データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 原子力安全セキュリティ・グループ(NSSG)報告書 2019年 報告書

[場所] ビアリッツ
[年月日] 2019年8月26日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

1 2002年のカナナスキス・サミットにおいて設立され,G7首脳に対して責任を負うG7原子力安全セキュリティ・グループ(NSSG)は,多国間機関と緊密に協力し,既存の組織により適切に対応されている課題や取組との重複を避けながら,原子力の平和的利用における原子力安全及び核セキュリティに影響を与え得る問題について,技術的な情報に基づく戦略的な助言を行う。

2 NSSGは,責任ある原子力の利用を確かなものとするため,最高水準の

原子力安全及び核セキュリティを促進することに引き続きコミットする。

チェルノブイリ・プロジェクトの進捗

3 NSSGは,チェルノブイリ・サイトでの現在進行中のプロジェクト,特に,損傷した原子炉及び放射性化したコンポーネントを封じ込めていた当初のシェルターを覆う新シェルター(NSC)や,チェルノブイリ原子力発電所から取り出された2万本以上の使用済燃料集合体を保管する使用済燃料中間貯蔵施設(ISF-2)のプロジェクト進展状況をフォローした。

 これらのプロジェクトが完了することは,チェルノブイリ・サイトを,安定した,環境的に安全な状態へと転換するための国際社会による資金援助を受けたプログラムの重要な節目となる。

4 NSSGは,NSCプロジェクトの完了を歓迎する。最新の使用試験の合格を受け,施設のウクライナ当局への正式な引き渡しが2019年7月に行われる。

 NSSGは,施設の運転・維持,また,新シェルター内部の廃炉プログラムの第一段階として,当初のシェルターの不安定な構造の解体について,ウクライナにより,すべての必要な組織的及び財政的な措置を講じることを確かなものとすることを期待する。

5 NSSGは,特に,施設の最新の状況を考慮しつつ,見直されるべき2023年の完了期限を前に,新シェルター内部の不安定な構造の解体が引き続き技術的な課題であることを強調する。

 NSSGは,ウクライナが,施設の原子力安全・核セキュリティを最大限に利用し,プログラムの残存する要素に関連したリスクを軽減するため,国際的な技術支援を得ることを検討することを推奨する。

6 NSSGは,ISF―2完了の更なる遅延及びプロジェクト遅延により発生した追加的コストに関する,現在進行中のコントラクターによる補償要求についての懸念を表明する。

 順調に進んでいるように見える施設の技術的な完了と,これらの要求を分けて考えることが重要である。

 コントラクターは,現在進行中のプロジェクトのキャッシュフロー状況の財務評価のために要求されたすべての必要な情報についても,すみやかに提供すべきである。

 チェルノブイリ基金の既存の財源は限られている。G7からの追加的な財政的貢献の計画はないところ,NSSGは,ウクライナが必要な措置を講じ,プロジェクトのコストを最小化するための取組を支援するよう求める。

7 さらに,NSSGは,現在の貯蔵施設(ISF―1)から新しい施設(ISF―2)への使用済燃料の移送に必要な時間(約10年)について,現在のISF-1のライセンスの失効期限(2025年)をしかるべく考慮すると,その期限内には移送を達成することができないため,懸念している。ウクライナはこのきわめて重要な課題に至急対処しなくてはならない。

原発供給国及び新規原発導入・再導入国の責任

8 すべての国が,最高水準の原子力安全,核セキュリティ及び核不拡散を強固に実施していくことは,世界において,継続した,責任ある原子力の利用を確保するために不可欠である。

 特に新規導入国にとっては主要な課題であり,NSSGは,経験の共有による方法も含め,支援を提供する手段を模索し続けてきた。

 NSSGは原発供給国及び新規導入国に対し,この支援を正式なものとするため,技術的,政策的,規制上の専門知識の共有を円滑にするための,焦点をあてた,結果志向の取決めを整備することを奨励する。

 さらに,NSSGは,新規導入国が,国際的な原子力関連条約及びIAEAの追加議定書を含む包括的保障措置協定の締約国となり,完全に履行すること,及び独立した原子力安全規制当局に権限を付与するため,必要な措置を講じることを期待する。

9 NSSGは,原子力施設の原子力安全及び核セキュリティを確保することは各国の責任であることを認識しつつ,原子力安全及び核セキュリティの促進において,産業界を含む,原子力の協力及び貿易に関与する全ての関係者の役割を強調する。

 これには,IAEAの原子力安全基準及び核セキュリティ・ガイダンス文書に示される国際的な勧告に従い,国内における,強固で持続可能な原子力安全,核セキュリティ及び核不拡散のインフラの開発に対する支援が含まれるべきである。

