データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 2014 G7ブリュッセル・サミット 首脳コミュニケ-外交政策

[場所] 
[年月日] 2014年6月4日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

ウクライナ

1. 我々は,5月25日にウクライナで行われた選挙が困難な状況の下で成功裏に実施されたことを歓迎する。高い投票率は自らの国の将来を決定しようとするウクライナ市民の決意を示した。我々は,ペトロ・ポロシェンコをウクライナの次期大統領として歓迎し,同氏がウクライナの全ての人々に手を差し伸べようとしていることを称賛する。

2. ロシア連邦によるウクライナの主権事項に対する許容できない干渉に対し,我々は,ウクライナ政府及び国民と共にある。我々は,不法な武装集団に武装解除を求める。我々は,ウクライナ当局に対し,法と秩序を回復するための措置を継続するに当たり,慎重な方法を維持することを奨励する。我々は, 欧州安全保障協力機構(OSCE)による,特別監視ミッション及び他の手段を通じた,危機の緩和に向けた実質的な貢献を完全に支持する。我々は,包括的な形で国民対話を継続するウクライナ当局の意思を称賛する。我々は,5月20日に最高会議によって採択された「平和と統一の覚書」を歓迎し,迅速に実施されることを願う。我々は,また,ウクライナ議会及びウクライナ政府に対し,民主主義を深化・強化するとともにウクライナ全地域の全ての人々の権利と願望に応じる枠組みを提供するための憲法改正を引き続き追求することを奨励する。

3. G7は,ウクライナの経済発展,主権及び領土の一体性を支えるため,引き続きウクライナと協働する決意である。我々は,ウクライナによる困難な改革の約束が果たされることを奨励する。これらの改革は,経済の安定を支え,民間部門主導の成長を引き出すために極めて重要なものとなる。我々は,G7のパートナーからのこれまでに示された約180億ドルの支援を含め,他の二国間及び多国間支援や借款を支えるであろう,ウクライナに対する170億ドルのプログラムを承認した国際通貨基金(IMF)の決定を歓迎する。我々は,ウクライナへのマクロ経済支援の迅速な支出を歓迎する。我々は,経済支援の効果的な実施を確保するための国際的なドナー調整メカニズムを支持し,ブリュッセルでハイレベルの調整会合を開催するとのEUの意図を歓迎する。我々は,ガスの逆送能力を可能とするためのEUにおける最近の動きを含め,ウクライナのガス供給源を多様化させるための現行の取組を歓迎し,また,ロシア連邦からウクライナへのガスの輸送と供給に関し,ECにより促進されている協議の成功裏の妥結に期待する。

4. 我々は,ロシア連邦によるウクライナの主権と領土の一体性の継続的な侵害を一致団結して非難する。ロシアによるクリミアの不法な併合やウクライナ東部を不安定化させる行動は,容認できず,停止されなければならない。これらの行為は,国際法の基本原則に違反するものであり,全ての国にとって懸念となるべきものである。我々は,ロシア連邦に対し,選挙の結果を認め,ウクライナ国境地帯の軍隊の撤退を完了させ,国境を越えた武器及び武装集団の流れを阻止するとともに,武装した分離主義者へ影響力を行使し,彼らに武装を解除させ,暴力を放棄させることを要請する。我々は,ロシア連邦に対し,ジュネーブ共同声明における約束を遵守し,ウクライナ政府が平和,統一,改革を推進する計画を実施するに当たり,同政府と協力することを求める。

5. 我々は,ウクライナの主権と領土の一体性の侵害を積極的に支持又は実施してきた個人と団体,また,ウクライナの平和,安全及び安定を脅かす個人と団体に対し,制裁を課すというG7諸国による決定を確認する。我々は,国連総会決議68/262に沿って,クリミアとセヴァストーポリに関する厳格な不承認政策を実施している。我々は,情勢が必要とすれば,ロシアに更なる負担を課すため,対象を特定した制裁を強化するとともに,重要な追加的制限措置を実施する用意がある。

6. チェルノブイリ原子力発電所の敷地を安定した状態で,かつ,環境面においても安全な状態にするために援助国が資金提供している事業は,より完了に近づいている。初めての試みであるこれらの事業の複雑さを認識する一方で,我々は,全ての関係者に対し,事業を満足のいく形で終結させるよう追加的な努力を求めるとともに,事業当事者に対し,経費の抑制を求める。本件は引き続き,我々にとって高い優先事項である。

