データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 7か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明

[場所] バーリ,イタリア
[年月日] 2016年9月21日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.世界経済の回復は勢いを増しているが、成長は依然として、緩やかであり、かつ、GDPは多くの国で潜在GDPを下回っており、リスクのバランスは下方に傾いている。同時に、より長期の潜在成長率も依然として抑制されている。こうした背景の下、我々は国際的な経済・金融協力へのコミットメントを再確認し、強固で、持続可能で、均衡ある、かつ、包摂的な成長という我々の目標を達成するために、全ての政策手段-金融、財政及び構造-を個別にまた総合的に用いることを引き続き決意している。金融政策は、引き続き、中央銀行のマンデートと整合的に、経済活動と物価の安定を支えるべきである。我々は、包摂性を高め、かつ、公的債務残高対GDP比を持続可能な道筋に乗せることを確保しながら、財政政策が成長と雇用創出を強化するために柔軟に使用されるべきであることに同意する。その際、我々は、質の高い投資への重点化等を通じた財政の質の向上の重要性に合意する。我々は、生産性と潜在生産力を向上させるための構造改革を推進することに引き続きコミットするとともに、包摂性を促進する改革を支持する。我々は、構造改革の実施を促進することを決意し、また、これらの構造改革が、マクロ経済政策と適切に調整されるよう確保する。我々は、為替レートは市場において決定されること、そして為替市場における行動に関して緊密に協議することという我々の既存の為替相場のコミットメントを再確認する。我々は、我々の財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は競争力のために為替レートを目標にはしないことを再確認する。我々は、全ての国が通貨の競争的な切下げを回避することの重要性を強調する。我々は、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを再確認する。我々は、国内の成長を支え、政策に関する不確実性を軽減し、負の波及効果を最小化し、透明性を向上させるために、マクロ経済及び構造問題に関する我々の政策行動を注意深く測定し、明確にコミュニケーションを行う。我々は過度の不均衡を縮小するために努力し、かつ、世界の成長を支える方法で行う。我々は、我々の経済に対する貿易の貢献の強化に取り組んでいる。

2.技術変化や世界経済の統合は、近年、生活水準を世界で上昇させる上での重要な貢献を果たしてきた。世界経済が全ての人の役に立つように、我々は、我々の経済と社会が今日の変化のペースに適合することができるように取り組む。我々は、世界経済が長期にわたる緩やかな成長、及び大きくかつ拡大する格差に直面していることを認識する。この格差は、多くの国の国内で顕著に見られ、また、特に低・中所得者に影響を与えている。過度な格差は、世界レベルでも、信認を低下させ、将来の潜在成長率を抑制する。更に、格差は、社会の一体性を脅かし、制度にストレスを与えながら、地域間の不均衡につながり、世代を超えた階層間の流動性を低下させ得る。OECDの報告書「G7各国における包摂的成長に向けた財政アプローチ」は、我々の経済の包摂的成長に係るアジェンダ策定に関する指針を提供する。

3.我々は、成長が包摂的、かつ、雇用が豊富で、我々の社会の全ての層の利益となることを確保することにコミットしている。我々は、経済成長の果実がより広く共有されることを確保しつつ、実際の成長率及び潜在成長率を引き上げることに取り組む。我々は、「バーリ政策アジェンダ」に合意した。このアジェンダは、政策オプションの広範なメニューを通じて、包摂性成長を促進する枠組を提供する。我々は、財政の質の向上等を通じた包摂的成長志向の財政政策を構造政策と組み合わせて、マクロ経済の安定を維持し、幅広い基盤を持った成長を可能とする環境を作りだすことに価値を見出す。我々は、衡平性に係る目標を政策立案に統合することの重要性を認識する。この文脈において、IMFの報告書「G7各国におけるジェンダー予算」は、予算策定過程を通じてジェンダーにかかる平等を促進する方法に関する指針を提供する。我々は、我々のG20の成長戦略において、「バーリ政策アジェンダ」を考慮することを検討する。

