データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ジェンダーに配慮した経済環境のためのG7ロードマップ

[場所] タオルミーナ
[年月日] 2017年5月27日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 我々G7首脳は,タオルミーナで会合を開催し,このロードマップを採択することに合意した。タオルミーナ宣言で承認された原則に従い,このロードマップは,女性の労働市場への参画,起業,経済的エンパワーメント,ひいては社会への完全かつ平等な参加を可能にすることを通じ,ジェンダー平等の達成において最も大きな影響を及ぼし得る中央政府の管轄内の構造的な政策に焦点を当てている。

 これまでのG7議長国の成果,特に,エルマウ及び伊勢志摩首脳宣言,関連する国際的枠組,特に,北京宣言及び行動綱領並びにレビュー会議の成果文書,国連事務総長の女性の経済的エンパワーメントに関するハイレベル・パネルの行動へのグローバルな呼びかけ,持続可能な開発のための2030アジェンダに留意する。また,我々は,W7フォーラム「女児から始める」で聞かれた非営

利セクター及び市民社会からの声も評価する。

1)女性の参画拡大及び,意思決定の全ての段階でのリーダーシップの平等な機会及び公正な選考過程の促進

1a.社会,経済,政治分野の全ての側面での女性の参画及びリーダーシップを促進する政策の推進。G7を含む全ての国において,政治,経済,公共分野への女性の参画が不均衡な状態であることを憂慮し,以下を決定する。

・2022年までに,G7諸国は政治,経済,公共分野の全ての意思決定の段階における女性増大に向けた措置を講じることを勧告する。

・民間セクターに対し,リーダーシップ研修やジェンダー平等の分類/認定等のポジティブ・アクションを展開し,ロール・モデルを推進することにより,民間企業における女性の積極的な役割を評価することを奨励する。

・G7代表団,すなわち,シェルパ,G7作業部会,各行政府でG7関連業務に従事する全ての職員の中で,よりバランスの取れた女性の参画を奨励する。

1b.女性起業家の推進。更なる女性起業家の増加がイノベーション,雇用創出,経済成長に寄与していることを再確認し,以下にコミットする。

・2022年までに,適当な場合には,保証基金や,インセンティブ,特にスタートアップ段階では,担保付取引の改革といった様々な手段を通じて女性起業家の信用及び資金への更なるアクセスを推進し,これを容易にするため,具体的で持続可能な措置を講じることを検討する。

・2020年までに,政府,その他の官民の利害関係者が設立した女性起業家促進のための既存の資源,ネットワーク,その他の措置に関して女性に情報提供を行い,女性起業家のロール・モデルを提示することを目的として啓発キャンペーンに投資する。

・2020年までに,女性起業家の能力構築のニーズに特に対応する研修,メンタリング,ネットワーキングの機会提供のため,適当なレベルで持続可能な措置を講じる。

・開発協力政策で経済及び生産セクターを対象とした対外活動及びプログラムにおいて,我々の取組を強化し,ジェンダー平等の主流化,女性の権利及びエンパワーメントを強化することを検討する。

2)働きがいのある人間らしい質の高い仕事への女性のアクセスの基盤強化

2a.女性参画の上昇,雇用の質の改善,ジェンダー平等の促進を通じて,2025年までに男女間の労働市場参加率の格差を25%削減することに継続してコミットする。女性の労働市場への参画の低さが収入,年金格差,退職貯蓄及び経済的自立に及ぼす負の影響を認識する。女性が多くの場合に,より低賃金の仕事及び社会分野に関連する仕事で,またインフォーマル経済で雇用されていることを認識しつつ,以下にコミットする。

・高度な技術を必要とし,高収入で,特に,女性の割合が少ないセクターにおける女性の雇用を推進するため,具体的な取組を行う。

2b.無償のケア労働及び家事労働並びに経済への推計された貢献の認識及び評価。フォーマルセクターの経済は,多くの場合女性及び女児が偏って担わされ

ている無償のケア経済労働/家事労働に依存していることを認識し,以下を決定する。

・無償の家事及びケア労働とその価値を測定するための共通の手法に合意するため,多くの機関(各国の統計部局,国連(UN),経済協力開発機構(OECD),国際通貨基金(IMF),世界銀行(WB),国際労働機関(ILO)及び欧州委員会を含む)の貢献を集約する。イタリアの国立統計局は,そのような調整作業に着手する任務を負う。上記の共通の手法の開発に寄与

