データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 7 か国財務大臣・中央銀行総裁声明

[場所] イギリス・ロンドン
[年月日] 2021年6月5日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文] 

我々、G7財務大臣・中央銀行総裁は、2021年5月28日にヴァーチャル形式で、財務大臣は2021年6月4日、5日にロンドンにおいて、国際通貨基金(IMF)、世界銀行グループ、経済協力開発機構(OECD)、ユーログループ、(5月28日に)金融安定理事会(FSB)の長の参加の下、会合した。我々は、今日の歴史的な課題に対処するため、また、より深い多国間経済協力に向けた我々の新たな喫緊の取組の一部として、具体的な行動に合意した。

強固で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な世界経済の回復の構築

1. 我々は、新型コロナウイルスのパンデミックが、女性、若者、脆弱な人々を含む特定のグループに対しより大きな影響を与えていることを認識しつつ、パンデミックからの強固で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な回復が、より良く、よりグリーンとなるための協働を継続する。我々は、必要な限り政策支援を持続すること、成長の促進、質の高い雇用の創出、気候変動及び不平等への対処に投資することにコミットする。経済の再開に従って、我々は、最も必要とする人々に支援の的を絞っていくことで、危機の偏在する影響を抑制する措置をとり続ける。回復が確かなものとなれば、我々は、将来世代の利益のためにも、将来の危機に対応し、より長期的な構造的課題に対処できるよう、財政の長期的な持続可能性を確保する必要がある。金融政策は、引き続き、中央銀行のマンデートと整合的に、パンデミックからの経済回復を支え、物価の安定を確保していく。我々は、2017年5月に詳述された我々の為替相場のコミットメントを再確認する。我々は、安全で、強靭で、開かれた世界経済システムを構築することに取り組む。

2. 新型コロナウイルスのパンデミックは、あらゆる場所でそれを制御することによってのみ克服できる。新型コロナウイルスのワクチン・治療薬・診断薬への公平で安全、効果的かつ手頃なアクセスを世界中で確保することには、圧倒的な道徳的・科学的・経済的正当性がある。パンデミックの終息を加速することは、世界のGDPに何兆ドルもの増加をもたらす。我々は既に、ACTアクセラレータの全ての柱に対するものを含めて、多大な支援を行ってきた。我々は、一部のG7メンバー国による資金的コミットメントの増加を歓迎し、資金ギャップを埋めるための更なるコミットメントを期待する。我々は、世界銀行による国際保健やワクチンにかかる努力を歓迎するとともに、同行に対し、途上国によるワクチンへのより適時なアクセスにかかる資金・実務上の課題に対処するために、COVAXファシリティを通じたものを含め、その大きな動員力・資金力を一層活用するよう促す。我々はまた、IMFに対し、ワクチンへの資金支援のため、既存のファシリティの活用を探求するよう求める。我々は、製薬業界を含む民間部門の関係者が、現在のパンデミックとの闘いへの貢献を強化することを強く奨励する。

気候変動と生物多様性の損失に対処するための変革的な取組

3. 我々は、雇用・成長・競争力・公平性にとって良い方法で、我々のネットゼロへのコミットメントと環境の目的を達成するために必要となる、大きな構造変化を実施する複数年の取組にコミットする。我々は、経済・金融の意思決定に際し、気候変動と生物多様性の損失に関する考慮を、マクロ経済に対する影響への対処や、炭素の価格付けのための様々な政策手段の最適な活用を含め、適切に取り入れることにコミットする。

4. 我々は、財務上の意思決定において気候が考慮に含まれるよう、グローバル金融システムをグリーン化する必要性を強調する。これは、必要とされる何兆ドルもの民間部門の資金を動員し、ネットゼロへの我々のコミットメントを達成するための政府の政策を強化することに役立つ。我々は、一貫した、市場参加者の意思決定に有用な情報を提供し、かつ、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組に基づく、義務的な気候関連財務開示へ、国内の規制枠組みに沿う形で向かうことを支持する。投資家は、気候リスクに関する、質が高く、比較可能で、かつ、信頼できる情報を必要としている。したがって、我々は、ベースラインとなるグローバルなサステナビリティ報告基準の必要性について合意する。これは、各法域がこれに更に追加することができるものである。我々は、頑健なガバナンス及び公的監視の下で、TCFDの枠組及びサステナビリティ基準設定主体の作業を基礎とし、これらの主体と幅広いステークホルダーを緊密に巻き込んでベストプラクティスを形成するとともに収斂を加速させて、このベースラインとなる基準を策定する、国際財務報告基準財団の作業プログラムを歓迎する。我々は、COP26までの国際サステナビリティ基準審議会の設立につながる最終提案に関する更なる協議を慫慂する。

