データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 原子力安全セキュリティ・グループ報告書

[場所] 
[年月日] 2016年5月27日
[出典] G7伊勢志摩サミット公式ホームページ
[備考] 仮訳
[全文]

序論

G7伊勢志摩サミットは,福島第一原子力発電所事故から5年の機会に,同事故以降初めて日本が議長国となり開催される。これを踏まえ,2016年,G7原子力安全セキュリティ・グループ(NSSG)は,原子力安全について集中的に議論を行った。

NSSGは,世界中で高水準の原子力安全を達成し維持することの重要性を再確認する。NSSGメンバーは,福島第一原子力発電所事故以降に国際社会が達成した原子力安全に関する取組及びこれにおける国際原子力機関(IAEA)の役割を評価し,この機会に,IAEAに対する支援を含め,世界中で最高水準の原子力安全を確保するための努力を継続するとのコミットメントを再確認する。

IAEA原子力安全行動計画

2011年9月のIAEA総会において,原子力安全行動計画(以下「行動計画」)が加盟国の全会一致で支持された。同行動計画は,国際社会及びIAEAにとって,福島第一原子力発電所事故から学ぶべき教訓を特定し実践するにあたり,指導的な役割を果たし続ける。

(1)行動計画に関するG7の取組G7メンバー各国は,行動計画の実施・達成及び実施から得られた知見・教訓について簡潔に振り返った。この議論の結果は,IAEAに共有される。NSSGは,原子力安全に関する適切な優先事項の特定に貢献する用意がある。

全てのG7メンバー国は,福島第一原子力発電所事故後,自国が保有する原子力発電所の安全評価を実施し,自国の規制の枠組の見直しを行った。また,福島第一原子力発電所事故から得られた教訓を自国の政策や規制の枠組に取り入れた。G7メンバー国は,緊急時に係る準備及び対応(EP&R)に係る国際的なネットワークの強化,IAEA安全基準の改訂及びピア・レビュー・ミッションにおけるこれらの基準の促進及び活用等,原子力安全の強化のための国際的な努力に対しても重要な貢献を行った。

原子力安全は継続的なプロセスであり,この5年間で重要な進展が見られた。安全措置に関する自己評価は引き続き実施される必要がある。また,EP&Rメカニズムをさらに発展させる必要がある。法的枠組へ参画とその実施を拡大するため,IAEA加盟国のコミットメントが求められている。電離放射線からの人及び環境の防護,コミュニケーション及び研究開発は,引き続き取り組まれるべき重要な分野である。また,NSSGは,原子力発電所の新規導入国において原子力安全を確保することが特に重要であり,これらの国におけるキャパシティビルディングと人材育成のための支援が行われる必要があると考える。

(2)IAEAピア・レビュー・ミッション

G7メンバー国は,IAEAの重要な役割を認識しつつ,IAEA事務局の活動,特にピア・レビュー・ミッションが強化されることを期待する。

NSSGは,総合規制評価サービス(IRRS),統合原子力基盤レビュー(INIR),立地評価・安全設計レビュー(SEED),運転安全評価チーム(OSART),放射性廃棄物・使用済燃料・廃炉及び除染プログラムのための統合レビュー(ARTEMIS),緊急時対応評価ミッション(EPREV)を始めとするIAEAピア・レビュー・ミッションが,IAEA加盟国が自国の原子力安全を自己評価し向上させるための効果的な手段であると強く支持する。NSSGは,関連するIAEAピア・レビュー・ミッションを受け入れた実績がある国あるいは受け入れに関心を有する国を評価し,他の国にもIAEAピア・レビュー・ミッションの受け入れを推奨する。NSSGは,G7メンバー国が,自国の知見を提供し,IAEAピア・レビュー・ミッションへの貢献を継続することを推奨する。

NSSGは,上記のようなレビュー・サービスの提供に関するIAEAの努力を評価しつつ,IAEAに対して,ピア・レビュー・ミッションの効果・効率を更に向上させることを推奨する。中でも,IRRSの強化が優先事項であるべきである。これに関し,NSSGは,2015年5月20日に国際原子力規制者会議(INRA)からIAEAに対して発出された,IAEAのピア・レビュー・サービスの有効性向上のための提案に関するレターに留意し,本レターにおいて提示された目標を支持する。NSSGは,IAEAが「原子力安全のための規制基盤に係る自己評価書」の見直しを開始し,また,最近ピア・レビュー委員会を設立したことを評価する一方で,INRAのレターで提示された目標に対する取組に関するIAEAの正式な応答を期待する。