する一環として,

- 2017年末までに,OECDに対し,各国及び国際レベルで現在進行中の無

償の家事サービス労働の評価及び生活時間調査に関する作業を考慮し,また第19回国際労働統計家会議(ICLS)の労働統計に関する決議に従って,G7諸国の既存の無償家事労働の国民経済計算推計を更新し,周知するよう

要請する。

- 2018年までに,ILOに対し,第19回ICLSの労働統計に関する決議の履行にあたり,G7及び全ての国を支援するためのガイドラインを作成す

ることを目的とし,労働力調査(LFS)のパイロット作業プログラムを進めることを要請する。

- 国民経済計算の基準を担当するこれらの国際機関がこの枠組においてこのアプローチをより顕著にし,また持続可能な開発目標の進捗状況を測定する

という文脈でも現在行っているこれらの数値の作成を推進することを要請する機会を評価する。

・女性及び女児が担うケア労働の圧倒的負担への認識を高めるために啓発キャンペーンを立ち上げ,2020年までに男女間のケア労働の責任の公正な分配を促進し,女性の労働市場への参画が低いことが収入,年金格差及び退職貯蓄へ与える影響を強調する。

2c.子供及びその他の扶養家族の家庭でのケアを支援するための社会インフラへの投資。社会インフラ,すなわち地域社会における生活水準及び生活の質を維持,改善する施設,場所,スペース,プログラム,プロジェクト,サービス,ネットワーク,医療施設・サービス,教育施設,レクリエーションのための場所,プログラム,資源,サービス,地域的及び文化的発展を含めた相互依存的な融合は,無償労働の負担を軽減し,女性が正式な労働市場の一員となる上で,不可欠な役割を果たすことを認識し,

・適当な場合は,社会政策及びインフラを再度優先順位付けする観点から,予算編成,計画,承認,執行,モニタリング,分析,監査の過程でジェンダー平等を主流化することを検討する。

・ジェンダー主流化を実施し,ジェンダーに配慮した政策,プログラム,規則を実施し,改善するための具体的な行動をとる。

・社会インフラ及びサービスに利用可能な資源の影響を最適化及び/又は量を増加させ,官民パートナーシップを促進し,そのようなサービスを全ての人々にとって手頃なものになるようにし,一方で各国の周期的立場及び利用可能な政策余地を考慮する。

2d.女性及び女児の完全な経済的エンパワーメント及び変化の担い手としての重要な役割を推進するための健康,幸福及び栄養への投資。達成可能な最も高い身体的及び精神的な健康基準を享受する権利は,女性及び女児の社会的,政治的,経済的エンパワーメントにとって不可欠であることを認識する。したがって,以下を行う。

・女性の経済参加を強化し,女性及び青少年に対する健康リテラシー及び教育を向上させ,健康と医療に関する女性及び青少年の権利を推進し,全ての段階での意思決定並びに彼女らの健康及び幸福に影響を与える政策策定過程において女性の参加を強化するため,啓発活動を行い,健康及び栄養の良い習慣の採用を支援する。

・ジェンダー平等及び全ての女性及び女児の人権の実現を推進する手段として,幅広いサービス,女性及び青少年の健康及び医療に関する正確な情報,及び彼女らの健康及び幸福に関する意思決定への更なるアクセスを支援する。

2e.貧困撲滅戦略及び他の全ての経済,社会,環境政策の策定における,ジェンダーに配慮した多次元的な新しい貧困分析の実施及びジェンダー平等の主流化。ジェンダーに配慮した多次元的貧困測定がジェンダーと貧困,エンパワーメントと不平等の相互関係を強調し,貧困及び社会的排除の主な理由に注目させることにより,G7諸国のジェンダー統計に貴重な貢献を行い得ることを認識し,以下を決定する。

