データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G8ドーヴィル・サミット首脳宣言 自由及び民主主義のための新たなコミットメント

[場所] ドーヴィル
[年月日] 2011年5月27日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

序文

1.我々G8首脳は,2011年5月26日及び27日にドーヴィルで会合を行った。この変化の時期において,我々は,自由及び民主主義の価値並びにその普遍性に対する深遠なコミットメントを再確認した。

2.中東・北アフリカ及びサブサハラ・アフリカにおける最近の展開を考慮し,我々は,世界中の民主的改革を支援し,宗教の自由を含む自由及び能力強化(特に女性及び若者)への願望に応えるためのコミットメントを改めて確認した。民主主義は,平和,安定,繁栄,共有された成長及び発展に至る最善の道筋を示すものである。我々は,エジプト及びチュニジアの首相と会合し,民主主義及び寛容な社会への移行に取り組む国々との永続的なパートナーシップを立ち上げることを決意した。我々の共通目標は,法の支配及び市民の関与を発展させるとともに,人々の願望に応える経済・社会改革を強化することにある。我々は,アラブの春に関する宣言を採択した。

3.ドーヴィルにおいて,我々は,10年以上にわたる間になされた数々のコミットメントを基礎として,アフリカとの力強いパートナーシップを改めて確認した。我々は,互いに対する責任を強調し,開発並びに平和及び安全に対する我々それぞれのコミットメントについて,一層の説明責任を負うことを決意した。我々は,前進のための重要な推進力である透明性及びガバナンスに対するコミットメントを再確認した。我々は,アフリカのパートナー達の新たなダイナミズム及び民主主義の伝播を歓迎し,アフリカ大陸の人々と肩を並べつつ一層力強く支持することにコミットした。我々は,コートジボワール,ギニア及びニジェールの民主的に選出された大統領を歓迎した。我々は今回初めて,アフリカの首脳と共に共同宣言を採択した。

4.3月11日に日本を襲った地震及び津波を受けて,我々は,犠牲者への心からの同情と,日本の政府及び人々に対する連帯を表明し,この災害を前にして日本の政府及び人々が示した勇気及び尊厳に敬意を表した。我々は,日本の当局は,その試練に立ち向かい,かつ,迅速で持続的な回復を成し遂げることができると深く確信しており,必要な支援を行う用意がある。

5.我々は,インターネットのような,我々の社会,経済及び成長に不可欠な新たな諸問題について議論した。市民にとって,インターネットは,類い希な情報及び教育の手段であり,それゆえ自由,民主主義及び人権の促進に資するものである。インターネットは,新たな形態のビジネスを助長し,効率性,競争力及び経済成長を促進する。政府,民間セクター,利用者及び他の利害関係者は皆,インターネットが均衡ある形で繁栄できる環境を創り出す上で果たすべき役割を有している。我々は,2011年,ドーヴィルにおいて,インターネット経済の指導者数名の出席を得て,自由,プライバシー及び知的財産の尊重,多様な利害関係者によるガバナンス,サイバーセキュリティ,並びに犯罪からの保護を含む,力強く繁栄するインターネットを支える多数の主要な原則について,首脳レベルにおいて初めて合意した。5月24及び25日にパリで開催された「e-G8」は,これら議論に対する有用な貢献となった。

6.我々の先進的で密接に統合された経済は,共通の課題及び機会に直面している。景気回復は,力強いものになりつつある。我々の優先事項は,引き続き,我々の市民のために雇用創出を促進することにある。我々は,強固で持続可能かつ均衡ある成長を生み出すために努力を継続することを誓約し,そのためにG20のパートナー達と共に取り組んでいく。

7.新たな成長の推進力が求められている。我々は,研究,教育及びイノベーションのような,知識経済にとって極めて重要な成長促進政策を優先することにコミットした。グリーンな成長は,地球温暖化との闘いに不可欠であり,我々の社会における雇用の有望な源泉であり,より持続可能な発展を求める共通の願望を反映したものであることから,我々は,グリーンな成長を促進していく。

8.我々は,自らの経験に基づき,原子力の安全に関する条約の諸原則と整合的な形で最高水準の安全性を促進する必要性を含め,日本の原子力事故から得られるあらゆる教訓に学ぶことを決意した。我々は,原子力の安全に関する条約及び原子力事故の早期通報に関する条約の強化について,並びに原子力安全の規範及び基準の向上について検討する必要性に留意した。その一方で,我々は,チェルノブイリ事故から25周年となる本年,国際社会がチェルノブイリのサイトを安定的かつ環境上安全な状態へと転換するための国際的な努力を完結するために相当規模の資金をプレッジすることができたことについて,大きな満足とともに留意した。

9.我々は,平和及び国際安全保障を支える行動を継続する。

10.我々は,リビア政府軍が市民への武力行使を即時停止するよう求め,リビアの人々の意思を反映した政治的解決を支持する。我々は,シリアの指導部に対し,シリアの人々に対する武力行使及び脅迫を直ちに停止し,シリアの人々による要求の正当な表明に応えて,対話及び抜本的な改革に取り組むよう求める。我々は,この地域全体における歴史的変革は,イスラエル・パレスチナ紛争を交渉によって解決することの重要性を減じさせることはなく,むしろ増大させると確信している。我々は,当事者双方に対し,あらゆる最終的地位の問題について枠組み合意に達することを目指し,実質的な対話に一刻も早く取り組むよう要請する。

11.我々は,核兵器不拡散条約(NPT)下でのすべての義務を履行し,国際的な核不拡散体系をあらゆる側面で支持し,促進することに対する我々のコミットメントを再確認する。我々は,国際的な安定に対する脅威である深刻な拡散の課題を,特にイラン及び北朝鮮において除去することにコミットする。我々は,自らの専門家達に対し,技術の平和的利用から得られる利益への公平かつ責任あるアクセスを確保する方法を探求するよう求める。我々は,暴力的な過激主義,国際テロ,及び薬物の不正取引に対する闘いにおける前進を強固なものとし,これら惨禍に取り組むための我々共通の努力を継続する。我々は,安定的で平和な主権国家としてのアフガニスタン及びその地域全体における安定及び協力に寄与するとの自らのコミットメントを再確認した。

12.我々は,米国の議長の下に明年会合を行う。

I. 日本との連帯

1.3月11日,未曾有の規模の地震と津波が日本を襲い,一万五千人以上の命を奪うとともに,福島第一原子力発電所を含めた大規模な破壊と混乱を引き起こした。未だ十万人以上が住みかを失い,一時的な避難所で暮らしている。我々は,日本の総理大臣に対し,この悲劇の犠牲者へのお悔やみと,ご遺族及び災害により影響を受けたすべての人々への心からの同情を表明した。日本の人々により示された勇気及び尊厳は,人々に称賛と尊敬の念を呼び起こした。同様に,世界中の人々により差し伸べられた支援と連帯は,日本の人々に,暖かさ,強さ,そして希望をもたらした。日本の総理大臣は,G8及び国際社会すべてにより示された寛大な支援と友情への深甚なる感謝の念を表明し,原子力事故を含む試練を必ず乗り越えるとともに,世界に深く関与し,貢献し続けるとの強い決意を表明した。

2.我々はまた,日本経済の強靭さを確信しており,支援と協力を提供し続ける準備があることを表明した。日本の総理大臣は,原子力事故による影響を含め,世界経済に対して今回の災害が与えうる不確実性を最小化するためにあらゆる努力を行うと説明した。日本の総理大臣は,特に,原子力に関する非常事態について,すべての関連する情報を適時提供することを約束し,日本からの輸出品が安全であることを確保するとした。我々は,物品と渡航に対する措置が科学的根拠に基づくべきであることを強調した。

3.我々は,日本はこの危機から迅速に立ち直り,より強くなることができると深く確信しており,また,最高水準の原子力安全性を世界的に推進する必要性を含め,必要なすべての教訓をこの災難から得ることを決意する。

