データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 原子力安全セキュリティ・グループ報告書

[場所] タオルミーナ
[年月日] 2017年5月27日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.原子力安全セキュリティ・グループ(NSSG)は、2002年のカナナスキス・サミットにおいて設立され、多国間機関と緊密に協力し、既存の組織や団体によって適切に対処されているタスクや責任との重複を回避し、首脳に対して、原子力エネルギーの平和的利用における安全とセキュリティに影響を与える可能性のある問題について技術的な情報を基にした戦略的政策アドバイスを提供する責任を負う。

チェルノブイリ・プロジェクト

2.イタリア議長の下、NSSGは、欧州復興開発銀行(EBRD)と緊密に連携しつつ、G7諸国と欧州連合(EU)が大きく貢献してきたチェルノブイリ・シェルター基金(CSF)及び原子力安全基金(NSA)によるチェルノブイリの新シェルター(NSC)及び使用済燃料中間貯蔵施設(ISF-2)の建設という2つのプロジェクトの進展を引き続きフォローした。

3.チェルノブイリの新シェルターは、損傷した原子炉とその炉心内にある放射性物質を収容している石棺を少なくとも100年間封じ込める予定であり、完成すれば、工学技術において特別な功績を残すことになる。巨大なアーチは、損傷した原子炉から安全な距離で組み立てられ、2016年11月に最終位置にスライドされた。作業は現在のコストの見積もりとタイムスケジュールに従って進められており、将来の作業のため、2017年11月30日までにコミッショニングとチェルノブイリ原子力発電所の所有者への引き渡しを行うことで、施設の作業は完了する。新シェルターは、石棺からの汚染物質の放出を防止すると同時に、極端な天候などの外部の影響から構造物を保護し、将来の石棺の解体作業及び使用済燃料の管理のために、頑丈なクレーンを備えた安全な作業環境を提供する。

4.新シェルターは、シェルター実施計画において目に見える、最も重要な部分である。シェルター実施計画全体では、21億ユーロの費用がかかるとされており、そのうちの15億ユーロが新シェルターに費やされる予定である。G7とEUは12億ユーロの貢献を行ってきており、EBRDは今日までに5億ユーロの独自の資金を提供した。

5.使用済燃料中間貯蔵施設は、過去の作業によりチェルノブイリ発電所から取り出された20,000個以上の使用済燃料集合体を少なくとも100年間、現場のコンクリートモジュールに封印する前に処理を行う予定である。ISF-2は、承認されたコストの見積もりに基づいて進められている。現在のスケジュールに従い、ISF-2施設の建設は、2017年5月に完成し、その後、コールド試験が実施される予定である。現在の貯蔵施設(ISF-1)からの燃料の回収及びホット試験は、2017年11月に開始する予定である。規制当局が最終安全分析レポートを承認した後、2018年夏に施設の引き渡しが予定されているが、燃料キャニスターの製造は2019年初めまで継続する。すべての使用済燃料がISF-2に移されると、古い貯蔵施設を廃止することができ、これはサイトの原子力安全を高めるもう一つの大きなステップとなる。

6.2016年現在、原子力安全基金はISF-2と液体放射性廃棄物処理プラント(LRTP)に約222百万ユーロを拠出しており、そのうち、168百万ユーロがG7とEUによる拠出である。ISF-2のコストは400百万ユーロと見積もられており、EBRDからは215百万ユーロの拠出が可能になっている。

7.NSSGは、2つのプロジェクトの進展を歓迎しつつ、建設、テスト及びコミッショニングの完了にはまだ大きな課題が残っていることに留意する。NSSGは、効果的なマネージメントと合意された見積もり及び現在のスケジュールでプロジェクトを完了するために、契約当事者及びウクライナ当局を関与させることに対するEBRDの継続的なコミットメントを期待する。NSSGは、NSCとISF-2の効率的かつ成功裡の結果を確実にするために、ウクライナ政府が必要な制度、規制及び財政の措置を採ることの重要性と必要性を強調する。