5. 更に、我々は、企業が気候や環境に与えるインパクトについて、より多くの情報への需要が高まりつつあることを認識している。我々は、多くの法域及び団体が、ネットゼロとの整合性やより広範なサステナビリティ指標を含むがこれらに限定されない、インパクト報告に関するイニシアティブを既に策定しつつあることを認識している。我々は、グローバルな整合性を確保する最善のアプローチを決定するため、我々の間で、また国際的なパートナーと共に、緊密に連携する。

6. 我々は、自然関連財務情報開示タスクフォースの設立及びその提言に期待する。我々は、生物多様性の経済学に関するダスグプタ・レビュー及び関連するOECD生物多様性に関する政策ガイドを歓迎する。より広範に、我々は、ネットゼロのためのグラスゴー金融連合への積極的な参加等を通じた、世界中の金融機関による気候変動に対する取組への継続的なコミットメントを歓迎する。

7. 我々は、気候変動が規制対象の金融機関及び金融安定に対する物理リスク及び移行リスクの増大をもたらしており、これらのリスクは我々が考慮する必要のある固有の特性を有することを認識している。G7当局は、金融機関が、他の金融リスクに適用されるのと同一のリスク管理基準を用いて、気候変動の金融リスクを管理することが重要であると考えている。G7の中央銀行は、気候変動がもたらす金融の安定に関するリスクについて評価していくほか、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワークが公表したシナリオを適切に参考にすることを検討する。中央銀行は、自らの業務やバランスシートにおいて、気候関連リスクを考慮することに関する知見を適切に共有するほか、TCFDの提言に基づいて中央銀行自身の開示をどのように行うかについて、年後半に議論することに期待する。我々は、比較可能な開示の推進、データギャップへの対処、脆弱性評価の向上、及び一貫した規制監督上の実務の推進に関するステップ等を通じ、気候関連金融リスクを特定しそれに対処する野心的なロードマップを、金融安定理事会(FSB)が策定することを完全に支持する。我々はまた、サステナブル・ファイナンス作業部会が、気候に当初の焦点を当てたG20サステナブル・ファイナンス・ロードマップを策定することを支持する。

8. 国際的な気候資金は、気候変動への適応と緩和に係る途上国の取組を支援するために重要である。我々は、意味のある緩和のための行動及び実施の透明性の文脈において、官民の資金源から、途上国に対して年間1,000億米ドルを動員するという、先進国合同の目標を再確認する。我々は、適応や自然に基づく解決策への資金の増加を含め、2025年までの気候資金への貢献を増加し改善することにコミットする。我々は、いくつかのG7諸国により既に行われた、気候資金の増加のコミットメントを歓迎する。我々は、更なるコミットメントが、G7首脳会議の際、あるいはCOP26よりも前に行われることに期待する。我々は、全ての国際開発金融機関(MDBs)に対し、COP26に先立ってパリ・アラインメントの野心的な期限を設定するよう求め、加盟国を支援するMDBsの取組を歓迎する。我々は、MDBsに対し、民間部門を含めてより多くの気候資金を動員し、クリーンエネルギーへの移行、適応と強靭性、自然への支援を拡大することを求める。我々は、サーベイランスを通じたものを含め、加盟国による気候リスクの管理及びネットゼロへの移行を支援するにあたっての、IMFの一層重要な役割を歓迎する。我々は、自国のIMFの二国間サーベイランス報告書に気候のカバレッジを含めることにコミットし、他国にも同様の行動をとるよう求める。

9. 環境犯罪は、地球上の生物多様性に重大な影響を与え、何十億ドルもの不正資金を生み出し、腐敗と国境を越えた組織犯罪を許すこととなる。我々は、実質的所有者の登録機関が不正資金に対処するための効果的な手段であることに同意する。我々は、法執行当局及び権限ある当局に対して、十分で、正確かつ適時に更新された情報への適時で、直接かつ効率的なアクセスを与える法人の実質的所有者情報の登録機関を、中央登録機関によるものも含め、実施及び強化しつつある。更に、我々は、可能な場合、実質的所有者情報を一般にも入手可能とすることの利点に留意する。我々は、全ての国に対し、金融活動作業部会(FATF)基準を完全に実施し、強化することを求める。

