[文書名] G7エネルギー大臣会合共同声明 グローバル成長を支えるエネルギー安全保障のための北九州イニシアティブ
我々、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国及び米国のエネルギー大臣、欧州委員会気候変動対策・エネルギー担当委員は、足元の不安定なエネルギー価格とCOP21におけるパリ協定を背景に、2016年5月1-2日、北九州市に集い、2015年のハンブルク会合以降の進展について議論した。我々は、2016年5月26-27日のG7伊勢志摩サミットに向け、首脳の検討のため、以下の共同声明を発出する。
1. 我々は、エネルギー安全保障のためのローマ・イニシアティブ及び持続可能なエネルギー安全保障のためのハンブルク・イニシアティブにおいて定められた原則及び行動への確約を再確認する。これらの原則は、G7諸国による共同エネルギー安全保障の基礎を成す。
2. 我々は、先日、熊本県及び大分県で発生した地震の犠牲者に哀悼の意を捧げるとともに、被災した人々に対し連帯の意を表明する。我々は、電力、ガス、石油を含むエネルギー・システムにおいて、自然災害に対する強靱化に取り組み、災害時にはシステムの素早い復旧を行うための緊急時対応を行うことが、エネルギー安全保障の強化にとって、極めて重要であることを確認する。
3. 我々は、大臣会合に先立ち、「子供たちの未来のエネルギーを考える女性会議」及び「ユースエネルギーサミット」への支援等を含む、女性及び子供のエネルギー面の課題に関する議論への参加を促す北九州市による取組を留意する。
4. 我々は、エネルギーが、世界の経済成長において重要な役割を果たすことを認識する。質の高いインフラ、再生可能エネルギー及びその他の低炭素技術の革新、省エネを含む、エネルギー分野への投資は、二酸化炭素排出から経済成長を切り離しつつ、経済構築の助力となる。特に、最近のエネルギーの価格水準と不安定性を踏まえれば、安定的かつ持続的なエネルギー供給に対する継続的な投資は、将来の世界経済成長に対するリスクを緩和するために不可欠である。
5. 我々は、世界のエネルギー安全保障の強化において、継続的に主導的な役割を果たすことを確約する。エネルギー安定供給、経済効率性、環境への適合及び安全性(3E+S)という多重的な要請に応えることは、生産国、消費国、先進国、新興国を問わず、全ての国にとって継続的な挑戦である。十分に機能する透明な市場、エネルギー資源や供給源及び供給ルートの多様性、省エネルギーの拡大並びにエネルギー・システムの強靱化、これら全てが、エネルギー安全保障の強化のために必要である。継続中のロシア及びウクライナ間の危機に関し、我々は、エネルギーが政治的威圧の手段や安全保障への脅威として使われるべきでないことを繰り返し強調する。我々は、ウクライナ及びエネルギー供給途絶において脆弱な他の国々が、強靱で完全に競争的なエネルギー・システムを追及することに対しても、支援する。
6. 我々は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国が第21回締約国会議(COP21)において、産業革命以前と比べ、世界の平均気温上昇を2℃よりも十分低く保持すること、及び世界の平均気温上昇を1.5℃までの上昇に留める努力を追求していくことを含むパリ協定を採択したことを歓迎する。我々は、締約国、特に主要排出国に対し、可能な限り早期にパリ協定を批准、あるいは参加し、速やかな発効を可能にするよう促す。我々は、エネルギー・システムが、その履行のために重要な役割を果たすことを認識する。我々は、パリ協定を履行するとともに、世界経済の脱炭素化を可能とするエネルギー・システムへの移行に向けての取組を加速することを決意する。我々は、炭素市場ベースの手法や規制手法等を含む効果的な政策および行動を通じて、低炭素成長に向けた投資促進の重要性を留意する。我々は、持続的経済成長と温室効果ガスの相当な排出削減を共に可能とするエネルギー・システムを構築するための戦略的な手法を策定し、実施することを確約する。我々はまた、クリーン・エネルギー技術の普及と革新的技術の研究開発促進が我々の未来にとって極めて重要であることを確認する。
I.世界の成長を支えるエネルギー投資