シリア

7. 我々は,16万人以上を殺害し,930万人の人々を人道支援を必要とする状況に置いた紛争の要因となるアサド政権の残虐性を強く非難する。我々は,6月3日の偽りの大統領選挙を非難する。シリアにおいて,アサドに未来はない。我々は,統一された包摂的かつ民主的なシリアというビジョンに基づき,完全な行政権を執行し,相互の同意により合意される移行的な統治主体を求めるジュネーブ・コミュニケを改めて支持する。我々は,シリア政権による国際人道法及び人権の侵害並びに無差別な砲撃と空爆を強く非難する。過激派グループも,重大な人権侵害を犯している証拠がある。このような侵害に責任を有する人々は,責任を追及されなければならない。我々は,国際法を遵守するというシリア国民連合(SOC)及び自由シリア軍の約束を歓迎する。我々は,シリアで現在行われている深刻な犯罪行為に関し,国際刑事裁判所への付託を承認し,説明責任を求める国連安保理決議案に対するロシアと中国の拒否権行使の決定に遺憾の意を表明する。

8. 我々は,シリアからの難民流入という負担に耐えている周辺諸国を支援することを決意し,人道支援に関する国連安保理決議第2139号を履行できていないことを遺憾に思う。我々は,全ての紛争当事者に対し,国境及び紛争ラインの横断を含め,最も直接的な経路により,必要な全ての人々に対する支援へのアクセスを認めるよう要請し,このため,国連安保理による更なる緊急の行動を支持する。我々は,我々の資金援助において,国境を横断する支援を含め,最も必要としている人々に支援を届けることができる人道支援主体に対し,特に支援を行うことを決定する。我々は,国際社会に対し,シリア及び周辺国向けの国連アピールの巨額の資金ニーズを満たすことを求める。我々は,シリアに流入している外国人戦闘員による脅威に対処するための努力を強化することを決意する。我々は,化学剤の度重なる使用疑惑を深く懸念し,シリアにおける全ての当事者に対し,化学兵器禁止機関(OPCW)の事実調査団に全面的に協力するよう求める。我々は,シリアに対し,廃棄に向けた残りの化学兵器の速やかな搬出を確保するため,国連安保理決議第2118号及びOPCW執行理事会の決定並びに化学兵器禁止条約における義務を遵守するとともに,直ちに製造施設を破壊し,自らのOPCWへの申告に関する全ての質問に回答するよう求める。

リビア

9. 我々は,地域の安定を促進する役割を果たすであろう,自由で繁栄し,かつ民主的なリビアを支持することを再確認する。我々は,最近の暴力に対し深刻な懸念を表明し,全てのリビアの人々に対し,法の支配の尊重に支えられ,平和的で包括的な方法を通じた政治プロセスに関与することを要請する。我々は,この点で,国連及びマンデートを履行する国連リビア支援団(UNSMIL)と協調しつつ,リビアの移行と政治的対話の促進のための努力を支援するための,国際社会による継続的かつ協調された関与を要請する。我々は,全国際社会に対し,リビアの主権と国内問題への不干渉の原則を完全に尊重することを求める。この枠組みの下,我々は,国民議会によって承認された,6月25日の選挙実施という,最高選挙委員会(HNEC)の提案を歓迎する。我々は,政治プロセスを再開するに当たって,これらの選挙の重要性を強調するとともに,制憲議会の極めて重要な活動を評価する。

マリ及び中央アフリカ

10. 我々は,アフリカ連合(AU)の議長国及び国連の取組により,5月23日にマリ政府とマリ北部の武装勢力との間で署名された停戦合意を歓迎する。我々は,ワガドゥグ合意や国連安保理の決定で規定されているとおり,政治的解決及び遅延なく開始されなければならない包摂的な対話プロセスに対する強い決意を再確認する。我々は,マリの安定化並びにアルジェリア,モーリタニア及び西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を含む周辺諸国の関与の下,マリの統一性,領土の一体性及び国家主権を尊重した,永続的な解決のために取り組む国連マリ多元統合安定化ミッション(MINUSMA)の努力を完全に支持する。

11. 我々は,中央アフリカにおいて,フランス及びEUから派遣された部隊と共に,移行を支援し,また,自由で,公正で,透明かつ包摂的な選挙の実施に向け,暫定当局に対し緊急かつ具体的な措置をとることを奨励するAU主導の中央アフリカ国際支援ミッション(MISCA)の役割を称賛する。我々は,安全保障,和解,選挙の準備及び人道支援の分野における国連の取組を完全に支持する。

イラン

12. 我々は,イランの核問題の外交的な解決への我々の強い決意を再確認し,また,アシュトン上級代表によって導かれたEU3+3とイランによる包括的な解決策を交渉する努力を歓迎する。この解決策は,イランの核計画が専ら平和的性質であることに信頼を与えるものである。我々は,EU3+3とイランによる,共同作業計画の継続的かつ効果的な実施の重要性を強調する。我々は,イランに対し,イランの核活動の検証に当たり,また,特に軍事的側面の可能性に関連する問題を含む全ての未解決の問題を解決するために,国際原子力機関(IAEA)と完全に協力することを求める。我々は,イランに対し,人権上の義務を完全に尊重することを強く要請する。我々は,イランに対し,地域の安全,特にシリアにおける安全を支援するために一層建設的な役割を果たすこと,また,全てのテロ行為及びテロ組織を拒否することを求める。

