データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 女子教育に関する宣言:新型コロナウイルスから回復し、アジェンダ2030の扉を開ける

[場所] ロンドン
[年月日] 2021年5月5日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

I.新型コロナウイルスの学習及び女子教育への影響

1.新型コロナウイルスのパンデミックが女性及び女子に与える影響は、不均衡で深刻である。我々G7は、ジェンダー平等と全ての女性及び女子のエンパワーメントを、より良い回復に向けた我々の取組の中心に据えるとのコミットメントを共有する。

2.女子教育の世界的な後退に対処することへの我々の決意は、何よりも強い。

 ・ 世界中の何百万もの女子が、新型コロナウイルスによる学校閉鎖の最大の犠牲となっている。女子達は、他者の世話をするため、もしくは児童婚を強制させられ、あるいはこれまでより高い率で女性器切除の手術を受けさせられ、又は増大するジェンダーに基づく暴力に晒されて、退学に至る。

 ・ 紛争、強制移動及び自然災害に直面する女子は、安全と保護が得られる場所である学校へのアクセスが最も限られる。

 ・ 新型コロナウイルスによる学習の喪失は、過去20年間に女子が獲得したものに匹敵し得る。これは、既存の世界的な学習危機を一層悪化させ、全ての人に包摂的で質の高い教育を提供する我々の能力を阻害する。

3.2030年というSDGsの目標4(SDG4)の期限まで10年を切る中、2000年以降の女子教育とジェンダー平等における世界の進歩を無駄にしてはならない。2018年の「途上国の女子・思春期の少女・女性のための質の高い教育の推進に関するシャルルボワ宣言」及び2019年のG7教育・国際開発大臣共同コミュニケを想起し、我々は各国政府や国際社会に向け、公式及び非公式の教育制度が新型コロナウイルスによる損失を取り戻すことを支援するために、これまでなかった協働を呼び掛ける。我々は、次の共同の信念を再確認する。

 ・ 全ての子ども、特に女子への12年間の安全で質の高い教育の提供は、政府やドナーが実施することのできる社会的・経済的投資のうち、最も経済効率的で影響力の大きいものの一つである。

4.期限を定めた目標が国際的な行動を喚起するのに役立つことを認識し、我々は国際社会に対し、2030年までに全ての子どもに手を差し伸べるという我々の取組の基準となる2つの新しい野心的なSDG4のマイルストーン目標を採択し、達成に向け結束することを求める。我々は国際社会に対し、次のことを達成するために力を結集することを求める。

 ・ 2026年までに、低所得国及び低中所得国において、更に4,000万人の女子を学校に通わせる。

 ・ 2026年までに、低所得国及び低中所得国において、更に2,000万人の女子が10歳又は小学校修了までに読解力を身に付けさせる。

5.我々の取組で最も重視するのは、その多くが貧困、障害又は紛争、強制移動、自然災害の影響等により取り残されかねない、最も疎外された、最も脆弱な女子である。我々のマイルストーン目標は低所得国及び低中所得国に関するものであるが、我々は、これらの要因が中高所得国の女子にも影響を与えるものであり、彼女たちへの継続的な支援の必要があることを認識する。

II.2026年の女子教育目標の実現:政治的コミットメント

6.これらの野心的な目標の達成を目指す上で、我々は女子の教育を阻む障害を取り除くため*1*、途上国のパートナー、多国間機関、市民社会、女子が主導するグループ及び若手指導者と協力して取り組む。我々は、女子が平和構築や気候危機に対処する取組等において変革を率いることができるよう、女子をエンパワーすることを望む。特に、我々は2026年までに次のことにコミットする。

 ・ 遠隔学習を可能にする技術の適切な提供を含め、包摂性、ジェンダー及び公平性に留意しつつ、補習及び加速教育イニシアティブを拡大する。

 ・ 教育制度と学校の建物が適応可能で、アクセス可能で、加速する気候危機及びその他将来の影響の課題に対処する上での備えを持ったものとなるよう、より包摂的で強じんな学校制度を再開する。