7. 現在のエネルギー価格水準と不安定性は、投資を減退させ、エネルギー市場と世界経済の不確実性を拡大させている。エネルギー効率向上及びクリーン・エネルギー技術の普及は、経済成長及び温室効果ガスの排出削減を同時に達成する上で極めて重要である。我々は、クリーン・エネルギー並びにあらゆる分野におけるエネルギー効率の高い製品、設備及び建物を奨励するためには、革新的技術を支援するための投資が重要であることを確認する。
8. 我々は、世界経済の成長を下支えする長期的かつ持続的なエネルギー供給を確保するため、官民による継続的な上流投資が重要であることを強調する。質の高いエネルギー・インフラ投資を通じたエネルギー・インフラ需給ギャップの解消は、強くバランスのとれた成長に寄与する。従って、我々は、国際開発金融機関(MDBs)を含む世界中の利害関係者に対し、質の高いインフラへの投資促進を奨励する。
II. エネルギー安全保障
天然ガスの安全保障
9. 天然ガス市場の拡大する役割とグローバル化は、パイプライン及び液化天然ガス(LNG)の双方について、新たな機会と挑戦をもたらす。我々は、日本の「LNG市場戦略」、EUの「LNG及びガス貯蔵戦略」及び北米等からのLNG輸出を歓迎する。ガス供給の安全保障強化のためには、よく機能し、強靱で、相互連結性があり、市場で価格形成がなされる、より透明で柔軟で流動性のある天然ガス市場が必要である。LNG契約における仕向地条項の緩和、LNG需給を反映した価格指標に向けた市場発展の促進及び関係者間の継続的な対話が、これを達成する上で極めて重要である。我々は、LNGサプライチェーンを、世界レベルで、包括的かつ定量的かつ信頼できるデータを用いて更に戦略的に考察するとともに、ガス市場の強靱性を十分に理解するよう取り組む。
10. 適切な法的枠組みとともに、開放的で強靱なガス・インフラを拡大することは、透明で、統合化され、自由化されたガス市場にとって不可欠である。関連する費用と便益を分析しつつ、上流投資を円滑化し、頑健で、信頼でき、安定的な、十分なサプライチェーンを確保することは、将来の安定供給の確保及びエネルギー多様化の加速にとって有益である。我々は、エネルギー・インフラ・プロジェクトにかかるリスク緩和にとって有益な全ての政策オプションを検討する準備ができている。
11. 我々は、運輸部門を含め、より炭素排出の少ない化石燃料である天然ガスの新技術の発展及び用途の拡大を支持する。我々は、メタンが温室効果ガスとして高い効果を持つことに鑑み、天然ガスの全ての生産、処理、流通、及び利用が、メタン排出を最小化する形で行われることを強調する。シェールガス及びその他の非在来型ガスを開発する国においては、適切な規制及び環境枠組みに沿って開発されるべきである。
サイバーセキュリティ
12. サイバーセキュリティは、エネルギーの供給確保を保証する上で重要な要素となっている。エネルギー・ネットワークがよりデジタル化し分散化したシステムに転換する中、新たなサイバーの脅威が増している。我々は、2015年11月にベルリンで、2016年3月に東京で開催されたG7エネルギー・サイバーセキュリティ・ワークショップの成功を歓迎する。我々は、新たなサイバーの脅威に効果的に対応し、重要な機能を維持するため、電力、ガス及び石油を含み、強靱なエネルギー・システムを促進することを確約する。
電力安定供給
13. 電力安定供給は、エネルギー安全保障にとってますます重要な位置づけとなっている。電力は、最速で成長するエネルギー形態であり、世界経済の脱炭素化を達成するためには、急速で斬新な転換が必要である。我々は、ドイツが開催した電力安定供給強化に関する専門家のワークショップを歓迎する。我々はまた、電力安定供給に関する国際エネルギー機関(IEA)の報告書及びIEAが国際再生可能エネルギー機関(IRENA)との協力により作成した、後悔のない選択肢を含む、様々な再生可能エネルギー源の電力系統への統合に関する報告書を歓迎する。
14. 電力市場の多様な特性を認識しつつ、電力安定供給を高めるため、我々は、より良い電力市場のデザイン及び適切な規制枠組みの必要性を強調する。これらの枠組みは競争を生み、水力発電を含む再生可能エネルギー及びその他低炭素発電への投資を促進し、デマンド・レスポンスを含み、変動性のある再生可能エネルギーを取り込む、長期及び短期のシステムの信頼性及び柔軟性を提供し、より深い地域市場統合を助けるはずである。この過程は、信頼性基準の設定、系統能力を計画し、容量メカニズムを設計するにあたってのより良い連携により、促進される。
ウクライナ支援
