データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 菅総理大臣G8・G20サミット内外記者会見(第36回トロント・ムスコカ主要国首脳会議)

[場所] カナダ
[年月日] 2010年6月27日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【菅総理冒頭発言】

 まず、このカナダで行われたG8・G20会合の関係者のカナダの皆様、特に、ハーパー首相に大変ご苦労を頂いたことに心から感謝を申し上げたい。私にとっては総理に就任して16日目という慌ただしい中でのG8・G20への参加であった。しかし幸いにして、1月から財務大臣を務めていたので、財務大臣間では、2月の同じカナダのイカルイットでの会談あるいはワシントンで開催されたG20の際の会談があり、そういった意味では今回のG8・G20は私にとって(総理として)初めての会合ではあったが、財務大臣時代のいろいろな活動がかなり準備になっていたという感じがして割りとスムーズに議論にも入ることができた。経済の問題は本来主にG20で議論をするということに一般的にはなっている訳だが、ヨーロッパの情勢が非常に厳しい中で、特に初日の昼食会は、G8の中で経済財政に関するかなりつっこんだ話が出た。私の方からは、私自身が財務大臣時代から準備をし、政権発足後発表した新成長戦略と財政運営戦略の2つの考え方に立った経済成長と財政再建の両立ということについて意見を述べ、またその考え方を紹介した。全体の会議も結局この経済成長と財政再建というものを、いかにそれぞれの国がある程度それぞれの国の状況によって、ウエイトは異なるが、その両方をいかにして求めていくかということが全体の議論の中心課題となったと感じている。そういった意味でも、全体の議論のスタートを私なりに提起できたのかと思っている。また、G20の中でも基本的にはこの成長と財政再建の両立ということが同じく主題になった。最終的なG20の共同宣言の中でもハーパー首相の強いリーダーシップもあって財政再建の一つの道筋が表明され、またその中で我が国の、先程述べた二つの考え方、新成長戦略と財政運営戦略の2つについて、この中で我が国としての財政再建の一つのスケジュールなども提起している訳だが、それらについて歓迎するという形で積極的に受け止めてもらったと思っている。

 G8に戻るが、政治と特に安全保障の問題について、ハーパー議長の方から、韓国の哨戒艦沈没事件については、私の方から問題提起して欲しいと当初から言われていたので、私から説明した。その中で、この沈没事件は、北朝鮮によるものであって、それをきちっと指摘をして、その上でこうしたことが今後起きないためにも、非難すべきことはきちっと非難すべきだという立場で問題提起した。メドベージェフ露大統領も同席した中での議論であったが、いろいろシェルパの皆様等の事務方の事前の努力等もあり、私の提起に対し、特に反論は出ないまま、全員がそうした方向でまとまり、宣言文もまとまったところである。これは,G8という場の正式な宣言の中で、北朝鮮の行為に対する強い批判をしたということの意味は非常に大きいと思う。この問題については現在国連でも議論されているが、国連の方の議論にもしっかりと反映をしていくように各国努力をしようということになった。

 また、その関係もあるが、二国間の首脳との会談も大変有意義であった。中国の胡錦涛国家主席とは、古くから何度もお会いしている関係であるが、総理という立場では初めての会談であった。戦略的互恵関係、あるいは国家主席の方からは、日中韓の4つの基本文書に沿ってという話があり、基本的な考え方を確認し合った。それに加え、北朝鮮の問題についても、私から、G8の議論のことも紹介した中で、中国においても、そうした方向性をとってもらいたい、または、とることがこの問題について、今後のことを考えたときに必要ではないかということを述べた。そういった意味では、二国間会談にも、先ほどのG8の方の北朝鮮の問題は、そういう形で伝え、今進行している国連の議論にも十分なんらかの形で反映されると思っている。

 また、インドのシン首相、ベトナムの首相、さらには、インドネシア大統領とのバイ会談を行った。これらの国々は、中国ももちろんであるが、新興国として非常に成長が続いている。それぞれの首脳からも、日本との協力関係の一層の深化ということも提案があり、私の方も、是非そうした国々と日本にあって向こうにないもの、逆に、向こうにあって日本にないもの、そういう関係がたくさんあるので、ぜひしっかりと協力していこうと述べた。多少、具多的な高速鉄道の問題や、あるいは、原子力発電所の話も出たところで、今後に続く話であった。