8.新シェルターの2017年内の完成と使用済燃料中間貯蔵施設の運転開始は、チェルノブイリ・サイトを安定かつ環境的に安全な状態にするために、国際社会が支援しているプログラムにおける重要なマイルストーンとなる。NSSGは、国際社会からの約30億ユーロの支援で実現したチェルノブイリ・サイトにあるNSCやISF-2などの重要な施設を含むインフラを最大限活用して、チェルノブイリの修復プログラムの実施を成功させるために、ウクライナがすべての必要な制度的、財政的な準備をとることを期待する。特に、NSSGは、NSCの引き渡し後、ウクライナが2023年までに完了予定の不安定な構造の石棺の解体を遅滞なく進めることを期待する。

9.ウクライナは、ウクライナ政府とドナー国の主要代表者の参加を得て2017年12月にウクライナで開催される予定のチェルノブイリ・シェルター基金の拠出国総会を特に厳粛に行う意向である。同じ機会に、特にG7とEUによって支援されている、世界の原子力安全にとって有益かつチェルノブイリ地域を環境的に安全にするための原子力安全プログラムとの関連性を強調するハイレベルのイベントの提案が現在検討されている。

ウクライナ規制当局の独立性

10.NSSGメンバー国は、2015年に導入された有害な法律改正に続く、ウクライナ規制当局の独立性に関する新たな動きを引き続きフォローする。NSSGは、ウクライナ政府が本件は原子力安全条約(CNS)第7回検討会合に引き続き取り組む必要がある課題であると認識したという事実を歓迎する。

原子力安全における国際的な法的枠組みの強化

11.国際的な原子力安全の法的枠組みの強化は、NSSGの議題の中心的な要素である。NSSGは、原子力安全に関連する条約の締約国数を増やし、条約の効果的な実施をさらに促進するために、福島第一原発事故の教訓を踏まえつつ、引き続き努力する。さらに、NSSGは、安全関連条約とそれに参加することのメリットについての意識を高める行動計画を作成するためのIAEAのイニシアティブを歓迎する。

12.NSSGは、原子力安全条約第7回検討会合の成果と日本議長のでG7によって提唱された提案に基づく措置の採択を歓迎し、これらの新しい措置の実施を支援するG7のコミットメントを表明する。また、NSSGは、検討会合でのカナダ主導の懸命な努力と協調デマルシェにおけるすべてのG7諸国の協力を得て国別報告書の提出数が大幅に増加し、レビュー・プロセスが強化されたことを認識する。同時に、NSSGは、原子力安全に関するウィーン宣言に掲げられている原則を含め、原子力安全条約の締約国における批准と効果的な実施の重要性を強調する。

13.NSSGは、使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(合同条約)を推進する必要性を認識し、締約国数の更なる増加とその後の義務の履行を追求し、世界的な安全性の向上に貢献する。この趣旨で、NSSGは、2018年の合同条約第6回検討会合への参加を強化するために、協調デマルシェを実施することに合意した。

14.NSSGは、原子力損害に対する適切な賠償を提供することにより、原子力事故の影響を受ける可能性のあるすべての国の懸念に対処するグローバルな原子力損害賠償制度を確立することの重要性を再確認する。NSSGは、このようなグローバルな制度を確立するための一歩として、すべての国が国際的な原子力損害賠償条約に参加することを奨励する。

核セキュリティにおける国際的な法的枠組みの強化

15.NSSGは、核セキュリティ・サミットのプロセスによって強力な国際核セキュリティ・フレームワークを維持することの重要性を考慮し、また大量破壊兵器・物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップにおけるG7の役割を想起し、限られた資源を浪費しないよう、作業と取組の重複を避ける必要性を強調しながら、この枠組みと効果を果たすことができるNSSGの役割を支持し強化することの継続的な必要性を強調する。

16.この点について、NSSGは、国際的な核セキュリティの法的枠組みの普遍化とその実施を促進し、核物質防護条約、2005年同改正条約及び核テロリズム防止条約に関する協調デマルシェを実施することを目指す。