15. 我々は、ウクライナにおいて、ガス及び電力セクターの市場及び料金システム改革、並びに、エネルギー源及びルートの多様化を含む、エネルギー政策の重要な改革が進行中であることを歓迎する。特に、我々は、ウクライナによる、住宅用ガスをベースとする熱分野を対象として、包括的な省エネプログラムに向けて必要な枠組み条件を設定するとの、最近の発表を歓迎する。我々はまた、エネルギー分野の透明性向上のため、ウクライナによる採取産業透明性イニシアティブの実施を歓迎する。
グローバル・エネルギー・ガバナンス
16. 我々は、国際的なエネルギー展望において新興国の重要性が拡大していることを支持する。我々は、IEA及び新興国の間の、より深く幅広い協力に向けた長期的なプロセスの重要な一歩となる、「アソシエーション・イニシアティブ」を含む、IEAによる関係強化の強化を支持する。我々はまた、非加盟国との更なる関係強化を通じて、石油安定供給システムを含め、エネルギー安全保障を強化するとのIEAの努力を歓迎する。新興国が世界のエネルギー安全保障の強化に関与するよう、G7諸国は、国レベルまたは地域レベルでの努力を継続する。
III. 持続可能なエネルギー
エネルギー技術の革新・普及
17. 我々は、再生可能エネルギーを含むクリーン・エネルギーに関し、喫緊に必要な技術の発展を加速し、世界の持続可能なエネルギー転換を達成するためには、エネルギー技術革新、研究開発及び普及における協力を強化するとの意思を確認する。我々は、リマ・パリ行動計画の下で立ち上げられた国際的なイニシアティブを歓迎する。
18. 広く普及したクリーン・エネルギーの技術革新を加速することは、我々が共有する気候変動への効果的かつ長期的な国際対応のために必須であり、経済的で信頼できるエネルギーを全てに対し提供し、経済成長を促進させるためにも必要であり、かつ、エネルギー安全保障にとっても極めて重要であることを認識し、我々は、パリのCOP21で始動した、ミッション・イノベーション(MI)に対する我々の強い支持を再確認する。
19. 我々は、社会的容認を考慮しつつ、クリーン・エネルギー技術を普及することの重要性を認識する。2008年のG8北海道洞爺湖サミットで開始し、その後21のロードマップ策定に至った、「IEAエネルギー技術ロードマップ」第1弾の実質的成果を基礎に、我々は、実行可能で影響力の高い技術に注力する、IEA技術ロードマップ第2弾の開始を歓迎するとともに、IEAに対し、その進捗を報告するよう求める。我々は、炭素回収、利用および貯留(CCUS)を実施する国に対し、大規模実証プロジェクトにさらに取り組むよう求める。
省エネルギーの促進
20. 我々は、エネルギー効率の向上が経済の脱炭素化を進め、エネルギー安全保障を強化し、経済成長を発展させる鍵であり、「第1の燃料」として見なされるべきであることを確認する。我々は、省エネを更に促進する努力の強化を目指すとともに、他国に対しても後に続くよう要請する。
21. 我々は、エネルギー効率と資源効率の、強い相互関係性及び同時に改善することの重要性を強調する。
原子力安全〜福島の経験から
22. 国際原子力機関(IAEA)が福島第一原子力発電所の過去5年に亘る状況の改善について報告したことに留意し、我々は、同発電所の廃炉・汚染水対策が着実に進展していることを歓迎する。我々は、福島の状況に関する正確な国際的理解を高めるため、日本が継続的に放射能汚染及び空間線量を調査し、科学に基づく情報を発信していること、また、同国が国際社会と緊密にコミュニケーションしつつオープンかつ透明な形で進めるよう努力していることを歓迎する。
23. 原子力の利用を選択する国において、原子力は、将来的な温室効果ガスの削減に対し重要な貢献をするとともに、ベースロード電源として機能する。また、このような国においては、原子力政策に対する社会的理解を高めるために、科学的知見に基づく対話と透明性の向上が極めて重要である。
24. 我々は、世界中で、高いレベルの原子力安全、核セキュリティ及び核不拡散を達成し、維持することが極めて重要であることを再確認する。いかなる国においても、原子力安全について自己満足に浸る根拠はない。この観点から、G7原子力安全作業部会の報告書及び継続的な取組を歓迎し、また、IAEA、OECD原子力機関(NEA)及び世界原子力発電事業者協会(WANO)等の国際機関を通じて相互協力と情報共有が行われることを歓迎する。また、同様の観点から、我々は、世界のあらゆる国々において、社会に対して安全対策に関する情報提供を行いつつ、産業界及び規制当局の間での建設的で透明な対話がなされることへの決意を確認する。
