データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7カービスベイ保健宣言

[場所] 
[年月日] 2021年6月13日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

1. 我々G7首脳は、次のパンデミックがいつでも発生し得ることも認識しながら、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの終息という目標に向け迅速に、かつ共同で取り組むことにコミットする。本宣言は、世界保健機関(WHO)を中心に据えた効果的な多国間の行動及び強化された国際保健システムを通じ、将来のパンデミックのより適切な予防、探知及び対応並びにそこからの回復のため我々の共同の防衛を強化するための行動をとることへのコミットメントを表明するものである。

2. グローバルな解決策が必要とされる。我々は、G20のグローバル・ヘルス・サミットで採択されたローマ宣言及び第74回世界保健総会(WHA)でとられた諸措置を含め、国際的な保健システム全体にわたって我々のパートナーと共に行ってきた取組を歓迎する。我々は、「パンデミックへの備えと対応のための独立パネル」(IPPPR)やその他の検証委員会の率直な提言を認識する。これらの提言に基づき、我々は、必要な多国間のコンセンサスを追求し、本年、国際保健と健康安全保障(ヘルス・セキュリティ)の体系を強化することを目的とした具体的な措置をとるために、G20、国際連合(国連)、WHOその他の関連国際機関及びステークホルダーと引き続き協力する。我々は、WHOの枠組みにおける潜在的な条約のためのものも含めたIPPPRの多数の提言に留意する。我々は、健康危機における備えと対応に関するWHOの強化に関する加盟国作業部会を立ち上げるとのWHAでの決定を歓迎する。我々は、11月のWHA特別総会における同作業部会による報告書の検討を期待する。

3. 我々はこの宣言を通して、国際保健と健康安全保障の体系を強化するための国際的な取組における我々の特別な役割及び責任を認識し、これを支えるために我々の共通の民主的価値及び科学、研究及び公衆衛生の主導者としての独特の強みを活用することにコミットする。

4. 我々は、感染症の原因の阻止及び拡大の防止並びに新たな健康上の脅威の迅速な探知のための備えを持った強靭で、統合的かつ包摂的な国際保健システムを築く道のりを主導することを誓う。我々は、透明性のある形で報告し、パンデミックに共同で対応し、必要不可欠なサービス等への影響を緩和するための、また、喫緊の健康上の脅威が去り次第、回復のための具体的措置をとるための、多国間のメカニズムを有している必要がある。以上を踏まえ、我々は、パンデミックの予防、探知、対応及び回復のサイクルの各段階における行動をとることにコミットする。

予防

i. 我々は、透明性、協働及び説明責任に基づく、強化された国際保健システムを堅持する。IPPPRの提言その他関連する評価に基づき、我々は、国際的、地域的及び各国レベルで果たすべき重要な役割を持つWHOを強化するための取組を全面的に支持する。我々は、より一層の義務的拠出及び柔軟な拠出の呼びかけを含め、第74回WHAで採択された「健康危機への備えと対応に関するWHOの強化」決議に盛り込まれた措置を歓迎し、また、起源が不明の感染症の発生について迅速に調査するための、専門家主導で透明性がある独立のプロセスを策定する必要性を強力に訴える。

ii. 我々は、強靭な国民を増強するため、我々の人間、動物及び環境の健康に関わるシステム並びに国内の備えに投資する。我々は脆弱国による同様の取組を支援し、他国に対しても参加を促す。我々は、公正性、包摂性及び公平性を追求し、健康危機、より広範な健康の社会的決定要因及び非感染性疾患の関連性に対処する。我々は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ及び持続可能な開発目標の達成に向けた進捗を図ることによる、誰一人取り残すことない保健サービスへのアクセスの重要性を認識する。国際保健及びパンデミックへの備え並びに薬剤耐性や気候変動のようなその他の健康上の脅威に対する強靭性は、人々のニーズに対応する強力な保健システム及び組織に依存する。

iii. 我々は、2005年の国際保健規則(IHR)へのコミットメントを再確認し、その実施及び遵守を改善し、我々自身及び互いに一層適切に責任を負う方法を決定する方途を主導する。我々は、他者と共に協力して、IHR合同外部評価(JEE)等のIHRのモニタリング及び評価のための枠組みを遵守すること等により、パンデミックへの備えに関する透明性及び説明責任を積極的に明示する。このために我々は、IHRの遵守に関する新たな定期的な評価メカニズムに関する提案を策定するというIHR検証委員会及びIPPPRの提言を支持する。保健大臣及び外務・開発大臣の取組を通じ、我々は、G7による財政投資の調整、各国のオーナーシップの促進、地域的な公衆衛生機関やアフリカ、アジアその他の地域のリーダーシップ・ネットワークとの協働等を通じ、脆弱国におけるIHR実施の改善及び保健システムの強化を支援する。我々は引き続き、世界健康安全保障アジェンダ(GHSA)やWHOアカデミー等を通じ、核となる能力の構築を加速化する取組を支えるとともに、前進させる。