II. インターネット

4.インターネットは,世界中至る所で我々の社会,経済及びそれらの成長に不可欠なものとなっている。

5.市民にとって,インターネットは,類い希な情報及び教育の資源であり,それゆえ自由,民主主義及び人権を促進する有益な手段である。

6.企業にとって,インターネットは,商取引行為及び消費者との関係構築に不可欠かつ代替不可能な手段となっている。インターネットは,イノベーションの推進力であり,効率性を向上させ,それゆえに成長及び雇用に貢献している。

7.政府にとって,インターネットは,行政の効率化,公衆及び企業へのサービス提供,並びに市民との関係強化及び人権尊重・促進の確保のための手段である。

8.インターネットは,世界経済,その成長及びイノベーションの主要な推進力となっている。

9.インターネットの開放性,透明性及び自由は,その発展及び成功の鍵である。これらの原則は,無差別及び公平な競争の原則と共に,その発展に不可欠な力であり続けなければならない。

10.これらの原則の実施は,より広範な枠組みの中に含まれなければならない。すなわち,法の支配,人権及び基本的自由の尊重並びに知的財産権の保護という枠組みであり,すべての市民の利益のためにすべての民主主義社会において,生活に活力を与える枠組みである。我々は,自由,安全,透明性及び秘密保持並びに個人の権利及び責任の行使は同時に達成されなければならないと強く信じる。この枠組み及び諸原則の双方は,インターネット上においても他の場所と同様の保証を伴う同様の保護を受けなければならない。

11.インターネットは,現代における公共の場,経済発展のてこ,並びに政治的な自由及び解放のための手段となっている。言論,表現,情報,集会及び結社の自由は,インターネット上においても他の場所と同様に保障されなければならない。インターネットへの恣意的な又は無差別の検閲又はアクセス制限は,国家の国際的な義務と非整合的であり,明らかに容認できない。さらに,それらは,経済的及び社会的な成長を阻害する。

12.インターネット及びその将来的な発展は,民間セクターのイニシアティブ及び投資により促進されるものであり,上記の枠組み及び諸原則に基づき,好意的で,透明性があって,安定的で,かつ予見性のある環境を必要とする。この点について,国内政策のみならず国際協力の促進を通じたすべての政府による行動が必要とされている。

13.我々は,人権及び民主的参加を世界中で進展させる手段として,インターネットの利用を奨励することにコミットする。

14.世界的なデジタル経済は,成長及びイノベーションの強力な経済的推進力及び原動力となっている。ブロードバンド・インターネットへのアクセスは,今日の経済に参加するために不可欠のインフラである。我々の国々がデジタル経済から十分な恩恵を受けるためには,我々は,クラウド・コンピューティング,ソーシャル・ネットワーキング,及び草の根出版といった,我々の社会においてイノベーションを推進しており,かつ,成長を可能としている新たな機会を捉える必要がある。我々がより革新的なインターネット・サービスを採用するにつれ,我々は,個人データ,ネットの中立性,国境を越えたデータ移動,情報通信技術セキュリティ及び知的財産の保護といった問題について,我々の公共政策の間での相互運用性及び収斂を促進するに当たり,様々な課題に直面している。

15.知的財産,特に著作権,商標,営業秘密及び特許の保護に関し,我々は,法執行を向上させるための国内法及び国内枠組みを備える必要性を認識する。我々はしたがって,現在及び将来の侵害への取組を含め,デジタル領域における知的財産権の侵害に対して効果的な行動を確保することに対する我々のコミットメントを新たにしている。我々は,知的財産に関する規律の効果的な実施には,民間セクターとの協力を含め,利害関係者による適切な国際協力が必要であることを認識する。我々は,物品及びコンテンツの合法的なオンライン取引における継続的なイノベーションの奨励によるものを含め,知的財産権を尊重し,知識,教育及び文化へのアクセス及び開放性の拡大を促進する方法を特定することにコミットする。

16.インターネット上における個人データ及び個人のプライバシーの効果的な保護は,利用者の信頼を得るために不可欠である。これは,インターネット上に個人データを掲載する際に自らが負う責任について認識を深めておく必要がある利用者,この情報を保管及び処理するサービス・プロバイダ,並びにその保護の有効性を確保しなければならない政府及び規制当局といったすべての利害関係者にとっての問題である。我々は,合法的なデータ転送を許容する一方で,国内の法的枠組みを考慮に入れた,基本的権利に基づく,かつ,個人データを保護する共通のアプローチの発展を奨励する。

17.インターネット上のネットワーク及びサービスの安全は,様々な利害関係者に関わる問題である。テロ及び犯罪の目的で情報通信技術が利用されることを防止し,抑止し,及び処罰するためには,各国政府,地域機関及び国際機関,民間セクター,市民社会,並びにローマ・リヨン・グループにおけるG8自身の取組の間での連携が必要である。インターネットを通じた有害ソフトの拡散及びボットネットの活動による攻撃を含め,インフラ,ネットワーク及びサービスの公正性に対するすべての形態の攻撃には,特別な注意を払わなければならない。この点に関し,我々は,利用者のために啓発を促進することが極めて重要であること,並びに極めて重要な資源,情報通信技術及びその他の関連するインフラを保護するためには国際協力の強化が必要であることを認識する。インターネットが,平和及び安全という目標と整合的でない目的で,かつ,重要なシステムの公正性に悪影響を与え得る目的で使用される可能性があるという事実は,依然として懸念事項である。各国政府は,サイバー・スペースの利用に関する行動規範及び共通のアプローチの発展を支援するに当たり,利害関係者すべてから情報提供を受けつつ,果たすべき役割を有している。これらすべての問題に関し,我々は,すべての関連するフォーラムにおいて適切なフォローアップを提供する決意である。

18.我々は,児童の人身売買及び性的搾取のためのインターネットの利用と闘うよう,すべての利害関係者に要請する。我々はまた,リスクの認識を含め子供のインターネット・リテラシーを向上させること,及び表現の自由と整合的な形で親が十分に管理するよう奨励することによって,子供が安全にインターネットを利用できる環境の構築に向けて取り組む。

19.我々は,途上国のためのインターネット・アクセス強化の重要性を認識する。沖縄サミット以来,重要な進捗が見られており,我々は,この点に関して途上国が行った努力,並びに資源,専門知識及びイノベーションを提供している多様な利害関係者,各国政府,民間セクター及びNGOが行った努力に敬意を示す。我々は,特に教育及び保健ケアの分野における開発目的でのインターネットの利用について,民間セクターと連携したイニシアティブを奨励する。

20.我々は,インターネットのガバナンスについての様々な利害関係者を巻き込んだモデルを支持しており,すべての利害関係者に対し,インターネットのガバナンスを扱うすべての国際的なフォーラム内での協力及びこれらフォーラム間の協力の強化に貢献するよう要請する。この点に関し,速いペースの技術及びビジネスの発展及び利用に適応するためには,柔軟性及び透明性が維持されなければならない。政府は,このモデルにおいて果たすべき鍵となる役割を有している。

21.我々は,このサミット直前の5月24日及び25日にパリで開催されたe-G8フォーラムの会合を歓迎し,今日までのインターネット経済の発展に不可欠であった様々な利害関係者の各種の努力に対する我々のコミットメントを再確認する。e-G8フォーラムの革新的な構成により,インターネットに関する多くの利害関係者が,市民,企業及び政府にとっての基本的な諸目標及び諸問題についての議論に参加することができた。同会合における自由で実りのある議論は,現在及び将来の諸課題に係るすべての関連するフォーラムへの貢献である。

22.我々は,この重要な問題を前進させるに当たっての積極的な措置として,9月にナイロビで予定されているインターネット・ガバナンス・フォーラム及びその他関連する国連の行事,6月にパリで予定されている「インターネット経済:イノベーション及び成長の醸成」についての経済協力開発機構(OECD)ハイレベル会合,並びに11月に予定されているロンドン・国際サイバー会議及び著作権に関するアヴィニヨン会議を含め,これらすべての分野における国際協力を強化するための今後の機会に期待している。

