データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7新潟農業大臣会合宣言 -世界とともに新しい時代を切り拓く-

[場所] 新潟
[年月日] 2016年4月23-24日
[出典] G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
[備考] 仮訳
[全文]

(前文)

 我々G7農業大臣は、世界の食料安全保障と栄養の更なる強化について、持続可能な農業政策の観点から議論するため、2016年4月23日及び24日、日本有数の稲作地帯であり豊かな農村景観を有する新潟に集った。

 2009年のイタリアでの第1回G8農業大臣会合以降、我々は食料安全保障を国際的課題の中で核心に位置づけることに成功した。

 我々は、特に急速な都市化が進む現代において、世界の食料安全保障のために農業分野が重要な役割を果たすことを認識する。我々は、我々の農業分野における新たな課題に対処するため、我々の行動が同様の課題に直面する他の国々の役に立つとの期待の下、新潟の地に集った。

 我々は三つの新たな課題を特定した。第一に、先進国では農業者の平均年齢が上昇しており、新たに参入する若い農業者の不足と合わせ、将来の農業生産にとって重要な課題となっている。農業者が地域活性化の主な担い手である地域では、共用水路の維持、景観の保全、あるいは防災活動などのコミュニティに基づく活動が崩壊の危機に陥っている。第二に、世界の人口増加、急速な都市化及び食の嗜好の多様化による、安全で栄養価が高く多様な食料に対する需要の増加が、食料供給への負荷となっており、また、そのことが都市部と農村の協働の必要性を強調している。第三に、気候変動による異常気象が、天然資源や農業システムに対する新たな圧力となっている。

 我々は、2015年に採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」や気候変動に関する「パリ協定」の実施を含め、これらの課題に対して行動を起こす必要がある。我々は、これらの経済、人口及び環境に関する新しい時代の課題に直面する農業者を支援すべきである。我々はまた、将来世代のために、生物多様性及び固有の景観の保全を含め、持続可能な農業・農村の多様な機能や、2016年のベルリン農業大臣サミットのコミュニケで特定された都市と農村の連携を認識し、またそれらの発揮を促すべきである。我々は、G7が、農業活動と非農業活動の両方を支援する取組と優良事例やモデルを開発する取組によってこれらの課題を克服するための明確な役割を担うと信じている。この観点から、我々は、農業のあらゆる可能性を拡げる取組と農村コミュニティの活性化、持続可能な農業生産・生産性と食料供給能力の改善、そして農林水産業の持続可能性への支援を行うことにコミットする。これらの課題に対処し、我々が決断した行動を実行に移すにあたっては、G7間の国際貿易に関するコミットメントと調和した形で行う。

I.農村地域の活性化と農業者所得の向上

 我々は、農業のあらゆる可能性を拡げる取組と、農村コミュニティの活性化にコミットする。我々は、力強い農業を促進し、農村コミュニティにおける適切なサービス及びインフラを維持・強化する。我々は、以下の取組によりその実現を目指す。

1.農業者への支援

 意欲的で技術を有する先進的な農業者は、農業分野の成長のために不可欠である。情報通信技術の活用、精密農業及び農業イノベーションを促進し、また自発的かつ相互に合意可能な条件下での知識の移転、移転された知識の現場への適用及び職業訓練を推進することにより、農業者の能力や技術の向上を支援する。また、農業及び食品分野への意欲ある新規参入者を後押しするとともに、新規参入者が成功できるビジネスモデルを特定する。

2.女性・若者の農業分野における可能性の拡大

 農業及びフードシステムにおける、ジェンダー平等、女性の社会的地位の向上、若者の参加奨励は、農村地域を変革し、あまねく拡がる発展を促す。女性・若者の生活や収入を改善するため、農地の所有、農業経営、マーケティング及びその他農業・食料産業関連活動における女性・若者の活躍を強化し、土地その他の資産への平等なアクセスの改善を推進する。我々は、これらの目的や2030アジェンダのジェンダー平等に関する目標を支持し、女性・若者の農業及びフードシステムにおける活躍推進のための施策に関する課題や成功事例を共有する国際フォーラムを開催する。

3.フードバリューチェーン(FVC)への農業者の参加拡大

 食品加工、流通、サービス分野を結合するFVCへの農業者の参加奨励のみならず、FVCにおける局所的、地域的、国際的な連結の構築及び促進により、農業及び農村の所得向上が期待される。FVCにおける付加価値の農業者及び農村地域への分配に貢献しうる農業者組織や協同組合によるものを含め、農業者が農産物の付加価値を最大化することを支援する。我々は、FAOとOECDそれぞれが行うFVC及び国際的な連結に関する作業を歓迎するとともに、ERIAに対し、農産物の高付加価値化を支援するための調査の実施を求める。