iv. 我々は、パンデミックの予防、備え、探知及び対応の全側面にわたる統合された、システムに基づくワンヘルス・アプローチを擁護し、より健康的な地球にするために取り組む。我々は、国際獣疫事務局(OIE)、国連食糧農業機関(FAO)及びWHOに、同格のパートナーとして国連環境計画(UNEP)を加えた、強化及び拡大された「三者プラス」同盟を支持する。我々はこれら機関の事務局長に対し、ワンヘルス・ハイレベル専門家委員会の指針に沿って、またワンヘルス・インテリジェンス・スコーピング研究の実施を含め、協働及び協調を強化し、PREZODE等のその他のワンヘルス・イニシアティブと連携するよう招請する。これまでのG7及びG20のコミットメントに基づき、我々は我々の保健大臣、財務大臣、環境大臣及び外務・開発大臣に対し、引き続き薬剤耐性に対処するための行動をとるよう求める。生物多様性の損失、環境破壊及び人獣共通感染症のリスクとの関連性を認識し、我々は、G7・2030年の自然協約等を通じ、世界の生物多様性の損失を止め、反転させるために我々の役割を果たすことにコミットする。

探知

v. 我々は、将来のパンデミックの脅威の予防、探知及び対応を改善するために、データ、デジタル技術、科学及び研究の力と潜在能力を活用する。我々は、より強力で国際的な病原体サーベイランス・ネットワークの確立を支持し、その達成に向け専門家パートナー及び各国と協働するとのWHOのコミットメントを歓迎する。こうしたネットワークは、最近公表されたパンデミック及びエピデミック・インテリジェンスのためのWHOハブを含め、既存の構造に基づくべきであり、また、効果的な早期警戒及び迅速な対応を支えるとともにワクチン、診断及び治療の開発に影響を与えるためワンヘルス・アプローチを確保するものであるべきである。世界的なカバレッジの目標を達成するため、我々は各国に対しサーベイランス及び解析の能力を高めるよう促し、それができない国に対しては能力構築を提供する。我々は、データ保護基準を遵守しながら、WHO、IHR及びOIEの通報要件の下における脅威の発生及び拡散についてのモニタリング及び報告を準備する際に必要な情報、データ及び検体の迅速な共有のための共通のアプローチ及び規範の策定を支持することにコミットする。我々は、G7の科学アカデミーに対し謝意を表し、緊急事態における健康データの使用に関するその提言に留意する。

vi. 我々は、WHOが、共同の行動のための明確なトリガーを備えたより繊細かつ実効的な早期警戒システムの立上げに向けて具体的措置をとることを支持するとともに、この点に関連し、IPPPRその他の検討に基づく勧告を歓迎する。サーベイランスは、迅速なリスク評価を可能とするものであり、また、警戒を喚起するとともに、健康上の脅威への適時の、証拠に基づく、調整された対応を行い得る実効的かる包括的で世界的なインフラを支えるものである必要がある。

対応

vii. 我々は、WHOが発する警戒情報に応じ、また、移動や貿易に関するものを含め、証拠に基づく国際的な手続に沿って、相互に決定した「後悔しない」行動を採用する。我々は、関連する多国間機関の取組に沿いつつ、パンデミック下における安全で持続可能な国際的な往来を支えるためのG7交通大臣による取組に期待する。全ての人の健康を守るための不可欠な物品への公平なアクセスと入手可能性を実現するため、我々は、不可欠な保健医療用品及びワクチンの貿易及び輸出を支えることにコミットし、また、保健に関する貿易のための長期にわたる現実的、効果的及び全体的な解決策を形成するため、引き続き他の世界貿易機関(WTO)加盟国と連携して取り組む。我々はこの文脈において、世界中における保健医療用品の入手可能性を支えるために、開かれた、多様で、安全かつ強靭なサプライチェーンが重要であることを認識する。これは、不可欠な保健医療用品及びワクチンへの国際的なアクセスを短期間で増やし、将来のパンデミックへの備え及び長期的回復を支えるものとなる。