法的枠組の強化

多国間の法的な枠組は,各国が安全基盤を整備する基礎及び国際的な原子力協力のための基盤を提供する。関連条約の締約国を増加させることが重要な課題である。近年の原子力発電所の新規導入国の増加及び国際的な原子力協力の拡大により,これらの法的枠組の中で締約国相互の交流を強化し,特に,関連条約の効率的な実施に関して全ての関係国がコミットすることが求められている。

(1)原子力安全条約(CNS)

原子力安全条約(CNS)は,安全に関する基本的な原則を内容とし,原子力施設の安全に関する法的枠組を提供する。同条約の検討会合は,締約国が相互にピア・レビューを実施し,結果を持ち帰り自国の原子力安全の向上に活用することを通じて,原子力安全を強化する重要な機会を提供する。しかしながら,NSSGは,CNSのレビュー・プロセスにおける“完全参加”の達成,すなわち,全ての締約国が検討会合に出席し,国別報告の作成等条約上の義務を履行し,ピア・レビューに積極的に参加することは引き続き課題であることを認識する。

これに関し,NSSGは,CNSのレビュー・プロセス強化のための取組を継続することの利点を重視する。NSSGメンバーは,2017年3月から4月にかけて第7回検討会合が開催されることを踏まえ,取組を開始すること重要性について一致した。G7メンバー国は,ピア・レビュー・プロセスが良い成果を出せるよう,同会合の議長国カナダを支援していく。

また,レビュー・プロセスの効果向上は,CNSの締約国が集中的に取り組むべき重要な分野である。取り組むべき分野として,課題の特定,問題解決型アプローチ及び良好事例の特定の促進が考えられる。さらに,NSSGは,ピア・レビュー・プロセスを常に力強いものにし続ける必要性について留意した。

さらに,原子力発電所の新規導入国が関連条約を批准し,検討会合に出席し,検討プロセスに積極的に参加することが不可欠であり,促進されなければならない。これらの国に対して働きかけを行い,検討会合の準備のための支援を行うことが効果的と考えられる。NSSGは,条約の目的を推し進め,検討会合への参加を向上させるためにG7が協調して働きかけを行うとともに,関連する研修を実施するというカナダのイニシアティブを歓迎する。NSSGは,カナダのイニシアティブを適切な形で支援する。

最後に,NSSGは,2015年2月の原子力安全条約外交会議で採択された原子力安全に関するウィーン宣言において要請されているとおり,条約の着実な実施を支持する。この取組は,福島第一原子力発電所事故を契機として国際社会が行っている,原子力安全の強化のための努力を代表するものである。G7メンバー国は,2017年3月から4月にかけて行われる検討会合に向けて,条約の締約国が,ウィーン宣言の原則の実施を支援する行動について適切に記述することを慫慂する。

(2)放射性廃棄物等安全条約(JC)

2015年5月の検討会合において結論づけられたとおり,放射性廃棄物等安全条約(JC)の締約国数の増加は優先課題である。たとえば,CNS及びJCは両者ともに原子力安全に関する条約であり,また,JCは原子力施設に加えて放射性廃棄物に関するあらゆる関連施設及び活動に関して定めるものであるにもかかわらず,JCの締約国数は,CNSの締約国数と比較して17ヶ国少ない点に留意する。また,原子力発電所を稼働させている,あるいは原子力計画を進めているにも関わらず,CNSとJCのいずれも締結していない国が2ヶ国ある。

NSSGは,G7メンバー国が個別に,可能な場合は共同で,JCの未締結の国に対し,それぞれの原子力計画の進展に応じて同条約の締結を慫慂することで一致した。また,NSSGは,IAEAに対して,地域別ワークショップ等の活動を通じて,条約の重要性に関する理解促進のために同機関が果たしている役割を継続することを要請する。

