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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エボラを越えて:アフリカにおける将来の危機の予防と安全増進を支援するためのG7アジェンダ

[場所] 
[年月日] 2015年4月15日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

2014年,エボラ出血熱の未曾有の流行が世界に衝撃を与えた。直接影響を受けた国々も国際社会も,これほどの規模の感染症及びその広範囲に及ぶ影響に対抗するための備えが出来ていなかった。我々の目標は,引き続き,地域全体におけるエボラ出血熱の新規発生件数を可能な限り早くゼロにすることである。今回の危機は,課題に対応する能力,特に今回の危機及びあり得べき将来の危機への地域的・国際的対応を見いだす我々の能力を試すものである。シエラレオネ,リベリア,ギニア及び地域全体の人的被害は,感染症及びその影響と闘うための努力を強化すべきことを常に思い出させてくれる。それは,紛争の歴史が今もなお流行国の強靱性(レジリエンス)に影響を与えており,そして,それが故にこの種の危機の予防にとっては持続的な平和と国造りが重要であることを明らかにした。したがって,我々は,保健分野における改善された国際的危機管理のための包括的なコンセプトを作り上げようとする国連におけるガーナ,ノルウェー及びドイツによるイニシアチブ,及びこうした試みに取り組むため潘基文国連事務総長によって設置されたハイレベル・パネルを歓迎する。

疾病の拡散を防ぎ,感染症及びその他の新たに生じつつある危機に効果的に対処するためには,特にアフリカの地域・越境レベルにおいて,国境を越えて全般的な協力と連携を強化することが必要であることを今回の流行は浮き彫りにした。効率的で確立された地域的協力は保健分野での危機及び地球規模の危機となる潜在性のある環境・自然災害による悪影響を抑制し,軽減する。こうした協力は,一般的なアフリカの安全保障に関する機構・能力の強化にも寄与する。

アフリカの地域的協力の成功は,アフリカ連合の汎アフリカ的権限の下での地域機関とアフリカのリーダーシップの間の機能的な相互作用に懸かっている。

我々,G7外相は,アフリカ連合及びその他のアフリカ地域機関(EAC,ECOWAS,IGAD)と緊密に協力しつつ,将来の感染症及びその他の新たに出現しつつある種類の危機の予防に焦点を当てて,アフリカにおける安全保障分野の協力を強化することに寄与すべくこのアジェンダを進展させてきた。これらの機関の枠組みにおける既存の協力のパターンに立脚し,アフリカの異なる地域における同じ方向性のイニシアチブを視野に入れ,それぞれの機関の成功例を他の地域に広げることを通じ,我々はアフリカの地域機関の域内及び地域機関の間での能力・ガバナンス強化に取り組む。

我々は,G7,EU,国連及びその他の枠組みにおいて,アフリカのパートナーに可能性を与え,強化するための進行中の取組を緊密に調和させていく意思を強調した。危機予防メカニズム及び安全保障機構は,全ての関係者・パートナー間のシナジー(相乗作用)を促進する包括的かつ透明性あるアプローチがとられる時に初めて機能する。

感染症・新型の危機に対する備え

エボラ出血熱は,新たな安全保障上の挑戦を提起する新たなタイプの危機に国際社会が直面していることを示した。2014年9月,国連安全保障理事会は,エボラ出血熱が国際の平和と安全に対する脅威であることを宣言した。エボラ出血熱との闘いは,こうした危機への対応において,様々な分野(今回においては保健及び科学研究分野)の専門家の徹底的な関与を含む,複雑で状況に合った,複数のアクターによる対応が求められることを明らかにした。予防,早期発見,即応メカニズムに関する地域的・国際的協力の改善により,新たなタイプの危機の予防・管理に備えることの重要性を強調した。したがって,我々は,1月に開催されたWHO執行理事会特別会合においてエボラに関する決議が合意され,それをもって保健分野での危機に関しWHO内で教訓を振り返るプロセスが正式に開始されたことを歓迎する。2014年9月25日,ニューヨークにおいて,我々G7外相は国際連合と世界保健機関の主導的役割と,健康安全保障上の課題に取り組むための初めての国連ミッションである「国連エボラ緊急対応ミッション」を設置するとの決定を歓迎した。我々は,各国及びEU,アフリカ連合,世界銀行,アフリカ開発銀行といった機関,並びにNGO,民間企業から寄せられた国際的援助を賞賛した。我々は,エボラウイルスの猛威に晒された国々に対し援助を提供する意思と,最も被害を受けた国々,近隣諸国,国際パートナー間の対話を行う意志を強調した。今日,我々はエボラ出血熱とその影響と闘うと共に,アフリカのパートナー,国連,世界保健機関,国際社会と緊密に協力しつつ,他の感染症の拡散を予防し,闘うための備えを向上させるための継続的取組を保障することにより我々のコミットメントを再確認する。我々は以下に取り組む。

