データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7 伊勢志摩サイバーグループ会合議長報告

[場所] 
[年月日] 2018年4月23日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1. 全てのG7のパートナーは,全ての者がその利益を享受できる,アクセス可能で,開かれ,相互運用可能で,信頼でき,安全なサイバー空間についての共通した認識を改めて表明した。サイバー空間から引き出され得る,巨大な経済的,政治的及び社会的利益を認識しつつ,パートナーは,民間部門,市民社会,学術界及び政府を含む全てのステークホルダーの参加から利益を得る協調的で包摂的なアプローチの必要性を強調した。女性及び子ども,LGBT並びに社会的少数集団を含む異なる集団が,積極的なものも消極的なものも含め,機会と影響を異なる形で経験していることや,また国家間及び国家内のデジタル・ディバイドに留意しつつ,これらの不平等に対応するための積極的な行動の必要性が強調された。

2. グループは,アクセス可能で,開かれ,相互運用可能で,信頼でき,安全なサイバー空間への脅威が増大しつつあることに留意した。こうした背景の下,G7のパートナーは,政府及び民間部門を含む,この努力に貢献する全ての主体の責任を考慮しつつ,デジタル・セキュリティを推進し,サイバー空間における信頼と安定を確保し,政策を立案することの重要性を強調した。

3. 国家及びその代理主体並びに非国家主体は,民主的プロセス及び制度を毀損し,また重要インフラ及び世界中の自由民主主義による経済的な恩恵を脅威にさらすことを意図した悪意のあるサイバー活動を行っている。ウクライナで始まり,世界中の企業に数十億ドル単位で甚大な損害を与えた,無分別で,制御不能なノットペチャによるサイバー攻撃の責任をロシアの主体によるものとする,いくつかのG7諸国及びその他のパートナーによる最近の政府声明に特に注意が向けられた。同様に,グループは,英国の国民保健システムを損ない,世界中の何百万ものコンピュータの情報を破壊したワナクライによるランサムウェア攻撃と北朝鮮との行動を結びつけた政府声明をレビューした。

4. 国境を越える組織犯罪の増大する役割及び国家主体の関与を含む,サイバー犯罪のますますの洗練化と増大する損失の問題も議論された。グループはまた,北朝鮮によるものも含め,多国間の制裁レジームの抜け道としての資金調達及び資金移転を目的とするほか,テロリストへの資金援助や資金洗浄を目的とする,サイバーによる窃取及び暗号通貨の使用の可能性を検討した。グループは,サイバー犯罪に関する条約(ブダペスト条約)への共通のコミットメントを改めて表明した。グループは,条約に加入している又は加入することを検討している六つの大陸の国々の多様性や増加及び条約に新たな議定書を追加するための現在進行中の交渉によって証明される,ブダペスト条約の継続的な妥当性を強調した。グループは,国連サイバー犯罪包括研究に関する政府間オープンエンド専門家会合の下でのサイバー犯罪に関する検討並びにサイバー犯罪分野での能力構築への注力及び一層の国際協力の重要性を認識した。人員募集,訓練,コーディネート,切迫した暴力への扇動及び資金調達を含むテロ目的でのインターネットの利用は,G7の協調した行動の主要な懸念であり,焦点であり続けている。暴力的過激主義者及びテロリストによるインターネット利用への対抗に関する,G7ローマ・リヨン・グループ及びG7安全担当大臣会合における努力が留意された。

5. グループは,増大するインターネットの遮断,仮想のプライベートネットワークの使用への制限,情報及び表現の自由へのアクセスの制限,プライバシー権の侵害並びに記者,人権活動家,民主主義活動家及び市民社会の集団へのサイバー攻撃を含むインターネットの自由の低下を懸念と共に留意した。グループは,人々がオフラインで持つものと同じ権利がオンラインでも保護されなければならないことを強調し,国連憲章,国際慣習法及び関連する条約を含む国際人権法のサイバー空間への適用可能性を再確認した。