10 NSSGは,その加盟国に,すべての原発供給国,新規導入国ともに含まれるIAEAの重要な役割を認識する。

 NSSGは,受益国が,そのプログラムの進展に応じ,IAEAのピア・レビュー及びフォローアップ・ミッションの受入を含む国際協力の恩恵を十分に利用すること,及び該当する勧告を実施することを奨励する。

 NSSGは,また,適切な場合には,情報の機密性を考慮しつつ,これらミッションの成果についての最大限の透明性を奨励する。

11 NSSGは,経験を共有し,ベストプラクティスの普及を確実にするために,特に新規導入国が,国際的,地域的及びテーマ別の原子力安全及び核セキュリティのネットワークに参加することの重要性を強調する。

12 NSSGは,小型モジュール炉(SMR)が,特に,多くの新規導入国において普及され得る新興の技術となっていることに留意する。SMRの展開は,原子力安全,核セキュリティ及び保障措置に新たな課題を提起させるものとなる。NSSGは,これらに対処するために,特にIAEAやNEAにより始まっている行動を支持する。

原子力安全及び核セキュリティに関する国際的な法的枠組みの強化

13 原子力安全及び核セキュリティの法的枠組みの強化及び普遍化は,NSSGの議題において引き続き重要な論点である。

 NSSGは,関連する国際機関や組織と協議しながら,関連する義務の普遍的な批准及び履行を提唱することを通じ,原子力安全及び核セキュリティのための国際的な法的枠組みの履行を引き続き支援していくことに尽力する。

 NSSGは,これらの法的文書及び条約の重要性の理解を引き続き深め,要請があった場合に,諮問サービスの提供を含む,加盟国を支援するIAEAの重要な任務に留意し,引き続き支援していく。

14 NSSGは,核物質防護条約(CPPNM)及び2005年の同改正並びに核テロリズム防止条約(ICSANT)の普遍化及び実施に関する取組に焦点をあてた。2019年,複数の国に対して共同デマルシュが行われ,これらの国が関連する条約の締約国となることを奨励した。

15 NSSGは,原子力損害に対する適切な賠償の提供を通じ,原子力事故の影響を受ける可能性のあるすべての国の懸念に対処する世界的な原子力損害賠償制度を確立することの重要性を再確認する。

 NSSGは,このような世界的な制度を確立するための一歩として,すべての国が国際的な原子力損害賠償制度に加入することを奨励する。

原子力安全当局の実質的な独立性

16 原子力規制当局の独立性は,外部の専門家との対話のための適切なメカニズムを認めつつ,許可を受けた事業者及び独立した専門家ともに,外部からの影響,圧力,利益相反を避けるために極めて重要である。

 これには,公衆に対する追跡可能性及び透明性を確かなものとするための,科学,立証済みの技術及び関連する経験に基づく意思決定プロセスの実施が含まれる。

17 規制当局の独立性は,IAEAの安全基準の中核である。NSSGは,安全性インフラを強化する関連活動においてIAEAを支援する。

18 NSSGは,ウクライナの原子力規制当局,ウクライナ国家原子力規制院(SNRIU)の許認可及び査察に関する法的独立性の回復について何の進展もないことを非常に懸念している。

 NSSGは,また,SNRIUの法的独立性が引き続き欠如していることにより,ウクライナが受けることのできる国際的支援が限られていることを想起する。

19 NSSGは,規制当局を強化するための,IAEA及び地域機関による既存の協力及び支援ツールを歓迎する。

 特に,NSSGは,各国が,IAEAの総合規制評価サービス(IRRS)ミッションを要請することを奨励し,それらの結果の透明性を強く支持する。

 NSSGは,また,新規導入国に対し,原子力安全に関する機関及び規制枠組みを効率的に整備することの一助となるG7メンバー国及びEUによる重要な貢献に留意する。

 これらには,例えば,EU原子力安全協力機関,日本の福島のIAEA緊急時対応能力研修センター(CBC),IAEAのキャパシティ・ビルディングの取組に対する米国の貢献や,米国の二国間・地域におけるキャパシティ・ビルディング活動が含まれる。

原子力安全の意思決定を支援する科学的専門性の利用可能性及び永続性

20 G7各国の原子力安全機関の幅広い多様性を認識しつつ,NSSGは,許認可を受けた事業者及び権限のある当局による原子力安全に関する決定を支援する,持続可能な高い水準の科学的専門性の利用可能性及び永続性を確実にするための要件を強調する。

 したがって,G7各国のすべての原子力安全機関は,科学に基づいた長期的な原子力安全及び放射線防護に関する研究に投資すること,及び,利用可能性を確実なものとし,研究能力及び関連する技能を最大限に利用するための国際協力を促進することが必要と考える。