 また、メドベージェフ露大統領とは、このG8で初めてお目にかかった。露との関係は、鳩山前総理も非常に熱心であって、そのことはメドベージェフ大統領もよくご存じで、私も鳩山(前)総理の意志をしっかり引き継いで、これからの両国関係を深めていきたいと申し上げた。また、メドベージェフ大統領からも、アジア太平洋国家でもある露から積極的な話をいただいたと思っている。それに加えて、韓国の李明博大統領と何度目かの会談であったが、私が総理としては初めてであり、また、キャメロン英国新首相ともお話しすることができた。

 この後、オバマ米大統領とも会談が予定されている。すでに、立ち話的にはいろいろ話をしたが、改めて、初めての首脳会談をこの後行う。いろいろな話題はあるが、あまり個別的な課題というより、まず、基本的な日本と米国、オバマ大統領と私自身の一つの考え方の共通の方向性がお互いに確認できればありがたいと思う。同時に、日米安保50周年という節目の年であるので、今後の日米同盟は日本外交の基軸であることには変わりないと考えているので、さらなる深化のためにどういう議論をしていくのか、そういう話もできればと思っている。以上、私からの報告とさせていただく。

 二国間の首脳のバイの会談は、ハーパー加首相、メルケル独首相、さらには、EUのバローゾ委員長との間でも行い、そして、先ほど述べたユドヨノ・インドネシア大統領とも行ったことを追加しておく。

【質疑応答】

(NHK・角田記者)

 先ほども紹介されたが、今回のサミットで、菅総理は財政再建と経済成長の両立を強調された。また、韓国の哨戒戦艦沈没事案については北朝鮮に対する見解が宣言案に盛り込まれた。一連の会合で菅総理としてはどこまで議論をリードできたとお考えか、また、あわせてこのG8の宣言を受けて安保理の場で北朝鮮に対するこの問題についての後押し、サポートをいかに得ようとするお考えなのかお聞かせ願いたい。

(菅総理)

 この会談が始まる前、ハーパー首相から私の総理就任に対するお祝いの電話を頂いた時にかなりG8・G20の内容についてもハーパー首相の方から「こういう考え方でいるが、どうだろう」と意見を聞かれていた。そういう中で、事前の話もあり、またこちらに来て最初にお会いしたということもあって、全体として議長国の方向と私の問題提起とがよく噛み合ったという感じがしている。その一番大きなものは、先ほど述べたように各国とも財政再建を進めなければならない一方で、あまりそれに急ぎすぎると成長が止まってしまう、あるいは、景気が停滞する(ということである)。この両立ということは正に今回のG8・G20の、特に、経済財政運営における一番の中心課題であったと思っており、リードという言い方がいいかどうか別として全体の大きな方向性について私からもしっかりと意見を述べ、皆さんの参考にもしていただいたと思っている。

 また北朝鮮のいわゆる韓国哨戒艦沈没事件にかかる問題はこれも先程申し上げたが、最初に私から問題提起をするように議長に言われていたので、そうさせてもらった。そして当初はG8の中でもどこまでしっかりした合意が得られるかという若干の心配もあったが、北朝鮮(の関与について)の既に国際的な調査、韓国に加えて他の国も加わった調査でも北朝鮮の関与が明らかになっているが、そのことも明確にした合意文が出来たこということは私の説明も含めて、皆さんにご理解頂いたと思っている。国連の状況は、かなりぎりぎりの状況だと聞いているが、やはりG8でのこうした合意というのは非常に大きな、国連安保理での大きな影響があるものと思っている。我が国として対応することは当然であるが、他の国の方もしっかり対応しようという話も、G8の中で、これは私からではなくて他の首脳からも出ているので、それぞれの国がしっかり対応して頂けるものと思っている。

(グローブ・アンド・メール紙・パーキンス記者)

 二つの問題が今週のG20の議論に関して注目された。1つは銀行税、もう一つは人民元の柔軟性であったが、これに関し、どのような議論があったのか、また、日本の立場如何。

(菅総理)

 銀行税について、いろいろ事前には話題になったが、大きな議論にはなっていない。事前のいろいろな打合せの中で、どちらかと言えば、ヨーロッパの国々がこれに比較的熱心であり、我が国や米国などは税という形では余り賛同していない。そういうことがあらかじめ分かっていたからなのか、一部の人から発言はあったが、本格的な議論はなされていない。

 人民元についても、既に中国自身が若干の為替の柔軟性を認めるという方向を出し、我が国からも、個別には財務大臣からそれを歓迎する談話が、米国も同趣旨の発言をしているという背景もあった。今回の会議の場では、特に人民元のことを中心とした議論は行われなかった。既に一つの山を越えているという認識があったのかと思う。

(読売新聞・五十嵐記者)

 日米首脳会談について伺う。総理が先程ご指摘されたように、これからオバマ大統領との二国間会談があるわけだが、最近の日米関係がぎくしゃくした原因となった普天間の移設問題についてはどのように触れるお考えか。どのような成果を期待しているか。