6. パートナーは,これらの増大する脅威に対応する上でG7が果たす重要な役割を認識した。自由民主主義国家として,我々のアプローチが国際法,民主主義的価値観,制度及び過程,人権,包摂性,開放性,透明性及び法の支配への共通したコミットメントに基づかなければならないことが認識された。我々の社会の強靱性は,これらの性質の結果として成り立つ。それゆえ,我々の対応は,それらを強化しなくてはならない。これらの対応の重要な性質は,アナログな世界のために作られた民主主義的ガバナンスの枠組を,人工知能,IoT,ロボティクス及びその他の新興の技術が人々に力を授け,経済を成長させ,国内及び国家間の政治的,社会的,経済的及び文化的関係に影響を与え続ける,急速に発達するデジタル時代に適用することだろう。

7. パートナーは,直近の国連サイバー政府専門家会合(UNGGE)が,幾つかの国の専門家が以前の国際法のサイバー空間での国家活動への適用性に関する報告書の声明から後退し,サイバー空間の安全及び安定にコミットする全ての者が懸念すべき結果となったため,国連サイバー政府専門家会合が2017年にコンセンサス報告書を採択することができなかったことに懸念を表明した。パートナーは,この結果にもかかわらず,2010年,2013年及び2015年の国連サイバー政府専門家会合報告書に含まれる勧告は有効であり続けることを強調した。パートナーは,国連又は他の場所での,国連憲章及び国際慣習法,そして特に国際人道法,国際人権法のサイバー空間への適用可能性の確認並びに幾つかの平時のサイバー空間における自発的で非拘束的な責任ある国家の行動に係る規範の進展及び実行を推進する努力を支援し続けることを決定した。

8. グループは,特に,サイバーセキュリティにおける一層の国際協力への呼びかけ,紛争予防及び紛争の平和的解決へのコミットメント,既存の国際法及び平時のサイバー空間における自発的で非拘束的な責任ある国家の行動に係る規範の適用可能性並びに全ての国が国連政府専門家会合の蓄積された報告書によって情報通信技術(ICT)の利用にあたって導かれるべきであるとするサイバー空間における責任ある国家の行動に関するG7ルッカ宣言にて発出された声明とコミットメントを想起し,改めて表明した。

9. グループは,米州機構における最初のサイバーセキュリティに関する信頼醸成措置の設定,ARFにおけるサイバーセキュリティに関する会期間会合の設立,英連邦首脳会議によるサイバー宣言採択の見通し,悪意あるサイバー活動に対するEU共同外交対応及びEUサイバーセキュリティパッケージ2017の進展及びNATOによる国際法と戦略的安定性を重視する文脈で実現したサイバー防衛誓約の採択を含む,別の舞台でのこれらの課題についての進展について,満足と共に留意した。グループは,サイバー問題を欧州安全保障協力機構内で進めようとするCBMワーキンググループ議長ハンガリー及び事務局議長イタリアによる努力を賞賛し,全てのOSCE参加国が,これらの努力を支援するためにより建設的なアプローチを採用することへの期待を表明した。

10. 自由民主主義に対して増大するサイバーの脅威という観点から,G7のパートナーは,悪意あるサイバー活動に対する協調的対応のメカニズムを発展し続けることにコミットした。我々は,サイバー空間において何が受入れ不可能な行動を構成するのかについての我々の理解を明確に示し,またそのような行動を行った者に対して結果を強いるのにそれぞれが参加するメカニズムを発展させるため,民主主義,人権並びに国際法及び法的拘束力のない国家行動規範を含むルールに基づく国際秩序へのコミットメントを共有する他の政府やステークホルダーと共に共働することを計画する。

11. グループは,国をまたぐ証拠の取扱いに起因する捜査及び訴追の障害について留意しつつ,最近では2018年2月にオタワで開催された,インターネット及び管轄権関する第二回グローバルカンファレンスの成果であるオタワロードマップを含む,インターネット及び管轄権政策ネットワークの下での継続的なマルチステークホルダーの作業に対する支持を表明した。

12. グループは,技術によって促進された,女性及び子ども並びに社会的少数集団への暴力について考慮し,対抗する必要性について一致した。国家間におけるこの種の国家間の暴力に対抗するための取組のより良い調整の必要性,並びに既存の法的手段を,最大限可能な範囲で,加害者の訴追に適用すること及び効果的な解決策を見つけるためのソーシャル・メディアのプラットフォームを含む媒介者と共働することの必要性についても提 起された。

(了)