低所得・脆弱国に対する継続的な支援

10. IMFの試算では、現在から2025年までの間、低所得国がパンデミックへの対応を強化し対外的なバッファーを構築するために約2,000億ドルが必要であり、また、先進国との所得格差の解消に再び向かい、それを加速するために2,500億ドルの追加的な投資支出が必要となる。我々は、最も貧しく最も脆弱な国々が新型コロナウイルスに関連した保健及び経済上の課題に対処するにあたり、支援を行うことに引き続きコミットする。我々は、準備資産の長期的かつグローバルな必要性に応じるための6,500億ドルの特別引出権(SDR)の新規一般配分を強く支持する。我々は、各国のSDR配分の適切な活用に関するIMFの指針の更新を含む、透明性及び説明責任に関する措置を伴う本配分が、2021年8月末までに実施されるよう求める。

11. G7各国は、今回の一般配分の効果を増強するため、G7各国に配分されたSDRの一部を自発的に融通することを積極的に検討している。我々は、IMFに対し、ワクチン接種を含む保健ニーズを更に支援し、最も影響を受けている国々のよりグリーンでより強固な経済回復を助けるため、SDRを融通する様々な選択肢を探求すべく、全ての関係するステークホルダーと迅速に協働するよう慫慂する。我々は、貧困削減・成長トラストへの資金供給の拡大に取り組むとともに、低所得国への支援能力を強化するため、IMFが譲許的資金及び政策の見直しを行うことを歓迎する。

12. 債務の脆弱性に対処し、債務者と債権者の定期的なデータ突合等を通じて債務の透明性を促進することは、途上国の持続可能で包摂的な成長を引き出すために不可欠である。我々は、G20及びパリクラブの債務支払猶予イニシアティブ後の債務措置に係る共通枠組を実施するコミットメントを再確認し、全ての公的な二国間債権者に対して同じことをするよう求める。我々は、チャドの債権者委員会の設立を歓迎し、チャド及び将来のケースについて、迅速かつ成功裏に債務措置が行われることを期待する。民間セクターは、共通枠組に沿って少なくとも同程度の債務措置を提供することが期待される。我々は、2021年末までに、将来の貸付について我々の債権者としての直接融資案件ごとの一覧を公表することにコミットし、他の全てのG20メンバーに対して同様の行動をとるよう、そしてG20の持続可能な貸付に係る実務指針に沿って自己評価を実施するよう促す。

13. 我々は、民間セクターが、国際金融協会の債務透明性のための任意の原則を遵守し、OECD透明性データポータルが今年稼働され次第、そこにソブリン向け貸付に関する情報を提供することを奨励する。我々は、契約的アプローチの強化の可能性を探求するため、国際金融機関(IFIs)、マーケットや法律の専門家の参加者、及び各国専門家を集めた、G7民間セクター作業部会の設立を歓迎する。

14. 我々は、スーダンの重債務貧困国(HIPC)イニシアティブの適用決定時点に向けた着実な進捗を歓迎する。これはスーダンを、歴史的に抱えてきた債務を清算し、国際金融機関との関係を再び築くための軌道に乗せるものである。我々は、IMFの内部資金における我々のシェアの拠出を誓約するとともに、必要に応じたグラント資金や、アフリカ開発銀行、世界銀行及びIMFに対するブリッジローンを提供し、スーダンのIMFに対する延滞の全額を解消するための野心的な資金パッケージに合意すべく、国際的なパートナーと協働してきた。G7は、HIPCイニシアティブの完了時点に到達した際に、スーダンに対して包括的な債務救済を提供することにコミットし、他の債権者も同様の行動をとるよう奨励する。

15. MDBsの資金を効率的かつ効果的に利用できるよう、全ての手段が探求されるべきである。我々は、G20で進められているMDBsのバランスシート最適化の取組を支持し、また、MDBsの格付を維持するとともに優先的に弁済を受ける地位や開発マンデートとガバナンス構造を尊重しつつ、潜在的にMDBsの追加的な資金を引き出すため、MDBsの自己資本の十分性に関する枠組のレビューを行う更なる分析に大きなメリットがあると考える。我々は、国際開発協会(IDA)の増資の1年前倒しを歓迎し、低所得国における回復を支援するため、2021年12月までに野心的な結論に至ることを期待する。我々はIDAに対して、持続可能な方法でIDA国への追加資金を引き出すためにバランスシートを更に活用することを求める。

