づき、サミットはG8のフォーマットで始まり、その後2日目からは段階的に拡大された会合へと広がっていった。

7月8日、G8首脳は世界経済、開発、気候変動及び国際政治問題について議論するために会合した。7月9日からは、広範な世界的問題について構造化され継続的な対話を確立するために、ブラジル、中国、インド、メキシコ及び南アフリカが加わった。エジプトも会合に参加するよう招待された。国際機関の長の参加を得て、議論は進展した。主要経済国フォーラムの他のすべてのメンバーが、貿易及び気候変動に対処するために加わった。アフリカの首脳とG8パートナーは、経済危機の最貧国にとっての影響について議論した。最後に、より拡大されたフォーマットで、首脳は食料安全保障の問題に取り組んだ。

ハイリゲンダム-ラクイラ・プロセス(HAP)

G8パートナー国とブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカはグローバル・アジェンダを前進させ主要な課題に効果的な解決策を見つけるため協働する決意を再確認した。これには共に前進するために主要経済国の間で共有された責任と共同努力が必要である。この目的のため首脳は対等な立場において強化された安定的かつ構造化された協力、つまりハイリゲンダム-ラクイラ・プロセス(HAP)を開始した。このプロセスを支持する諸国は相互理解を強化しこの共通の基礎を目に見える結果に転換し、それによってグローバル・ガバナンスを強化し共に未来を形成することにコミットしている。

首脳はエジプトと共に世界的回復の課題、将来の成長の源及び責任ある開発政策について議論した。首脳は貯蓄の適切な調整を考慮に入れつつ均衡のとれた回復を助長するために協働していく。保健、教育を含む社会的なセーフティー・ネットを改善する政策及びインフラとイノベーションへの投資は、より均衡のとれた持続可能な成長モデルに貢献するであろう。

貿易

このパートナーシップの具体的成果は、貿易に関する大きな進展である。首脳は、開放的な市場が経済成長と開発にとり重要であること‐危機の時期ではさらに重要であること‐を強調した。そのため、首脳は、保護主義に対抗する決意を再確認し、ワシントンとロンドンで採択された現状維持のコミットメントを確認した。さらに、首脳は、ドーハ開発ラウンドの成功裏の妥結が、信認を回復し、回復を支援し、開発を促進するための重要な後押しを提供することに合意した。モダリティーに関するものを含むこれまでの進展に基づき2010年中に野心的で均衡のとれた妥結を得るために、交渉への障害を取り去る時期が熟している。このため、首脳は、それぞれの貿易担当大臣に対し、これまでの交渉を明確にしかつ理解することに直ちに取組み、ピッツバーグ・サミットの前に会合を開くよう指示した。同サミットにおいて彼らは、達成された進展を報告する。オーストラリア、インドネシア、及び大韓民国もこの努力に加わることを決定した。

世界経済

G8首脳は、世界経済の現状及びとられた例外的な措置について議論した。安定化の兆候及び信認の改善に留意しつつ、首脳は、ワシントン及びロンドン・サミットでなされた決定を実施するとのコミットメントを再確認した。世界経済を支え金融システムを修復する政策措置は、持続可能かつ長期にわたる成長を確保するために必要である限り継続される。金融規制の改革は、対等な競争条件を確保しつつ、迅速に実施される。首脳はまた危機の社会的側面に取組むこと、すなわち、人々の懸念を最優先にし、雇用と社会的保護のための世界的な行動を推進することにコミットした。

この危機は、過去の行き過ぎを防止し、企業倫理を強化するために、国際的な企業及び金融機関の行動に関する適切性、健全性及び透明性についての重要性を明らかにした。このために、首脳は、OECD及び他の関係国際機関の既存のイニシアティブに立脚し、ピッツバーグでの次回G20サミットにおいて取り上げられる、共通の原則及び基準である「レッチェ・フレームワーク」を策定する必要性について合意した。

国際基準の実施の強化、OECDグローバル・フォーラムの拡大、ピア・レビュー・プロセス、及び国際基準を満たさない非協力的な国・地域に対して使用が検討される対抗措置の策定を通じて、腐敗、租税回避、資金洗浄及びテロ資金調達と闘うための国際協力が強化される。

危機の先を見すえて、首脳は、適切な出口戦略の準備を通じた中期的な財政の持続可能性の確保を誓約した。彼らは、経済成長をより強固で、革新的で、グリーンで、かつ持続可能な軌道に乗せることを決意した。首脳はまた、透明性を向上させ、投機による被害と闘うためのデリバティブ市場の効果的な規制及び監督を含め、エネルギー及び農産品における過剰な価格変動に対処すること、並びに、世界的な一次産品市場の機能を改善することの必要性につき合意した。