4.我々は、持続可能な開発のための2030アジェンダを実現するため、開発途上国を支援する上で、国際開発金融機関(MDBs)が果たす重要な役割を認識する。この役割を果たすため、国際金融機関のシステムが全体として、そのマンデートの中で、資本やドナーからの資金貢献を最大限活用し、長期的な開発効果を総合的に達成しなければならない。このことが、我々の国において、多国間の枠組みでの開発支援に関するコンセンサス及び政治的サポートを強化することになる。このような背景を踏まえ、我々は、MDBsがどのように、自らの効果を高めうるか、バランスシートをより良く活用しうるか、透明性と説明責任に関して最も高い基準を遵守しうるか、真に追加的な民間資金をより多く動員しうるか、協調が全体としての効果を増大しうる分野においてそれぞれの取組み方や実務をより良く連携させうるか、国内資金動員を支援しうるか、そして、IMFの取組を補完しうるか、を議論した。我々は、とりわけ、MDBsが調整と協働の改善を通じてどのように自らの効果と効率性を高めうるか、そして、比較可能な方法で、総合的かつ個別的に、どのように成果を報告し、また実施能力をたどることが出来るかを検討した。

5.我々の意図は、多様なMDBsの運営主体の間で一貫した立場を形作ることを助け、MDBsが相互補完的な主体からなる一つのシステムとして機能することを奨励することにある。我々は、MDBsに対して、共通の枠組みを策定するため協働することを求める。その枠組みは、価格に見合った価値(経済的な効率性や有効性の主要な側面を捕捉するための調和された評価指標や共通の報告様式を含む。)、ポートフォリオの質、及びMDBsによる投資の民間部門との関係における追加性、の概念に関するものである。

6.我々は、テロ資金供与に効果的に対抗するために、我々が有している手段と方策を更に強化することに強くコミットしている。この目的のために、関連する当局間において、国内及び国際的に情報共有を強化するとともに、民間セクターとの協力を強化することにコミットしている。我々の資金情報機関(FIU)は、引き続き、協働し、ベスト・プラクティスを共有し、各国の異なる制度枠組みの下で、国内の規制及びその実施における可能な改善を含め、国際的な協力や国際基準の実施を改善する分野を特定する。我々は、国際基準の実施の改善、及びこれらの課題に関するベスト・プラクティスの共有に関する、金融活動作業部会(FATF)とFIUに関するエグモント・グループによる取組を強く支持する。

7.我々は、平和と世界の安全のための戦略的な手段として、国連安全保障理事会により承認された制裁の頑健な実施を促進し、支持する。我々は、対象を絞った、かつ、実効的な手法で、テロリスト及びその支援者に対する金融制裁を実施し、また、これらの制裁に関するG7の協力を強化する。特に、我々は、可能である場合に、国連制裁対象者を共同提案し、G7で合意された制裁対象者を国内で指定することを検討し、及びG7各国からテロリストの資産の凍結を要請し、またそれに応じる我々の能力を強化することにコミットする。こうした対応は、金融制裁に対するG7のアプローチの更なる強化及び調整の確保に資する。

8.さらに、我々は、金融包摂の促進と、資金移動業(MVTS)セクターにおけるテロ資金供与及びマネーロンダリングのリスクを抑制することの必要性を想起する。関連する利害関係者の正当な行為を守り、テロリスト及びテロリスト集団等による濫用から国際金融システムを守るため、我々は、リスクベースアプローチによって、代理業者を含む資金移動業セクターの効果的な監督と監視を引き続き改善すべきである。我々は、刑事制裁及び行政処分が法への抵触に適用され、効果的に実施されるべきことに合意する。我々は、資金移動業セクターに参入する代理業者に関して、定期的な報告を実施すること、又は最新の情報を保有することが、共有すべきグッド・プラクティスであることを認識する。

9.我々は、自由貿易港や自由貿易地域を含め、古美術品部門における脆弱性が、マネーロンダリング・テロ資金供与に関する課題を突きつけ得ることを認識する。我々は、FATFと各国に対して、自由貿易港や自由貿易地域に関連するマネーロンダリング・テロ資金供与に係る脆弱性をより理解し、その脆弱性に対処する十分な取組を実行することを奨励する。