我々は、世界の成長を支えるエネルギー安全保障を強化するため、ローマ及びハンブルクにおいて合意された原則及び行動に加え、以下の共同行動をとることに合意する。
25. 我々は、世界の成長を下支えするため、関係する利害関係者との緊密な協力の下、クリーン・エネルギー技術を奨励するための革新的な投資、上流投資、サプライチェーンへの質の高いインフラ投資を含めた、安定的で持続可能なエネルギーに向けた投資を促進していく指導的役割を担う。我々の経済におけるエネルギー関連の雇用の重要性に鑑み、エネルギー部門全体での雇用に関連する問題の議論に取り組む。
26. 我々は、ガス市場の機能及び強靱性を向上させる努力を継続する。我々は、ガスの緊急時対応に関する知見と方法を共有する。我々は、IEAに対し、世界の天然ガス需給のデータ及び予測の改善、強靭性に関するアセスメントの実施、及び新たなガス市場定期レポートの刊行を含む、天然ガスの安全保障に関する強化された取組の報告を求める。我々は、2016年11月に東京で開催されるLNG産消会議等、既存の場を活用し、天然ガス市場の安全保障に関する緊密な協力を継続する。
27. 我々は、エネルギー分野のサイバーセキュリティに関して、サイバーの脅威に関する情報と知見の共有を円滑化し、このような脅威への対応をとるため、各国のコンピューター緊急時対応チーム(CERT)を含む専門家間の、地域及び分野を超えた連携を円滑化し、また、新たなサイバー関連の強化ツール及び技術の研究開発に関する継続的な対話を支持する。我々は、共通の要素及びベスト・プラクティスを特定するため、エネルギー安全保障政策の観点から、G7各国のエネルギー分野のサイバーセキュリティ対策の調査を行う。
28. 我々は、電力システムの脆弱性評価へ追加的に取り組む。我々は、IEA及びIRENAに本評価に関する各自の取組を更に進めるとともに、更なる助言を提供するよう求める。
29. 我々は、独立のエネルギー規制当局を構築するための法案の採択を含めたエネルギー部門の野心的な改革、及び競争力と透明性のあるエネルギー市場を構築するための個別の法案を成立させるよう、ウクライナに対し強く促す。また、ウクライナの国営ガス配送システム事業者及び関連事業者の間の協力強化を要請する。我々は、G7エネルギー分野のウクライナ支援に関するレポートを承認する。我々は、エネルギー改革、強靱性に係る計画、国内生産量の増強を含む必要なガス供給の確保、省エネルギー政策及び技術の普及拡大のためのロードマップに関し、ウクライナとの緊密な協議を継続する。
30. 我々は、他のミッション・イノベーションのメンバーと協働し、必要に応じ、共同研究や情報共有をしつつ、クリーン・エネルギー技術革新に対する政府投資の増大、民間部門との連携、高度な技術や経験の普及を通じて、ミッション・イノベーションにおいて主導的な役割を果たすことを目指す。
31. 我々は、革新的なクリーン・エネルギー技術開発を促進するため、関連する研究所及び研究機関が協力していくことを奨励する。
32. 我々は、無駄な消費を助長する非効率な化石燃料補助金の段階的廃止に引き続き確約するとともに、全ての国に対し、2025年を期限に同様の取組を奨励する。
33. 我々は、省エネに関して野心的に取組を継続するとともに、省エネ関連の取組に関する国際協力及びあらゆるセクターにおけるエネルギー生産性を向上させることを支持する。この観点から、我々は、ハンブルクにおけるG7エネルギー大臣の要請に基づき、IEAが国際省エネルギー協力パートナーシップ(IPEEC)と緊密に協力して取り組んだ、省エネ関連の作業の進捗を歓迎する。我々は、IEAに対し、エネルギー効率を改善するための市場ベースの手法やその他の選択肢に関する継続的な作業を進め、報告するよう求める。
34. 我々は、原子力の利用を選択する全ての国に対し、独立した効果的な規制当局を含め、安全性、核セキュリティ及び核不拡散において最高レベルの水準を確保し、その専門的な知見や経験を共有することを求める。我々はまた、全ての原発輸出国に対し、全ての関連する原子炉の設計や安全性に関する情報を、国際的な輸出管理レジームと整合する形で、透明性をもって共有することを求める。我々は、原発の輸出国及び導入国の双方に対し、安全性に関するピアレビューを受入れ、その結果を共有し、勧告を履行することを促す。
(了)