-研究所,監視・追跡システムを含むWHOの国際保健規則で必要とされる国家の能力を発展・改善するための保健分野における国家レベルの継続的投資の増大を慫慂しつつ,WHO,国際的保健パートナーシップ,保健分野のドナーと緊密に連携し,保健分野に関する(国家レベルの)支援・能力構築を強化する。

-以下の取組を通じ,地域の感染症に対する備えを向上する。

・国境を越えた,組織的な協力・情報共有を促進する

・顧みられない熱帯病を含む疾病予防・対策のための,西アフリカ保健機関(WAHO)及びIGAD保健プログラム等の地域機関を強化する

・ECOWAS及びIGADにおける地域的疾病管理センター設置の内部検討,及び新たに提案されたAU疾病管理センターを考慮しつつ,疾病監視情報・分析の共有のための地域メカニズムの開発を支援する

・ASEOWAの経験に基づき,起こりうる新たな健康安全保障危機に早期に対応するための即時展開可能な専門家を地域でプールするための仕組みの立ち上げを促進する。この点に関連し,迅速かつ的を絞った展開を目指しボランタリーベースでの保健専門家のプールの設立を模索するというEUの意向を歓迎する

・現在のエボラ出血熱流行対策のベスト・プラクティスに関する情報交換を促進する

・感染症対策に対する地域コミュニティの関与・積極的参加が決定的に重要であることを考慮する

-現場の国際医療従事者がウイルスに感染した場合,必要に応じて緊急退避を含む実現しうる最善の支援を保障する。

-西アフリカにおけるエボラ出血熱流行に関し教訓を振り返る包括的なプロセスに基づき,またWHOの関連決議も参考に,健康安全保障上の危機に対する調和のとれた国際的・地域的準備の開発を促進するとともに,この目的のための,治療法,ワクチン及び診断に関する研究開発を含む対策を開発・改善する。

エボラ及び将来の感染症予防を越えて,我々は,新型の危機に対応するための協力と能力を向上する必要性,そうした危機に対処する上で当初から地域コミュニティの確実な関与を確保する必要性,及びこうした新型の危機に対する強靱性(レジリエンス)を強化するための持続的な平和と国造りの必要性が,今回のエボラ流行からの決定的に重要な教訓の一つであると考える。そのためには,早期警戒メカニズム,組織及びロジスティクス能力,専門的人材,調整手続きを束ねる危機対応管理の立ち上げが必要である。この観点から,我々は以下を目指す。

-政府,地域機関,市民社会,民間セクターと共に,危機管理,危機に関するコミュニケーション及び意識改革に関する能力構築を支援する。

-新型の危機への対応に関する必要かつ/又は既存のアセットについてのG7内での意見交換の結果につき,アフリカのパートナーとの対話を検討する。これは,将来の危機に備えるための,G7間の,特に科学研究セクター等の優れた分野を特定する作業を含む。

3月3日ブリュッセルにおいて開催されたエボラ出血熱に関する国際会議では,エボラ出血熱の完全な撲滅までこの極めて重要な活動に対する財源が確保されるよう国際社会の動員を継続すること,ウイルスとの闘いにおける次のステップを計画すること,及び被害を受けた国の復興を支援することの必要性が強調された。IMF・世銀の春期会合,ニューヨークにおける国連事務総長主催の会議,7月マラボでのアフリカ連合による会議,2015年第二四半期における新たなEU主催の会議等,複数の国際会議が予定されている。

バイオ・セキュリティの促進

生物学的リスクは,それが自然に発生しようと,または意図的に,あるいは偶発的に発生しようと,国境に配慮することはない。それらは国際社会に影響を与え,世界のいかなる場所においても発生しうるものであり,エボラ危機に類似した課題を提起しうる。それらは,効率的な越境的・多分野的協力と確立されたコミュニケーション・チャンネルを必要とする。予防,発見,準備,対応,バイオ・セキュリティに関する措置は,全ての国のためになる。

G7グローバル・パートナーシップで予見されていたようなパートナー国における生物学的リスクを最小化するため,WHOを通じたものを含む既存の国際的活動や,世界健康安全保障アジェンダや国際保健規則の履行等のイニシアチブ,及び類似の健康安全保障に関するコミットメントにおけるシナジーを追求しつつ,我々は以下に取り組む。

