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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 気候,生物多様性及び海洋に関するビアリッツ議長総括

[場所] ビアリッツ
[年月日] 2019年8月26日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1.議長国は,国際連合事務総長,世界銀行総裁,OECD事務総長,アフリカ連合委員会委員長及びアフリカ開発銀行総裁と共に,オーストラリア,ブルキナファソ,チリ,エジプト,インド,ルワンダ,セネガル及び南アフリカの首脳の参加を得て,「気候,生物多様性,海洋」のテーマの下で特化したG7のセッションを開催した。

2.議長国は,同セッションが,地元及び市民社会の関係者が特に地球及び海洋の保護のために動員されている,沿岸都市ビアリッツにおいて招集されたことを強調した。「Ocean for Solutions Declaration」及び「Ocean Call」に表明された当該関係者のコミットメントは,体系的な環境課題,並びに,自然及び人的なシステムのいずれに対しても実存的なリスクを及ぼす気候危機(climate crisis)に直面して,同人らの切迫感が高まっていることの現れである。議長国は,緊急対策を要するとの有力な科学的証拠がこれまで繰り返し提示されてきたことを強調した。2019年5月4日にパリで承認された,生物多様性及び生態系サービスに関する政府間の科学及び政策プラットフォーム(IPBES)の生物多様性及び生態系サービスに関する地球規模アセスメント報告書においては,陸・海の利用における変化,気候変動及び汚染が生物多様性の喪失の主要な原因の一部であると考えられている。その一方で,2019年8月7日にジュネーブで承認された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の土地関係特別報告書においては,地球温暖化,土地管理,食料安全保障・食生活及びそれを受けて検討されるべき緩和・適応のための政策対応という相互に関連した課題について強調されている。

3.この文脈において,議長国は,気候変動,生物多様性の喪失及び海洋・陸地の劣化は関連し合う3つの主要な地球規模の課題であり,平和,安全保障,開発,保健及び経済的安定を特に最も脆弱な国々において脅かすことを想起した。各国のアプローチの差異を認識しつつ,議長国は,G7及びそのパートナー国が,世界の平均気温の上昇を2°C,できる限り1.5°C未満に抑えるために,エネルギー転換及び低排出な未来をできるだけ早期に実現するための各国自身の進路は各国自らが立て得ることを認識しつつ,これらの差し迫った問題について野心的にリードする能力があることを表明した。首脳は,経済成長・繁栄の共有を促進すること,及び,各国の気候目標及び低排出のための戦略に沿って低排出,効率的,安価かつ信頼できるエネルギーへのより平等なアクセスを確保することの重要性,並びに,環境・海洋の保護の確保について議論した。

4.首脳は,国連事務総長から,パリ協定の下で参加国が行ったコミットメントに沿って,低排出で気候強じん的な開発及び生態系保護に向けて,途上国への実施手段の提供を含め,気候行動及び気候資金を拡大することを目的として,2019年9月23日に同事務総長が主催する気候アクション・サミットについて説明を受けた。その文脈において,議長国は,幾つかの関係国が,チリで開催される第25回締約国会議(COP25)のモメンタムを活かし,かつ,更なる地球規模の努力が必要であることを考慮し,パリ協定に基づき自国が決定する貢献(NDC)の野心を2020年までに全体として引き上げる用意があると既に表明したことに留意した。首脳は,このCOPが,海洋の保全に重要な役割を与え,科学の主要な役割を強調し,民間部門及び市民社会によるものを含め,適応措置に強い焦点を当てたマルチステークホルダー・アプローチの必要性を強調するものであるという報告を受けた。幾人かの首脳は,途上国及び新興市場経済国によるNDCの実施を支援し,野心を高める上での,NDCパートナーシップの役割を認識した。G7の幾つかの国は緑の気候基金(GCF)の増資に対する野心的な貢献を表明し,その総額は55億米ドルに達している。他のG7諸国は貢献を確定させつつある。G7諸国は共に他国に対して,同基金の影響力強化のため成功裏で実質的な第一次増資に貢献する要請した。首脳は,G20大阪首脳宣言で最近一致したとおり,技術革新を通じて,環境と成長の好循環を加速化させ,強じんで,包摂的で,持続可能な将来への転換を主導することの重要性を再確認した。