10.不正な資金と闘う我々の努力を強化することに加えて、我々は、FATFのグローバル・ネットワークにおけるマネーロンダリング・テロ資金対策の体制の実効的な実施を強化するため協働すべきである。その目的のために、IMF、世銀、及び国連薬物犯罪事務所(UNODC)と協議しつつ、我々は、ともに連携し、技術支援の提供を調整・改善するとともに、我々のマネーロンダリング・テロ資金対策専門家に対して、我々の次の会合で報告することを要請する。

11.我々は、低所得国及び低中所得国における金融セクターの安定性の強化を目的とした新たな能力開発のイニシアティブであり、金融システムの一体性及び包摂性の強化並びに深化に資する、IMFの金融部門安定化基金(FSSF)を歓迎する。また、IMFのマネーロンダリング・テロ資金対策に関するテーマ別信託基金により支援されている現在進行中の取組を歓迎する。

12.我々は、FATFの組織基盤、ガバナンス及び実施能力を強化するための現在進行中の取組を歓迎し、支持する。我々は、すべてのFATF加盟国に対して、FATFがそのマンデートを効果的に果たすために必要な資源やサポートを得られることを確保するよう求める。

13.現代の奴隷制、移民の密入国及び人身売買に関連した不正な資金の流れに対して取り組むことの重要性を踏まえ、我々は、FATFに対して、その類型及びリスク指標をアップデートすることを含め、この分野における取組を継続することを要請する。

14.金融サービスのデジタル化が拡大し、サイバーの脅威が進展している状況において、各金融機関及び金融セクターレベルにおけるサイバーセキュリティの評価のための効果的な手法を追求することは重要である。我々は、金融システムにおいて、適時に脆弱性の検知を助ける共通かつ共有された慣行の発展が、個々の金融機関及び金融セクター全体のサイバーの強靱性を向上させるための主要な要素であることを認識する。急速に進展するサイバー脅威の性質を踏まえ、サイバーセキュリティの評価を効果的なものとするためには、現在の評価手法を、定期的なサイバー演習やシミュレーション、最も効果的にペネトレーションテストを活用する方法の検討も含む、サイバーの強靱性向上に即した慣行によって強化・補完することが求められる。この目的のため、我々は、G7サイバー専門家グループ(G7CEG)に対し、サイバーセキュリティの効果的な評価のための、ハイレベルかつ拘束力を持たない基礎的な要素を2017年10月までに策定するよう指示する。サイバー脅威の国境やセクターを跨いだ関連性を強く認識し、我々は、G7CEGに、サードパーティーリスク及びその他の重要なセクターとの協調に関する作業を進めることを指示する。さらに、我々は、国際的な協調と知識の共有を奨励する。2015年の立ち上げ以来、G7サイバー専門家グループは、多様な参加者と高いレベルの相互共有と信頼を構築し、サイバーセキュリティに関する国際協調のための固有のプラットフォームを提供してきた。最後に、G7CEGは、G7財務大臣・中央銀行総裁による方向付けや優先順位付けに従い、サイバーセキュリティに関するその他の関心の高い論点を調査すべきである。

15.我々は、サイバー攻撃が我々の経済に対して増大する脅威を呈していること、及び経済全体にわたる適切な政策対応が必要であることを認識する。周辺環境にサイバー脅威が残存し続ける限り、サイバー空間におけるいかなる部分も完全に安全ではあり得ない。金融システムをサイバー攻撃に対して強靱にするという我々の意欲は、サイバー空間全体における不安全度を減少させる手段を伴うことでのみ最大限の成果を達成しうる。次に、経済全体にわたる政策は、信頼性が高く、不偏かつ包括的で広く利用可能なデータに基づくべきである。したがって、我々は、国際機関や政府機関に対して、民間セクターと連携して、サイバーセキュリティに関する情報の共有を強化することを求める。結果が比較可能であるよう、データの定義と収集方法及び共有は、適切な場合には、国とセクターを跨いで調整され、整合されるべきである。サイバーセキュリティの最適な立法や関連する規制上のイニシアティブに関して、各国の経験とベストプラクティスを全ての利害関係者の間で共有することは、極めて有用となりうる。最後に、我々は、サイバー保険市場の発展をフォローしており、OECDにおいて加盟国のインプットを受けて進められている作業と、OECDの報告書「効果的なサイバー保険市場に向けた支援」を歓迎する。

