データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン

[場所] 
[年月日] 2016年5月27日
[出典] G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
[備考] 仮訳
[全文]

 G7伊勢志摩サミットにおいて,我々G7首脳は,国際保健を前進させるため次の具体的な行動をとることにコミットする。

1) 公衆衛生上の緊急事態への対応強化のための

グローバル・ヘルス・アーキテクチャー(国際保健の枠組み)の強化

1-1.感染症の流行及び公衆衛生上の緊急事態のためのWHO改革

1) WHOの広範な改革アジェンダに加え,WHOが感染症の流行及び公衆衛生上の緊急事態に備えるWHO改革を,適時に,及びその必要な資源を認識しつつ,また,地球規模の公衆衛生上の危機の備えと対応においてWHOが引き続き中心的役割を果たすべきであるとの理解の下に,実施することを強く求め,かつ,支持する。

2) WHOの,(i)WHOの3つのレベルを横断する「ワンWHO」アプローチによって具体化された,WHOの全てのレベルの間での明確な一つの権限系統及び事務局長が究極的な責任を有する,感染症の流行及び公衆衛生上の緊急事態に対する単一のアプローチを設立すること,(ii)全てのレベルにおける組織能力と人的資源を強化すること,(iii)感染症の流行及び公衆衛生上の緊急事態におけるWHOの業績を監督し監視する独立したメカニズムを設置することを含む,改革を歓迎する。

3) 実施面上強固で,技術的に有能なWHOが,各国における緊急事態への備え,対応,復興及び強靱な保健システムの構築支援において,極めて重要であることを認識する。

1-2.公衆衛生上の緊急事態における迅速な行動を確保する資金メカニズム

1) 感染症の流行時には,特に初期段階における公衆衛生上の危機の迅速な検知,封じ込め及び制御において,WHOが重要な主導及び調整の役割を担うべきことを認識し,国際社会に対し,WHOによる迅速な初動対応を可能にするため,緊急対応基金(CFE)を支援することを要請する。

2) 各国政府,多国間機関及びNGOによるサージ応答を強力に支援するため,「パンデミック緊急ファシリティ」(PEF)の立上げに関する世界銀行による公式発表を歓迎するとともに,G7メンバー国を含む国際社会に対し,この目的のために技術的及び資金的な貢献を行うよう要請する。

3) また,関連する国際機関に対し,PEFと,CFEを含む他の関連する資金調達メカニズムとの間の調整を確保することを求める

4) 全ての国々が,感染症の流行に対する予防と備えを向上させ,長期的には国家の健康安全保障を高める対策を組み込んでいくことを強く要請する。

1-3.世界的な公衆衛生上の緊急事態に際しての連携のためのアレンジメント

1) 国連ハイレベルパネルによる最終報告及び右への国連事務総長の反応,世界人道サミット及びWHOの組織運営に関する議論を含む現在進行中のプロセスにて想定されているように,OCHAが主導する機関間常設委員会(IASC)のクラスター・システムを含む既存の調整システムを強化する一方で,WHO及びOCHAに対し,国連事務総長(UNSG)の下で,WHO,国連及び他の関係するパートナー間における連携のためのアレンジメントを検証し,強化し,及び公式化することを招請する。

2) WHO及びOCHAに対し,これらの審議の進捗について,2016年9月のG7保健大臣会合で報告をすることを招請する。

1-4.公衆衛生上の緊急事態に対する予防と備えの強化

1) エボラ出血熱及びジカウイルス感染症の最近の流行は,自然発生的,故意的又は偶発的なものであるかどうかを問わず,公衆衛生上の緊急事態の予防,検知及び対応を向上させることが不可欠であることを浮き彫りにしていることを認識しつつ,世界健康安全保障アジェンダ(GHSA)を通じて行うことを含め,WHOの国際保健規則(IHR)の目標の遵守を進展させることに引き続きコミットする。

2) この関連で,

(i) 76の国及び地域に対し具体的な支援を提供するための協調的なアプローチに対する我々の支援並びにWHO及び他の関連する機関との緊密な協調に基づき,国家計画策定に関するこれらのパートナーへの支援を新たにする。

