[文書名] 紛争下の性的暴力防止に関する宣言(第39回ロック・アーン主要国首脳会議‐G8サミット)
1. 外相は、武力紛争下の性的暴力を防止し、対処するための、国家、国連、その他の政府間機関、地域・国際市民社会及び非政府機関による近年の積極的な努力を歓迎した。これらの努力にもかかわらず、武力紛争下の性的暴力は引き続き生じている。複数の紛争下では、性的暴力が組織的又は広範にわたっており、すさまじい水準の残虐性を有している。外相は、武力紛争の当事者が、文民の保護を確保するために、あらゆる可能な方策を用いる一義的な責任を有するが、2012年4月に外相がワシントンにおいて留意したように、「女性・平和・安全」及び「児童と武力紛争」に関連する国連安保理決議の履行の促進等により、G8が紛争予防及び紛争解決の促進において重要な役割を有していることを認識した。武力紛争下の性的暴力は、国際人道法及び国際人権法の違反又は乱用の最も深刻な形態の一つとなっている。武力紛争下の性的暴力の防止は、それゆえ、国連安保理決議1820号にあるとおり、普遍的人権の擁護及び国際的な安全の維持の双方の問題である。外相は、武力紛争下の性的暴力が、文化的現象、戦争の不可避な結果又はより軽い犯罪であるといった神話への挑戦を含め、これらの現在行われている犯罪に対処するために、更なる取組がなされなければならないことを強調した。
2. 外相は、国際刑事裁判所、アドホック及び混合法廷、国内法廷の専門機関における取組を含め、国家及び国際的なレベルの双方において、犯罪者に責任を負わせることについての肯定的な取組を認識した。しかしながら、紛争下及び紛争後の事態において、国内司法体制が著しく弱体化し、裁きを受ける犯罪者の数が限られるといった結果をもたらしている。外相は、国際人道法が武力紛争下の性的暴力の禁止を長年に亘って謳っており、性的暴力が、文民に対する広範あるいは組織的な攻撃の一部となる場合には、人道に対する罪を構成し得、またジェノサイドを構成し得る行為であることを想起した。また、外相は、国連安保理決議第1983号(2011年)に加え、第1261号(1999年)、第1325号(2000年)、第1612号(2005年)並びに「武力紛争下の児童」及び「女性・平和・安全」に関する全ての累次の決議の下に構築された既存の規範的枠組みを想起した。外相は、UN Womenを始めとする国連による武力紛争下の性的暴力に対処する取組や、「児童と武力紛争」及び「紛争下の性的暴力」に関する国連事務総長特別代表のマンデートに対する全面的な支持を表明した。外相は、紛争下の性的暴力に対するUNアクションを通じた武力紛争下の性的暴力に対する国連の対応に一貫性及び協調性を築き、また、国家のオーナーシップや責任に焦点を当てるという、紛争下の性的暴力に関する特別代表の取組を特に歓迎した。
3. 外相は、女性及び児童の完全な人権と基本的自由の促進と擁護が、紛争下で行われるあらゆる形態の性的暴力を根絶する闘いにおいて重要であることを繰り返し確認した。それゆえ、紛争下の性的暴力を根絶するための努力は、全ての紛争予防、紛争解決、移行期の司法・治安セクターの改革への参画を含め、女性の積極的かつ平等な政治的、社会的、経済的な参画をも促進しなくてはならない。外相は、武力紛争下の性的暴力の被害者である男性又は男児、あるいは、家族に対する性的暴力目撃させられたことで二次的なトラウマをもってしまった者のニーズに応える重要性を強調した。外相は、また、武力紛争下の性的暴力を含むジェンダーに基づく暴力を防止・根絶するための努力や、男女間の平等を促進することを通じて態度や行動の変化を促すことにより被害者の負の表象を取り除く努力において、男性及び男児をパートナーとして関与させることの重要性を強調した。
4. 外相は、武力紛争下のレイプ又は他の形態での重大な性的暴力は、戦争犯罪であり、また、ジュネーヴ諸条約及びその第一議定書の重大な違反を構成することを想起した。国家は、重大な違反を行った又は命令したとみられるいかなる個人も、国籍に拘わらず、捜査し、訴追する(又は裁判のため引き渡す)義務を有している。したがって、重大な違反の罪に問われた者は、国際的な規範と整合した形で、裁きにかけられるべきである。武力紛争下の性的暴力の犯罪者にとって、処罰されない場所はあるべきでない。