(菅総理)

 先ほど申し上げたとおり、初めての首脳会談となるので、オバマ大統領と自分の考え方の共通な認識といったものが会話の中でお互いにできればと思っている。その中から個人的な信頼関係が生まれてくればより望ましいと思っている。立ち話的な話では、オバマ大統領が日本で演説された中で、(自分は)太平洋が生んだ初めての米国大統領だと述べ、私も直接サントリーホールで聞いていて、大変印象に残っていたので、そのことをお伝えした。やはり、太平洋を共にし、また、アジアという共に深い関係にある地域であるので、そうした太平洋における両国の協力、日米同盟というものが単に我が国の安全に役立ったというわけではなくて、アジア太平洋地域の多くの国々にとっても、国際的な意味での安定材料として役に立ってきたとそういう認識をともにできるとすれば、それは一つの大きな意味があるのではないかと思っている。普天間についてどう触れるかは、その場で考えたいと思っているが、この問題に対する私の姿勢は十分伝わっていると思う。つまり、5月末の鳩山内閣の下での日米合意を自分もしっかりと踏まえて対応していくと同時に、沖縄の負担の軽減についてもさらに積極的に取り組むと、そういう姿勢はすでに国会などでも繰り返し述べているので、大統領にもたぶん伝わっていると思うが、どういう形で話すかその時考えたいと思う。

(ブルームバーグ・ブリンスレー記者)

 鳩山政権下では、日米のより対等な関係(を求める)と言いながら、沖縄の基地問題でぎくしゃくしてしまったが、日米関係をどのように修復するか。そして、真の意味での米国とのイコールの関係を、日本に基地がある限りにおいてどのように達成できるのか。

(菅総理)

 私は所信表明演説の中で、私が学生時代に、本を読んだり、その後直接にいろいろと教えを頂いた永井陽之助先生の書いた「平和の代償」という本のことを紹介した。外交というのは単にその国との関係というよりも日本人自身がこの日本という国をどのような国でありたいと思うのか、世界の中でどのような、まさに憲法前文で言っているように、尊敬されるような国としてありたいと思うのか、それに対してどのような姿勢でのぞむのか、私はそのことが基本だと思っている。そういう意味で、日米のイコール・パートナーシップといった考え方も、何か基地があるからとかないからといったことで、対等であるとか対等でないとかいうようには全く考えない。ある意味で、それぞれの国の理解の下で、いろいろな事情で、国内に(基地を)置くことを日本が積極的に認めてきたことも、それは主体的な判断ということであればそれは十分にありうることであろう。単に基地があるかないかで、イコール・パートナーであるとかないとか、ストレートにそうなるとは思っていない。そういった意味で、先ほども述べたが、この日米同盟、1960年に安保条約が改定されてから50年、その意味は単に日本がアメリカにサポートしてもらっている、軍事的、あるいは、安全保障面でサポートしてもらっているという関係ではなくて、ある意味で日本とアメリカが協力してアジア太平洋地域の平和と安全の一つの基礎を築いてきて、そのことが表現される、されないを超えて、アジア太平洋地域の国々にとって大きなプラスの要素となっていると、そういうふうに認識している。そういう意味では、まさに日米が協力をしてアジア太平洋地域の平和と繁栄化の一つの大きな貢献をしていると、このように考えることができるかと思っている。

 そういった意味で、先ほど述べた基地があるからないからということで、何か、イコール・パートナーシップであるとかないとかという判断に直結するとは思っていない。

 これから将来の方向性については、今日、初めての首脳会談を行うが、やはり首脳同士の相互理解が大変重要である。それ以上に重要なのは、やはり、国民、日本で言えば、日本国民がどのように自分たちのあるいは日本の行動をどのように理解して、あるいは認識しているのか、感じているのか、考えているのかということがより重要だと思っている。つまりは、何かこう、押しつけられていやいややっていると考えるのか、いや、やはり、日本としてはこうあるべきことが、日本にとっても、アジア太平洋諸国にとっても貢献できることだと、さらに言えば、世界の平和にも貢献できることなんだという位置づけで行動していこうと。そういうことを考えると、今後の日米同盟50周年を機にした日米同盟の深化を図っていく上で、そうした日本人自身の間での議論もしっかりとして、その上で、国民の多くが納得した形での日米同盟の深化、さらにいえば、アジア太平洋地域を中心にした貢献を担っていく、そういう姿を求めていきたい、それには、若干の時間を要するかなと思っているが、そういう姿勢で臨んでいきたいと思っている。