(ii) 各国のIHRコア能力の強化についての主要な責任は各国にあること認識しつつ,これらのパートナーが,国連食糧農業機関(FAO)や国際獣疫事務局(OIE)などの他の機関とのパートナーシップにより,WHOによって発表された合同外部評価(JEE)の共通で測定可能な目標を達成するよう支援することを意図する。

(iii) パートナー間の調整がIHRの効率的な強化のために鍵となることを認識し,そのような評価を我々のパートナーと共有し,支援し,及び行うことにコミットし,他の国々もこの集団的な努力に加わるよう要請する。また,情報共有のため,WHOの戦略パートナーシップポータル(SPP)のような新たな取組みに必要な情報を提供することの価値を認め,一方でそういったドナー間で共有される情報は相互に活用できるものであることを確保し,分断化を避ける。

(iv) IHRの実施を強化するため,及び,「新健康危機プログラム」の実施に即して,WHOに対し国際危機管理能力・警戒・対処部門及びそのリヨン事務所などの既存の組織並びに「世界健康安全保障の国別評価のためのアライアンス」による新たな取組を基礎とすることを奨励する。

(v) バイオ脅威に対抗するための能力を強化する大量破壊兵器及び物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップの取組を歓迎する。

3) パンデミックに対する備え及びその予防を強化するために,関連する国際機関の資金を動員することの重要性を認識し,国際開発協会(IDA)など,世界銀行を含むそれら機関との間でこの問題について協議することを期待する。

2.強固な保健システム及び危機へのより良い備えを有したUHCの達成

2-1.UHCに向けた保健システム強化のための調整と支援

2-1-1.UHC推進のための国際調整枠組み

1) 特定の疾病に関する取組を含め,関係する全てのステークホルダー及び様々な国際的な場/国際的イニシアティブの取組及び知見を調整するための国際的枠組みの強化の必要性を強調し,市民社会も含めた全ての関係するステークホルダーの専門的知識を活用する。

2) したがって,UHCに向けた公平で持続可能な進展を加速化するために,以下を通じて,国際保健パートナーシップ・プラス(IHP+)の原則を確保することを追求するUHC2030の設立を支持する:(i) 政治的なモメンタムの強化

(ii) 保健システム強化とUHCについての共通理解形成

(iii) 既存のものを基盤としながら,HSSやUHCの測定可能な指標の最低限のセットに関する共通理解を共有

(iv) 「健康なシステム,健康な暮らしに関するロードマップ」などのイニシアティブから可能な支援を受けながら,これらの指標を使い,UHCに向けた進捗を追跡することによって説明責任を確保

3) UHCを促進し,最も脆弱な国々の保健システム強化のための支援を活用するため,各国と協議しながら,同パートナーシップのできる限り早い段階での設立を奨励し支援し続ける。

4)分野横断的にUHCに向けた取組を促進し,及び触媒するための特使を指名する構想につき,国連事務総長との意見交換を期待する。

2-1-2低所得国,低中所得国のUHCに向けた保健システム強化への支援

1) SDGs,誰一人取り残さないこと,最も貧しく最も周縁化された人々を含む社会の脆弱な部分のニーズに焦点を当てることによって,衡平性を確保することに対する我々のコミットメントを再確認する。

2) 上記を念頭に,資源が限られ感染症の大規模流行や他の深刻な事象等の公衆衛生上の脅威への脆弱性が増している低所得国(LICs)及び低中所得国(LMICs)における,強固で,強じんで,持続可能な保健システムの喫緊の必要性を認識し,IHP+の原則に基づき,グローバルファンドの国別調整メカニズムやGHSAによるものも含むHSSに向けた国レベルの行動の強化された調整の一層の活用を以て,各国主導のHSSの支援強化にコミットする。また,市民社会団体の活発な関与を得て,「エブリ・ウーマン,エブリ・チャイルド」を支援するグローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)が意図するものを含む世界的な資金調達を増加させる努力を歓迎する。

3) 危機に対するより良い備えと予防を兼ね備えたUHCの達成のための以下の主要な寄与因子を含みうる,低所得国・低中所得国が国家として実施し自らのものとするHSSに向けた取組を,以下を通じて支援する:(低所得国・低中所得国の)