17.NSSGは、すべてのG7諸国がメンバーである核セキュリティ・コンタクト・グループの設立を歓迎する。コンタクト・グループは、核セキュリティ・サミ

ットによって生み出されたモメンタムを維持し、世界的に核セキュリティを強化する上での協力と持続的な関与を促進するのに役立つ。

原子力安全及び核セキュリティにおけるIAEAの活動

18.NSSGは、福島第一原子力発電所事故後の原子力安全の強化における世界的に重要な進展は、国家による実行、並びにIAEA事務局、IAEA加盟国及びその他関係機関が取り組んだ多くの活動の成果であると認識する。同時に、このような進展を維持するためには、すべての国の継続的な努力とコミットメントが不可欠である。

19.原子力が世界的に利用されていることを踏まえ、NSSGは、強固な原子力安全、核セキュリティ及び不拡散体制を構築するために、原子力発電計画を導入する決定を行った国を支援する技術協力とピアレビュー・ミッションを通じてIAEAが果たす役割と活動を支持するとともに、G7がこれらの活動への原子力国の関与を促進するために主導的な役割を担うことの重要性を強調する。

20.NSSGは、福島第一原発事故の知見と教訓及び原子力安全に係るIAEA行動計画の実施を基盤とするIAEA事務局のコミットメントを歓迎する。これらの知見と教訓は、他の関連する教訓とともに、分野横断的な業務から成るIAEAの新しいプログラムにおける優先順位の基礎となる。NSSGは、この包括的アプローチが原子力、放射線、輸送と廃棄物の安全性及び緊急事態対応を強化するための各国の努力をより良く支援する目的であることを評価する。

21.NSSGは、IAEAが、原子力安全及び核セキュリティに関連するIAEAの主な活動の一つである加盟国に対するピアレビュー・サービス、特に総合規制評価サービスについて、評価及び合理化するための内部プロセスをさらに促進することを推奨し、NSSGにて進捗を定期的に報告することを要請する。

22.NSSGは、情報及び知見を共有し、多国間協力及び調整を促進し、原子力安全、核セキュリティ及び原子力技術の持続的な利用に係る能力を築くためのツールとして、2007年にIAEA及びNSSGが共同で構築した国際的な原子力安全と核セキュリティ・ネットワークの発展を歓迎する。

23.NSSGは、効果と効率を確保し、重複を回避し、強固で弾力性のある国際的な核セキュリティを達成するためのそれぞれの努力の成果を最大化するための国連、国際刑事警察機構、核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ、大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG7グローバル・パートナーシップを含む国際機関及びイニシアティブにおける核セキュリティの活動を調整するIAEAの中心的役割を強調する。

緊急事態への準備及び対応における協調

24.NSSGは、あらゆる原因による原子力又は放射線の緊急事態への準備及び対応の協調に向けた国際的な努力の進展に注目する。この進展は欧州放射線防護機関管理者連合(HERCA)と西欧原子力規制者会議(WENRA)が共同して発展させた近隣国が関わる緊急事態への対応の違いを回避するための手法、共通の目標のもとに昨今発行された安全基準GSR Part7、及び原子力及び放射線の緊急事態の対応と援助の協調に関するIAEAの緊急時対応援助ネットワーク(RANET)のガイドラインを含む。IAEA及び加盟国により開発された関連する安全ガイドの早急な発行は優先度が高いと考えられる。

25.NSSGは、緊急事態における国境を越える協調は、トレーニングプログラム、国内、二国間及び国際的な訓練(例えばConvexとINEXシリーズ)と合意と共に、危機管理において重要な要素であると認識する。特に、NSSGは、調和はすべてのステークホールダー、特に市民を防護する政府機関が関与すべきであるという事実を強調する。

26.NSSGは、福島県に指定されたIAEAのRANETの能力研修センターの加盟国の緊急事態への準備及び対応に関するキャパシティビルディングへの貢献について特に認識する。

放射性廃棄物管理と廃炉に関する課題

27.NSSGは、今後ますます重要性が増す放射性廃棄物の安全かつ長期的な管理の重要な役割とともに、廃炉に係る課題について強調する。また、NSSGは、これらの分野におけるG7各国の取組の進展と、IAEA及びOECD/NEAによる国際的なイニシアティブを評価する。

