データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] サヘル・パートナーシップ行動計画

[場所] ビアリッツ
[年月日] 2019年8月26日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1.豊富な人的資源,文化的資源及び天然資源を有するサヘル地域には,膨大な機会が存在する。しかしながら,現在,同地域は,様々な脆弱性の要因に煽られた安全保障上の危機に伴い,不安定化の深刻なリスクに直面している。これらの脆弱性により,機構・制度が弱体化し,サヘル諸国の予算が圧迫されているが,こうした脆弱性は,特に女性や若者にとっての不平等,極度の貧困並びに基本的社会サービス及び経済機会へのアクセスの欠如により悪化している。さらに,人口圧力,食料不安及び環境悪化を含む長期的な傾向により,諸課題が一層複雑化している。

2.我々は,安全保障及び開発に係る最も差し迫った課題への対処について,サヘル諸国が第一義的責任を負っていることを想起する。我々は,地域の平和,安全及び発展を促進するための地域協力の改善に向けたG5サヘル諸国の取組,並びに,2017年のサヘル同盟創設を賞賛する。我々は,国際社会からの強力で連携のとれた支援の必要性を認識する。

3.我々は,サヘル諸国とのパートナーシップを更に一歩前進させることに固くコミットする。我々は,今や全てのG7メンバーが加盟国又はオブザーバーとしてこの同盟の一部であるという事実を歓迎する。また,我々は,金融機関を含む国際社会の他のメンバーに対して,同地域を支援する取組を強化するよう求める。我々は,必要な人道・開発・平和の関連性に留意しつつ,全てのステークホルダーが,その取組を強化し,調整し,適切な場合には安全保障及び開発のための戦略に関するG5サヘルの優先課題と整合させる必要があることを想起する。

平和と安全

4.我々は,サヘル地域において治安及び人道状況が悪化し,特にコミュニティー間の暴力が拡散していることを危惧するが,それらはチャド湖流域における不安定性の高まりにより一層ひどくなっている。我々は,これらの治安・開発課題に対処するために団結する,同地域の諸国の,特にG5サヘルにおける取組を支持する。我々は,当該国の治安機構の構造改革支援等を通じて,その国防・国内治安能力を高めるための取組を改善し,一層連携させるため,これらの国々と協働することに引き続きコミットする。

5.この文脈において,我々は,「サヘル地域の安全及び安定のためのパートナーシップ」の設立を歓迎する。共同責任の精神の下,このパートナーシップは,同地域の諸国と国際パートナーを団結させる。同パートナーシップは,当該国の説明責任を強化しつつ,国際協調の改善,治安部門での改革支援,治安部隊の強化等により,治安上のニーズを特定し,国防・国内治安維持に関する取組の効果を高めることを目的とする。この取組は,長期的開発の措置及び効果的な治安措置がいずれも同地域における不安の解決策の一部であるという理解の下,国際パートナーによる現在の取組に立脚し,サヘル同盟の枠組みにおいて展開されている取組を補完するものである。

6.フランス及びドイツは,2019年秋の設立会合を通じ,本イニシアティブの立ち上げを計画している。

7.我々は,国連マリ多元統合安定化ミッション(MINUSMA),欧州の安全保障防衛ミッション,バルカンヌ作戦等の国際部隊による支援を賞賛する。我々は,市民を保護し,暴力を軽減し,国家のプレゼンス及び基本的社会サービスを再構築しようとするマリ政府当局の取組を支援するため,国連安保理決議第2480号に従って,マリ中部に展開するMINUSMAのプレゼンスが強化されたことを歓迎する。我々は,アルジェ和平・和解合意の完全かつ効果的な実施を求める。我々は,G5サヘルによる地域の平和・安全のイニシアティブを賞賛し,2018年2月23日のブリュッセルでの「サヘル地域支援のための国際ハイレベル会議」で発表されたG5サヘル合同部隊に対する兵站及び財政上の支援の継続に関する約束が果されるよう求める。

8.我々は,G7外相により採択された「サヘル地域における違法なトラフィキングと闘うための包括的かつ持続可能な戦略のためのパートナーシップに関するディナール宣言」の実施を支持する。我々は,「女性,平和及び安全保障に関するディナール宣言」,並びに,とりわけ女性が特に交渉者,調停者及び平和構築の当事者として和平プロセスの全段階に完全かつ有意義な形で参加することを認識する。

9.我々は,ジェンダーや他の排斥・不平等の要因に十分に注意しつつ,G5サヘル諸国が脆弱な地域における国家当局のプレゼンス及び社会サービスへのアクセスを強化するため「戦略的統合枠組み」を構築することを支援する用意がある。我々は,2020年までにAUの「紛争停止のための実践的ステップに関するマスター・ロードマップ」が,加盟国の適切な資金拠出等を通じて実施されることを奨