(i) 中期的な国家保健計画の策定・調整支援

(ii) 疾病の予防及び健康の促進のための政策立案及び管理能力の強化

(iii) 医療上の課題を予防し,診断し治療するための,負担可能で,安全で,効果的で質が確保された,必要な医薬品,ワクチン,技術へのアクセスの向上

(iv) 動機付けされ十分に訓練された保健従事者の十分な能力強化

(v) 住民登録・人口動態統計を含む保健統計及び情報システムの質及び利用の改善と強化

(vi) 保健サービスへのアクセスを促進し,特に貧困層の間で高額な保健医療費の自己負担に対する財政的保護を提供するための保健財政戦略を設計するための技術的支援の提供

(vii)低所得国・低中所得国による公的・民間部門の双方を通じた国内資金動員及び持続的な国家保健システムの根幹としてのより効率的な保健支出のための支援

(viii) 測定可能な指標によるUHCに向けた進展のモニタリングと優良事例の共有

4) WHOのプログラムや,アフリカにおいてUHCを促進する世界銀行の取組を含む,喫緊のHSSの必要性に対応するような現在進行中の世界的なイニシアティブを歓迎するとともに,WHO及び他の関連する国際機関との連携の必要性を強調する。

5) 重大な感染症の影響を縮減すると共にHSSの促進に主要な役割を果たしているグローバルファンドの,

9月のモントリオールでのGF増資会合の機会を捉え,GFの第5次増資の成功を完全に支持するとともに,伝統的な及び新たなドナーに対し,グローバルファンドがその目標を達成するよう支援すること,また,全ての国に対して保健に対する国内資金を増加することを求める。

6) 公衆衛生上の緊急事態に対応しうる強靱で持続可能な保健システムに貢献するため,76か国に対しIHR履行支援を提示した我々のコミットメントを利用し,活用する。

2-2.全ての人々に対する生涯を通じた保健サービスの確保

2-2-1.女性,青少年及び子どもの健康

1) G8ムスコカイニシアティブの進捗に基づき,SDGsで掲げる世界の妊産婦,新生児,子ども,若者の健康の改善に向けた取組を,保健システム強化に重点を置きながら強化し,女性並びに若者の健康及び2030アジェンダの全体的な成功に対して,さらなる注意を喚起する。

2) 女性と女児の権利と健康への統合的なアプローチ及び身体的または精神的健康,家族計画,情報及び

教育を含む性と生殖の健康,これらの保健サービスへの普遍的なアクセスの格差をなくすことの必要性への関心を高める。

3) 新生児,子ども,青少年等あらゆる年代の女性,また,脆弱で紛争の影響を受けた国々や人道的状況にある女性のニーズに応じた対応を取ることの価値を認識し,以下にコミットする:

(i) 青少年にやさしいサービス及び青少年の参加に焦点を当て,性と生殖に関する健康と権利及び

サービスへのアクセスを提供

(ii) 乳幼児,妊婦及び授乳中の母親の特別なニーズに重点を置き,G7の優良事例を共有しながら十分な栄養を確保

(iii) G7の関係機関の間で協力を強化し,災害対応の経験を最大限に活かし,また,「仙台防災枠組み2015-2030」を活用

4) 費用対効果が高い重要な感染症拡大防止策の一つである予防接種の重要性を再確認し,新興感染症に取り組む,そしてそのために以下を行う:

(i) 世界ワクチン行動計画で掲げられた目標達成のため,引き続き世界的取組を続ける。

(ii) 予防接種の重要性を強調し,家族の手引きとなる母子健康手帳等の情報源を含む予防接種記録を活用し使用する。

(iii) 世界的な撲滅が近いポリオ撲滅に向け達成されたこれまでの多大な進捗を認識し,ポリオ根絶・最終戦略計画で示されたポリオ撲滅のための目標達成への我々の継続したコミットメントを再確認する。また,ポリオ関係の資産,資源及びインフラが保健システム強化及びUHC前進にもたらす重大な貢献を認識する。