4.FVCのためのグローバルな責任ある投資と貿易

 農業・食料に関するグローバルな責任ある投資は、とりわけ発展途上国において、FVCの価値を向上させるために非常に重要である。我々は、農業者、食品加工業者、小売業者がこうした投資から利益を受けることの重要性の認識を共有する。我々は、国際的に認知された労働、社会及び環境に関する基準、原則、及びコミットメントの実施、特に世界的に合意された「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則(CFS-RAI)」のさらなる活用を探求する。我々は、最近採択された「責任ある農業サプライチェーンのためのOECD-FAOガイダンス」を歓迎し、企業がそれを遵守することを奨励する。我々はまた、2015年6月の食料安全保障及び栄養に関するニューアライアンスの指導者会議で提示された「土地に基づく責任ある農業投資に関するニューアライアンスの分析枠組」を歓迎する。我々は、フードチェーン全体における農業の役割強化に向けてFVCにおける農業の役割を改善するための、農業者や農村地域の企業の資金需要に応じた適切な金融手段を開発することの重要性と、自発的かつ相互に合意可能な形での知識移転の重要性について認識する。我々は、持続可能なFVCを育成し、優良事例を奨励するための、政府とビジネスとの共同の責任を認識する。我々は、全ての関連するステークホルダーを包摂的に集め、基準となる優良事例を提示し、特に開発途上国における資金へのアクセスや農業及び農業ビジネスにおける責任ある農業投資の促進に関する政策経験を交換するため、農業・食料産業分野の投資に関するG7フォーラムを開催する。途上国における農業・食料産業分野での雇用創出を可能にする環境、また同分野のあまねく拡がる成長は、農村地域からの人口流出や不規則な移民の原因を緩和しうる。透明性があり機能的な市場を通じ、WTOコミットメントに沿った農産物・食品貿易もまた、FVCの世界規模での促進及び農村地域の生産者への新たな機会の提供に資する。また、貿易は食料価格の不安定性の減少に貢献し得る。

5.農村地域における資産の最適かつ持続可能な活用

 持続可能な農業生産の増大及び食品産業分野の付加価値の向上は、農村地域の資産の利用手段の確保及び効率的な利用なしには達成されない。例えば土地、土壌、水などの天然資源の持続可能な利用は、成果の高い農業活動を行う上で欠かせない基盤である。我々は、農村コミュニティの景観や独特の食文化を高く評価する。我々は、我々個々の国家経済にとっての農村地域と農村コミュニティの重要性を認識し、農村地域の農業者と非農業者の両方の所得向上に繋がる、農業生産にとどまらない活動の多様化を推進する。我々は、VGGTに沿った合法かつ確実な土地の所有権を保障しながら、土地、土壌、水の効率的、持続可能かつ機能的な管理と利用のための政策を追求する。

II.持続可能な農業生産、生産性及び食料供給力の改善

 我々は、世界の消費者需要の一層の多様化及び農業者の高齢化や気候変動等の生産サイドの課題に対応し、世界の食料安全保障及び栄養に資するため、持続可能な形での農業生産及び生産性の改善にコミットする。我々は、以下の取組によりその実現を目指す。

6.研究開発と技術開発の推進

 持続可能性に関する課題や人々の生活の質の改善に取り組みつつ、将来の食料ニーズを満たすためには、研究開発、農業技術、イノベーション、ノウハウ、技術、そしてそれらの自発的かつ相互に受入可能な形での農業者への普及のための戦略と投資が必要である。国際的な農業研究課題には、学問横断的かつ実用指向である必要が一層増している。新しい機械・装置の現場への適用は、ブロードバンド通信、情報通信技術、ビッグデータとともに、食料供給能力の増大を促進する可能性を有している。我々は、例えば養殖漁業飼料用昆虫等の未利用生物資源の利用のような飼料チェーンにおける代替タンパク源の研究を含め、更なる研究開発を推進し、国際農業研究協議グループ(CGIAR)、小麦イニシアチブ、OECD国際共同研究プログラム(CRP)などの多国間枠組に基づく取組を促進する。我々はまた、若手研究者の人材育成の強化に取り組む。