III. 世界経済

23.世界的な景気回復は,力強さを得て,より自律的になってきている。しかしながら,下方リスクは,残存しており,国内的及び世界的な不均衡は,依然として懸念事項である。商品価格の急高騰及びその過度の変動は,回復に対する大きな逆風となっている。この文脈で,我々は,構造改革を通じた行動を含め,国家財政の持続可能性の向上,回復の強化及び雇用の拡大,リスクの軽減,並びに強固で持続可能かつ均衡ある成長の確保のために必要とされる行動に焦点を当て続けることに合意した。

 欧州は,幾つかの国が直面した国家的債務危機に対処するための措置に関する広範なパッケージを採択しており,引き続き,この状況に決意を持って取り組むとともに,成長を支えるため,構造改革と並行して財政再建を厳しく追求していく。米国は,雇用創出及び経済成長への配慮と整合的な形で,明確かつ信頼性のある中期的な財政健全化枠組みを確立する。日本では,当局は,震災後の復興のための資金を供与しつつ,国家財政の持続可能性の問題にも取り組んでいく。

 我々は,現在の諸課題に立ち向かうため,集団的かつ個別に必要な行動をとることを決意する。我々はまた,我々のマクロ経済政策が,我々の雇用政策及び社会政策と相俟って,失業を削減し,労働市場への迅速な復帰を可能とすることを目指しつつ,健全な経済成長を促進することを確保していく。

24.我々は,特に,金融セクター改革,商品価格の過度な変動の緩和,国際通貨システムの強化,並びに,継続した大規模な世界的不均衡の原因及び強固で持続可能な均衡ある成長を促進するための幅広い政策に関する相互評価プロセス(MAP)下での綿密な評価,という我々のアジェンダについて,政策対話及び協力を拡大させるためにG20において現在進行中のプロセスに対する我々のコミットメントを表明した。

貿易

25.世界経済の回復を支える継続的な努力の一環として,G8は,自由かつ開かれた市場に対するその長年にわたるコミットメントを再確認する。世界貿易機関(WTO)は,保護主義の防止において極めて重要な役割を果たしており,世界の多角的体制の根本的な一部分を構成している。この点に関し,WTOに加盟しているG8メンバーは,ドーハ・ラウンド交渉における満足のいかない進展を,深刻な懸念をもって留意する。我々は,多角的体制を強化するために貿易自由化及びルール策定のプロセスを前進させることへの我々のコミットメントを改めて表明するとともに,後発開発途上国(LDCs)の優先事項に関するものを含む,ドーハ・マンデートに沿ってドーハ・ラウンドを妥結に導くための,すべての交渉の選択肢を探求する用意がある。G8におけるロシアのパートナーは,ロシアがWTO加盟の完了に向け大幅に進捗していることを歓迎し,2011年中に加盟プロセスの最終的な詰めを行おうとする意図を持って,ロシアと緊密に協働していくことへのコミットメントを再確認する。

イノベーション及び知識経済

26.イノベーションは,知識経済における成長,繁栄及び雇用に極めて重要であり,気候変動,貧困撲滅及び公衆衛生,さらには,人口構造の変化及び世界的な経済金融危機からの雇用創出を通じた回復に至るまで,現代の重要な世界的課題の多くに対処する上で中心的役割を果たしている。我々は,イノベーションの性質,根源及び速度並びにイノベーションが成長を促進する方法及び範囲が,過去数十年の間,史上最高速度で変化していることを認識する。イノベーションは,閉鎖的なものから開放的なものへと移行し,その地理的な源泉は,拡大している。将来の世界的課題に対応する上で,イノベーション,グリーンな成長及びインターネットは,いずれも極めて重要となり,その効果的な発展は,将来の経済成長を支えるだろう。これらの変化には,G8によるこれまでの取組を基礎として,特に民間セクターにおいて焦点を絞った政策的考慮が求められる。

27.我々は,世界各国の経験を活かし,技術的イノベーション,非技術的イノベーション及び社会的・公共的サービスにおけるイノベーションを含む,イノベーション及び成長に対する全体的アプローチが必要とされていることを強調する。これは,国別アプローチに起因する潜在的摩擦を削減しつつ,市場統合や市場障壁の制限を進めるといった,共通目標に向けて集団的行動を導く,我々の社会の広範な関与並びに諸原則及びベスト・プラクティスの枠組みの精緻化を必要とする。我々は,政策についてのグッド・プラクティスを世界中から収集することについてOECDの取組の結果に期待する。我々はまた,政策の効率及び実効性を強化するため,OECDに対し,インプットよりも成長及び雇用への具体的影響に焦点を当てながら,また,指標間の構造的な関係を研究しつつ,十分に包含的で開かれたかつ説明責任を全うできる方法により,関連する国際機関の協力を得て,イノベーションのパフォーマンスを測定するための尺度を開発するよう奨励する。すべてのG8諸国は,この作業に参加する。

28.我々は,官民,大小の多様な関係者間の協力の重要性を強調する。また,我々は,中小企業(SME)が,持続可能なイノベーション・エコシステムにおいてイノベーションを拡大するための重要なてこの支点であると強く信じる。我々は,研究,教育及びイノベーションのような成長を促進するための政策を優先することにコミットする。我々は,OECDに対し,技術移転及び起業段階のための国境を越えたベンチャー・キャピタル市場を含め,民間資金のためのインセンティブに特別な焦点を当てながら,それらの成長に対する障害を特定しつつ,関連する他の国際機構の協力を得て,SMEの世界的バリューチェーンへの統合をどのように促進し得るのかについて包括的な分析を推進するよう奨励する。

29.我々は,イノベーションへのインセンティブ及び成長のための触媒としての強力で強固な知的財産制度を含め,イノベーション分野における公平な競争条件が必要であることに同意する。我々は,ビジネスに配慮した,強固かつ効率的な各国の知的財産制度を擁護する知的財産に対する広範なアプローチを促進する上での世界知的所有権機関(WIPO)の重要な役割を認識する。我々は,特許制度の諸原則に対する我々の支持を新たにし,その促進及び発展を重視する。我々は,特許の質を向上させるための国際的な行動の拡大を奨励するとともに,特にSME及び研究所にとって極めて重要である特許情報の普及促進を要請する。我々は,技術市場における透明性を支持し,権利取引市場の改善を求める。我々は,WIPOに対し,加盟国及び他の関連する機関と密接に協力しつつ,これら3分野における取組を強化するよう奨励する。さらに,我々は,イノベーションにインセンティブを与え,ひとたび生じたイノベーションを保護するため,法執行の重要性に留意する。

30.我々は,研究に関する国際協力の重要性を強調し,共通の課題に対する解決策を見つけるための資源及び能力を活用していく。我々は,世界的な研究協力を強化するための現在進行中のOECDの取組を歓迎し,その勧告を期待している。

グリーンな成長

31.我々は,グリーンな成長は,持続可能な世界成長を確実なものとする上で,特に,資源効率性及び健全な水管理の促進,気候変動との闘い,並びに生物多様性の保全のために不可欠な要素であり,持続可能な開発に寄与すると強く信じる。グリーンな成長は,我々の社会にとって雇用創出の有望な源泉であり,すべての国々の技術革新者及び輸出者に意義深い展望を提示している。グリーンな成長のダイナミクスは共有される必要があり,持続可能な開発は,すべての国々が努力すれば達成可能な目標である。我々は,この分野において主要な役割を果たし続けることにコミットしている。我々は,グリーンな成長を促進するため,すべての関連するフォーラム及び機関の中で取り組んでいく。

32.我々は,5月25日及び26日のOECD閣僚理事会を受け,OECDがグリーンな成長戦略に関して実施している作業の成果を期待する。我々は,各国の異なる状況及びあらゆる技術を念頭に置いた野心的かつ現実的な政策をすべての利害関係者が実施するよう求める。我々は,グリーンな成長から得られる機会を追求するよう民間セクターに呼び掛ける。我々はさらに,官民双方のイニシアティブを支持しつつ,すべての経済的及び社会的なレベルに相応しい政策の組合せを主流化するグリーンな成長のための戦略を支持する。

33.このため,そして長期的な投資を奨励する観点から,我々は,市場本位の措置,規制措置及び自発的措置を含む広範囲にわたる一連の政策を展開しており,また,クリーン技術及びエネルギー効率のための研究開発を促進している。