5) 最も脆弱な人々である母親,子ども,若年層の女児をターゲットとし,WHOの母親,幼児及び子どもの栄養に関する包括的実施計画と整合的に,栄養不良に立ち向かい,肥満や過体重の増加を抑えるための以下を含んだ国際的な取組を活性化する。

(i) 2016年から2025年までの栄養の10年での活動や,栄養スケールアップ(SUN)運動などの様々

なイニシアティブによる活動

(ii) 成長のための栄養サミット6)ジカが小頭症及びその他の深刻な新生児の脳の発達異常の原因となり,ギランバレー症候群やその他の神経障害の増加と関連づけられるとの科学的コンセンサスを考慮し,ジカウイルスの拡大を予防し,影響を軽減する国際的な取組において,WHO及びその他の関連の国際的関係者と協働する。

7) 世界エイズ・結核・マラリア対策基金,Gaviワクチンアライアンス,慢性疾患世界アライアンス及びIHP+を踏まえたUHC2030といった地球規模のパートナーシップの活動を支持すると同時に,必要に応じて「女性,子供及び青少年の健康のための世界戦略」やGFFといった国際的イニシアティブの実施を支持する。

2-2-2.健康で活動的な高齢化の推進

1) 人口の高齢化が我々の国民の健康や福祉に留まらず,地方,地域,国及び世界の経済に及ぼしうる広範な影響について認識するとともに,認知症を含む非感染性疾患並びに精神疾患,怪我を患う高齢者及びその介護者に与える影響を確認する。

2) 従ってG7及び世界各地において活動的な高齢化に向けた取り組みを促進することを要請する。

3) 高齢化と健康に関する世界戦略と行動計画の策定や実施に対するWHOの取組を支援し,開発途上国や移行国に国家及び/

4) 又は地域行動計画をそれに沿って作成することを奨励する。

5) 活動的な高齢化では人生のあらゆる段階における疾患予防と健康な生活が鍵となる役割を果たすこと及び一次予防は生命が始まる時に開始することを認識する。

6) 高齢者と認知症にやさしい地域づくりや認知症サポーターを含め,高齢者にやさしいコミュニティを促進すること及びコミュニティが認知症にやさしいものとなることへの支援といった取組を通して,活動的な高齢化に対する医療,介護,健康増進,福祉,雇用,年金,住宅,都市/交通計画の多分野にわたるアプローチを,ジェンダー特異的な側面に十分に配慮した上で,達成可能な最高水準の福祉に到達するために追求する。

7) 活動的な高齢化の促進に際して直面した全ての課題や優良事例を含む知識と経験を共有するために,国,地域,市民社会の専門家が出席して本年日本で開催される活動的な高齢化に関するフォーラムを歓迎する。

8) 人口の高齢化に関連する課題に対処する方法についてのWHO及びOECDによる分析の暫定報告を歓迎し,健康で活動的な高齢化を強化する方法に関する知識と知見をG7内やそれを超えた範囲で共有するとともに予防と健康の文化を促進する。

3.薬剤耐性(AMR)

3-1.多分野による“ワン・ヘルス・アプローチ”と各国の協力を強化

1) G7エルマウ・サミッ及びそれに引き続く保健大臣会合及びG7新潟農業大臣会合におけるこれまでのコミットメントを基礎として,人及び動物の健康,農業,食品並びに環境におけるAMRの横断的課題に取り組むためにワン・ヘルス・アプローチを促進し,2015年に採択されたWHOの「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」並びにFAO及びOIEの関連決議に即して,関係省庁の協調を統合するといった方法で多分野の関与による行動を起こす。

2) 人,動物,食品,環境におけるAMR及び抗菌剤使用のサーベイランス能力を構築するため,協調を強化し,他国を支援し,WHOのグローバル薬剤耐性サーベイランスシステム(GLASS)に即してAMRに関する国家サーベイランスシステムを構築かつ/または調整する。

3-2.各国によるAMRに関する国家行動計画を策定・履行に際し政治的コミットメントを加速化し,他国を支援

1) GHSA・AMR行動パッケージやAMRに関するワン・ヘルスEU閣僚会合,アジアAMR東京閣僚会議などの地域のハイレベルの政治的コミットメントを含む,WHO,FAO及びOIEと協調した,多分野にわたる世界的,地域的,国内的及びコミュニティの協働による取組を通じて「グローバル・アクション・プラン」の効果的実施を促進する国連総会における「薬剤耐性に関するハイレベル会合2016」を支持し,またAMRと戦うための複数のイニシアティブの効果的な連携を奨励する。

