データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7エネルギー大臣会合サイドイベント「アフリカ2030:技術革新,環境保全に貢献する技術及び能力構築を通じた大陸のエンパワーメント」における滝沢外務大臣政務官スピーチ

[場所] ローマ,イタリア
[年月日] 2017年4月9日
[出典] 外務省
[備考] セッション1:クリーン技術による解決策に向けたアフリカの転換
[全文]

1.冒頭挨拶

●G7ホスト国イタリアの経済振興省及び外務省,

今次サイドイベントの主催者である,エネル・ファンデーション(Enel Foundation),RES4{レス・フォーとルビ}アフリカ及びアフリカEUエネルギー・パートナーシップ(AEEP),G7,アフリカ各国からの参加者の皆様,

●日本国外務大臣政務官の滝沢求です。本日,G7エネルギー大臣会合のサイドイベントに,日本政府を代表して出席できることを大変光栄に思います。

2.背景,及び我が国の考え方

●54か国12億人を擁し,近年急成長を遂げるアフリカ大陸は,世界最後の巨大市場として国際社会の期待と注目を集めております。さらに,近年の新たな石油・天然ガスの発見はサブサハラ・アフリカに集中するなど豊富な天然資源があり,また全土で高い再生可能エネルギーのポテンシャルを有しています。しかし,同時に,根強い貧困や経済格差,インフラの不備や近代的なエネルギーへのアクセスの欠如といった課題を抱えています。

●このような希望と課題を抱えるアフリカ大陸の未来について,「エネルギー安全保障」を主テーマと据えるG7エネルギー大臣会合に先駆けて議論することは,なぜ重要なのでしょう。

●まず,世界のエネルギー情勢に目を向けると,シェール革命を契機とした米国のエネルギー輸出国としての台頭,エネルギー需要増の中心が先進国から新興国へシフトするなど,エネルギー需給構造の地殻変動とも呼べる大きな変革期にあります。また,気候変動という地球規模の問題に立ち向かうため,省エネの促進や再生可能エネルギーの導入拡大がますます重要となっています。

●次に,我が国日本に目を転ずれば,6年前,私(政務官)の故郷青森も大きな被害を受けた東日本大震災,この影響で国内の原発が一時全て停止し,これを代替する火力発電所の燃料として,大量の天然ガスが必要となりました。この急場を救ってくれたのが,ナイジェリア,赤道ギニア,エジプト,アルジェリア,アンゴラなどの遠く離れたアフリカの流動性の高い液化天然ガス(LNG{エル・エヌ・ジーとルビあり})でした。

●その後も青森県ではLNGの受入れを進め,震災を乗り越えて八戸LNG基地が完成しました。2015年1月,八戸の海岸沿いに,その操業開始が近いことを告げる30mの炎,フレアスタックが舞い上がりました。地元では,「マイナス162℃の炎」とも呼ばれ,エネルギー供給の危機を乗り越えた住民にとり,復興を照らす灯{ともしびとルビあり}となりました。

●このように,世界のエネルギー情勢のグローバル化が進む中,「如何なる国もエネルギーの孤島ではいられない(No country is an energy island)」のです。エネルギー輸出国・輸入国の双方の共栄に向け,ニ国間や,国際エネルギー機関(IEA{アイ・イー・エーとルビあり}), 国際再生可能エネルギー機関(IRENA{アイリーナとルビあり})などのマルチの場での協力関係を強化していくことが重要であると考えます。

●昨年,我が国が主催したG7北九州エネルギー大臣会合におけるコミュニケ冒頭でも触れられているとおり,<1>エネルギーの安定供給,<2>経済効率性,<3>環境への適合及び<4>安全性(3E+S{スリー・イー・プラス・エスとルビあり})という多重的な要請に応えることは,生産国,消費国,先進国,途上国を問わず,全ての国にとって継続的な挑戦です。

●しかし,これらを全て同時に満たす万能なエネルギー源はありません。ですから,各国の実情に応じて,再エネ・省エネの推進に加え,原子力や,石炭を含む化石燃料のクリーンな活用を促進することが,世界的なエネルギーアクセスの向上,エネルギー源の多様化,エネルギー安全保障等の向上に資すると考えます。

●このような考えの下,我が国は,自国へのエネルギーの安定供給の確保という第一命題に加え,<1>万人のためのエネルギーアクセスの向上や,<2>環境負荷の低減,<3>エネルギー効率の向上,<4>新エネ・再エネの開発・普及の促進といった点で世界に貢献するというビジョンを掲げています。その達成に向けて,各国との相互利益(win-win)の関係を構築することにより,世界のエネルギー安全保障の強化に主導的な役割を果たして参ります。

3.我が国の取組

●ここで,我が国の取組につき,少し紹介させて下さい。我が国は,ODAを通じ,2011年から2015年までの過去5年間で,累計127億ドルに上る途上国支援をエネルギー分野に振り分けており,これは世界最大規模です。この内,13.4億ドルをアフリカにおける再エネを含む電源開発や配電網の拡大など,電力インフラ整備支援等を通じたエネルギーアクセスの向上に貢献しています。

●また,昨年8月の第6回アフリカ開発会議(TICADVI{ティカッド・シックスとルビあり})において,アフリカにおける気候変動分野での脆弱性克服や,持続可能なエネルギー利用を実現するため,<1>今後3年間で4千人の人材育成を含む約18億ドルの気候変動・自然災害対策支援の実施や,<2>太陽光や地熱発電をはじめとする我が国の強みを活かした低炭素排出型のエネルギーシステム等の官民連携による推進などを柱とする支援を発表しました。

●具体的な例を挙げると,2016年には,エジプトに対するハルガダ太陽光発電計画や,ケニアに対するオルカリアV地熱発電開発計画などの再生可能エネルギー関連の支援を実施しています。

●このケニアでは,日本企業の優れた技術が認められ,同国の豊富な地熱を利用した発電事業において,日本の貢献は官民合計で430MW{メガワットとルビあり},設備容量の約74%を占めています。

●再生可能エネルギーだけではありません。各国の事情に応じ,現地産の化石燃料のよりクリーンな活用も重要です。安価な石炭を有する南アフリカにおいては,我が国企業の優れた技術を活用した,大規模な高効率の石炭火力発電所の建設が進んでいます。この発電所の一部が稼働し,送電網に接続されるやいなや,同国の電力状況は大幅に改善したそうです。

●このように,我が国は,アフリカ各国のニーズに合わせ,この第1セッションの主テーマである「クリーン技術による解決策(clean tech solutions)」を提示しています。

●また,本日のイベントでは,教育や能力構築の重要性についても議論されると承知しております。前述の南アフリカの発電所の建設現場は,同国において発電所建設が長い間停滞していたために不足している技術者をon the job{オン・ザ・ジョブとルビあり}で育成する,いわば巨大な職業訓練センターとなっています。

●日本の協力は,アフリカ諸国の「オーナーシップ」と国際社会の「パートナーシップ」を旨とし,被支援国の未来への投資となる人材育成を重視するものです。エネルギー分野における協力と並行し,JICAによる「資源の絆」プログラムや「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABE{アベとルビあり}イニシアティブ)」などを積極的に展開しています。

4.結び

●我が国としては,引き続き,明るいアフリカの未来に向け,質の高いインフラを含む経済協力,低炭素技術の知見・経験の共有,能力構築支援などを積極的に進めてまいります。

●本日のこれからのイベントにおいて,明日のG7エネルギー大臣会合へのインプットとなる実り多い議論がなされることを祈念します。

●ありがとうございました。

(了)

{文中の<1>はマル1、<2>はマル2、<3>はマル3、<4>はマル4}