データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 健全な海洋及び強靱な沿岸部コミュニティのためのシャルルボワ・ブループリント

[場所] シャルルボワ
[年月日] 2018年6月9日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

‐ 海洋の健全性は,地球の経済的,社会的及び環境的福祉に不可欠である。海洋は,地球規模の気候システムにおいて,また,コミュニティ,雇用と生計,食料安全保障,人間の健康,生物多様性,経済的繁栄及び生活様式を支える上で根本的な役割を果たす。

‐ しかし,海洋は多くの課題に直面している。違法・無報告・無規制漁業(IUU)及び漁業資源の過度の開発は,種全体及び食料安全保障を脅かす。プラスチックごみ等による海洋汚染は,既に悪化した海洋生態系が直面している脅威を更に悪化させている。G7シャルルボワ首脳コミュニケに示されているように,海水温の上昇,酸性化及び海面上昇は,極端な気象現象と併せ,世界中のコミュニティに影響を与えている。北極及び低地の沿岸部コミュニティ,特に小島嶼開発途上国(SIDS)のコミュニティは最も脆弱なコミュニティの一つである。

‐ 我々G7首脳は,効果的で革新的な解決策を開発し,実施するため,政府のあらゆるレベルを関与させ,支援することの重要性を強調する。我々は,協力的パートナーシップを促進し,関連するすべてのパートナー,特に地方の,先住民の,僻地の沿岸の及び小島嶼のコミュニティ並びに民間部門,国際機関及び市民社会と協力して,政策ギャップ,ニーズ及びベスト・プラクティスを特定し,評価する。この道筋は,女性と若者のリーダーシップとエンパワメントを前向きな変化の担い手として支援する。

‐ 世界の気温上昇の海洋への直接的な影響を認識し,このブループリントにより,我々は,国内及び途上国を支援する我々のコミットメントにおいて女性及び女児の広範な参画への公正な移行を確保しつつ,特に,イノベーションと経済成長を刺激しながら排出量を削減すること,適応能力を向上させること,強靱性を強化すること及び気候変動の影響に対する脆弱性を軽減することで,持続可能で気候に強靱な未来に向けた世界的な取組を追求する。*1*

‐ これまでのG7コミットメント及び持続可能な開発のための世界的な枠組みを定める2030アジェンダに沿って行動する必要性を認識しつつ,我々G7首脳は,以下にコミットする。

強靱な沿岸及び沿岸部コミュニティ

1. より良い適応計画,緊急事態への備え及び回復の支援

我々は,政策ギャップ,脆弱性並びにリスク及びニーズを特定・評価すると共に並びに教訓及び専門性を共有するため,複数のセクターを横断し提携して取り組む。我々は,適切な場合には,天然の及び物理的なインフラを再建するための基準,ベストプラクティス及び規定を含め,計画策定及びより良い再建を促進するための沿岸管理戦略の作成を奨励する。我々の取組は,沿岸部及び沿岸部コミュニティ,特にSIDSにおける,強靱で質の高いインフラを支援する。これには,再生可能エネルギー源を含むクリーンで強靱なエネルギー・システムの開発及び展開の促進を含む。我々は,適切な場合には,湿地,マングローブ林,藻場,サンゴ礁の保護及び回復等の自然に基づく解決策を提唱し,支援する。我々は,沿岸部コミュニティを保護するために,これらのコミュニティ,特にSIDSの極端な気象現象及びその他のジオ・ハザード関連のリスクに関する効果的な早期警戒を作成し,伝達する能力の向上に取り組む。この目的のため,我々は,後発発展途上国(LDCs)及びSIDSの能力を構築することを目指す気候リスク及び早期警戒システムイニシアティブ等の取組を通じ,早期警戒システムを支持する。我々は,経済成長,適応,持続可能な開発,生物多様性の保全及び持続可能な利用並びに防災を統合するジェンダーに配慮した計画策定戦略を作る。より包摂的かつ包括的なアプローチを確保するにあたり,我々は女性の防災及び復興のための意思決定への平等な参画を支持する。より明るい経済的将来を見据え,我々は沿岸部コミュニティにおいて,持続可能な観光業等の収益を生み出す活動を促進する。

2. 沿岸部の強靱性のための革新的な資金調達の支持

我々は,特に発展途上国において,沿岸部の強靱性を構築するために利用可能な資金を増やすための支援を更に動員し,各国及び国際的な,並びに公的部門及び民間部門のパートナーとの新たな革新的な資金調達手法及びツールを探求する。これらの革新的な資金調達手法とツールを探究するため,我々は政府,産業界,慈善活動家,機関投資家のための既存のプラットフォームを基礎とする。我々は,脆弱な途上国及び支援を必要としている受益者に質の高い保険によるカバーを拡大すると共に,生じつつあるリスクに対する新型の保険製品を奨励するため,InsuResilienceグローバル・パートナーシップのような世界的及び地域的ファシリティ等を通じ,災害リスクに対する保険によるカバーを拡大することを探究する。我々は,保険業者が保険商品の範囲及び災害リスク管理と復興のための資金への女性のアクセスの双方を向上させるための調査,モニタリング及びジェンダー分析を歓迎する。

