データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] つくばコミュニケ G7茨城・つくば科学技術大臣会合

[場所] 2016年5月15-17日
[年月日] 茨城県つくば
[出典] G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
[備考] 仮訳:暫定版
[全文]

序文

我々、力ナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の科学技術担当大臣と、欧州委員会の研究・科学・イノベーション担当委員は、2016年5月15日から17日に、日本の茨城県つくぱ市で会合した。

我々は、社会や経済の発展、および保健医療・エネルギー・農業・環境などの地球規模の課題に取り組むためには、科学技術イノベーション(STI)が不可欠であることを認識した。我々は、STIが持続可能でインクルーシブな社会開発に貢献すべきであると強調する。

我々は、社会全体がSTIのメリットを享受すべきであること、および、デジタル化の進展、InternetofThings(IoT)の普及、情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)などのイネーブリング・テクノロジー(実現技術)の発展を通じて、STIのプラスのインパクトを加速すべきであることを認める。すべての人にSTIのメリットをちたらすというビジョンを明らかにするために、日本は、市民社会を中心に据えた科学技術の開発によってインクルーシブで豊かな社会の実現を目指す

「Society5.0」という考え方を提唱している。

現在、我々は、人口の高齢化、ジ工ンダー不平等、エネルギー安全保障、環境問題などの長期的に持続する地球規模の課題に直面している。東日本大震災の経験を踏まえ、我々は、特に、危険や災害への社会の回復力を強化することの重要性を認識している。また、社会の中で成功を収めている人と成長から取り残されている人との格差が、国内外で拡大している。我々は、STI、特にICTの力を活用したSTIが、年齢・ジ工ンダー・言語・地域を問わず、すべての人に繁栄をちたらす大きな可能性を持っていることを認識した。したがって、我々は、インクルーシブ・イノベーションの推進に取り組んでいくこととする。

さらに我々は、オープンサイエンスは研究開発(R&D)のあり方を変えることができ、その結果として国際連携の強化や参加者・ステークホルダーの拡大につながる可能性があることを認めた。また我々は、市民科学の台頭に代表されるようなR&Dにおける包摂性を推進する上でち、オープンサイエンスが重要な役割を果たすことを認識した。

このような問題に取り組むために、我々は、G7茨城・つくぱ科学技術大臣会合で議論すべき個別課題に対して、インクルーシブ・イノベーションとオープンサイエンスを分野横断的課題と位置づけ結論を導き出すようにした。その個別課題とは、グロールヘルス、次世代の科学技術イノベーション人材育成・女性活躍推進、海洋の未来、クリーンエネルギーである。また、STIの社会的インパクトを最大化するために、我々は他のG7関係閣僚会合と協力し、その他の省庁と密に連携を図るちのとする。

我々は、次回のG7科学技術大臣会合がイタリアで開催されることを歓迎する。

本日、我々は、「つくぱコミュ二ケ」を承認し、2016年5月26-27日のG7伊勢志摩サミットに向け、首脳の検討のためこのコミュ二ケを発出する。

1:グローバルヘルス-保健医療と科学技術

高齢化の進展する社会における「アクティブ・エイジング」の推進、および顧みられない熱帯病(NTDs)と貧困に起因する病気(PRDs)に関する研究開発の促進を図ること。

我々は、健康問題が世界各国で最ち差し迫った課題のひとつとなっており、このような課題に取り組む上で、STIが重要な役割を果たすべきであることを認識した。

G7諸国ととちに、多くの新興国ち社会の急速な高齢化に直面している。高齢化社会における緊急の課題に対応するためには、高齢者が健康的に年を重ね、良質なケアを受けられる社会システムの構築を含む、科学に基づいたイノベーションが重要な役割を果たすことを我々は確認した。

また、感染症によって引き起こされる国際的な健康危機を一層認識し、NTDsおよびPRDs対策に係る研究開発の連携など、各種政策や施策との連携を加速することを決意した。

さらに、我々は、2013年にロンドンで開催され、薬剤耐性(AMR)を公衆衛生危機管理上の重要な課題として位置づけたGS科学大臣会合の重要性を再認識し、AMRの低減に必要な科学的知見を得るために協力して行動することを呼びかけた。

