データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] テロ資金対策に関するG7行動計画

[場所] 
[年月日] 2016年5月21日
[出典] G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
[備考] 仮訳
[全文]

 G7は、テロ資金供与に対処していくとのコミットメントを再確認する。テロ資金供与は、テロリストが攻撃を実行し、ネットワークを維持し、プロパガンダを通じてそのイデオロギーを拡散する手段を提供するものである。テロと暴力的過激主義に対抗し、犯人に裁きをもたらすことは、国際社会全体にとって引き続き最優先事項である。G7は、テロ資金供与に対する世界規模の闘いを強化するために協働すること、そして金融活動作業部会(FATF)及びその他の関連する国際機関の取組に引き続き強いリーダーシップを発揮することをコミットする。

 テロリズムに対処する我々の共通の決意の一環として、G7各国はFATFの取組に貢献してきた。その取組には、関連する国連安全保障理事会決議を補完するテロ資金供与対策の基準に関する世界規模の枠組み作りが含まれる。FATFは各国政府により実施されるテロ資金供与対策に係る一連の包括的な措置を策定してきたが、昨今のテロ資金供与の脅威の変質により、我々はこれら脅威に対抗しうるよう、既存の措置を適合させていく必要がある。

 G7各国は、合法的なビジネスや金融包摂への影響を十分考慮しながら、これらのリスクに対処するためにいかなる協調行動を取ることができるかについての検証を主導していく必要がある。G7各国は、テロ資金供与対策を効果的に実施するために、特に以下の行動を実施することにより、テロ資金供与対策の体制のさらなる強化、並びに関連するFATF勧告及び国連決議の迅速かつ効果的な実施の確保に協力すべきである。

1.G7によるテロ資金対策のための情報交換及び協力の促進

 テロ資金供与に効果的に対処するためには、堅実な国際協力及び情報交換が不可欠である。これに関し、G7はFATF及びエグモント・グループで行われている関連作業を支持し、さらなる改善の余地がないか検討することにコミットする。

 関連する国際機関の作業をもとにG7は改善の余地について特定、分析、検証し、具体的な成果を生み出す観点から、潜在的な脆弱性に対処するための実用的な提案を行う。

 このために、我々は以下のことを2016年末までに行うことをコミットする。

(a) G7の資金情報機関(FIU)間、その他のFIU間、及び関連する国内当局間における既存の二国間及び多国間の情報交換メカニズムについて、G7間で実態調査を実施し、障害の有無及び障害を実務上どのように克服できるかについて特定するほか、この実態調査の中間結果について議論し、FATFやエグモント・グループが行っている作業に貢献する(特にFATF-エグモント・グループによるISILプロジェクトの調査結果である「多国間情報共有の課題」へのフォローアップ)。

(b) 顕著な傾向や警告を促す指標に基づき、異常な金融活動やネットワークを特定し摘発するため、FIUが、潜在的なテロリスト及びテロリストに関連する活動につながる情報の、多国間での交換を進展させることを通じ、新しく革新的な情報交換及びテロ資金供与対策の国際協力の方式を検討し、その結果、FIUの予防的分析を強化する。

(c) 情報への時宜を得たアクセス、金融機関への適切な支援とフィードバック、背景情報や有益なガイダンスを共有するための対話の効果的な仕組みに着目しつつ、G7のFIU(各国制度の違いに応じ、他の所管当局)と民間部門の協力を検証する。

2.G7による将来的な基準強化の検証

 FATF基準における予防的措置は、政府や民間部門がテロ資金供与活動を検出、報告、分析するための重要なツールである。これらの基準は、国際金融システムへアクセスを試みる不正行為者に対する重要な抑止力としても機能する。

 最近の出来事は、同様の金融サービスを提供する多様な金融機関に跨る義務を整合的なものとするとともに、我々が直面するテロ資金供与のリスク、脅威、脆弱性に効果的に対処するために、それら基準の敷居値を強化する機会を与えている。

 G7は、G7各国の要件を見直す観点から2016年9月末までにFATF基準の関連する敷居値を分析し、最も効果的にテロ資金供与と闘うためにFATFと協働し続ける。

 このために、我々は

(a) 現金の携帯輸出入の申告に係る敷居値を1万5千ユーロ/米ドル/カナダドル・2百万円から、1万ユーロ/米ドル/カナダドル・百万円へ引き下げることにコミットする。

(b) すべてのG7各国が、仮想通貨やプリペイドカード等の新しい決済手段にFATF基準を適用する、または適用に取り組むことを確認し、FATF加盟国間で新たな決済手段に関するこれらの基準の実施を推奨するようFATFと協働する。

(c) リスク、負担、便益及び特定された金融商品や取引に係る具体的な悪用の実態を考慮しつつ、口座、口座類似商品、及び国外電信送金を含む予防的措置における他の敷居値を更に調査し、また、新しい敷居値が適切か検証する。

(d) 文化財を扱う美術商が、テロ資金供与に対してどの程度脆弱かを検討する。

3.G7による対象を特定した金融制裁の実施における協調

 対象を特定した金融制裁は、テロ組織の資金援助ネットワークを途絶させるための重要な手段である。G7は、特に関連する国連安全保障理事会決議で定められた金融制裁のツールである、テロリストの資産凍結を最大限活用するコミットメントを再確認する。これに関し、2015年12月17日の安全保障理事会財務大臣会合において合意された国連安全保障理事会決議2253号(2015)を完全に支持することを表明する。

 我々は、国連の指定に関係する以下の点に係る障害を解決するための最善の方法をさらに検討する。G7諸国が個別又は集団で行う国連への指定提案の策定、国連制裁委員会による指定の迅速な検討、及び第三者からの凍結要請が国内法の枠組みが定める要件に合致する場合の国内検討。このために、我々は以下のことを2016年末までに行うことにコミットする。

(a) 我々の国内法制度において、安全保障理事会制裁委員会に対し、可能な限りG7共同で、強固な指定提案を提出し、他国が行った提案を可及的速やかに検討する能力の強化に取組む。

(b) 我々の国内(関連する国においては欧州連合内)法制度の下で、さらなる独自指定が国連安全保障理事会の合意に基づく指定を補完できるか検討する。

(c) 他のG7諸国からの個人の資産凍結要請が、我々の国内法の枠組みが定める要件に合致する場合にはその要請に応え、また、そのような要請を行い、他のG7諸国からのそのような要請に応じる能力を強化する。

4.今日の課題に対処するためのFATFの強化

 G7は、FATFがテロ資金供与への対処において決定的な役割を果たしていることを認識する。昨今のテロ資金供与の脅威の変質により、FATFの必要性はより高まっている。国際社会はこうした脅威と闘うために一丸となって協力していかなければならない。G7各国は、FATFが、世界各地でグローバルなテロ資金供与対策を形成するもっとも正当かつ効果的な組織であるとの認識を共有する。

 こうした理由により、我々の国民の安全と治安を脅かす世界的な脅威により効果的に対処するため、G7はFATFのネットワークを強化することを支持する。