16.我々は、より公正かつ現代的な税システムのために取り組むこと、及び、経済活動に参加する全ての者にとってグローバルに公平な競争条件を実現することに引き続きコミットする。この目的のため、G20/OECD BEPS(税源浸食と利益移転)パッケージの適時の、一貫した、広範な実施は極めて重要である。我々は、全ての関係・関心のある国・地域がBEPSパッケージの実施及びG20/OECD BEPSに関する包摂的枠組みへの参加にコミットすることを奨励する。我々は、2017年6月7日に行われる「BEPS防止に向けた租税条約に関する措置実施のための多数国間条約」の第1回署名式を期待する。 我々は、経済の電子化に関連した進展を監視・評価すること、及び「OECDの電子経済に関するタスクフォース(TFDE)」の作業の結論に応じて、一貫したアプローチで関連する税の課題に対処するために、必要に応じて政策の選択肢を策定することの重要性を認識する。我々は、OECDのTFDEによる2018年の中間報告に期待する。我々は、税の安定性に関するOECD及びIMFの作業を支持する。

17.税の透明性を世界規模で高めるという我々の目標を再確認した上で、我々は、G20とともに、全ての地域が税務行政執行共助条約に署名し、これを批准するよう求める。また、2017年9月に始まる金融口座情報の自動的交換についての共通報告基準(CRS)を実施することにコミットしていない全ての金融センターを含む全ての関係国・地域が遅滞なくコミットすること、及び、CRSの下で遅くとも2018年9月までに自動的情報交換を開始するために、国内法制の導入を含む必要な行動をすべて取ることを強く求める。我々は、税の透明性に関して合意された国際的基準を未だ満足のいく水準で実施出来ていない地域において十分な進捗があることを期待し、OECDによる、税の透明性に関する非協力的地域のリストの作成に期待する。これは、リストに載った地域に対する防御的措置に関する我々の作業に指針を与える。我々は、FATF及び「税に関する透明性と情報交換に関するグローバルフォーラム」による、実質的所有者情報の入手可能性に関する国際基準の履行改善のための作業を歓迎する。我々は、併せて実質的所有者に関する税分野におけるOECDの補完的な作業を歓迎する。

18.「租税犯罪及びその他の不正資金の流れに対する闘いについてのバーリ宣言」は、当局間及び国家間の効果的な協力に基づき、租税・金融犯罪に対して包括的なアプローチで闘うという我々の決意を反映している。我々は、CRSの下での報告を回避するために設計された取極めや、実質的所有者に不透明な構造のシェルターを提供することを目的とした取極めに対処するために、義務的開示ルールのモデルの検討を含む可能な方法を議論する取組を支持する。

19.我々は、途上国の国内資金動員の能力を強化することが、持続可能な成長のためのグローバル2030年アジェンダの達成に極めて重要であることを再確認する。税制及び税務執行能力の改善も、世界的に公平な競争条件にとって極めて重要である。この目的のため、我々は、「アディス税イニシアティブ」の原則に引き続きコミットし、「税に関する協働のためのプラットフォーム」の作業を支持する。我々は、同プラットフォームが、国際機関間の協働を深化させ、また、税務能力構築のための外部からの支援の効果を向上させるに当たり、主要な役割を果たしていることを認識している。我々は、税の能力を構築する上での途上国に対する的を絞った支援を引き続き支持する。我々はまた、OECDによる「アフリカ租税・金融犯罪捜査アカデミー」のケニアでの設立のような、租税・金融犯罪への対処という分野における新たなイニシアティブを歓迎する。