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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「国民間の対話の手段としての文化」に関する会合におけるG7文化大臣共同宣言

[場所] フィレンツェ
[年月日] 2017年3月30日
[出典] 文化庁
[備考] 仮訳
[全文]

我々,G7の文化大臣及び文化当局は,2017年3月30日及び31日にフィレンツェにおいて開催された最初の会合の機会に,国民間の対話の手段としての文化の顕著な役割と文化遺産の保護を強化するための共通及び協調された行動の重要性を認識しつつ,次の宣言を発出する。

文化遺産保護の分野における国際協調に基づく行動の重要性を踏まえ,この点において,国際連合安全保障理事会による決議2347(2017年)の承認を称賛し,

EXPO2015の参加国による文化大臣会合において,2015年7月31日に採択されたミラノ宣言及び2016年12月2日及び3日に行われた「危機に瀕する文化遺産の保護に関する会議」で採択されたアブダビ宣言に留意しつつ,

我々は,有形・無形,動産・不動産を問わず,あらゆる形式のものを含め,文化遺産は,人類の過去,現在及び未来をつなぐ特別なものとして,

a)人類のアイデンティティと記憶の保存に貢献し,国家間の対話と文化交流を促進し,それにより寛容,相互理解及び多様性の認識と尊重を育み,

b)我々の社会の成長と持続的発展のための,また,経済的繁栄の観点から重要な手段であり,

c)先端技術を発展させるとともにその影響を受けるものであり,また,デジタル時代が生み出す潜在力と可能性を測るためのコンテキストである ことを再確認する。

我々は,文化遺産,及び,博物館,記念建造物,考古学遺跡,資料館,図書館等の関係施設・文化財に対し,テロ,武力紛争や自然災害のみならず,グローバルな規模で行われている襲撃,略奪等の犯罪により増大し続けているリスクへの深刻な懸念を表明する。

我々は,かけがえのない財産を抹消し,標的とされたコミュニティのアイデンティティを消滅させ,過去の多様性や宗教的多元主義の証を消し去ることとなる文化遺産の破壊に対し,深刻な懸念を表明する。

我々は,世界の文化遺産を保護するため,既存の国際条約の実効性のある履行を推進する必要性を確認する。

我々は,更に,すべての国に対し,宗教的民族的マイノリティの遺産を含む文化遺産の保護と保全を強化する手段を講じ,また,戦闘地域で危機に瀕する文化遺産の保護を含め,この分野でのあらゆる形の違法行為に対抗するための適当なベストプラクティスを特定し,共有することを求める。

我々は,また,効果的な国際協力によって,文化遺産と文化多様性の保護と促進を保証するための効果的で広く受け入られる解決策が容易になることを確認する。

我々は,国連,特にユネスコ及びこの分野で活動する他の関係国際機関に対し,現在の各機関の権限の範囲内で,文化遺産保護のための活動を強化し,また,個別事例ごとに適当とされ国連安全保障理事会が権限を認めた場合に,治安・平和維持ミッションに文化遺産保護コンポーネントを含めることも可能とする前出の国連安全保障理事会決議2347(2017)を念頭におきつつ,国連で実施中の取組を含め,かかる活動を協調して継続するよう要請する。

我々は,協力と対話が暴力的過激主義と暴力へとつながる過激化に対抗するために不可欠であることを認識しつつ,文化遺産の保護・保全を推進する上で,ユネスコの役割に対する強い支持を表明する。この点について,我々は「Unite4Heritage」キャンペーン等既に実施中の関連措置を歓迎し,「武力紛争の際の文化の保護と文化的多元主義の促進のためのユネスコの活動を強化するための戦略」とこれを運用するためのアクションプランの策定に留意する。

我々は,加盟国及び関係国際機関と緊密に連携して,権限の範囲内で,文化遺産保護のための国際的な取組を調整するユネスコの指導的役割を確認する。

我々は,すべての国に対し,原産地,特に紛争中又は内戦中の国からの文化財の略奪や密輸に対する強力で効果的な対抗策を講じ,国境を越えて密輸された略奪文化財の取引を特定及び禁止し,適当な場合に,自由港と自由貿易地域のモニタリング強化を要請する。また,我々は,国際的な司法当局・法執行当局間の緊密な協力と断固とした行動が世界中の文化遺産を保全,保護するために実施してきた我々の取組の重要な要素であることを確認する。

我々は,すべての国に対し,過去の記憶を未来の世代のために保存し,文化的発展を育み,国家間の文化的対話と平和を促進するために,一般啓発・教育の推進を含め,文化遺産の保護と享有を優先課題とするよう慫慂する。

我々は,2018年が欧州文化遺産年と定められたことについて,世界の文化遺産の保全と価値を高める機会をもたらし,この共同宣言により表明される原則を支える取組の好例として歓迎する。

我々は,文化的・宗教的多様性をもたらす寛容及び国民間の相互理解を推進する上で文化的関係が有する役割を強調し,すべての国に対し,国際博覧会,オリンピック・パラリンピック等の大型国際イベントの機会に実施されるものを含め,相互主義と互恵の精神で文化交流の機会を提供することを慫慂する。

我々は,今後のG7議長国に対し,我々の取組の進歩状況を把握するため,文化大臣及び文化当局の会合開催を慫慂する。

2017年3月30日,フィレンツェにて

カナダ,フランス,米国,英国,ドイツ,日本,イタリアによる署名