34.我々は,グリーンな成長測定スキームを構築することの重要性を認識し,指標になり得るものを適切な形でひと揃い特定するため,国連環境計画(UNEP),OECD及び国際エネルギー機関(IEA)を含む関連する国際的なフォーラムと共に取り組む。

35.雇用は引き続き中心的な関心事項であることから,我々は,国家及び地方の持続可能なグリーンな活動への移行を円滑化するため,グリーンな雇用の創出並びに伝統的な雇用及び技能政策の発展のグリーン化に寄与する,注意深く設計された労働市場に係る措置を支持する。

36.我々は,グリーンな成長についての国際協力を強く支持し,とりわけ2012年6月にリオデジャネイロで開催される国連持続可能な開発会議(リオ+20)を見据え,かつ,11月の水,エネルギー及び食料安全保障に関するボン会議,12月の気候変動に関するダーバン会議,2012年3月のマルセイユ世界水フォーラム,並びに2012年10月にニューデリーで開催される生物多様性条約締約国会議を含め,予定されている多様な国際行事を見据え,次の段階に向けた前進に貢献するための我々の努力を強化する。これに関し,我々は,UNEP及びOECDの努力を奨励し,これら二つの機関がリオ+20会議のための相互補完的なメッセージを発することを歓迎する。

37.我々は,国家及びその他の主体が,再生可能エネルギーを含む効率的で持続可能な資源の使用を奨励するために様々な措置を採用することもまた極めて重要であると信じる。我々は,G8によって開始された国際的なイニシアティブ,とりわけ,他の利害関係者にも成功裡に拡大された国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC),IEAの国際低炭素エネルギー技術プラットフォーム,国際バイオエネルギー・パートナーシップ(GBEP),生態系と生物多様性の経済学(TEEB),生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES),及び国際再生可能エネルギー機関(IRENA)を支持する。我々は,神戸3R(「リデュース,リユース,リサイクル」)行動計画への支持を再確認し,資源生産性に係る同計画の実施に関するOECD報告書を歓迎し,OECDに対し,この問題について引き続き取り組むよう奨励する。

IV.原子力安全

38.この度の日本での出来事は,G8の議題における最優先事項として原子力安全に取り組むことが極めて重要であることを強調している。我々は,日本による関連情報の共有を称賛し,日本による福島事故の説明を歓迎する。

39.我々は,原子力エネルギーに依存することを選択した国々が,自身の原子力施設の安全な運転に適切な注意を既に払っていることを認識する。我々は,各国が,エネルギー・ミックスにおける原子力エネルギーの利用及び貢献について,段階的導入又は段階的廃止も含め,様々なアプローチを有し得ることを認識する。

40.日本における出来事によって,安全性の再評価が常に必要であることが確認される。我々は,福島事故及びその影響から学ぶことの重要性を認識する。我々は,既存の原子力施設のリスク及び安全性に関する包括的な評価を実施するための多くの国々による取組を歓迎し,原子力発電所を運転するその他のすべての国々に対し,同様の評価を可能な限り速やかに実施することを奨励する。このような評価には,事故の予防,緊急事態のための準備,危機の管理及び軽減並びに事故後の対応策が含まれるべきである。これらすべての措置は,一体として,世界的な安全基盤の強化に貢献する。

41.我々は,各国に対し,安全性評価の定期的な見直しを完了し,経験に基づき,原子力施設の存続期間のすべての段階で評価を実施するよう促す。我々はまた,新たな原子炉の立地及び設計における安全性への高い優先度,並びにあらゆる場所における事象及び事故から継続的に改善点を学ぶ必要性を再確認する。

42.我々は,政府,産業界,研究機関及び規制機関の間の協力を含め,原子力安全に関する国際的な協力の重要性を強調する。この協力は,安全文化を世界的に強化し,透明性を向上させる。

43.我々は,世界的な原子力安全の向上における国際原子力機関(IAEA)の重要な役割を認識し,原子力施設の安全性強化を支援するための関連するIAEAの能力を活用することを各国に奨励する。我々はまた,国際的な安全体制にとって極めて重要な,IAEAの下で採択された関連する国際条約(原子力事故の早期通報に関する条約,原子力事故又は放射線緊急事態の場合における援助に関する条約,原子力の安全に関する条約,使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約)を批准していない国々に対し,これを批准するよう促す。

44.国際的な安全体制の礎石である原子力の安全に関する条約に関し,我々は,特に,安全上の目的,事故予防及び事故管理の適時かつ十全な措置に対する政府の責任(政府・事業者・安全当局間の連携及び協力のための手続の調整を含む。),並びに,効果的なピア・レビューのメカニズムについて,条約を強化し得る措置のレビューを行うため,2012年8月に開催される締約国臨時会合を歓迎する。

45.我々はまた,原子力計画に着手する又はその拡大を行う国々に対し,IAEAの勧告に従い,十分な数の有能な人材を伴うしっかりした基盤を整備することを助言する。我々はまた,IAEAに対し,福島事故に照らして検討及び改訂を正当化し得る事項を特定するために関連するIAEA指針を検討すること,また,特に,災害の複合的な影響を考慮しつつ,地震が多発する地域及びその他の外的な事象にさらされ得る地域における原子力発電所の建設及び運転のための付加的な指針の設定又は改善を検討するよう求める。

46.我々はまた,関連するその他の条約についても強化する可能性を検討する。原子力事故の早期通報に関する条約に関し,原子力事故に関する通報の効率性及び内容を一層向上すべきであり,同条約は,必要な場合には,改正され得る。

47.我々は,安全に係る慣行,危機管理及び透明性に関する国際協力の強化を通じ,原子力の安全に関する条約の諸原則と整合した形で,最高水準の安全性を世界的に促進することにコミットする。原子力安全の改善は,多国間設計評価プログラム(MDEP),西欧原子力規制者協会(WENRA),世界原子力発電事業者協会(WANO)といったフォーラムのほか,国際原子力エネルギー協力フレームワーク(IFNEC)において安全当局及び事業者により既に実施されている取組により得られる。我々は,原子力安全に関する閣僚級の国際会議を2011年6月20〜24日にウィーンで開催する旨のIAEAの発表を歓迎する。我々はまた,6月20〜24日の会議への貢献を通じ,原子力安全を世界的に更に向上させる方途を探求するため,関心国の閣僚のみならず規制機関を集めるとの議長国の取組を歓迎する。我々は,最高水準の原子力安全を世界的に促進するためにIAEAの枠組みにおいて行われる議論が,有意義な成果を生み出すことを期待する。我々は,G8原子力安全セキュリティ・グループに対し,これらの問題をその将来の取組に含めるよう求める。

48.我々は,原子力安全を世界的に強化するための努力に新たに取り組むと同時に,チェルノブイリ事故から25周年となる本年,過去のコミットメントを完結に導かなければならない。我々は,国際社会がこの問題に終止符を打つべく団結したことに大きな満足と共に留意する。ドナー諸国は,欧州復興開発銀行(EBRD)と共に,チェルノブイリのサイトを安定的かつ環境上安全な状態へ転換する目的で現在行われている国際的な努力を完結するため,相当規模の追加的な資金をプレッジすることができた。我々は,未だプレッジしていない国々が速やかにプレッジすることを期待する。我々は,チェルノブイリ事業のすべての関係者に対し,予定通りに及び予算の範囲内で各々の事業を実施する努力を倍加するよう求め,また,ウクライナ政府に対し,予算の範囲内において計画を効率的かつ成功裡に実施することを確保するため,制度面及び資金面において十分な貢献を行うよう促す。

V. 気候変動及び生物多様性

49.気候変動への対処は,世界的な優先事項である。我々G8メンバーは,科学に沿った形で,世界全体の気温上昇を産業化以前の水準と比べて摂氏2度より下に効果的に抑えるため,我々の役割を果たすことを目的として,野心的な措置をとっており,かつ長期的な努力にコミットしている。我々は,途上国,特に最も貧しくかつ脆弱な国々との我々の連帯を示すとともに,この脅威に対処するためのより広範な世界的努力の一環として行動する決意を表明する。