(3)グローバルな原子力損害賠償制度

NSSGは,原子力損害に対する適切な補償の提供により,原子力事故により影響を被り得る全ての国の懸念に対応する,グローバルな原子力損害賠償制度の構築の重要性を再確認する。この点に関し,NSSGは,カナダにおける原子力損害の補完的な補償に関する条約(CSC)の批准に向けた取組や,日米による同条約のアウトリーチの取組,共同議定書によりウィーン条約と結ばれているパリ条約及びブリュッセル補足条約の改正議定書の批准に向けた進展など,G7各国による進展を心強いものと受け止めている。NSSGは,グローバルな制度の構築に向けた一歩として,全ての国に対し,国際的な原子力損害賠償枠組に参加することを奨励する。

開発途上国支援を含むキャパシティビルディング及び人材育成

キャパシティビルディングと人材育成の重要性に対する意識を高め,安全文化を醸成することも含め,キャパシティビルディングと人材育成の重要性は,原子力安全の維持と強化のために軽視され得ない。これは,原子力発電所の新規導入国,国際的な原子力協力を拡大している国,自国の原子力計画を拡張している国,原子力計画からの段階的な撤退を計画している国等,原子力計画のどのような段階にあるとしても全ての国にとっての課題であり,したがって,G7も例外ではない。

原子力計画を安全に進めるための人的資本の土台を必要な水準で維持し,発展させるためには,産業,行政,学界関係者による継続的な努力と参画が必要である。NSSGは,全ての国に対し,キャパシティビルディングと人材育成に関わる活動を支援するため,人的資本の育成に投資し続けることを奨励する。

これに関連し,NSSGは,各国レベルのみならず,地域や国際的な協力枠組の下で行われているキャパシティビルディングのための多様な活動を評価する。IAEAも同様に,人材育成プログラムやピア・レビュー・ミッションを通じて加盟国を支援し,極めて重要な役割を担っている。G7メンバー国は,平和的利用イニシアティブ(PUI)などの特別拠出金を通じた貢献によってIAEAのプログラムを支援するとともに,IAEAが調整役を果たすことを奨励する。人材育成の重要性に関する積極的な議論と,キャパディティ・ビルディング・イニシアティブ(CBI)を含めた,人材育成の促進を主導する取組を歓迎する。

原子力発電所の導入を検討している国における,原子力安全,核セキュリティ及び核不拡散に係る強固な基盤の確立は,必要不可欠な第一歩である。NSSGは,この分野におけるIAEAの支援を評価するとともに,更なる支援を期待する。同時に,G7メンバー国はそのような基盤の整備を促進及び支援するべきである。

NSSGは,原子力発電所の安全を確保する責任を負っているのは,その発電所を保有する新規導入国であることを認識しつつ,国際的な原子力の移転及び協力に関わるあらゆるステークホルダーが,透明性のある形で原子力安全を十分考慮するために果たすべき役割があることを確認する。

したがって,NSSGは,全ての輸出国に対し,原子力関連資機材・技術を輸出する前に,相手国が原子力発電所を安全に管理するために原子力安全,核セキュリティ及び核不拡散に係る強固な基盤の枠組を有していることを確認するため,国際的なベストプラクティスに沿って措置を講じるよう促す。

NSSGは,IAEA,経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)及び世界原子力発電事業者協会(WANO)を含む国際的な枠組の下で,輸出国と輸入国が相互協力を強化することを奨励する。

福島第一原子力発電所の廃炉

NSSGは,2月の会合で行われた,日本の経済産業省による,事故後5年を経た福島第一原子力発電所の現状や廃炉・汚染水対策の戦略及びこれまでの進展に関するプレゼンテーションを歓迎した。NSSG議長によって企画されたサイト視察と合わせて,事故後5年間の同発電所における除染及び廃炉・汚染水対策の着実な進展を歓迎する。また,NSSGは,福島第一原子力発電所の廃炉作業が,国際社会との緊密なコミュニケーションの下でオープンかつ透明性をもって進められていることを確認する。さらに,NSSGは,原子力事故への対応及び復興に関する政策の立案・実施及びコミュニケーションが,科学的な根拠とデータに基づいて行われることの重要性を確認する。

NSSGは,廃炉作業に関して,福島第一原子力発電所のような場合だけでなく,他の原子力発電所の廃炉にも当てはまる課題があることを認識する。例えば,廃炉作業は,パブリック・アクセプタンス(社会的受容性)を得るため,地域住民と緊密にコミュニケーションを行いながら進める必要がある。加えて,廃炉作業には分野横断的な技術及び新技術が必要なことから,研究開発及び人材育成を並行して進める必要がある。