・世界的な経済危機が女性の雇用に及ぼす影響を含む,ジェンダーに配慮した多次元的な新しい貧困分析の,考え得る概念的枠組を議論するために,関連する各国,地域及び国際的な専門家を集める。議論は2017年中に行われ,最初の結果は2018年にG7諸国に提示される予定。

・経済成長プロセスに参加し,貢献し,恩恵を受ける女性の能力(女性の行為主体性)に関する統計能力,データ作成及び分析力を革新的な手法を通じて強化するために,国際的パートナーシップを奨励し,支援する。

・どこでどのような健康に関する不平等が発生しているか,誰が影響を受けているか,不可欠な健康サービスへのアクセスにどのような障壁が異なるグループを妨げているかに関し,詳細な理解を得るために,性別及び年齢別のデータ及び情報の入手可能性を強化する。

・男女に関する政策の準備,実施,モニタリング,影響の評価におけるジェンダー主流化を通じて,貧困削減のための全ての政策及び措置における貧困のジェンダー不平等の側面に取り組む努力を強化する。

・貧困撲滅戦略と雇用,課税,家族,医療,高齢者介護,住宅政策等その他の経済・社会政策との相乗効果を発展させる。貧困の多面的な現実は,異なる政策間の補完性を必要とする。

・女性の社会的地位に影響を及ぼす要因として,とりわけ年齢,障害,人種,民族,宗教,家族構成に特に注意を払い,複雑にからみ合う不平等を貧困の対策及び解決策に関する議論の前面に取り上げる。

2f.包括的なワーク・ライフ・バランス及び同一賃金を確保する政策及び措置の策定。女性は,多くの場合不安定な雇用形態で雇用されており,有給休暇,生涯にわたる柔軟な勤務形態,育児及び長期介護及び給与の透明性措置等の上記の政策及び措置は,労働市場への親,特に女性の参加を強化する上で重要な役割を果たし得ることを認識し,以下を決意する。

・不安定な雇用形態と闘い,仕事の条件を改善し,民間企業,国有企業及び公的雇用主に対し,男女双方にとって仕事とケア責任の両立を容易にし,ジェンダーの賃金格差を減らす取組を強化するため対策を取ることを奨励する。

・企業が,例えば認定制度及び/又は財政措置の手段によって,職場において男女双方にとって柔軟な勤務形態及び家族に優しい措置を承認することを奨励する。

・男女,並びに女児及び男児の間におけるケア及び家事労働の平等な分担を推進することで,また,育児休業又は家族休業がある場合,父親・母親双方の取得の拡大を目指すことで,男女双方にとって仕事と家族及び私生活の両立を容易にする。2025年までに,父親の育児休業の更なる取得を支援する措置を採用することを検討する。

・ソーシャル・パートナー及び関連国際機関(ILO等)と協力して,2019年までに,G7各国で性別による賃金格差がより顕著である最も関連性が高いセクターをマッピングすることを検討する。この情報は,女性の労働市場への参画,彼女らの安定した平等な雇用形態及びキャリアアップを促進するため,より情報に基づいた,焦点を絞った公共政策を策定することに資する。

2g.科学,技術,工学,数学,医学分野(STEMM)における女児及び女性の参加の推進。デジタル,科学,技術の技能分野は依然として女性及び女児の割合が少なく,そのような技能は,今日の経済における多くの働きがいのある人間らしい,高収入な職にとって重要な要件であることを認識し,また,女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ(WINDS)を含むこれまでのG7の取組により達成された結果に基づき,以下に引き続きコミットする。

・2020年までに,より多くの女性及び女児が,STEMM分野で学習し,これらの分野で職業教育,研修及びキャリアを開始することを奨励するために,若い女性,男性,両親,教師,教育機関,雇用主の間で,学術界や実習プログラムでの能力に対するジェンダー・ステレオタイプに基づく態度についての啓発を行う。

・科学的又はアカデミックなキャリア及び意思決定において,女性に対する差別を生み出す障壁を取り除くことを目的とし,大学や研究機関を対象とした特定のプログラムの策定,資金提供及び実施を検討する。

・適当な場合は,大学のコース及びカリキュラム,並びに研究やイノベーションの内容にジェンダーの側面を統合するため大学及び研究機関を支援する。大学,研究機関及び民間セクターの連携を強化する。