21 独立した意思決定のために非常に重要である,そのような高い水準の科学的専門性の利用可能性は懸念となりつつあり,世界中の原子力安全研究施設が経年化し,そのうちの一部は閉鎖(最近のケースではハルデン炉)されている中,特に深刻である。

 NSSGは,科学的専門性の永続性を確かなものとするため,適切な場合には,運転中の既存研究施設を維持することが重要であることを強調する。

22 この状況に直面するため,世界の原子力研究のコミュニティ(原子力安全当局,原子力安全の技術的機関,研究機関,産業界,政府間組織)は,協調のレベルを強化する必要がある。

 この協調により,公衆及び環境保護のための,最先端の科学的専門性に基づく,強固な原子力安全に関する意思決定を確かなものとするために必要な研究プログラムに対する戦略的なガイダンスを示すことができ,また,研究の質も高めるものである。政府もまた,長期に渡り,この取組を支援する必要がある。

23 予算上の制限に取り組む中で,この目的を達成するためには,長期に渡る利用可能性を確実にするために,共同の原子力研究インフラ・プラットフォームをさらに維持し,最大限利用し,開発することが重要である。

 政府間機関,学術,科学及び多国間のネットワークは,戦略的なガイダンスを示すことにより,これらの目的を達成する一助となり得る。そのような研究用インフラに資金提供するため,設計から廃炉に渡る,長期に渡る財政的支援も考慮されるべきである。

24 新規原発導入国が,新しい設備の開発に関する決定を行う前に,原子力安全・放射線防護プログラム及び監督機関を整備する必要性を十分に考慮に入れることを奨励すべきである。プロセスの初期段階において,共同の研究プラットフォームへのこれらの国の参加は検討されるべきであり,大いに歓迎される。

25 原子力安全及び放射線防護の共同のプラットフォームは,実践的学習も促進し,若い世代に対する知識の利用可能性,適切な技術移転及びノウハウも確かなものとすべきである。

 NSSGは,原子力技術の安全で効率的な利用に必要とされる高い水準の技能を確かなものとするために,若い世代に機会を提供する国際的なイニシアティブの開発を歓迎する。

原子力施設の高経年化

26 異なった設計を持つ450以上の原子力発電所から成る,世界における現在の原子力発電所が,高経年化,すなわち,そのうちのおよそ22%が既に40年以上経過する中で,高経年化の管理は,世界において今後数年間の課題となる。

27 NSSGは,高経年化した原子力施設の効率的な管理を行うため,様々な規制上のアプローチがあるものの,対処すべき共通の技術的な課題があることを認識した。

 NSSGは,NEAの原子力規制活動委員会といった多国間のフォーラ,IAEAの国際的経年劣化管理教訓集や,長期運転の安全面に関するピアレビューミッション及び関連するガイドラインといったツールを利用しながら,基準にしたがった評価及び情報交換を奨励する。

28 NSSGは,2015年2月9日に,原子力安全条約の締約国により採択された原子力安全に関するウィーン宣言で言及された定期的な自己評価の重要性を認識する。

29 NSSGは,高経年化に関する欧州のトピカル・ピアレビュー(TPR)及び他のG7メンバー国において行われている同様のプロセスの価値を認識し,他の国におけるIAEAの安全基準の改訂において,これらのプロセスの結果について考慮し,国内の枠組みへの適用可能性について評価を行うことを奨励する。

30 NSSGは,また,研究炉・施設や核燃料サイクル施設といったすべての原子力施設の適切な高経年化管理の検討が重要であることを強調した。

原子炉の廃炉及び解体

31 原子力施設の閉鎖後,安全で費用効率の高い廃炉についての技術的及び運用上の考慮から放射性廃棄物の処分まで,廃炉及び解体についての新たな課題が考慮される必要がある。

 これには,閉鎖が地域コミュニティに与える経済的効果,社会的受容性及び透明性等の規制上及び社会的課題が含まれる。

32 特に,NSSGは,原発の解体に必要な知識及び技術的専門性を開発・維持するための課題を強調する。この観点から,廃炉の作業は,合理的に実現可能な限り迅速に行われるべきである。

33 しかしながら,処分や処理の方法の不足から,よりセンシティブであるが,放射性崩壊を利用するため,最終的な施設の閉鎖からその解体までに長期の時間がかかる可能性がある。

 この点において,黒鉛ガス炉技術における照射済黒鉛の回収は,特に深刻な課題である。

34 NSSGは,NEAやIAEA等,関係国際機関の支援を得ながら,原子炉の廃炉及び解体に関連したベストプラクティスの共有及び知識の普及を奨励する。

福島第一原発の廃炉についての進捗状況

35 NSSGは,福島第一原発の廃炉プログラムについての日本からの下記進捗状況報告について留意した。

 汚染水管理は,地下水を汚染から隔離し,漏洩を防止し,汚染源を取り除く方法に基づき行っている。その結果,港外の放射性物質濃度は,現在,規制限度以下であり,汚染水の発生量は減少した。ミュオン透過法による測定や,遠隔ロボットの利用により,燃料デブリの取り出し準備のためのデータが収集された。