5. 外相は、武力紛争下の性的暴力を根絶し、これらの犯罪に見受けられる責任の欠如に取り組み、女性、女児、男性、男児であるかにかかわらず、被害者に包括的な支援を提供するために、国際的なレベルで更なる行動が必要不可欠であることを認識した。外相は、これらの犯罪について注意喚起し、武力紛争下の性的暴力の実情についての効果的なモニタリングや報告を妨げる障害を取り除くためにこれ以上になく高いレベルで国際的な政治的意志を強化し、被害者に対しより良い支援を提供し、犯罪の調査及び犯罪者の訴追を含む武力紛争下の性的暴力に関する国内及び国際的な対応能力を構築するための、協調的かつ包括的なキャンペーンにおいて、G8各国及びその他の関係者と共同で取り組むことを約束した。この点に関し、外相は、それぞれの国内プログラムや優先事項といった事情を考慮しつつ、以下の段落で概要が示されている行動をとることにコミットした。
6. 外相は、被害者の安全、尊厳、人権を守りつつ、犯罪者に裁きを与え、被害者による司法手続へのアクセスを保証するため、武力紛争下の性的暴力の効果的な捜査や証拠書類の作成が有用であることを認識した。異なる対応者による、適用可能な国際法に則った武力紛争下の性的暴力の捜査や証拠書類作成のための共通のアプローチは、多数の関係者の努力の重複や、証拠及び情報の弱体化あるいは破壊を防止し、また、証拠書類作成及び捜査過程を通じて、被害者のための支援に十分な配慮がなされることを確保することになるであろう。標準的なガイドラインの必要性を認識し、外相は、提案された紛争下の性的暴力についての捜査及び証拠書類に関する国際的プロトコールの目的を歓迎し、その進展を支持した。
7. 女性及び児童の権利を擁護・促進し、また、武力紛争下の性的暴力に取り組む際に、女性の市民社会組織やネットワーク、特に女性の人権擁護者たちは、性的暴力事案のモニタリング、実情調査、証拠書類作成や、司法上及びその他の対応策を追求するための被害者の能力強化において、特に重要な役割を果たしている。また、彼らは、最前線での保護、サービスの提供、被害者による司法手続きへのアクセスを高めることができる。外相は、人権擁護者たちにより手厚い保護を与える必要性を認識し、そのような保護を提供するために、地方組織の関与を得て紛争の影響を受ける国々による国家レベルの行動計画の策定と履行を支援することにコミットした。また、外相は、適用可能な場合に、EUによって策定されたような、人権擁護者たちの保護及び支援のための既存のガイドラインに示されているように、関係する国々において保護する努力に関して適切な場合に協調を進めることに合意した。
8. 健康的、心理社会的、法的及び経済的支援を含む、適切かつ利用可能なサービスの提供は、武力紛争下の性的暴力の被害者のリハビリや社会への再統合の支援や、被害者が裁きを追求するための能力強化にとって極めて重要である。これは、大人を中心としたプログラムからしばしば除外されてしまう子どもの被害者にとって、特に重要である。外相は、あらゆる形態の人道的支援は、公平で、「害を与えない」原則に整合的で、人道的状況下のジェンダーに基づく暴力介入のための機関間常設委員会ガイドラインや人道的行動における児童保護の最低基準、国連人道支援の指針的諸原則に従い続けるべきであることを強調した。外相は、紛争下及び人道的プログラム、また、より幅広い開発プログラムや国際的保健プログラムにおいて、包括的対応が含まれ、適切な資金手当がなされることを確保する重要性を強調した。また、外相は、被害者のための更なる資金的支援の必要性を強調し、G8を含む国際社会に対し、例えば国際刑事裁判所の被害者信託基金及びそれを実施するパートナーといったプログラムを対象としたものを含め、そのような資金を集める努力を拡大するよう呼びかけた。
9. 外相は、防止・対応努力への更なる資金的支援の重要性を強調し、G8を含む国際社会に対し、紛争や人道上の緊急事態の初期段階から、そのような資金を集めるよう呼びかけた。外相は、また、武力紛争下及び人道上の緊急事態における性的暴力を防止し、対応するための効果的な方法に関する証拠の基盤の構築に貢献することに合意した。外相は、また、国連諸機関及びそのパートナーが、人道支援を必要とする状況下でジェンダーに基づく暴力に関する合意された水準を満たすことを確保することを目的とした国連の改革努力を支持することに合意した。