首脳は、模倣品・海賊版に効果的に対処しつつ、開放的かつ受容的な外国投資環境を促進し、イノベーションを促進することの重要性を強調した。

気候変動

首脳は、気候変動への効果的な対処が緊急であることに合意し、12月にコペンハーゲンにおいて開催されるUNFCC(国連気候変動枠組条約)会議のために力強い政治的メッセージを発出した。

気候変動は、G8及びMEFのフォーマットの双方において議論された。

G8のセッションにおいて、首脳は、産業化以前の水準から世界全体の平均気温の上昇が摂氏2度を超えないようにする必要性に関する科学的見解を認識し、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%削減との世界的な長期目標、及びこの一部として、先進国による2050年までの80%またはそれ以上の削減目標に合意した。彼らはまた、長期目標に沿って重要な中期目標及び可能な限り早期にピークアウトする世界の排出量の必要性に合意した。気候変動に成功裏に取り組むための不可欠な条件として、数量化可能な緩和行動を通じたすべての主要な排出国の積極的な関与が強調された。

首脳は、開発途上国においても緩和のための努力を持続するために革新的な技術及び気候に関する資金調達の役割につき議論した。彼らは、特に貧しい人々及び最も脆弱な人々に対する資源、能力向上及び政策支援に関する先進国の適応の必要性を強調した。

G8は、翌日の新興経済国との建設的な議論の基礎となる包括的な宣言を採択した。

拡大セッションにおいて、エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラムの16ヶ国、欧州委員会、スウェーデン、デンマーク及び国連事務総長は、コペンハーゲンでの気候に関する合意のための鍵となる柱につき合意を見いだした。

すべての主要な排出国の首脳は、G8により認識された、世界全体の平均気温の上昇が摂氏2度を超えないようにすることの重要性を再び強調し、世界全体の排出を2050年までに相当の量削減するという長期的な世界全体の目標を特定するために、今からコペンハーゲンまでの間に協働することを決定した。首脳は、すべての国による国の適切な緩和行動の必要性につき合意した。開発途上国は、排出量レベルの対策をとらないシナリオからの意味のある離脱を確保するための行動をとる一方で、先進国は、強固な中期の排出量削減を迅速に実施する。

技術革新を推進する主要経済国の鍵となる役割が強調され、首脳は、このような努力を推進するためのグローバル・パートナーシップを開始した。研究開発に対する公的投資に関し、2015年に倍増させるため、実質的に増加させることに合意した。民間部門及び国際協力の役割を強調しつつ、首脳は、低炭素技術の展開、普及と移転を加速するため、障壁を撤廃し、インセンティブを創設することに合意した。

炭素市場を通じることを含め、官民の資源からの気候に関する資金調達を拡大する必要性につき幅広い合意がある。首脳は、メキシコによる緑の基金の提案につき特別な注意を払いつつ、国際的な基金の枠組みにつき協議した。

出席者は、コペンハーゲンでの包括的な国際的合意に向けて、エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム首脳宣言を採択し、今後数ヶ月間、引き続き協働することに合意した。

開発とアフリカ

首脳は最も脆弱な人々への危機の影響に関する議論に焦点を当てた。首脳は貧困と飢餓を撲滅する決定を実施するために断固として行動することを決定した。危機はMDGs達成へ向けた前進を危うくしていると認識しつつ、これら目標を達成するのに必要なことにつき2010年に国際的評価を要請した。首脳は世界的な保健を促進するコミットメントを改めて表明し、H1N1インフルエンザの脅威に直面しているすべての脆弱な人々や国々に対する連帯及び抗ウイルス薬、ワクチン、その他の予防措置の面で途上国を支持する重要性を表明した。

首脳は危機に耐えるため最も脆弱な人々を支援すべく以下の一連の措置を実施することを決定した。貿易のための援助を含めODAコミットメントを果たすこと、貧しい人々のための利益のために経済成長を再開するため市場を開放的な状態に保つこと、移民の送金に係る取引費用を半減するために仲介者の間で透明性と競争を向上させること、水と衛生へのアクセスを向上させるためアフリカとのパートナーシップを強化すること、保健のための革新的な資金調達制度を支持すること、包括的国別戦略を支持する多国間融資を増大させ既存の仕組みの協調を向上させることによって農業と食料安全保障をアジェンダの最上位に置くことである。