50.我々は,2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%削減を達成するという目標をすべての国々と共有するとの我々の意図を再確認する。その際,我々は,このことが世界全体の排出量を可能な限り早くピークアウトさせ,その後減少させる必要があることを含意していることを認識する。我々は,この目的のために協力している。この努力の一部として,我々はまた,先進国全体で温室効果ガスの排出を,1990年又はより最近の複数の年と比して2050年までに80%又はそれ以上削減するとの目標を支持する。この野心的な長期目標に沿って,我々は,基準年が異なり得ること,及び努力が比較可能である必要があることを考慮に入れ,先進国全体及び各国別の中期における力強い削減を行う。同様に,主要新興経済国は,特定の年までに,対策をとらないシナリオから大幅に排出量を削減するため,数量化可能な行動をとる必要がある。

51.我々は,これらの目的を達成するため,また,環境保護及び保健並びに省エネルギー及びエネルギー安全保障のために大きな利益を生み,同時に雇用機会及び成長も実現する低炭素経済に向けて迅速に移行するため,我々の役割を果たすことを決意する。

52.我々は,コペンハーゲン合意に基づく国際社会の努力の成功というカンクン会議の成果を歓迎する。我々は,カンクン会議が前向きな姿勢の中で行われたこと,及び国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で進展が見られたことを歓迎する。我々は,透明性,緩和,資金(とりわけ緑の気候基金の創設),適応,技術,及び森林減少・劣化との闘い(REDD+)に関するものを含め,採択された諸規定を支持する。

53.年末のダーバン会議(COP17)は,包括的,野心的,公平で,実効的かつ拘束力があって,温室効果ガス削減に関するすべての主要経済国それぞれの責任を含み,かつ,すべての国々を包含する一つの合意に向けた作業のための新たな重要な一歩である。我々は,カンクン合意を具体化し,未解決の諸問題に対処する必要がある。我々は,コペンハーゲンにおいて記載され,カンクンにおいて確認された我々のコミットメントを実現することを決意し,すべての主要経済国を含むすべての国々が同様に,自らが記載したコミットメントを実現することを求める。我々は,来るべきダーバン会議の議長国である南アフリカを強く支持しており,世界規模の気候変動との闘いに成功するために世界が必要とする同会議の成功に向けて協力する用意がある。

54.気候変動と同様,生物学的に多様で回復力のある生態系は,人間の福祉,持続可能な開発及び貧困の撲滅並びに食料安全保障に不可欠であることから,我々は,生物多様性の現在の損失速度が容認できないものであることを認識する。我々はしたがって,生物多様性の損失を遅らせるための努力を強化することにコミットする。我々はまた,生態系が,炭素貯留及び気候変動への適応を通じ,地球規模の炭素サイクルにおいて重要な役割を果たしていることを認識する。

55.この文脈で,名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議の成果,とりわけ生物多様性のための戦略計画2010-2020,資源動員戦略に関する決定及び遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する名古屋議定書の採択は,大きな前進である。我々は,2007年にG8によって開始された「生態系と生物多様性に関する経済学(TEEB)」に関する研究及び「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(IPBES)」の具体化を歓迎し,ABSに関する名古屋議定書について時宜を得た決定が出来るだけ早く行われることを期待する。

VI. 開発についての説明責任

56.開発は,共通課題である。途上国によるリーダーシップが開発のための鍵となる条件であるが,援助効果に対する責任は,ドナー国及びパートナー国双方の間で共有されている。我々は,成果に強い焦点を当てつつ,互いに説明責任を果たすことを完全に支持する。国及び地方の当局のリーダーシップの下,市民社会と緊密に協力した,さらには,政治的意思,根拠に基づく評価及び透明性に基づく,新興ドナーを含むすべてのドナー及び利害関係者の間の援助効果に対するより包括的で協調的なアプローチが必要とされている。我々は,アフリカのパートナー達が果たしている説明責任のプロセスを歓迎する。

57.我々は,我々のコミットメントを達成し,その実施について完全に透明で一貫した方法により追跡することに引き続き強くコミットしている。我々は,ドーヴィル説明責任報告書「保健及び食料安全保障に関するG8コミットメント:援助実施の現状と結果」を承認する。この報告書には,保健及び食料安全保障に関するG8の行動,並びに,ラクイラ食料安全保障イニシアティブに対する全コミットメントの85%,世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)の全財源の78%,世界ポリオ撲滅イニシアティブに対する財政支援の44%,さらには直接拠出及び革新的資金調達メカニズムを通じたGAVIアライアンス(旧ワクチン予防接種世界同盟)に対する18億ドルを含む,G8による資金動員が記載されている。我々は,非財政的なコミットメントの達成に向けた進捗に関してG8の説明責任をさらに一層厳格にしていき,同報告書の勧告をフォローアップしていく。

58.我々は,ミレニアム開発目標(MDGs)の成果文書「約束を守る」("Keeping the Promise")を歓迎し,これら目標を達成するための中心的な要素としての民主的なガバナンスの重要性を強調しつつ,MDGs国連首脳会合において我々が行ったコミットメントを再確認する。我々は,課題の重大さを認識しており,途上国とドナー・パートナー双方の行動は,良好な成果を出すことに既に貢献している。我々は,人間の安全保障向上のための個人及びコミュニティの保護及び能力強化に焦点を当てながら,2015年までにMDGsを達成し,これを持続させるための途上国の取組を引き続き支援し,すべての利害関係者にも同様に行動するよう奨励していく。この文脈で,我々は,本年6月に東京において閣僚級で開催することが予定されているMDGsフォローアップ会議を,MDGsに対する政治的モメンタムを維持する機会として歓迎する。我々は,透明性及び説明責任を推進するための努力を倍加する。

59.2005年,OECDは,途上国に対するG8及びその他のドナーからの政府開発援助(ODA)は,2010年までに2004年と比較して約500億米ドル増加すると予測した。2010年に関するOECDの予測と比べると,実質値で190億ドル,又は名目値で12億7千万ドルのギャップがある。世界規模の経済危機にもかかわらず,G8のODAは,2009年から2010年までの間に名目値で825億5000万ドルから892億5000万ドルに増加した。これは, 2010年の世界のODA総額である1287億3000万ドルの70%を占めており,2009年に比べて名目値で7.27%の増加となる。すべてのコミットメントは完全には達成されていないが,我々は,他のドナーと共に,取組を維持するよう努力していく。ODAは,他の資源,とりわけ国内資金,革新的資金調達,海外送金,開発銀行が用いる市場手段及び民間資金フローの中でも,開発のための資金調達の重要な要素である。

60.G8は,保健及び食料安全保障に関する重要な行動を触発してきており,他の利害関係者と共に更なる取組を行う用意がある。この点に関し,

  a.我々は,世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)を支援し続ける。我々は,同基金の資金を使用するに当たっての監督,説明責任及び実効性を改善するための諸改革を実施するという世界基金理事会のコミットメントを歓迎する。これら諸改革に基づき,伝統的ドナーは,各々の世界基金へのプレッジを果たすことが可能となろう。我々は,非伝統的ドナー及び民間セクターに対し,世界基金への資金提供を奨励する。

  b.我々は,特に2010年に打ち出された「ムスコカ・イニシアティブ:妊産婦,新生児及び乳幼児の健康」を通じた妊産婦の健康改善及び乳幼児死亡率の低下に対する我々のコミットメントを再確認する。我々は,ムスコカでのコミットメントを実施している。我々は,「女性と子供の健康の実現に向けたグローバル戦略」における利害関係者を含め,すべてのパートナーと協調しつつ,コミットメントの実施を引き続き監視していく。我々は,国連事務総長の要請で世界保健機関(WHO)によって設置された「女性と子供の健康のための情報と説明責任委員会」の勧告を支持する。我々は,この勧告を実施し,他の国々等もこれを実施するよう要請する。