7.動植物疾病及び生物学的脅威との闘い

 越境性動物疾病(TADs)及び病害虫は、世界の食料供給のみならず人の健康に対しても直接的に深刻な脅威となり得る。我々は、疾病と対峙するため、動物と人間の健康の関連性を強調した「ワンヘルス・アプローチ」にコミットする。我々はまた、これらの脅威に対処するため、国際獣疫事務局(OIE)、FAO、WHO、FAO/WHO合同国際食品規格委員会(Codex委員会)、並びに国際植物防疫条約(IPPC)を通じた国際的な協調を促進する。我々はまた、2014年の世界健康安全保障アジェンダ(GHSA)及びその共通目標を通じた取組を含め、G7が各国によるWHOの措置(IHR)の実施を支援することにコミットする。また、特に社会資本が未発達の国・地域において、緊急時における感染症対策及びSPS分野での能力強化を支持する意向がある。我々は、OIEやFAOのリーダーシップの下での牛疫の撲滅に至った取組を賞賛し、現在進行中の撲滅後の取組を支援する。我々は、小反芻獣疫(PPR)などの主要な疾病の撲滅に向けたOIEとFAOの取組を奨励する。我々は、動物衛生研究ネットワーク(STAR-IDAZ)のイニシアチブを歓迎する。

8.薬剤耐性との闘い

 薬剤耐性(AMR)は、世界の保健、食料生産及び環境にとっての確認された非常に深刻な脅威である。我々は、AMRについて、世界レベル、地域レベル、及び国家レベルで対応することを決意した。我々は、近年採択されたAMRに関するWHOの世界行動計画を全面的に支持する。我々は、自らの国家行動計画を策定又は評価及び効果的に実施するとともに、他国の計画策定を支援する。我々は、人・動物及び農業分野での抗菌剤*1*の慎重な使用を確保し、したがって、リスクアナリシスがなされない場合には動物における成長促進のための抗菌剤の使用を段階的に廃止し、また、人用及び動物用医薬品の分野において、抗菌剤の使用を治療目的のみとするよう努める。OIE、FAO、WHO、Codex並びにOECDとの協力の下、他の国々に対し、AMRに関連する活動への参加を奨励する。

9.協力枠組の構築

 我々は、越境性動物疾病、生物学的脅威、AMR等、公衆衛生・動物衛生分野における世界共通の課題に対処するため、既存のメカニズムを補完するG7獣医当局間での技術的な情報共有のための協力枠組を構築し、ワンヘルス・アプローチを加速させることを決断した。我々は、日本が第一回会合の主催を表明したことを歓迎する。

10.食料の損失・廃棄の削減

 G20農業大臣は、食料の損失及び廃棄が経済、環境、社会において非常に重要な世界的問題であることを強調した。我々は、G20がFAOと国際食糧政策研究所(IFPRI)に設立を要請した「食料の損失・廃棄の測定及び削減に関する技術的なプラットフォーム」の立ち上げを歓迎する。我々は、G7メンバーが、食料の損失及び廃棄を削減するための付加価値のある取組を共有するためにこのプラットフォームを使用することを奨励する。食料の廃棄を防止する戦略は、持続的な消費及び生産に関する2030アジェンダ目標の達成を促進する。

11.栄養に関するニーズの充足

 栄養不良は、依然として大きな課題であり、継続的な取組、特に栄養不足を撲滅する取組は重要である。食育は、生活の質を悪化させ保健分野での公的支出の増加を必要とする肥満や生活習慣病を含む健康問題に取り組む上で重要な役割を担う。我々は、2016年を「国際マメ年」とする国連の宣言と、豆類が世界の栄養改善への貢献について認識する。我々は、農業者、食品産業を含む全ての関連するステークホルダーとの協力の下で、栄養改善や食品安全の教育を含む食育に関する施策を発展させる。高齢人口や脆弱な人々は、特定の栄養ニーズと栄養へのアクセスの困難さ(例えば嚥下障害)を有する。こうした栄養ニーズを満たす製品の開発は、新しい市場機会となり得る。

12.農業及び食料安全保障政策のための信頼性のある統計及びデータ

 我々の食料供給能力をモニタリングし、世界の食料需給構造の変化を感知することは、適正な農業政策の基礎である。我々は、農業市場情報システム(AMIS)への支持を再確認するとともに、全ての国にわたる信頼性がありかつ比較可能な統計情報の開発を促す。我々は、世界のステークホルダーによる農業と栄養のデータの入手、アクセス及び利用を可能にする「農業と栄養のためのグローバルオープンデータ(GODAN)」イニシアチブの重要性を認識する。

III.持続可能な農林水産業の実現

 我々は、農林水産業の気候変動に対する脆弱性と生物多様性保全等の正の外部経済性を認識しつつ、農林水産業の持続可能性と農山漁村の活性化を支援することにコミットする。我々はまた、2030アジェンダ及びパリ協定の実施を支援することにコミットする。我々は、以下の取組によりその実現を目指す。