-感染性の高い疾病の流行,及びバイオ・セキュリティに関するその他の事態が発生した際の予防,発見,備え,及び対応を改善するための能力開発・訓練を支援する。

-感染性の高い疾病の流行に対し,予防し,発見し,即時に情報を共有し,早期に対応するのに必要な,監視,発見,診断能力(専門の研究所を含む),及び多分野の熟練技術を向上させる。

-機器の管理,設備強化・管理,及び関連の訓練(「訓練者の訓練」等)を含む人材管理等の課題の重視等を通じ,持続可能性を実現する。

-訓練の提供,技能開発の支援等を通じ,人間及び家畜に関する公衆衛生システムを強化する。

-潜在的に危険な生物学的物質・サンプルの保有の管理,及び可能であれば強化,削減につき改善し,国内のバイオ・セキュリティ,バイオ・セーフティシステムを確立,強化するよう支援する。

-健康安全保障の履行を加速化するための支援を評価するための共通目標に向けて取り組む。

-国内的・地域的なバイオ・セーフティ関連団体の活動を強化する。

-AU,WHO,FAO,OIE,国連安保理決議1540(2004年)に関する委員会及び生物兵器禁止条約等の国際場裏を活用すること等を通じ,地域間・国際的協力を強化する。

国境管理・越境協力の改善

エボラ出血熱は,国境地域における効果的なガバナンスの提供及びサービス供給についての課題を浮き彫りにした。それらは一般的に,国家のプレゼンスが低く,国境を越えた流動が広く行われている地域である。統合国境管理(IBM)の重要性も強調された。IBMは国境地域を開放的かつ安全に維持するものである。IBMは,地域のプレーヤーが国境を越えた課題により容易に対処できるようにする地域協力を全般的に促進する。国境を,悪影響から守り安全なものとしつつ,同時に,合法なサービス,モノ,ヒトの往来に対しては開かれたものとすることが目的である。アフリカにおいては,国境管理における中心的な安全保障上の課題は,組織犯罪,テロ,人身・武器・薬物・危険物の違法取引,移住,及び現地の越境紛争である。AU,アフリカ地域機関,EU,国連は,自由な移動及び地域間貿易の拡大と適切な安全の双方を可能とする様々な国境管理レジームを開発してきた。国境地域の社会的・基礎的生活サービスの改善及び経済成長の促進の強化がさらに必要である。

この観点から,我々は以下に取り組む。

-地域統合メカニズムの枠組みにおいて国境を越えた協力を全般的に強化・拡大する。

-国際保健規則及びアフリカ平和安全保障アーキテクチャーを支援する地域的取組に沿った形での国境警備,国境管理,国境を越えた協力の分野における能力強化を支援する。AU国境プログラム等の国境地域管理分野における既存の地域レジーム及び国際的イニシアチブを,可能な場合にはシナジーを基盤としつつ,支援する。

-保健,水,土地に関わる課題,紛争管理,越境交通の管理といった分野における国境を越えた協力のための規則と能力の開発を(AU越境協力条約に基づきつつ)支援する。

-難民,国内避難民,帰還者を含む保護を必要とする人々に対する支援を保障するため,国連,NGO,政府関係当局の既存の国境警備活動間の協力を強化する。特に脆弱なグループは難民であり,誘拐や(性的・その他の)暴力,搾取の危険にさらされている。現地のニーズや要請に応えるため,ラバト・プロセス及びハルツーム・プロセスの枠組み・プログラムにおいても強調されている,グッドガバナンス,人権,「人と人のアプローチ」の観点に特に注意を払う。

-安全保障と開発の間の全体的なつながりを考慮しつつ,法の支配,人身・薬物取引及びテロとの闘い,小型武器拡散との闘い,合法的越境移動の促進に焦点を当てて,地域協力を強化する。特に,国連及びEUのサヘル戦略,G5サヘル行動計画に沿った形でのサヘル・マグレブ協力の強化,ドナー,AU・ECOWASを含む地域機関及び地域の国々の間の共同行動の調和による大サヘル地域の小型武器取締りの強化を目指す。

我々G7外相は,本件アジェンダに引き続き関与する。我々はG7アフリカ局長に対し,アフリカのパートナーと緊密に連携しつつ,また本件文書で言及される地域的・組織的枠組み及びその他の適切な場において,本件をフォローアップする任務を課した。我々は次回会合において進捗を確認する。

(了)