- 1-1:高齢化と高齢者ケアに関するR&Dの促進

我々は、高齢者が各々の能力や関心に応じて社会参加を続けるアクティブ・エイジング社会の実現を目指して支援することの重要性を認識した。また、加齢に伴う健康問題の予防、適時診断、治療、支援、ケア、および高齢者を包摂する社会的・物理的インフラの整備を含む高齢者ケアに関する適切な保健医療制度を通じて、STIが貢献する役割の重要性を認識した。また、高齢になってちなるべく長い期間、健康で自立した生活を送り、積極的な社会参加ができるようにするため、中年期に健康的なライフスタイルを実践することを推進し、意識啓発を図っていく。

我々は、認知症などの加齢に伴う脳疾患の機序を解明し、治療や予防に取り組む上で、脳科学研究が重要であることを再確認した。したがって、脳研究の国際連携を促進することが必要である。また、我々は、脳機能の動的理解を目指すには、基礎研究や革新的技術の開発を支援することが必要であると考えている。さらに我々は、医療に対するより統合的な取組やロボティクスの活用を通じて、高齢者の福祉や生活の質の向上、さらに、重要なことに、介護者の負担軽減にち貢献しうることを認識した。よって我々は、以下を決意する。

i. Gサイエンス学術会議2016で採択された共同声明の脳研究に関する提言を支持し、各国の研究開発のマッピングを通じて、認知症などの脳疾患を含む脳機能についての長期的研究や国際連携を促進すること、そして、国際的・学際的な研究プログラムの加速と新技術の開発を行うこと。

ii.オープンサイエンスを推進して、加齢に伴う問題に関連する脳科学分野で公的資金による研究成果(研究データおよび論文等)を共有すること。

iii.相E学習を奨励して、高齢者の社会参加の促進を目指すアクティブ・エイジングに関するグッド・プラクティスを共有し、社会科学研究と医療・ICT・ロボット支援を統合して、家族や社会の負担を軽減すること。

- 1-2:NTDsおよびPRDs分野における研究開発活動の促進

2015年にベルリンで開催されたG7科学大臣会合では、NTDsとPRDsに対処するために連携の枠組みを構築する必要があることが認識された。NTDsおよびPRDsに係る研究開発の連携を強化するというG7のコミットメントを前進させるために、G7グループが取りまとめたNTDs・PRDsに関する具体的なアクションプランの提言を我々は歓迎した。我々は、同グループによる進捗を歓迎し、以下を明確に決意する。

i. NTDsおよびPRDsに係る連携および情報・データの共有化を推進する基盤として、研究開発活動のマッピングを行うこと。

ii.NTDsおよびPRDsに係る公的資金に基づいた情報やデータを、自由にアクセス・利用できるようにすること。

iii. 研究開発活動に関連するデータと情報の相E運用性を強化すること。

iV.この分野におけるG7のアクションプランを推進するために、現在の会議体を将来の作業部会として維持すること。

2:次世代の科学技術イノベーション人材育成・女性活躍推進:

STIにおける女性の活躍および次世代のグロールリーダーの人材育成を目指して

- 2-1:科学技術イノベーション(STI)における女性の活躍の促進

我々は、G7エルマウ・サミットで採択された「女性の起業家精神に関するG7原則」の重要性を認識した。我々は、女性の科学者、研究者や技術者がSTI活動に積極的に関与し、リーダーシップを発揮できるようにするためには、女性が自らの能力を開発して、最大限に活用し、自らのキヤリアを切り拓くことができる平等な機会を持ち、そのような環境を実現するための制度改革や政策環境の整備を行うことが重要であることを再確認した。また我々は、女性研究者・技術者や女子生徒・学生の国際的なネットワークを強化することの重要性を認識した。我々は以下を決意する。

i.女性科学者、研究者、技術者と女子生徒・学生の国際的なネットワークづくりを支援すること。

ii.科学・技術・工学・数学(STEM)の4分野の教育現場や職場にありがちなジ工ンダーに関するステレオタイプ(固定観念)や偏見を監視し、行動を起こすこと。

iii. 科学技術関連の企業や組織で女性起業家や女性研究者・技術者が活躍することを奨励するグッドプラクティスを共有すること。

iV. STIの分野で女性が自らの能力を発揮し、キヤリアを切り拓いて、活躍するための平等な機会を与え、そのための政策を策定し、職場環境を整備すること。

- 2-2:次世代のグローバルリーダーの人材育成

我々は、STIの未来を担う次世代の人材育成と能力開発を支援・奨励することの重要性を再確認した。岡山で開催されたG7倉敷教育大臣会合の議論を受けて、我々は、STEM分野に重点を置いた教育を推進するというコミットメントを共有した。また、グロールリーダーを育成するために、すべての生徒・学生と研究者を対象に、国際的な交流プログラムや交換留学プログラムを実施することの重要性を認識した。よって我々は以下を決意する。

i. STEM教育におけるグッドプラクティスを共有すること。

ii.男女の研究者が将来のリーダーにふさわしい国際経験を積むために、各自の二ーズや関心に平等に対応したリーダーシップ・プログラムを受講する機会を、各国が協力して提供すること。

iii.すべての生徒・学生と研究者が、社会問題や地球規模の課題に取り組むグロールチームに参加できる機会を増やすこと。

我々は、我々の活動がグロー ル・ヤング・ア力デミー(GYA)のような国際的な科学委員会の

活動を助長し前進することを期待している。

3:海洋の未来:

科学的知見に基づく海洋環境の保護と持続可能な海洋利用に向けて

海洋生物の生育海域の過剰利用や破壊、海の酸性化の進行、酸素濃度の低下により、海洋環境は急激に変化している。「海の健康」は経済開発に関する重要な問題として適切に認識されており、国連は持続可能な開発目標(SDGs)の目標14に海の豊かさを守ることを掲げている*。このような進展があるにちかかわらず、海洋内部の大部分は十分に観測されていない。我々は上記のすべてを認識し、海洋で起きている変化やそれが経済へ与える影響を評価するために必要な科学的知識を協力に発展させること、および、海洋の持続可能な利用を確立するための適切な政策立案を行うことが、極めて重要であることを確認した。したがって我々は、海洋の未来に関するG7専門家作業部会の進捗報告と提言を歓迎する(別添2参照)。

SDGの目標14およびその他の関連する目標の達成や関連する条約の目的に資するため、我々は以下を実施することを支援する。

i.気候変動や海洋生物多様性をモ二ターするため、既存の海洋観測の維持や調整を行う一方で、国際アルゴネットワークやその他の海洋観測ネットワークを通じて、国際的な海洋観測の強化に取り組むことを支援する。

ii.海洋の状況に関するコンセンサスを形成し、G7グループの内外で持続可能な管理戦略を策定・展開するため、定期的な時間軸で海洋環境アセスメントの実施システムを強化することを支援する。

iii.さまざまな海洋データの発見可能性・利便性・E換性を確保するために、オープンサイエンスを推進し、グロールなデータ共有インフラを向上させる。

iV.途上国のキヤパシティ・ビルディングの支援を含む、地域の観測能力と知識ネットワークの発展を奨励するために、協調を図りながら一貫性のある方法で連携アプローチを強化する。

V.将来の定常海洋観測の強化に必要な追加的な活動を特定することにより、G7の政治的な連携強化を推進する。

我々は、この分野におけるアクションを前進するために、専門家会合を将来の作業部会として維持することを賛成する。

同時に、ベルリンでの2015年G7科学大臣会合の同意に基づき、海洋ごみ(プラスチックごみを含む)と深海低鉱業が及ぼす環境影響に関する研究のフォローアップの状況について、レビュー及び議論を行った。我々は、特に、海洋ごみの規模や影響をより良く把握するための科学的活動の重要性を再確認した。こうした活動は、G7富山環境大臣会合で示された重点施策の実施に寄与することになる。

4:クリーンエネルギー-革新的なエネルギー技術の開発:

2050年を見据えた革新的技術の開発・導入に向けた取組促進

2015年にベルリンで開催されたG7科学大臣会合では、クリーンエネルギーに向けて早急に必要な技術革新を加速させるために、エネルギー研究に関する取り組み、協力、透明性確保に対する意思が確認された。我々は、持続可能な発展を実現するために、低炭素経済及び低炭素社会を実現する必要があることを再確認した。したがって我々は、革新的なクリーンエネルギー技術の開発と導入を加速しなけれぱならない。国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定では、「気候変動に効果的・長期的・国際的に対応し、経済成長と持続可能な発展を促進する上で、イノベーションの加速、促進、実現が決定的に重要である」と確認された。我々は、ミッション・イノベーションを、この目標の実現を加速させる適切な手段として認識した。

G7北九州エネルギー大臣会合の議論を受けて、我々は、クリーンエネルギー分野の研究開発に関する情報を交換し、今後の国際的な研究協力を推進することを決定した。したがって、我々は、以下の行動をとることを支援する。

i. ミッション・イノベーションと連携してクリーンエネルギーに関する研究開発を推進し、情報交換を行うこと。

ii. 技術情報を共有し、今後の研究開発の連携について協議するために、既存の国際的な枠組みを活用すること。

5:インクルーシフ・イノベーション-社会的に包摂的で持続可能なイノベーションの創出経済成長と社会的平等の両立を目指す

科学と技術は、発展途上国や新興国で持続可能な経済成長を促進する重要なツールとなるはずである。ただし実際には、外部の支援や善意の取り組みが、社会の持続可能な発展につながっていないケースがあまりにち多い。一方、先進国では、イノベーションの思恵を享受する人とそうでない人との格差が拡大している。また、科学技術は、危険や災害に対する社会の回復力に貢献すべきである。