13.気候変動のための国際研究協力

 気候変動についての成果主義で幅広い研究は世界中に利益をもたらす。我々は、共同研究を増加させ、成果を共有し、自発的かつ相互に合意可能な形での効果的な知識・技術の移転を促すため、グローバル・リサーチ・アライアンス(GRA)を支援し、気候変動対応型農業に関するグローバル・アライアンス(GACSA)及びその他の気候変動・農業に関する国際プラットフォームの重要性を認識する。我々は、4/1000イニシアチブやFAOの地球土壌パートナーシップの重要性を認識しつつ、炭素の森林吸収源や農地土壌吸収源に関する知見や経験を共有する。我々は、COP22の期間中にG7フォローアップサイドイベントを開催することにより、気候変動問題に対処するためのこれらのイニシアチブを協調した形でフォローアップする。我々は、新品種の開発に寄与する、植物遺伝資源の適切な保全と利用を促進する。この観点から、我々は、食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGR)及びその遺伝資源の取得の機会の提供及び利益の配分に関する多数国間の制度、生物多様性条約及び名古屋議定書の持つ重要な役割を認識する。

14.強靱なインフラ、土地及び森林

 異常気象や自然災害の規模や頻度が増加しており、「新たな常態」となっている。我々は、気候変動や自然災害に対する強靱性を強化し、農業生産能力を維持するため、農業インフラの整備・更新、土地、土壌、生物多様性、水及び森林の管理を推進する。

15.農業及び生態系

 気候変動対応型農業、有機農業及び生態系を活用した農業を含む全ての形態の農業は、持続可能であるべきであり、また、可能であれば、生物多様性や地球の生態系の健全性に貢献するべきである。我々は、優良事例及び評価手法の共有にコミットする。

16.持続可能な森林経営と違法伐採の排除

 持続可能な森林経営は、持続可能な人の暮らし、価値がありカーボンニュートラルな原材料の提供、気候変動の緩和と適応、生物多様性の保全、持続可能な土壌や土地の管理、水域保護など、経済的、社会的、環境的便益を提供することにより、持続可能な開発に貢献する。我々は、持続可能な森林経営のための重要な一歩として、天然林や湿地の保全を含む森林生態系及び生態系サービスの保全及び再生、また森林減少の予防のため、再生、植林、人工林の利用を含む、持続可能な森林経営のための総合的な土地利用のアプローチを引き続き支援するとともに、特に小規模林業者の効率性改善のため、持続可能な林業活動における確実な森林所有、訓練、能力構築及び知識移転を引き続き推進する。我々は、森林管理の改善、違法伐採及び関連した貿易の排除並びに合法に伐採されかつ持続可能な方法で生産された木材の利用支援のための適切な措置をとることを決意する。

17.持続可能な漁業資源管理

 海洋漁業資源の持続可能な利用と、持続可能な養殖業の実践は、食料安全保障に貢献する。水産業を所管する大臣は、関連する地域漁業管理機関その他の国際的な枠組みを通じた適切な資源管理を推進する。彼らは、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の防止に向けた措置や規制の実施を確実にするよう努めること、また、第三国や地域又は国際的な専門機関に対して、こうした努力を強化するよう奨励することをコミットする。彼らは、G7外務大臣による2015年の海洋安全保障に関する宣言において表明された支持及び2015年の海洋安全保障に関するG7ハイレベル会合での反IUUについての勧告を歓迎する。彼らはまた、既存の漁業に関する漁獲努力量の拡大や新たな漁業の開発、その他資源や生息環境に影響を及ぼす可能性のある活動が、水生資源の長期的な持続可能性や海洋における生物多様性に及ぼす影響に関する事前の評価なしに行われることを防止するために協力することを歓迎する。彼らは、開発途上国が海洋生態系に対する負の影響を減じるために自国の漁業活動の評価することを支援する取組を支持する。彼らは、生物種や重要な生息環境を保全する取組を推進する。

 我々G7農業大臣は、これらの取組が自発的かつ相互に緊密な協力の下で実施されることを期待する。我々はまた、FAO、OECDを含む国際機関及びG20各国に対し、取組を進めることを求める。

 我々は、2011年に発生した東日本大震災からの復興に向けた5年間にわたる日本の取組に注目するとともに、復興を加速するための世界中からの支援について賞賛する。我々は、輸入規制が、科学的知見と根拠に基づくSPS合意を含むWTOルールと調和的であるべきことを確認する。我々は、これらのルール及び合意を尊重することにコミットする。我々は、被災地の復興が一日も早く達成されることを期待する。

 さらに、我々は、最近熊本・大分地域で発生した地震によって被災した人々、並びに世界中で自然災害による被害に苦しんでいる人々に対して、心からの連帯の意を表明する。

(以上)

{*1* G7諸国における「抗菌剤」の用語の定義の相違に留意しつつ、ここでは人の健康に影響を及ぼす抗菌剤を指す。}