3)生涯を通じた女性及び女児に対する暴力の排除

公的及び私的領域における女性及び女児に対する暴力の終焉のための適切な措置の推進及び実施。女性及び女児に対する暴力は人権の侵害であり,彼女らのエンパワーメント及び持続可能な発展にとって明らかな障壁であること,また各国のGDPを含む,社会全体にとっての重大な直接的及び間接的なコストを伴うものであることに言及し,移民や難民を含む女性及び女児に対する,児童婚,早期婚,強制婚,女性性器切除,家庭内及び親しいパートナーからの暴力,性的及び労働搾取のための人身取引といった有害な慣行を含むハラスメント及びあらゆる形態の暴力を阻止するためには,マルチセクターでの対応が極めて重要であることを認識し,女性及び青少年の健康及び医療の尊重,保護及び推

進の重要性を認識し,我々G7首脳は,中央政府の国内的な権限レベルに従って,以下を行うことを約束する。

防止

・人的・財政的資源を伴う女性及び女児に対する暴力に関する国内戦略を策定し,実施する。

・2022年までに,全てのレベルの学校及び高等教育において,ジェンダー規範,固定観念,女性及び女児に対する暴力防止に関し,教育及び学校スタッフ並びに学生のためのジェンダー平等に関するカリキュラム研修を推進す

る。

・女性及び女児に対する暴力に関連する法律及び政策の実施状況をモニターし,可能であれば女性及び女児に対して行われた暴力の範囲及び種類に関する関連データを収集し,分析する。

・事態を監視し,その原因及び結果を調査し,潜在的な犠牲者である脆弱なグループ及び新たに発生した暴力形態を特定するために,入手可能な性別及び年齢別のデータを定期的に収集し,公表する。

・対象を絞ったインパクトのある情報及び啓発キャンペーン,特に男性及び少年を変化の担い手として関与させることを目的とするものを実施し,またメディア及びエンターテインメントにおいて,女性の品位を下げるイメージ,女性に対して行われた暴力行為のイメージを示すこと,又は女性に対する暴力を煽ることのネガティブな効果に対する啓発を行うため,資源を投資することを検討する。

・ネットいじめの防止及び介入の実践を検討し,特に女性及び女児に対するネットいじめの影響についての意識を高めるための啓発キャンペーンを推進し,女性及び女児がネットいじめについて声を上げる必要性を奨励する。

保護

・2022年までに,被害者のシェルター及び反暴力の女性機関に対し,また警察,検察,裁判官,ソーシャルワーカー,医療従事者及び軍隊の関連部門等の被害者及びサバイバーに接する専門家のためのトラウマ・インフォームド・トレーニングを含む文化的に配慮した研修に対し適切な財政支援を行う。

・2022年までに,人身取引の防止及び移民,女性及び女児の脆弱なグループを含むその被害者の保護にあたり,ジェンダーに配慮した,人道的で被害者中心のアプローチを採用する。

・2022年までに,有害な慣行や人身取引を含む女性及び女児に対するあらゆる形態の暴力に対処する開発協力プログラムのための利用可能な資金の影響を最適化し及び/又は利用可能な資金を増加させ,国連安保理決議第1325号を履行する努力を強化することを検討する。

訴追

・2022年までに,女性に対する暴力の加害者の実効的な訴追の確保を促すため,法律とその実施の検証,導入及び/又は強化を検討し,そのような加害者のためのリハビリ/治療プログラムを実施する可能性を考慮する。

・出身国,通過国及び目的国間,その法執行機関間との協力を含め,いかなるレベルであれ,国内的,国際的な人身取引及び搾取に関与している者の効果的で時期を得た訴追の確保を促す協力を推進し,円滑化する。

・人身取引に関連する捜査を支援するために疑わしい資金活動を特定及び報告し,また出身国での現象を防止するために,適当な場合は,特に女性及び女児の人身取引に関連する資金の流れの分析を含む,資金捜査を実施する。

モニタリング及び説明責任

ジェンダー平等及び女性のエンパワーメントに関するG7作業部会は,このジェンダーに配慮した経済環境のためのG7ロードマップに含まれているコミットメントに対する進捗状況をモニターする責任を負う。