 日本は,2018年11月に行われた第4回IAEAレビューの結果について説明した。その報告書では,サブドレンの管理,労働環境の改善,使用済燃料の取り出しに向けた作業において顕著な進展が見られることが特記されていた。しかしながら,現在のタンク許容量が3~4年以内に限界を迎える見込みであることから,IAEAは,現在敷地内に貯蔵されているトリチウムを含む処理水について持続可能な解決方法を見いだすことが喫緊の課題であるとした。現在,複数の選択肢が検討されている。

2018年に行われたルテニウム106に関する行事の結果

36 NSSGは,2019年2月,ウィーンのIAEA本部において開催された,IAEAの事故報告取決めの改善と強化に関するワークショップを支援した。本行事には,30以上の加盟国の本国及び代表部から60人が参加し,活力に満ち,示唆に富むものであった。

 参加者は,見識を共有し,提案を行い,国際的な原子力安全における透明性,情報共有及び信頼醸成をさらに強化,促進,改善するための創造的なアイデアについて議論を行った。

 その貢献及び建設的な精神によりワークショップは成功し,世界的な原子力安全枠組みについての水準を高めるとのG7各国及び国際コミュニティによる強固なコミットメントを示すものとなった。

サイバーセキュリティ

37 デジタル技術の急速な進化を受け,原子力施設における効果的な原子力安全及び核セキュリティを確実にするため,サイバーセキュリティの課題を明らかにし,対処すべきである。

 2018年のカナダ議長国の下で行われた議論を受け,NSSGは,民生用原子力のサイバーセキュリティの枠組みに関連した政治的及び規制上の課題に取組の焦点を当てることを決定した。詳細な技術的課題は,専門家に委ねられることとなった。

38 NSSGは,サイバーセキュリティの強化に向けて,2018年―2021年の核セキュリティ計画に想定された,IAEAが実施した多くの活動を歓迎する。

39 NSSGは,IAEAの核セキュリティ・シリーズ文書の改訂に向けてIAEAを支援し,IAEA年次総会での核セキュリティ決議の準備作業に積極的に参加する。

NSSGは,IAEAの協議会合前の専門家間の調整,ベストプラクティスや情報の共有,及びG7の有志国の規制活動の観察の開始を強化することは非常に有益であると考える。

40 2021年の改正核防護条約のレビュー会議の準備の中で,NSSGは,それぞれの立場について,調整及び情報交換することを検討する。

G7不拡散局長級会合(NPDG)及びグローバル・パートナーシップの核・放射線セキュリティ・サブワーキング・グループ(NRSWG)との協調

41 NSSGは,グループ間の連携を強化し,取組の重複がないようにするため,G7不拡散局長級会合(NPDG)及びG7が主導する大量破壊兵器及び物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップの核・放射線セキュリティ・サブワーキング・グループ(NRSWG)との合同セッションを開催した。

42 NSSGとNPDGの合同セッションでは,2020年NPT運用検討会議の準備に焦点を当て,NPT支援のためのバランスのとれたアプローチの必要性について強調した。

 本セッションでは,原子力のエネルギー利用及び応用における最高水準の原子力安全,核セキュリティ,及び核不拡散の下での平和的目的のための原子力の応用の一層の発展においてNPTが重要な要素であること,及びこの点に関する議論が,幅広いステークホルダーの関与により恩恵を受けることを強調した。

43 その成果がIAEAの2022年―2025年の核セキュリティ計画に考慮されることとなる,2020年2月10日から14日に開催される,来たるべきIAEA核セキュリティ国際会議(ICONS)の準備に関し,参加者は,核セキュリティを障害としてではなく機会としてとらえること,及びサイバーセキュリティなどの新たに発生する課題を会議の議題に入れることの重要性を再確認した。

44 NSSGとNRSWGの合同セッションでは,IAEAの核セキュリティ諮問サービスについての総括及びグループ議論を行った。IAEAは,核セキュリティ,特に核セキュリティ統合支援計画(INSSP)における加盟国によるニーズの把握を支援するIAEAの活動についてプレゼンを行った。

 IAEAは,また,国際核セキュリティ諮問サービス(INSServ)や国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)といった,要請を受けた加盟国の核セキュリティ体制をレビューする諮問サービスを提供している。

 参加者は,核セキュリティ体制を強化するためのこれらのツールの重要性を認識し,原子力に対する,強化された社会受容性に貢献するものでもあることを強調した。

(了)