viii. 我々は、公平なアクセス及び高い規制基準という我々の核となる原則に整合的に、また、将来における健康危機という予測不能な性質に留意し、国際的に懸念される公衆衛生上の非常事態(PHEIC)が宣言されてから100日以内に安全で有効なワクチン、診断及び治療を利用可能にするという目的を持って、今イノベーションに投資するべく協働する。新型コロナウイルスのための安全で有効なワクチン、治療及び診断の迅速な開発は、公的部門及び民間部門にわたる科学、協働及びイノベーションの力を証明した。我々は、議長国英国により召集されたパンデミックへの備えに関するパートナーシップに関与している英国の首席科学顧問及びG7諸国のカウンターパート、国際機関、産業界の代表並びに専門家に感謝し、彼らの実践的な提案に留意する。我々は、100日目標を歓迎し、これには、官民の継続的で調和的な協働と、今次危機において例外だった事項を将来的には日常的なものとするため、国際的な保健機関のリーダーシップが必要であることを認識する。我々は、G7の首席科学顧問又は相応の立場の者に対し、本年末までにこの進捗を評価し、各国首脳に報告するよう招請する。

ix. 我々は、現在のパンデミックへの対応において必要不可欠な役割を果たしているACTアクセラレータ及びそのCOVAXファシリティを始めとする、パンデミック発生時にすぐにツールを展開できるような迅速な対応のための枠組みを備えておくことの価値を認識する。我々は、既存の対応メカニズムを見直し、現在の危機からの学びを踏まえ、別のパンデミックに直面した際のワクチン、治療及び診断に関する事前買取制度の仕組みのような国際的な協力をWHOが調整して促進するような、国際的な保健機関の持続可能なネットワークのためのあり得べき将来の解決策を探るために、ACTアクセラレータから得られた教訓を考慮する。我々はまた、必要な場合には、「地球規模の感染症に対する警戒と対応ネットワーク」(GOARN)のような迅速な対応のためのネットワークやメカニズムを支援し、強化する。我々は、次の脅威に直面した際の強靭性強化のため、ワクチン、治療及び診断並びに個人防護具の製造のための地域的なハブの立上げについて検討する。

回復

x. 我々は、パンデミックへの備え、パンデミックの予防及び探知並びにパンデミックへの対応のための中長期的な国際保健の資金調達メカニズムを強化し、更に発展させることに合意する。これらを持続可能なものとするには、予測可能性と透明性を持ち、調整され協力的な方法で、堅固な監視を伴って、また公的、民間、慈善及び国際的な資金調達機関を含む様々な資金源からの協力を引き出して、資金を活用する必要がある。我々は、各国がそれぞれの状況に応じて主に国内資金により国内の能力に資金を供給するとともに、それができない国への支援を喚起する必要性を強調する。G7の財務大臣及びその他関連フォーラムとの共同の取組を通じ、我々は、復興を促すとともに強靭で包摂的な健康安全保障及び持続可能な保健システムのより良い回復のため、現在のパンデミックへの対応及び中長期的な資金調達への解決策を追求する。

xi. 我々は、パンデミック後の経済回復パッケージが保健システムへの投資を推進し、将来の健康上の脅威の文脈においては改善された世界経済リスクの監視を促すものとなるよう確保しつつ、国際金融機関(IFIs)と国際保健システムの間のより良い調整及び協力を承認する。我々はWHOに対し、IFIsと協力して、潜在的なパンデミックの脅威をより迅速かつ早期に報告することにより各国が経済的な不利益を被ることがないようにすること並びに各国が長期的な国家安全保障戦略及び経済戦略に保健及び健康安全保障を統合することを確保するための方法を模索することを求める。

xii. 我々は、パンデミックにより生ずる身体的及び精神的健康に対する間接的な影響並びにより広い社会経済的な結果に各国が効果的に対処できるよう確保しながら、新型コロナウイルスからの確固たる国際的な回復を支持することで一致する。世界経済の回復を支えるに当たり、我々は、パンデミックの重要な影響、とりわけ女性及び女児並びに脆弱かつ疎外された人々に対する壊滅的で不均衡な影響についても認識しなければならない。我々は、多国間機関、政府及び民間部門に対し、システム及びコミュニティへの更なる重荷を緩和するとともに、開発の上で失われたものを取り戻すために協働するよう求める。