10. 外相は、人道的状況下、紛争後の移行期及び改革過程を含め、平和及び安全についての努力は、犯罪者に責任をとらせ、被害者に正義をもたらし補償を提供することを含め、武力紛争下の性的暴力を防止し、対処するための対応策を含むべきことを強調した。外相は、G8各国が支持する和平交渉や停戦は、女性の参加及び武力紛争下の性的暴力犯罪の防止・対処・減少の必要性の明示的な認識を含むべきであることに合意した。さらに、外相は、武力紛争下の性的暴力犯罪を恩赦条項から除外する必要性を強調した。外相は、全ての和平交渉、平和構築、予防、責任追及の努力における女性の関与を促進し、また、そのような努力が女性や子供のニーズや権利を考慮することを確保することを約束した。この点に関し、外相は、紛争の影響を受けている国における今後の治安分野や司法制度改革プログラムが、ジェンダーや子供に配慮したものとなり、性的暴力を含むジェンダーに基づく暴力に対処し、それを減少させるため、また、女性の十分な参画を促すために設計されるよう確保するべく紛争の影響を受けている国を支援することにコミットした。外相は、適切な場合には、国家及び非国家双方のサービス提供者を支援することを含め、性的暴力に対処し、それを防止する国内機関や法制度改革を促進する必要性を認識した。外相は、裁きを受ける犯罪者の数を増やすための、国内の司法、犯罪捜査及び法的な能力構築のために、受け入れ国政府、国連、国際機関の要請により、紛争下の性的暴力に関して特に懸念される状況下へ国際的な専門家の派遣を支援することにコミットした。
11. 外相は、武力紛争下の性的暴力に取り組む努力は、「女性・平和・安全」に関する国連安保理決議第1325号及び累次の決議のより良い履行を促進するためのより広範な努力に整合的であり、それを支援すべきであるということを認識した。外相は、国連安保理決議第1325号の履行における国別行動計画の重要な貢献を認識し、計画を定期的に見直すことを約束し、紛争の影響を受ける国々に対して、彼ら自身の計画の策定を支援することにコミットした。
12. 外相は、紛争下及び紛争後の状況においてレイプやその他の形態の性的暴力の影響が見受けられる関連地域へ派遣される適切な要員のための訓練が含まれることを確保するために、政府が、適切な場合に、自国の軍隊及び警察に提供されている教義や訓練を見直すべきであることに合意した。これは、適切な場合には、他国の軍隊に対して提供される訓練や支援を含むべきである。外相は、また、国際的な平和維持軍にそのような訓練が提供されることを確保するための国連及びその他の多国間の努力を支持する。外相は、性的暴力との闘いにおいて女性・児童の保護アドバイザーが特に貢献していることを認識し、適切な国連及びその他の平和維持活動やミッションにおける彼らの配置を呼びかけた。この点に関し、外相は、そのような女性・児童の保護アドバイザーが適切に訓練され、国連平和維持ミッションによって派遣される場合、これらのミッションの本体予算で、彼らの配置が確保されることの重要性を強調した。
13. 外相は、その他の治安上及び紛争上の差し迫った懸念事項を前にして、しばしば優先事項としてみなされない武力紛争下の性的暴力に取り組む協調的なアプローチは、明らかに、より大きな影響を与えるであろうことを認識した。国連やその他関連する多国間組織の取組に対する支援をはじめとした更なる協調は、この挑戦に打ち勝つための国際社会全体の努力を高めるために極めて重要である。外相は、政府及びその他の武力紛争当事者に対し、性的暴力と闘うための具体的かつ期限の定められたコミットメントを行い、実行するよう啓発する努力、その他の権限ある当局によるものを含め、関連する手段やリソースの作成や配布といった、紛争下の性的暴力に関する国連事務総長特別代表のマンデートに対する支持を再確認した。外相は、また、国連安保理決議第1988号で権限が付与された、法の支配・紛争下の性的暴力専門家チームの取組に対する支持を確認した。
14. 外相は、武力紛争下の性的暴力に取り組む国連の努力を強化する必要性を認識し、紛争下の性的暴力に対するUNアクションの議長である「紛争下の性的暴力」に関する事務総長特別代表に対し、また、武力紛争下の児童に対する性的暴力に取り組むマンデートの履行を助けるため、「児童と武力紛争」に関する事務総長特別代表に対し、更なる支援を提供することにコミットした。
15. 外相は、この問題に引き続き注目し、また、上記のコミットメントの実施についてよく検討した上でレヴューする必要性を認識した。