  c.我々は,GAVIアライアンスの影響力を認識し,段階的価格設定及び「予防接種のための国際金融ファシリティ」のような革新的メカニズムを通じたものを含め,最貧国における新規の又は使用率の低い救命ワクチンへのアクセス拡大のための努力を強く歓迎する。我々は,6月にロンドンで開催される初のGAVIプレッジ会合が,すべての関係者を巻き込み,成功裡に実施されるよう呼びかける。我々はまた,ワクチンの事前買取制度及び特に肺炎球菌ワクチンに関するパイロット・プロジェクトの進展を歓迎する。

  d.我々は,達成可能な目標であるポリオの撲滅に対し,引き続きコミットしていることを強調する。我々のこれまでの支援は,途上国におけるポリオを99%減少させることに貢献した。我々は,この問題に関する特別の焦点及び新たなモメンタムの必要性を特記する。このため,我々は,世界ポリオ撲滅イニシアティブへの支持を継続する。

  e.我々は,主要な二国間ドナー,世界的な保健プログラム及び国別協調イニシアティブと共に,これら基金による援助効果の実施改善のために取り組む。

  f.我々は,資源不足の状況下での使用に適した安価なジェネリック医薬品の生産を促進させるため,国際医療品購入ファシリティ(UNITAID)によって開始された特許プール・イニシアティブ(PPI)を歓迎し,官民の特許権者によるプロジェクトへの自発的な参加を奨励する。

  g.我々は,食料安全保障を向上させるための強力で包括的な多国間及び二国間の対応を奨励する。2009年に打ち出されたラクイラ食料安全保障イニシアティブ(AFSI)は,食料不安の課題に対処するために利害関係者の多様なグループを結集している。ラクイラ・サミット以降,AFSIのプレッジのうち,22%が既に拠出され,追加の26%が特定の目的のために正式に拠出されるプロセスにある。我々は,各々のプレッジ期間の終了までに,コミットした資金全額の拠出又は割当てを行う。我々は,食料安全保障を向上させるためのバリューチェーン・アプローチに基づいた二国間の支援,並びに成果及び影響が重視されることを確保しつつ,国主導の又は地域的なプロセスへの支援を再確認し,開発パートナー間の連携を改善する必要性を強調する。我々は,官民連携並びに研究及びイノベーションを通じたものを含め,小規模自作農家を重視しつつ,持続可能な農業生産及び農業生産性を向上させるための努力を強化していく。

61.本年後半に韓国・釜山で開催される第4回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラムを見据え,我々は,ローマ宣言,パリ宣言及びアクラ行動計画の承認以降の援助実施における進捗を歓迎する。我々は,開発の成果及び影響に関するより広範な諸問題への移行を認めている援助効果アジェンダを釜山において見直すよう求める。

62.我々は,援助に関する情報の透明性を向上させていく。特に,我々は,資金の割当,支出及び成果についての情報公開に更に努める。情報は,パートナー国及び市民のニーズを満たすアクセス可能な形式で提供されることになろう。この観点から,パートナー国も透明性を向上させることが重要である。我々は,各国が各々のペースで前進することを認めるが,2011年11月に韓国で開催される第4回ハイレベル・フォーラムに先駆け,この分野における透明性の向上を通じて自ら模範を示し,他の関係者と協力していく。我々は,我々すべてが支持する採取産業透明性イニシアティブ(EITI)の完全な実施を通じたものも含め,他の分野における透明性を引き続き支援する。我々は,すべての国々,特に資源の豊富な国々,及び採取企業に対し,このイニシアティブに参加し又はこれを支持することを求める。我々はまた,政府収入の透明性を高める補完的な努力を歓迎し,石油,ガス及び採掘企業が政府への支払いを公開するよう要求又は奨励する透明性関連法令の制定又は自発的な基準の促進にコミットする。

63.我々は,OECDと協力し,またその他のフォーラムにおいて,説明責任プロセスを強化するための取組を引き続き進めるとともに,すべてのドナーに対して同様の取組を行うよう求める。

VII. 平和及び安全

64.我々は,リビア政府軍が市民への武力行使を即時停止するよう,並びに民衆に対する敵意及び暴力のあらゆる扇動が停止されるよう求める。この点に関し,我々は,国連安保理決議第1970号及び第1973号を完全に履行するために国連加盟国がとった諸措置に留意する。我々は,市民への攻撃に責任を有する者達の責任を問う必要性を強調する。これらの犯罪行為は,処罰されずには済まされない。我々は,リビアにおける犯罪捜査についての国際刑事裁判所の取組を歓迎し,首席検察官が5月16日に3本の逮捕状を要請したことに留意する。カダフィ及びリビア政府は,リビア国民を保護する責任を果たすことが出来ておらず,すべての正当性を失っている。自由で民主的なリビアに彼の未来はない。彼は,去らねばならない。

65.我々は,リビアの人々の意思を反映した政治的移行を支持することにコミットする。我々は,リビアの主権,独立,領土の一体性及び国家的統一に関する我々の強いコミットメントを想起する。我々は,リビアの人々の正当な要求に基づき,また,アラブ連盟及びアフリカ連合(AU)という地域機関の役割を考慮しつつ,包含的かつ永続的な政治的解決を促進する上で国連事務総長のリビア特使であるアル・ハティーブ氏が果たす中心的な役割を強調する。我々は,リビア・コンタクト・グループのメンバーによって実施されたイニシアティブを認識する。我々は,リビア主導でなされるべき移行プロセスへの重要な貢献として,暫定国民評議会の「リビア・ロードマップ」を歓迎する。我々は,国連憲章に従った国連安保理の中心的な役割を再確認する。

66.我々は,シリアにおいて広範囲の暴力行使の結果として発生した多くの平和的な抗議者の死,及び繰り返される深刻な人権侵害に驚愕している。我々は,シリアの指導部に対し,シリアの人々に対する武力行使及び脅迫を直ちに停止し,表現の自由並びに普遍的な権利及び切望に対する彼らの正当な要求に応えるよう求める。我々はまた,シリアにおけるすべての政治犯の釈放を求める。対話及び抜本的改革という道程だけが民主主義へとつながり,そしてシリアにおける長期的な安全及び繁栄に結実するであろう。シリアの当局がこの要請に留意しないのであれば,我々は,更なる措置を検討する。我々は,民主的なシリアがこの地域において前向きな役割を果たすことが出来るのは,意義ある諸改革を実行することによってのみであろうと確信している。

67.我々は,この地域全体における歴史的変革は,イスラエルとパレスチナとの間の紛争を交渉によって解決することの重要性を減じさせることはなく,むしろ増大させると確信している。存続可能な主権国家を求めるパレスチナ人の切望,並びに安全及び地域統合を求めるイスラエル人の切望を含め,この地域の人々の切望は留意される必要がある。今こそ,和平プロセスを再開する時である。

  a.交渉は,包括的で永続的な紛争解決への唯一の道である。これら交渉のための枠組みはよく知られている。我々は,当事者双方に対し,あらゆる最終的地位の問題について枠組み合意に達することを目指し,実質的な対話に戻るよう要請する。その意味で,我々は,2011年5月19日にオバマ大統領が示したイスラエル・パレスチナの和平構想に対し,強い支持を表明する。

  b.我々は,国際通貨基金(IMF),世界銀行及びパレスチナ支援調整委員会に最近称賛されたように,存続可能な国家を建設しつつあるパレスチナ自治政府の努力及び前進並びにアッバース大統領及びファイヤード首相のリーダーシップを評価する。

  c.我々は,交渉の再開という観点からも,パレスチナのための第二回支援国会合がパリで開催される見込みであることに期待している。

  d.我々は,イスラエル及びパレスチナ自治政府に対し,既存の協力のための合意を遵守し,前進及び更なる改革を阻害する恐れのある一方的措置を控えるよう求める。我々は,ガザの状況を緩和するよう求める。

  e.我々は,誘拐されたギラード・シャリート兵士が遅滞なく無条件で解放されるよう要求する。

68.我々は,イエメンの状況及びあまりにも長く同国を揺るがしている危機をより一層懸念している。我々は,イエメン全土にわたる平和的な抗議活動に対する暴力の行使を非難する。我々は,湾岸協力理事会の努力を称賛し,反体制派からの建設的な反応を評価する。我々は,イエメンに政治的・社会的な改革をもたらし,平和的で秩序ある移行を導く包括的なプロセスを引き続き支持している。我々は,サーレハ大統領に対し,自らのコミットメントを迅速に最後まで遂行するよう,また,イエメンの人々の正当な切望が聞き入れられることを確保するよう要請する。