首脳は、質を確保することなく援助を増加させることは、長期的に開発に真の影響を与えないであろうことを認識した。首脳はアクラ行動計画を実施する決意を再確認した。さらに、モントレー合意を基礎として、首脳は一層強い政策の一貫性及び全関係者、政策、資本の動員を確保するために包括的な、「国全体の」アプローチを促進することに合意した。

開発コミットメントを再確認する上で、首脳は暫定説明責任報告書を発出し進捗状況を監視し行動の有効性を強化するため完全な説明責任の仕組みを策定することを決定した。最初の説明責任報告書は2010年にカナダで開催されるムスコカ・サミットにおいて提出される。

G8及びアフリカ

7月10日、G8は、アルジェリア、アンゴラ、エジプト、リビア、ナイジェリア、セネガル、南アフリカ、AU委員会及び関係国際機関と会合を行った。首脳は、アフリカにおけるミレニアム開発目標の達成に対する危機の影響を限定するために迅速に行動することを決意した。彼らは、ODA、気候変動及び平和と安全に関するものを含めて、持続可能な開発のためのそれぞれのコミットメントを確認した。首脳は、水と衛生へのアクセスを増大するためのより強力なパートナーシップを構築する決意を表明し、G8-アフリカ共同声明を初めて発出した。

食料安全保障

栄養不足な人の数が増加し、また農業への投資が不十分なレベルであることを懸念し、同日、40の国の首脳と国際機関の長は、飢餓撲滅の努力を結集するために会合を行った。共同宣言は、彼らの共通のビジョンと世界の食料安全保障へのアプローチを示している。彼らは、貧困国での農村開発を支援するラクイラ食料安全保障イニシアティブを通じて、3年間で200億ドルを動員することにコミットした。首脳は、すべての関連する利害関係者の関与を得て、農業を引き続き国際アジェンダの中核とし、投資を再開し、援助効率及び国内調整を向上させるため、農業及び食料安全保障に関するグローバル・パートナーシップの進歩を一層促進した。

国際政治問題

G8の首脳は、イランにおける最近の展開に深刻な憂慮を表明した。彼らは、国内における投票後の暴力、メディアに対する制限、不当な記者の拘束、及び外国人の逮捕について遺憾の意を表明した。彼らは、イラン国内の大使館が、その機能を効果的に遂行することが認められなくてはならないと警告し、イランが、その核計画に関する国際的義務を継続的に履行していないことについて、外交的な解決策を見出すとのコミットメントを強調した。彼らは、ホロコーストを否定するアフマディネジャード大統領の声明を非難した。

軍縮に関する最近の米露関係の進展を踏まえ、首脳は、NPT条約により確立した体制が極めて重要であること、及び核兵器のない世界のための条件をつくるとのコミットメントを強調した。米国は、2010年春に、世界のすべての脆弱な核物質を安全にするため、また、NPT体制の再検討につながる会合を開催する。

イスラエルとすべての近隣国との間の包括的和平に期待し、首脳は、イスラエル・パレスチナ紛争の二国家解決に対する完全な支持を改めて表明し、当事者に対し、直接交渉を早急に開始することを求めた。彼らは、また、ロードマップに基づく義務の履行を要請した。G8首脳は、将来和平合意が達成された際には、将来のパレスチナ国家が十分なインフラを開発し、また、経済活動を促進する、野心的で包括的な計画の開始を通じたものを含め、パレスチナ自治政府を、引き続き完全に支援する。

首脳は、北朝鮮による最近の核実験、弾道ミサイル発射を最も強い表現で非難し、北朝鮮に対し、更なる挑発を差し控え、六者会合への早期復帰に取り組むことを要請した。

首脳は、アフガニスタン及びパキスタン政府を、それぞれが、経済的及び社会発展、良い統治、及び腐敗、テロ及び不正取引との闘いに関する課題に取り組む上で支援する意向であることを確認した。また、地域における、より緊密な地域協力の重要性も強調された。

彼らは、また、海賊及びアフリカの角における海岸や領海の管理の能力構築の必要性について議論した。彼らは、国際組織犯罪、また、過激化、勧誘及びテロ資金に関する課題について強調しつつ、テロ対策について議論した。平和維持/平和構築の能力を世界的に構築することについて、特にアフリカ主導の平和支援活動の開発に焦点を当て、G8によるコミットメントが新たになされた。

また、ミャンマー政府に対しては、2010年に予定される選挙の信頼性を貶めぬよう、すべての政治犯釈放を要請した。

首脳は、カナダによる、2010年のカナダのムスコカにおける次回サミットの開催提案を歓迎した。