 ・ 低学年に優先度を置き、全ての子どもに理解できる言語での学びを確保しながら、全ての女子が基礎的な学習を習得できるよう、早期の読み書き及び算数のプログラムを拡大する。

 ・ 思春期の女子の教育への障害を解決するため、保健、水、公衆衛生、衛生、栄養及び社会保護の分野にわたる共通の専門知識を活用する。その際、各国に対し、教育過程が進むにつれ女子にかかるコストを取り除き、距離の障害に対処し、学校内外における性やジェンダー等に基づく暴力を減らし、性と生殖に関する健康と権利を促進する包括的な性教育へのアクセスを増やし、衛生設備へのアクセスを促進し、そして女子が学校で成長することを妨げる制限的な政策や法律を修正するよう奨励する。

 ・ 女子に対し、STEM(科学、技術、工学及び数学)、非公式教育及び生涯学習を含め、TVET(技術的及び職業的な教育・訓練)を受けられる機会を増やす。

III.2026年の女子教育目標の実現:そのためのリソース

7.これらの政治的コミットメントを具体的で持続可能な行動に転換するため、我々は一貫性のある協調した国際的な教育の取組の実現に向けた財政的及び技術的な資源の動員に当たり、最大限の役割を果たすことにコミットする。我々はまた、途上国の各国政府に対し、財政的な需要が競合する中にあっても、就学前教育から初等・中等教育までの学校教育への国内支出を保護するよう求める。我々は、2026年までに次の取組を強化する。

 ・ 世界の政府開発援助(ODA)を低所得及び低中所得国における女子教育のために優先的に配分する。このため、教育財政への注目を維持し、「平等を目指す全ての世代フォーラム」、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)、国際開発協会第20次増資(IDA20)といった今後の主要な機会を認識し、そして、開発途上国政府、国連機関、市民社会の団体、民間部門、国際的なパートナーシップ(教育のためのグローバル・パートナーシップや「教育を後回しにはできない」(Education Cannot Wait)基金、並びにその実施パートナーである国連児童基金(UNICEF)や国際開発金融機関等)を含む我々のパートナーに対し資源を投入する。

 ・ 教育においてより良い結果を生み出し、ジェンダー間のデジタル格差を縮小するためのインパクトがある投資の増加を含め、ODAの効果を最大化するため民間部門の資金調達を活用する革新的な資金調達メカニズムを拡大するとともに、ジェンダー公平な成果を加速する他の財政的手段を拡大する。

 ・ 国連教育科学文化機関(UNESCO)が取り組んでいる世界の教育協力メカニズムの見直し及び改革のプロセスを通じ説明責任を向上させる支援を行うことで、各国が地域の基準や国際的な学力基準を用いて自国の教育の進捗を監視し、比較することを支援する。

 ・ 各国政府がジェンダーに配慮した教育改革を進められるようにする質の高い研究の促進、ODAの資金調達、データ及び報告の更なる透明性の提供、並びに多国間と二国間での教育への取組の一貫性の改善により、世界の教育支援の水準を全体的に押し上げる。

 ・ G7諸国間のパートナーシップを深化させ、共同で検討を行い、適切かつ可能な場合には、例えば「ジェンダーを中心とするイニシアティブ」等の女子教育プログラムに共同で資金提供を行う。

(了)



{*1* これには、次のものを含む。ジェンダーに配慮した教員の研修及び採用の促進。難民、国内避難民、加速する気候危機や新型コロナウイルスにより増大するジェンダーに基づく暴力の影響にさらされた女子を含め、緊急事態や長期化する危機の中で生活する子どもの安全で質の高い教育へのアクセスの格差の解消。学習教材の入手の改善、補助的技術の提供、包摂的教育法による教員の研修等を通じ教育制度がより包摂的なものになるよう強化しながらの、障害のある子どもたちを対象とした支援の増大。}