北朝鮮

13. 我々は,北朝鮮の核及び弾道ミサイル開発の継続を強く非難する。我々は,北朝鮮に対し,全ての核兵器並びに既存の核及び弾道ミサイル計画を放棄し,また,関連する国連安保理決議の下での義務及び2005年9月の六者会合共同声明の下での約束を完全に遵守するよう要請する。我々は,国際社会に対し,国連制裁の完全な履行を求める。我々は,国連調査委員会の報告書に記載された北朝鮮における現在進行中の組織的,広範かつ深刻な人権侵害について重ねて深刻な懸念を表明し,北朝鮮に対し,拉致問題を含め,これらの侵害に対処するため速やかな措置をとるとともに,関連する全ての国連機関に完全に協力することを要請する。我々は,北朝鮮の深刻な人権侵害に対する説明責任の確保を促進するため引き続き協働する。

中東和平

14. 我々は,交渉による二国家解決を確保するための米国の努力を全面的に支持する。我々は,当事者間で目覚ましい進展が得られていないことを遺憾に思い,プロセスを再開するために必要な共通の立場と,政治的な強じんさを見い出すことを当事者に要請する。交渉による二国家解決は,引き続き,紛争を解決する唯一の方法である。我々は,双方に対し,最大限の自制と共に,平和に向けた努力を更に損ない,二国家解決の実行可能性に影響を与え得る,いかなる一方的措置も避けることを求める。

アフガニスタン

15. 我々は,民主的で主権を有し,かつ統一されたアフガニスタンに対する長期的な関与及び相互の尊重と相互の説明責任の原則に基づくアフガニスタン政府との揺るぎないパートナーシップを新たにする。大統領選挙の第一回投票及び県議会選挙は,特に,投票した250万人以上の女性にとって,歴史的な成果であり,我々は,選挙プロセスの完了を期待している。我々は,統治機構を強化し,汚職を減らし,テロと闘い,経済成長を支え,麻薬問題に対処するため,アフガニスタン政府を引き続き支援する。我々は,引き続き,アフガニスタン主導のアフガニスタン自身による包摂的な和解プロセスを積極的に支持する。

海洋航行及び飛行

16. 我々は,普遍的に認められた国際法の原則に基づく海洋秩序を維持することの重要性を再確認する。我々は,国際法及び国際水域における管轄権に関して国際的に認められた原則と整合する形で,海賊,その他の海上犯罪に立ち向かうための国際的な協力に引き続き関与する。我々は,東シナ海及び南シナ海での緊張を深く懸念している。我々は,威嚇,強制又は力により領土又は海洋に関する権利を主張するためのいかなる者によるいかなる一方的な試みにも反対する。我々は,全ての当事者に対し,領土又は海洋に関する権利を国際法に従って明確にし,また主張することを求める。我々は,法的な紛争解決メカニズムを通じたものを含め,国際法に従って,紛争の平和的解決を追求する紛争当事者の権利を支持する。我々はまた,信頼醸成措置を支持する。我々は,国際法並びに国際民間航空機関(ICAO)の基準及び慣行に基づく,航行及び上空飛行の自由と併せ民間航空交通の効果的な管理の重要性についても強調する。

その他の問題

17. 我々は,全ての人々のため,宗教の自由を含むあらゆる人権と基本的自由の保護及び促進への決意を再確認する。我々は,ジェンダー平等の促進,女性と女児に対するあらゆる形態の差別と暴力の終結,児童婚,早期婚及び強制婚の終焉,全ての女性と女児の完全な参加と能力強化の促進に,かつてないほどの決意を示す必要性を認識する。我々は,今月ロンドンで行われる「紛争下における性的暴力の終焉に向けたグローバル・サミット」に期待する。

18. 我々は,テロ行為への我々の非難を再確認するとともに,人権と法の支配を尊重しつつ,効果的かつ包括的な方法でテロを抑止し対処するため,全ての関連する枠組みにおいて協力するとの我々の決意を再確認する。我々は,ボコ・ハラムによる何百人もの女子生徒の誘拐を非道な犯罪として非難するとともに,これらの若い女性たちを家に返し,犯罪者を訴追するために,ナイジェリア政府に対し可能な全ての支援を行う考えである。

19. 我々は,軍縮・不拡散問題が引き続き最優先事項の1つであることを確認し,本日発表されたG7不拡散局長級会合の声明を歓迎する。