69.我々は,特にイランが域内の他の場所における自由及び民主的行動に対する支持を繰り返し表明している中で,同国において民主的な権利に対する継続的な抑圧が行われていることを引き続き深刻に懸念している。同時に,我々は,イラン市民が生命を落とすこととなった暴力を,また,メディアへの干渉並びに不当な勾留及び逮捕を遺憾に思う。我々は,イラン当局に対し,国民への抑圧を停止するよう,また,市民的及び政治的な権利に関する国際規約によるものを含め,自らの国際的なコミットメントを尊重するよう求める。我々はまた,イラン当局に対し,イランの反体制指導者の移動及び通信の自由に対する制限を撤廃するよう求める。イランは,この地域において建設的で責任ある役割を果たすべきである。

70.我々は,深刻な拡散の課題,並びにそれが国際の平和及び安全にもたらす重大な脅威に関する強い懸念を改めて表明する。我々は,大量破壊兵器及びそれらの運搬手段の拡散と闘うあらゆる努力を惜しまない。我々は,外交的手段を通じてこれら課題を解決するために取り組むことへのコミットメントを改めて表明する。我々は,すべてにとって損なわれることのない安全保障の原則に基づき,国際的な安定を促進するとの方法により,NPTの目標に従い,すべてにとってより安全な世界を追求すること,及び核兵器のない世界に向けた条件を創出することに対する自らのコミットメントを想起する。

71.我々は,関連するすべての多国間条約及び取決めを支持すること,並びにその実施及び普遍化を促進することによって,国際的な核不拡散の枠組みを強化することを決意する。この点に関し,我々は,2010年のNPT運用検討会議において全会一致で採択された計画に定められた行動をとることも含め,NPT並びに不拡散,軍縮及び原子力の平和的利用というその三本柱に基づいた国際的な核不拡散体制の維持及び強化にコミットしている。我々はまた,NPT,化学兵器禁止条約(CWC)及び生物・毒素兵器禁止条約(BTWC)の締約国ではないすべての国々に対し,遅滞なくこれらの条約に加入することを求める。

72.イランが6本の国連安保理決議における義務及び10本のIAEA理事会決議の要求を一貫して遵守していないことは,最大の懸念材料である。我々は,イランが多数の義務を履行していないこと,イランの核計画が軍事的側面を有する可能性があることに関して引き続き懸念すべき分野が残っていること,及び,それゆえIAEAはイランにおけるすべての核物質が平和的活動に関するものであると結論付けることができないことを強調しているIAEAの最近の報告に深い懸念をもって留意する。我々は,NPTの下での原子力の平和的利用に関するイランの権利を認めるが,この権利は,イランを含むすべてのNPT加盟国が遵守しなければならない義務を伴うものである。我々は,イランが,中国,フランス,ドイツ,ロシア,英国,米国及びEU上級代表によるその集中的な外交的努力及び国連安保理決議第1929号の措置の採択の後,これら諸国と二度会合を行ったものの,イランが前提条件無しの真の対話に応じていないために実質的な結果がなんら得られなかったことを遺憾に思う。イランの行動次第で,我々は,デュアル・トラック・アプローチに沿った追加的措置の必要性につき決定する。

73.我々は,(朝鮮戦争)休戦協定及び多数の南北間の合意に関わる北朝鮮の挑発的な行動,国連安保理決議第1718号及び同第1874号に違反する核及びミサイル開発計画の継続並びにウラン濃縮計画及び軽水炉建設活動を非難する。我々は,国連安保理決議を完全に履行するとの自らのコミットメントを改めて表明するとともに,すべての国連加盟国に同様の行動を求める。我々は,北朝鮮に対し,すべての核計画及び弾道ミサイル計画の完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方式での放棄を含む国際的義務に従うよう,また,拉致問題といった国際社会の人道上の懸念に速やかに対応するよう要請する。六者会合を通じた問題解決への関係者の意欲に留意しつつ,我々は,北朝鮮に対し,六者会合の再開に資する環境を醸成するための具体的行動をとるよう要請し,そのための韓国による現在の努力に支持を表明する。

74.我々は,最新のIAEAの報告に示されたシリアによる協力の欠如に深い懸念をもって留意する。我々は,シリアに対し,義務を履行し,IAEAと完全に協力すること,そしてすべての主要な問題を解明するためのアクセス及び情報を求めるIAEA事務局長の要求に応えることを求める。我々は,IAEA理事会がこの問題の深刻さに対応することを期待する。

75.我々は,大量破壊兵器の運搬システムの継続的な拡散,並びに主要な技術の獲得及び大量破壊兵器に使用可能な特定の弾道ミサイル計画の開発に対して深刻な懸念を表明する。特に,イラン及び北朝鮮の計画は,深刻な懸念材料である。我々は,ハーグ行動規範やミサイル技術管理レジームのような多国間の取決め及び手段の促進を含め,大量破壊兵器の運搬が可能な弾道ミサイルの拡散が国際の平和及び安全に与える脅威と闘う努力を強化する必要性を認識している。

76.我々は,拡散問題に取り組む際に国連安保理が果たす主要な役割,及び原子力活動が完全に平和的な性質であることを保証する上でIAEAが果たす鍵となる役割を完全に支持する。包括的保障措置協定及び追加議定書は両者が一体となって普遍的に受け入れられる国際的な検認基準を構成するものとされていることから,我々は,これら協定の署名・批准を行っていないすべての国々がこれを行い,これら協定の効力を生じさせるよう呼びかける。

77.我々は,軍縮アジェンダにおける重大な進展として,米国及びロシア連邦による新戦略兵器削減条約(START)の批准及びそれに続く発効を歓迎する。我々は,軍縮会議に参加するすべての国々に対し,作業計画(CD/1864)に基づき,兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の実質的な交渉を開始することを求める。我々は,G8の核兵器国がこれら物質の生産についてのモラトリアムを発表したことへの支持を表明し,他の国々も後に続くよう求める。我々は,包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効を通じ,すべての核兵器の実験的爆発又は他のすべての核爆発を永久にかつ法的拘束力をもって停止することに向けた努力を継続するとともに,すべての国々に対し,我々のこうした努力に参加するよう,また,CTBTが発効するまでの間,核実験モラトリアムを堅持するよう求める。

78.我々は,2002年にカナナスキスにおいて発表された「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ」に関する10年間の具体的業績及び重要な成果を歓迎する。我々は,ロシアでの優先事業の完了に引き続きコミットしている。パートナーシップに対する我々の評価では,世界中で行われたあらゆる分野の大量破壊兵器不拡散活動において,23のパートナーが達成した重要な進展が認識されている。この評価はまた,将来への方向性を提供している。したがって,我々は,ムスコカで表明された重点分野(核及び放射性のセキュリティ,バイオ・セキュリティ,科学者の雇用及び国連安保理決議第1540号の履行促進)に基づき,このパートナーシップを2012年以降まで延長することに合意する。我々は,上記分野に関し,すべてのパートナーと共に,援助ニーズに関する議論及びあり得べきプロジェクトの調整に取り組み,パートナーシップのメンバーを拡大していく。パートナーは,国別,共同又は多国間で,かかるプロジェクトの資金調達につき決定する。

79.我々は,拡散とは闘わなければならないが,他方で,専門家達に対し,技術の平和的利用から得られる利益への公平かつ責任あるアクセスを確保する方法を探究し,次回サミットまでに報告するよう求める。我々は,特に途上国のために,NPT上の義務と整合的な形で,原子力の平和的利用のための資機材並びに科学的及び技術的な情報の交換を支援する。我々は,供給国グループの手続及び目的と整合的な方法で,責任ある利害関係者に対して供給国グループを拡大することを検討する。我々は,不拡散に関するラクイラ声明パラ8にある自らのコミットメントを改めて表明する。