これに関し,NSSGは,研究開発及び人材育成に関する協力を含め,国際協力が福島第一原子力発電所の廃炉の促進にこれまで果たした成果を認識する。NSSGは,4月に福島県いわき市にて開催された福島第一廃炉国際フォーラムや,5月にIAEAがマドリッドで主催した廃炉及び環境回復プログラムの国際的な推進に向けた国際会議が,上述の廃炉の課題に関する良好事例や実施手法を共有するのにふさわしい場を提供するものであり,こうした更なる国際協力のためのイニシアティブを支援することの重要性を強調する。

チェルノブイリ・プロジェクト

チェルノブイリ原子力発電所事故から30年目の機会に,NSSGは,チェルノブイリのサイトにおけるプロジェクトの進展を歓迎し,原子力安全基金(NSA)及びチェルノブイリ・シェルター基金(CSF)への支援を通じて,チェルノブイリのサイトを安定的かつ環境上安全な状態にするために,ウクライナ政府と共同で取り組むとのコミットメントを再確認する。

日本議長の下で,G7NSSG-欧州復興開発銀行(EBRD)のチェルノブイリ・コンタクト・グループは,チェルノブイリ・プロジェクトの進展を引き続きフォローした。これに対し,G7NSSGは,EBRDから,これらのプロジェクトの最新の状況について定期的に報告を受けた。

最近合意された作業スケジュールによれば,新シェルター(NSC)は2016年11月に最終位置にスライドされ,2017年11月までにコミッショニングと引き渡しが達成される。また,使用済燃料中間貯蔵施設(ISF-2)は,2017年にコミッショニングが行われ,運用が開始されるが,使用済燃料貯蔵キャスクの製造は2

019年まで継続する。

NSSGが本年特に注視したISF-2プロジェクトは,チェルノブイリ原子力発電所の運転から発生した20,000本以上の使用済燃料集合体の乾式貯蔵を提供するものであり,同原子力発電所の廃炉及びサイトの安全にとって極めて重要である。

ISF-2プロジェクトの完了に向けた,NSAへの最大105百万ユーロの追加財政拠出の緊急の必要性を認識し,G7諸国及び欧州委員会は,2016年4月25日にキエフで開催されたプレッジング会合において,同基金に対して約45百万ユーロを目途とする新たな貢献を行う旨表明した。非G7諸国からの貢献も積極的に求められる。

NSSGは,ISF-2プロジェクトのために,純益移転を通じて,本年40百万ユーロの貢献を行うとのEBRDの決定,及び2017年又は2018年に資金ギャップが引き続きある場合にはそれを埋めるためにISF-2プロジェクトに対して最大

20百万ユーロの更なる純益移転を検討する旨のEBRDの決議を歓迎する。

NSSGは,チェルノブイリ・プロジェクトの最終段階の複雑性及び密な作業スケジュールを認識しつつ,効果的なマネージメントを提供し,契約当事者及びウクライナ当局と共に,プロジェクトを合意された費用及びスケジュールの範囲内で完了させるというEBRDの継続したコミットメントに期待している。

また,NSSGは,ウクライナ政府が,効率的かつ成功裡のプロジェクトの実施,コミッショニング及び施設の運用を確保するために,必要とされる制度的及び財政的な措置をとることの重要性を強調する。

中央アジアにおけるウラン鉱山開発が残した課題

NSSGは,中央アジア(キルギスタン,タジキスタン,ウズベキスタン)におけるソ連時代のウラン採掘活動が残した課題への取組を支援するための,欧州委員会によるイニシアティブを歓迎した。この課題は,2013年12月に採択された国連決議68/218において強調されているように,同地域の環境と住民に対する深刻な危険をもたらすものとして認識されている。NSSGは,現在行われている作業,特に,IAEAが主催するウラン・レガシー・サイトのためのコーディネーション・グループによる「戦略的マスター・プラン」の策定について留意した。この目的の下,環境回復プロジェクトに向けた資金を集めるため,専用の基金である環境回復基金(ERA)がEBRDに設立され,影響を受けた国々は,2017年末に向けてプレッジング会合を呼びかける予定である。NSSGは,本件イニシアティブの進展をフォローすることに合意した。