5.これらの課題に沿って,低炭素かつ強じんな発展への道筋へ向けた「国際開発金融クラブ(IDFC)」及び国際開発金融機関の動員や炭素中立を漸進的に達成していくための長期戦略の策定を目的とした「炭素中立性連合(CNC)」といったいくつかのイニシアティブについて議論が行われた。

6.人類の生活,福祉,食料安全保障及び経済的繁栄は,海洋及び陸地が健全な状態で持続可能な方法で利用されることに依存することから,生物多様性の保護及び海洋保全もまた議論の中心であった。首脳は,G7メッス生物多様性憲章を承認し,また,生物多様性条約第15回締約国会議に先駆けて,個々に又は共同で,生物多様性に関して迅速な行動をとることにコミットした。G7及びG20の下で実施されたこれまでの作業の継続として,首脳は,自然を基礎とした解決策や循環経済等を通じて海洋・陸上生態系を保護すること,及び,海洋ごみとの闘いを継続することの緊急性,並びに,海洋ごみを減少させる鍵となる手段としてのイノベーションの促進及び廃棄物管理の改善の必要性を認識した。首脳は,最近のG20大阪ブルー・オーシャン・ビジョン及びG20海洋プラスチックごみ対策実施枠組の採択を歓迎した。議長国は,国家管轄権外区域での海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用のための強固で野心的な国連条約の締結の重要性を強調した。

7.首脳は,持続可能な人的・社会的・経済開発のための環境の管理方法を改善するという,2020年6月にマルセイユで開催される国際自然保護連合(IUCN)世界自然保護会議の目的を歓迎した。首脳は,2020年10月に中国の昆明で開催される生物多様性条約第15回締約国会議に期待する。

8.首脳は,2019年8月29日から9月13日にかけてニューデリーで開催される砂漠化対処条約(UNCCD)第14回締約国会議(COP14)の重要性を認識し,土地の将来の劣化を止め,劣化した土地を元の状態に戻すことの重要性を強調する。このように,首脳は,砂漠化,土地の劣化及び干ばつと闘い,生物多様性及び生態系の保護を達成する努力等を通じて,戦略的で持続可能な土地管理を実施することの重要性を想起した。2015年エルマウ・サミットに基づくInsuResilienceグローバル・パートナーシップの作業も留意された。

9.議長国は,若者の積極的な動員,並びに,具体的なマルチステークホルダーの連合及び国,ビジネス部門,科学者,NGO,若者,先住民社会,都市及び地域を巻き込んだプロジェクトにより具現化された解決志向の行動の必要性に肯定的に言及した。

10.首脳は,市民社会代表から,気候,生物多様性及び海洋に関する具体的な脅威に対処する以下の4つのマルチステークホルダーの連合について情報提供を受けた。

–  「気候及び環境のための海洋連合」:船舶輸送に関するニウラキタの高い野心の宣言及び海洋・沿岸環境保護のための海上輸送におけるグッド・プラクティスのための宣言・憲章に反映された,国際的な海洋分野の影響の制限を目的とする。

–  「効率的な冷却に関する迅速な行動のためのビアリッツ・プレッジ」:各国が,モントリオール議定書キガリ改正に従ってハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒の削減を実施しながら,冷却部門におけるエネルギー効率性及びライフサイクル管理を向上させるという並行した努力を促進すること目的とする。–「持続可能なファッション連合」:最近のIUCNの研究によると,特に海洋におけるマイクロプラスチックの一次汚染の最大35%の原因となっている繊維製品の環境負荷(フットプリント)の削減を目的とする。

–  「生物多様性のためのワンプラネット・ビジネス連合」:アグリフード分野のための生物多様性の保全・回復に関する野心的な目標を定めることを目的とする。