80.我々は,中東地域における平和的な環境を創出するため,2010年のNPT運用検討会議において承認された中東非大量破壊兵器地帯に関する会議の2012年の開催に引き続きコミットしている。

81.テロと闘い,テロの広まりを助長する要因に対処することは,引き続き我々の優先事項の一つである。ウサマ・ビン・ラーディンの死は国際テロとの闘いにおける重要な前進であるが,我々は,テロ集団に由来する継続的な脅威,並びにパキスタン,イエメン,ソマリア及びサヘル一帯における同集団のプレゼンスの増大を引き続き憂慮している。我々は,人質をとる行為の増加を含め,いかなる形態及び表現であっても,テロに対する徹底的な非難を改めて表明するとともに,国際法を遵守しつつこの脅威を根絶するために共に取り組むことへの我々のコミットメントを改めて表明する。すべてのテロ行為は,その動機にかかわらず犯罪であり,非人道的であり,正当化され得ない。我々は,これらの無分別な行為によって失われ引き裂かれた生命に深い哀悼の意を表明し,テロの犠牲者を支援することへの我々の強いコミットメントを再確認し,かつ,暴力に対する犠牲者の力強いメッセージを支持する。

82.我々は,いかなる主張であれ,暴力及び暴力的な過激主義につながる過激化の現象と闘う世界的な努力に注意を払う継続的な必要性を強調する。我々は,暴力的な過激主義と闘うためのこのような努力は,国家がすべての利害関係者と関与する場合に強化されるものであることを認識する。我々はまた,テロに相対して各コミュニティ及び各国が発揮する強靱性及び結束に留意する。これは,悲劇を受け止めて新たな強さで立ち上がる社会の能力を裏付けている。我々は,効果的な対テロ戦略は,安全及び発展志向のイニシアティブを含む包括的なアプローチ,並びに,人権(暴力及び抑圧を恐れず安全にかつ安心して信仰を実践する権利を含む。),基本的自由及び法の支配の完全な尊重の双方に基づかなければならないことを再確認する。我々は,昨年ムスコカ・サミットで採択されたテロ対策に関する我々の声明が打ち出した優先事項を実施するためにとられた措置を詳述した,G8ローマ・リヨン・グループによる現状報告に留意する。我々は,この種の報告が更に作成される見込みであることを歓迎する。

83.我々は,間もなく立ち上げられるグローバル・テロ対策フォーラム(GCTF)の中で,すべての地域からのパートナーと協働することを期待している。このフォーラムは,テロとの闘いにおける国際的なコンセンサスを強化し,新たな協力の機会を創り出し,かつ国連グローバル・テロ対策戦略の実施を深化させることが目的となるであろう。我々は,国際的なテロ対策の努力において国連が引き続き果たすべき中心的な役割を強調し,国連安保理決議第1267号によるアルカーイダ・タリバーン制裁体制のような効果的な国連のツールが将来も引き続き妥当であることを確保することにコミットする。

84.我々は,5月10日に開催された「大西洋を越えたコカインの不正取引に関する閣僚会合」の成果を歓迎する。我々は,薬物の不正取引対策に関する国際協力及び地域協力を強化することを目的とした政治宣言及び行動計画が閣僚達によって採択されたことを支持する。我々はまた,薬物の不正取引が有する全世界的な性格に鑑み,多数国間の不正取引ネットワーク解体のための大西洋両岸地域によるシンポジウムの成果を歓迎し,来るパリ合意閣僚会議への支持を表明する。

85.我々は,テロ,過激派による暴力,並びに薬物の不法製造及び不法取引がなく,また,国内問題への不干渉及び相互不干渉の原則に基づいて自国の安全保障,ガバナンス及び開発について完全なるオーナーシップを有し,かつ,安定的で平和な主権国家としてのアフガニスタンへのコミットメントを再確認する。我々は,カルザイ大統領が,今後数か月内にアフガニスタン主導への治安権限移譲プロセスを開始する最初の地域について発表したことを歓迎する。我々は,ロンドン会議,カブール会議及び北大西洋条約機構(NATO)リスボン首脳会合においてアフガニスタン及び国際社会により支持された治安権限移譲プロセスを引き続き支援していく。

86.我々は,暴力を放棄し,アルカーイダとの関係を絶ち,かつ全国民への保護を含むアフガニスタン憲法を遵守するという最終的条件を満たしたアフガニスタン国民のために,和解及び再統合の政治プロセスを立ち上げるという,アフガニスタン・イスラム共和国政府及びその和平高等評議会の取組を歓迎する。包含的で持続可能な解決へとつながる政治的プロセスが必要とされている。我々は,アフガニスタン主導で行われなければならないこのプロセスを支持する。

87.我々は,2011年12月5日にボンで開催される外相会議において,これらの問題に取り組むための,及びアフガニスタンを支援する国際社会の長期的関与について議論するための機会があることを歓迎する。

88.我々は,国連職員の殉死という結果となった4月1日のマザリシャリフ国連事務所への攻撃を強く非難する。我々は,同国における平和及び民主主義の強化のために,アフガニスタン政府と共同で行われている国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)の活動に対する支持を再確認する。

89.我々は,アフガニスタン及びその周辺地域における安定,平和及び繁栄のため,政治的及び経済的な地域協力並びに法の支配発展の重要性を強調する。この点に関し,我々は,鉄道を含む輸送,水,エネルギー及び人的資源に関する国境を越えた協力が強化される見込みであることを歓迎する。

90.我々は,パキスタンへの支援にコミットしており,国際社会の支援を受けた緊急に必要な諸改革の実施によって,パキスタンが政治的,経済的及び社会的な課題に取り組むことの重要性を再度強調する。我々は,パキスタンの経済的及び社会的な発展のためには教育が決定的に重要であることを認識する。我々の協力計画は,より多くの児童をより良い学校へ送ることを一つの優先事項とする。

91.我々は,ジンバブエにおける最近の政治的緊張の高まり及び免責の文化に深い懸念を表明する。我々は,あらゆる形態の暴力及び威嚇の終結を求める。我々は,南部アフリカ開発共同体(SADC)に対し,政治,防衛及び安全保障機構トロイカ首脳会合を受けて2011年3月31日に発表されたリビングストン・コミュニケに基づき,政治合意(GPA)の実施完了に向けて調整努力を継続するよう奨励する。我々は,SADC調整チームに対し,GPAの実施完了に向けてジンバブエを支援するため,並びに,住民投票によって承認された新たな憲法上の枠組み内で,自由,平和的かつ透明性のある選挙を実施するためのロードマップに関するGPA当事者すべてによる合意及び実施を確保するため,その努力を新たにするよう奨励する。

92.我々は,2004年のシーアイランド及びその後のコミットメントに従って,平和及び安全のための能力構築を強化する取組を歓迎する。我々は,G8諸国の関連訓練施設で達成された前向きな成果を認識するとともに,各国のオーナーシップ及び互いへの説明責任が,これら能力構築活動の成功及びニーズを踏まえた適切な訓練計画の確立にとっての鍵であることを改めて想起する。

93.我々は,我々の平和維持・平和構築活動の重複を避け,我々の努力を蓄積する必要性を強調するとともに,そのために国連と連携しつつ,能力構築に関する調整強化メカニズムを実施することを奨励する。我々は,紛争後の状況における国際的な文民能力増強についてのイニシアティブの発展を支援し,この関連で専門家の採用,訓練及び派遣を強化することにコミットする。

                              別添

1.G8外相会合・議長総括(2011年3月14及び15日,パリ)

2.G8外相会合で採択された生物・毒素兵器禁止条約(BTWC)第7回運用検討会議に関するG8外相声明(2011年3月14及び15日,パリ)

3.麻薬の不正取引対策担当大臣により採択された政治宣言及び行動計画(2011年5月10日,パリ)

4.ドーヴィル説明責任報告書「保健及び食料安全保障に関するG8コミットメント:援助実施の状況と結果」

5.不拡散及び軍縮に関する宣言

6.大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップに関する報告書

7.G8原子力安全セキュリティ・グループ(NSSG)報告書