2) WHOによる「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」の履行を支援し,また他国がそれぞれの国家保健計画に沿ったAMRに関する国家行動計画を策定し実施することを支援する。

3-3.抗微生物剤の有効性を国際公共財として維持

1) 抗微生物剤の有効性を国際公共財として認識し,人及び動物の抗微生物剤の適切かつ適正な使用を通じてそうした有効性を維持する努力を優先課題とし,以下に取組む:

(i) そうした有効性を維持するための政策を方向付けるサーベイランス及び/又は研究開発により得られた情報共有を強化する。

(ii) 国際協調を通じて人及び動物の抗微生物剤の生産,処方,流通,使用を効果的かつ適切に管理するために,必要に応じて,規制面の協力促進する。

(iii) AMRの鍵となる側面,すなわち,抗微生物剤の不適切な使用に対処するための社会学・行動科学の重要性を認識し,医療従事者,患者,獣医,動物の所有者もしくは飼い主及び一般市民の意識を向上させる。

(iv) 国家抗微生物剤適正使用プログラムの策定と実施の支援を含む,有効性維持のための国際協力を促進する。

(v) G7メンバー国において抗菌剤の定義に違いがあることに留意し,本稿においては人の健康に影響を与える抗菌剤に言及し,リスク分析がない場合の畜産における抗菌剤の成長促進目的の使用を段階的に廃止し,抗菌剤の使用を人及び動物の治療目的のみに維持する。

2) 抗微生物剤の使用を合理化する一方で,必須抗菌薬の生産を維持し,既存の抗菌薬が利用不可能になったり市場から撤退することがないよう製薬産業にインセンティブを与えるための国際的な議論の奨励等により,安全で効果的で品質が保証された抗微生物剤への人と動物のアクセスを確保する。

3) AMRに関する第三者評価の推奨事項を含むAMRに関する最近の科学的研究やレビューに基づき,市場の失敗に対処し,人及び動物の健康における新たな抗微生物剤,ワクチン,診断薬,代替治療法,その他の医学的対抗手段のR&Dにインセンティブを付与することの重要性をG20を含む国際社会と共有する。

3-4.AMRへの対抗手段へのアクセスの改善

1) 有効なワクチン,診断薬,抗微生物剤,代替治療法へのアクセスを改善する。

2) 適切なトレーニングや技術,二国間又は多国間の協定に基づき,医療関連感染症を減少させ,AMRの感染症と健康負荷を低減させるため,低所得国及び低中所得国に限らないが特にそうした国々において,適切な衛生などの感染予防・管理を支援する。

3) 研究開発パートナーシップを促進し,また4-1-2に記載される有効なワクチン,診断薬,抗微生物剤,代替治療法及びその他の医学的対抗手段といった介入の有効性を測定する。

4.研究開発(R&D)とイノベーション

4-1.必要だが市場原理の働いていない疾患対策のR&D及びイノベーション

4-1-1.各国間の連携を促進する

更なるR&D改善が必要な疾患,特に,貧困に関連した疾患(PRDs)及び顧みられない熱帯病(NTDs)を含む,市場活動では対策が不十分な疾患に光を当てる。

1) これらの疾患に対する医薬品の開発及びアクセス促進を奨励する政策を実施する。

2) G7各国が「後押し」(例研究開発費支援)及び「引き出し」(例事前買い取り制度,市場/需要形成支援)インセンティブを支援することを奨励し,グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)及び革新的製薬イニシアティブ(IMI)の好例のように,新薬や代替治療の開発のためのよく協調した官民連携の促進を奨励する。

3) 2015年に開始され2016年にも継続されているNTDs及びPRDsに係る研究開発活動のマッピングのためのG7プロセスを基盤として,G7諸国にまたがる研究機関,助成機関及び政策立案者の間での連携を強化する。