全ての人々のための、安全で繁栄ある未来を形作る

16. 我々は、経済のグローバル化とデジタル化に伴う課税上の課題に対応するとともにグローバル・ミニマム課税を導入するために、G20/OECD BEPS 包摂的枠組みを通じて進められている努力を強く支持する。我々は、大規模で高利益の多国籍企業について10%の利益率を上回る利益のうちの少なくとも20%に対する課税権を市場国に与える、課税権の配分に関する公平な解決策に至ることにコミットする。我々は、新たな国際課税ルールの適用と、全ての企業に対する全てのデジタルサービス税及びその他の関連する類似の税制措置の廃止の間で、適切な調整を行う。また、我々は、国別での15%以上のグローバル・ミニマム課税にコミットする。我々は、2つの柱について並行して合意を進めることの重要性に同意し、7月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議において合意に至ることを期待する。

17. デジタル・マネー及びデジタル・ペイメントのイノベーションは、大きな利益をもたらし得る一方、公共政策及び規制上の問題を引き起こす可能性もある。G7の中央銀行は、中央銀行デジタル通貨(CBDCs)の機会、課題、通貨及び金融の安定へのインプリケーションを探求してきており、我々は、財務省及び中央銀行として、それぞれのマンデートの範囲内で、公共政策上の幅広いインプリケーションについて、協働することにコミットする。我々は、どのCBDCsも、中央銀行のマネーの1つの形態として、流動性のある安全な決済資産として、また、決済システムのアンカーとして機能しうることに留意する。我々の目的は、CBDCsが、透明性、法の支配、健全な経済ガバナンスに対する、公的部門の長年のコミットメントに基づくことを確保することである。CBDCsは、強靭で、エネルギー効率が高く、イノベーション、競争及び包摂を支えるべきであり、クロスボーダー決済を強化しうる。CBDCsは、適切なプライバシーの枠組みの中で運営され、波及効果を最小化するべきである。我々は、共通の原則に向けて作業し、年後半に結論を公表する。

18. 我々は、いかなるグローバル・ステーブルコインのプロジェクトも、関連する法律上、規制上及び監視上の要件が、適切な設計と適用可能な基準の遵守を通して十分に対処されるまではサービスを開始するべきでないことを再確認する。我々は、国際基準設定主体による既存の規制基準の見直しを支持することを含め、共通の基準を確保するための国際的な協力にコミットしており、特定されたあらゆるギャップに対処することの重要性を強調する。我々は、グローバル・ステーブルコインに係るハイレベル勧告の実施における規制、監督及び監視上の課題の検討に関する、FSBによる進行中の作業を支持する。我々は引き続き、クロスボーダー決済の改善に向けたG20ロードマップの野心的な実施を支持し、クロスボーダー決済の4つの課題への対処に向けた目標に関するFSBの市中協議文書の公表を歓迎する。

19. マネーロンダリング、テロ資金供与及び拡散金融と闘うためのFATF基準のグローバルな実施は、引き続きばらつきがある。我々は、FATF基準の世界各国における実施の評価及び支援における9つのFATF型地域体(FSRBs)の役割を認識する。我々は、FSRBsの審査プログラムを支援するために、2021年から2024年にかけて少なくとも1,700万ドルと46名の審査員の追加的な専門性と資金を提供することにコミットする。我々は、G20及び全てのFATFメンバー、IMF並びに世界銀行に支援を増加させるよう要請する。

20. 引き続き新型コロナウイルスからの教訓を学び、将来のパンデミックへのより良い備えを確保することが極めて重要である。我々は、G7首脳に向けたパンデミックへの備えのためのパートナーシップの報告書及びG20ハイレベル独立パネルの検討結果に期待し、特に資金調達メカニズムに関するものを含めその提言を考慮する。我々は、新型コロナウイルス危機の再発を避ける緊急の必要性を認識し、国際保健・財務の政策立案者間の国際協調と説明責任を強化するため、関連する国際的なパートナーも交えて協働することにコミットする。我々は、「サイレント・パンデミック」である薬剤耐性への対応に資する、抗生物質の開発に対する市場インセンティブを強化する提案を探求するため、本年の下半期に、我々の保健当局とともに産業界を含めて協働する。我々の市民と将来の世代の健康と経済的繁栄を確保するために、我々は今行動しなければならない。