我々は会合の場で、このような課題に対応する手段として「インクルーシブ・イノベーション」の重要性を認識し、そのようなインクルーシブ・イノベーションを喚起するための重要な要因として、多様性とデジタルスキルを取り上げた。これらを獲得することで、イノベーションが多くの経済的・社会的便益を促進・提供し、世界中で危険現象や災害に対するレジリエンスを向上させることを我々は期待している。

インクルーシブ・イノベーションを実現するために、我々は、新しい取り組みやアプローチを促進・奨励し、国際的な連携の方法について協議することを決意した。また我々は、次世代の研究者、技術者、起業家が、今後の活動で包摂性を意識するようになるようコミットした。我々は、以下の行動をとることを支援する。

i.インクルーシブ・イノベーション実現のための政策ツール(例:顕彰と課題)におけるグッドプラクティスを共有すること。特に、イノベーション原理の共有を通じて、感染症、海洋、エネルギー、食の安全保障、災害リスクの軽減、防災などのグロールな課題の解決を目指すグッドプラクティスを共有すること。

ii.G7諸国と発展途上国における学界と民間の力を動員して、インクルーシブ・イノベーションによる解決が必要な特定の二ーズをマッピングし、持続可能なビジネスモデルの構築を支援すること。

iii.生徒・学生と研究者が、インクルーシブ・イノベーションの促進を目指すグロールチームに参加する機会を増やすこと。

iV.イノベーションに対する社会的障壁を取り除くために、デジタルスキルを島に付け、デジタルサービス(公共サービスを含む)のアクセスを改善すること。

V.人類の予測をはるかに超える自然災害に対し、科学的・技術的知見を活用し、災害リスクの軽減、防災など、ベストプラクティスやこれまで得られた教訓に基づく、国際協力を推進する。

6:オーブンサイエンス-サイエンスの新たな時代の幕開け:

オープン化をベースとした、研究と知識の発見・共有・活用に関する新しいフレームワークの導入

オープンサイエンスは、学術関係者だけでなく、民間企業や一般市民が、幅広い分野の公的資金による研究成果(論文や関連するデータセット等)に直接アクセスできるようにするちのである。オープンサイエンスの推進には、例えぱ地球観測に関する政府間会合が構築した全球地球観測システム(GEOSS)のように、政府機関やその他機関が、データ収集、解析、保存、公表のための適切なインフラとサービスに継続的に投資を行うことが必須である。このようなシステムは科学研究に新たなアプローチを提供し、新しい科学の発展の可能性をちたらすととちに、政府が投資した研究からの見返りを大きくするという側面を持っている。我々は、このアプローチを支持し、研究分野によって事情や状況が異なることを念頭に置きつつ、オープンサイエンスを推進することに決意した。

オープンサイエンスは、ここ数年、さまざまな国や組織、さまざまな科学の分野で実施されてきた。我々は、オープンサイエンスに関する世界共通の原則が必要になっていること、およびオープンサイエンスは学術論文へのオープンアクセスとオープンデータを含む必要があることを認識した。さらに、研究者や研究機関にインセンティブを付与するなど、オープンサイエンスを支える基盤を強化することが、オープンなシステムやそれに係る人材を支えることを認識した。我々は、プライシー、情報セキュリティ、正当な所有権、国や地域によって異なる法倫理、国際的な経済競争力、その他の正当な利益を考慮に入れつつ、オープンアクセスを促進する必要性を認識する。

我々は以下の行動をとることを支援する。

i.オープンサイエンスに関する作業部会を設置して、OECDといった国際機関との連携を視野に入れたオープンサイエンスのポリシーの共有、インセンティブの仕組みの検討、公的資金による研究成果の利用促進のためのグッドプラクティスの特定を行うこと。

ii. オープンサイエンスが有効に活用され、すべての人がメリットを享受できるようにするために、国際的な協調や連携を推進して、デジタルネットワークの整備、人材の確保など、適切な技術やインフラを整備すること。

{*SDG14:「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で持続可能な形で利用する}