3.沿岸区域の統合的管理のための能力を向上させるため,地球の観測技術及び関連するアプリケーションを導入するG7の共同イニシアティブを立ち上げる。

強固な観測ネットワークを支援し,既存のG7の取組を拡大する考えである。我々は,災害リスクの予防,不測の事態に備えた計画策定,国土に関する計画策定,インフラ及び建築設計,早期警戒システム及びリスク移転メカニズムを支援するため,地球の観測技術及び関連するアプリケーションの分野におけるイノベーションを活用し,それらを世界の最も貧しく,脆弱な地域において広

く利用可能なものとする考えである。我々は,ハリファックスにおいて開催される来たるべきG7閣僚会合において,この分野における新たな行動の提案に向けて作業することを要請する。

海洋に関する知見:科学及びデータ

4.科学及びデータの入手可能性及び共有を向上させる

海洋科学,観測,及び海底測量の価値を認識し,我々は,世界的な観測及び追跡の取組を拡大する。海洋の世界的なモニタリングの強化及び海洋科学情報へのアクセスの調整を通じ,我々はデータの入手可能性を大幅に向上させる。我々は,女性と女児がリスクや災害からどのように影響を受けるかの理解並びにいかに女性及び女児が解決策の策定及びその実施に関与することができるかに関する理解のギャップを埋めるため,ジェンダーに配慮したデータの収集,分析,普及及び使用を推奨する。

持続可能な海洋及び漁業

5. 違法・無報告・無規制(IUU)漁業その他の漁業資源の過度の開発の原動力への対応

我々は,IUU漁業に従事する船舶及びIUU漁業を支援する船舶を特定するための革新的なプラットフォームと技術を導入するために,主要国及び技術提供者とより強力な官民パートナーシップを構築するために,世界的な取組を行う。主要な取組の1つは,公海上で漁業を行う資格のある全ての船舶について,国際海事機関の固有の船舶識別制度を実施することである。更に,情報及びベスト・プラクティスを共有し,IUU漁業を排除する新しいツールを開発するため,我々はINTERPOL及び地域漁業管理機関(RFMO)と,それぞれの権限に従って協力し,既存の地域的漁業ネットワークを強化し,必要な分野に新たなネットワークを立ち上げる。我々のパートナーシップは,女性のための包摂的な計画策定及び実施,能力構築並びに情報へのアクセスの改善を通じて,海洋保全の戦略の策定に際し女性の活動,リーダーシップ及び参画を活用する。また,我々は,IUU漁業を防止し,抑止し及び排除するための寄港国の措置に関する協定の,効果的な実施に関する能力構築支援等を通じた同協定の世界的な採択及び実施の促進,IUU漁業にも関連する可能性のある漁業部門における強制労働又は人権を侵害・濫用するその他労働形態に対応するための調整された行動の促進,過剰漁獲及びIUU漁業に寄与する有害な漁業補助金の禁止及び世界貿易機関(WTO)の効果的な規律を通じたこの問題への共同での対応,漁獲証明制度に関する国連食糧農業機関(FAO)の自発的ガイドラインへの支持並びに漁具の喪失及び放棄の防止のための漁具の設計と回収の革新の促進等により,持続可能な漁業が直面する多数のその他の問題に対処するために取り組む。我々はまた,可能な限り早期にフェーズ1船舶データを提供することにより,漁船,冷凍輸送船,補給船のグローバル・レコードの実施を支持する。

6. 我々の海洋の脆弱な区域及び資源を効果的に保全及び管理する戦略を支持

我々は,適切で実行可能な場合には海洋保護区(MPA)の設定,漁業の持続可能な管理及び海洋空間計画プロセスの採用等,現在の2020年愛知目標を超えた取組を進めると共にこれらの目標に貢献。我々は更に,公海も含め,関連する国際的枠組みと緊密に協力し,実効的かつ科学に基づくMPA及び区域に基づく保全措置の設定と実施を提唱する。我々は国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する,国連海洋法条約(UNCLOS)の下での法的拘束力を有する効果的なかつ普遍的な国際文書を国連総会決議72/249に従って,作成するための取組を承認する。

海洋プラスチック廃棄物と海洋ごみ

7.我々は,海洋プラスチック廃棄物及び海洋ごみの生態系への脅威の緊急性並びに廃棄物の流れにおけるプラスチックの価値の喪失を認識する。我々はこれまでのG7のコミットメントを基礎とし,陸上及び海上におけるプラスチック管理に関するライフサイクル・アプローチを取り,より資源効率的で持続可能なプラスチックの管理に移行することにコミットする。更に,我々は,海洋ごみのモニタリング手法の調和及びその影響に関する研究における連携作業の推進を,例えば国連環境計画(UNEP)と協力し促進する。

我々は,閣僚に対し,ハリファックスにおける会合においてこの作業を更に精緻化することを要請する。

{*1* アメリカは,健全な海洋及び強靱な沿岸部コミュニティを強く支持する。米国は既にパリ協定から脱退する意図を表明しており,このブループリントにおける気候に関する文言について留保する。}