28.放射性廃棄物及び廃炉の長期的な管理は、G7共通の課題を提起する。例えば照射された炭素等特定の物質の扱い、コスト評価及び物理的なモニタリング手法、処分場の適性、公衆との意思疎通、利害関係者の関与と透明性である。高レベル放射性廃棄物または使用済燃料の処分に係る意思決定プロセスへの公衆の参加は、処分施設を成功裡に稼働させるための重要事項である。これに関し、NSSGは国際協力を推奨し、共同のイニシアティブを歓迎する。

29.放射性廃棄物及び使用済燃料の管理に係る包括的な政策及び戦略が可及的速やかに検討・実行されなければならないことを念頭に、NSSGは、IAEA安全基準及びこれに特化したピアレビュー・サービス(放射性廃棄物管理に関する統合レビュ-サービス(ARTEMIS))の開発と適用を通じて各国を支援するIAEAの役割を評価する。

30.NSSGは、福島第一原発における廃炉・汚染水対策が国際社会との緊密なコミュニケーションの下でオープンかつ透明性をもって着実に進められていることを歓迎する。

人的側面と原子力安全及び核セキュリティ文化

31.NSSGは、適格な人材と強固な原子力安全及び文化は、安全で核セキュリティが確保され、持続可能な原子力・放射線技術の応用とそれらから社会が得られる潜在的利益を確保するための基礎であることを強調する。これに向けて、NSSGは、放射線教育を含む関連技術の発展のためのキャパシティビルディングや知識保全を支え、健全な安全及び核セキュリティ文化を確立する各国及び国際的なイニシアティブを奨励する。

32.NSSGは、加盟国におけるキャパシティビルディングを支援するIAEAプログラムに謝意を表明し、また、これに関連し、平和的利用イニシアティブ(PUI)の重要性を強調する。加えて、NSSGは、強力で安全指向且つ優秀な労働力を作ることを目的とするOECD/NEAのプロジェクトであるNEST(Nuclear Education Skill and Technology)や、専門性開発の機会や核セキュリティ要員の証明書を提供する世界核セキュリティ協会(WINS)アカデミー等、安全性及びセキュリティにおける能力強化を目的とするイニシアティブを歓迎する。

33.NSSGは、安全性及びセキュリティ文化へのアプローチを促進及び実施するための国際的な取組の強化を、それらの差異や境界を認めつつ、奨励する。それらの分野における経験に基づく実用的な学習は、将来の世代において、訓練プログラムの一部であるべきである。

34.NSSGは、各国の原子力安全及びセキュリティにおける責任は完全にその国にあることを認識する一方、顧客となる国の責任及び、透明性のある手段による原子力安全、核セキュリティ及び核不拡散に十分に配慮するという輸出国の役割を強調する。これに関連して、NSSGは、IAEAやOECD/NEA等の国際機関、並びに、地域及び国際的な協力枠組みの重要な役割を認める。

35.NSSGは、原子力施設の移転に関し、すべての原子力施設及び資機材の輸出国が「公的輸出信用機関のためのOECDコモンアプローチ」を遵守すること、また、輸出先国が関連するIAEAピア・レビュー・ミッションの受入れを確保することを奨励する。

36.加えて、NSSGは、世界原子力発電事業者協会(WANO)の活動及び、世界の主要な原子力発電所ベンダーにより作成された任意の行動規範である原子力発電所及び原子炉輸出者のための行動原則(NuPOC)の重要性に留意する。

中央アジアにおけるウラン鉱山開発が残した課題

37.NSSGメンバーは、中央アジアにおけるウラン・レガシー・サイトでの環境修復のためのプロジェクトの進捗状況をフォローするとともに、IAEAの支援の下、ウラン・レガシー・サイトのコーディネーション・グループによって策定され、また2017年4月の第2回NSSG会合において発表された、包括的な戦略的マスター・プランの完成を歓迎する。NSSGはまた、EBRD内に専用の基金である中央アジアのための環境修復基金(ERA)を設立したことに留意した。これらの進展はさらなる修復作業のための確固たる基礎を提供する。NSSGは、2018年にハイレベルのプレッジング会合が行われる予定であることに留意した。