4) 日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)及び動物用医薬品の承認申請資料の調和に関する国際協力(VICH)等のような薬剤承認の調和のとれた基準を策定する協議体への参加を通じ,医薬品の規制面における協力を奨励する。

4-1-2.AMRに関する研究開発の促進

1) 特定の市場の失敗に対処するプル(引き出し)型インセンティブや,新たなワクチン,診断薬,抗微生物剤,代替治療法,並びに感染予防・管理,その他の行動学的介入,抗微生物剤適正使用プログラムに関する基礎・応用研究及び開発への資金提供などを通じてAMRと戦うための研究開発を促進する。

2) 薬剤耐性に関するプログラム連携イニシアティブ(JPIAMR)など既存の国際的な研究協調イニシアティブを活用する

3) 特に薬剤耐性を示す病原体や感染症に対する抗微生物剤,診断薬,その他の対抗手段の開発を支援するため,また,臨床試験や研究をデザインし,協調し,実施するための大型臨床研究基盤を関与させることにより,国際的に協調した臨床試験を促進するための努力を吟味する。

4) 新規抗微生物剤の開発を促進するための薬事規制面の協力を促進する。

4-2.公衆衛生上の緊急事態時の医薬品の治験・製造・供給などのR&D促進

1) 公衆衛生上の緊急事態時の研究開発を加速させるメカニズムを確保することの重要性を認識し,WHOブループリントのような大規模感染症拡大予防の活動を歓迎し,世界健康安全保障イニシアティブや感染症対策のための国際共同研究(GloPID-R)における議論を歓迎する。

2) 「パンデミックに備えたワクチン・イノベーションのためのパートナーシップ」のようなパートナーシップがワクチン研究開発を行うことの実現可能性を検討する。

3 感染症発生時の迅速な研究対応のため,新興感染症の科学的に強固な臨床試験を促進する。

4-3.活動的な高齢化のための研究開発とイノベーション

1)人々が自ら選択した設定で年齢を重ねること及び認知症患者を含む高齢者の生活の質の向上を可能にするような生涯を通じた健康的な高齢化を推進する研究開発の重要性を認識する。2)この関連で,以下の重要性を認識する:

(i) 研究開発プログラムのマッピングを通じ,認知症などの脳疾患を含む脳機能についての根本的

な側面に対処する持続的な研究や国際連携を促進し,加えて,国際的で学際的な研究の取組の加速と新技術の開発を行うこと。

(ii) 開かれた科学及び,加齢に伴う問題に関連する脳科学分野での研究データおよび論文等の公的

資金による研究成果の共有を促進すること。

(iii) 高齢者の活動的な社会参加の促進を目指す活動的な高齢化に関するグッド・プラクティスを共有し,社会科学研究と医療・ICT・ロボット支援を統合して家族や社会の負担を軽減することにより,相互学習を奨励すること。

(iv) 早期の検知と治療及び管理のための製品及びサービスの開発,治験及び拡充を行うこと。

4-4.保健分野における一層の研究開発・イノベーション

1) エビデンスを確立し保健分野の科学技術とイノベーションを加速させることを視野に入れつつ保健データの活用を一層可能にすることの重要性,秘匿性その他の法的及び倫理的な制約を保護しつつデジタル基盤及びアクセスを高めるための取組の必要性,並びにこれらに向けたG7各国の取組や経験を共有することの利益を確認する。

2) 革新的な研究開発のための前向きな環境を促進すること,医薬品及び医療へのアクセスを奨励すること並びに保健システムの持続可能性を確保することという立ち上る課題を認識し,また,これらの問題について,各国の特別な状況,優先事項及び保健システム設計を認識しつつ,次回のG7保健大臣会合の機会において行われる意見交換を歓迎する。

3) 医薬品の不正取引や偽造は患者の安全及びR&Dへの投資に悪影響を与えることを認識する。

4) 感染症に立ち向かい,蚊等の病原菌媒介生物を制御するための,公的機関,民間団体,慈善団体,そして,国際原子力機関(IAEA)による原子力科学・技術の平和的な応用事業を含め,国連関連機関による革新的な措置や事業を通じた,幅広い国際的な取組を歓迎する。