励する。我々は,G7として,G5サヘル諸国がより効率的なG5サヘル警察・防衛能力を構築することに対して適切な支援を提供するため,国際連合及びインターポールと協働していく。我々は,人権の尊重及び法の支配の包括的な重要性を強調する。我々は,この地域におけるテロの脅威を認識しつつ,G7ローマ・リヨン・テロ対策及び犯罪防止グループが当該脅威及び課題に焦点を当てていることを歓迎する。

長期的な開発課題

10.我々は,G7開発大臣及びG5サヘルのカウンターパートが採択した「G7・G5サヘル・パリ共同コミュニケ」を支持する。

11.我々は,国際機関及び金融機関に対し,サヘル地域の不安定化の根本原因に対処するための取組を強化するよう求める。我々は,脆弱性への対処に一層の焦点が当てられていることに感謝しつつ留意し,国際開発協会(IDA)第19次増資及びアフリカ開発基金第15次増資(ADF-15)の成功を期待する。

12.我々は,女性・女児のエンパワーメント及び最も脆弱な地域に強い焦点を当てつつ,サヘル地域において人材開発に更なる投資がなされる必要性があると認識する。我々は,世界銀行による人材開発のための取組を賞賛する。我々は,世界銀行の「人的資本プロジェクト」に参加したいとするG5サヘル諸国の意思を歓迎する。

13.我々は,来年に東京で開催される「東京栄養サミット2020」が,栄養不良対策を加速化するための鍵となる行動を特定するために極めて重要な機会となると認識する。我々は,「サヘル地域の農村の若者のための適切な雇用創出に関するG7枠組み」の採択を歓迎する。我々は,全ての利用可能な官民ファイナンスへのG5サヘル諸国のアクセス拡大を促進することを支援する。

14.我々は,革新的資金調達の重要性を認識し,開発のための追加的資源を動員すること及び既存資金のインパクトの増大を支援することに対する支持を表明する。我々は,学校における生理衛生管理のために開発インパクト債(DIB)といった,サブサハラ・アフリカのパイロット国における保健及び人材開発の分野における成果連動型のパートナーシップ体制の構築を奨励する。

15.我々は,G7教育大臣・開発大臣合同会合の成果を歓迎する。我々は,教育におけるジェンダー平等の向上が引き続き全般的に必要であることを認識する。我々は,サヘル地域では,とりわけ紛争の影響を受けた地域の学校閉鎖のため,児童300万人が依然として小学校へ通うことができないこと,授業の質が引き続き重要な問題であることを想起する。我々は,教育支援への関与を継続し,パートナー国政府及びその他ドナーに対し,教育制度を強化する集団としての取組に参加し,よって基礎教育を含む教育への我々の協調及び我々の政治的・財政的支援を拡大するよう奨励する。我々は,引き続き全般的に必要とされるジェンダー平等に重点を置きつつ,教育制度及び政策の改善に向けたG5サヘル諸国のコミットメントを奨励する。

16.我々は,ジェンダー平等及び女性のエンパワーメントに特に焦点を当てつつ,サヘル諸国における質の高いプライマリー・ヘルス・ケアの強化に向けた取組を推進していくことにコミットする。我々は,G7保健大臣会合において採択された「G7プライマリー・ヘルス・ケア(PHC)ユニバーサル・ナレッジ・イニシアティブ」を歓迎する。我々は,エイズ,結核及びマラリアという感染症の撲滅に対する我々のコミットメントを再確認し,世界エイズ・結核・マラリア対策基金の第6次増資の成功に期待する。我々は,最も影響を受けている地域社会にも行き届くことができるよう,各国の事情や優先課題に従ってユニバーサル・ヘルス・カバレッジを実現し,強じんで持続可能な保健システム制度を整備することに向けた我々のコミットメントを想起する。

17.我々は,サヘル諸国が特に衝撃に対して脆弱であり,とりわけ安全保障上の脅威に関してそうであることを認識する。我々は,公共支出と公共財産管理の有効性及び効率性とともに,サヘル諸国における国内資金動員の強化が重要であることを強調する。我々は,IMF支援プログラムが低所得国,特にサヘル諸国における一連の政策的措置をいかに支援し得るかについて,引き続きIMFと協働する所存である。我々は,新たに発生している債務脆弱性に対処するためのIMF・世界銀行グループの多面的アプローチの更なる実施について,改めて支持を表明する。