データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7・2030年「自然協約」

[場所] 
[年月日] 2021年6月13日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

A. 我々、G7首脳は、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させるという世界的な使命にコミットする。我々は、2030年までに、自然にとって必要な2030年への道筋を定めることを支援するため、メッス生物多様性憲章及び「リーダーによる自然への誓約」を基礎とし、その履行に尽力し、今行動を起こす。

B. 本協約を通じ、我々は、特に昆明における第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)、グラスゴーにおける第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)において、自然に関する野心的な成果を2021年に実現するために、世界的なコンセンサスを支持し、大胆な行動をとることにコミットする。気候変動は生物多様性の損失の一つの主要な要因であり、生物多様性を保護、保全及び回復することが、気候変動への対処に極めて重要である。COP15及びCOP26に先立ち、この重要な10年に乗り出すに当たり、我々は、相互に連関し強力となっている危機に対し統合された手法で対処し、それにより持続可能な開発目標の達成や、新型コロナウイルスからのグリーンで包摂的かつ強靭な回復に貢献することにコミットする。

C. 世界的な、システム全体の変化が必要とされている。我々の世界は、ネット・ゼロを達成するのみならず、持続可能かつ包摂的な発展を促進することに焦点を当てつつ、人々と地球双方にとって利益となるようなネイチャーポジティブを達成しなければならない。自然とそれを支える生物多様性は、我々の経済、生計及び福祉を究極的に持続させるものであり、我々がそこから引き出す物品及びサービスの真の価値を、我々が決定を下す際に考慮に入れなければならない。今日の若者及び将来の世代の生命と生計は、これにかかっている。

D. 先進経済国・地域、また、グローバルサプライチェーン及び市場における主要な消費者として、我々は、我々独自の役割を認めるとともに、国外及び国内において我々の経済活動が自然及び野生生物に対して及ぼし得るネガティブかつ持続不可能な影響を認識する。したがって、我々は、全ての人々にとってうまく機能するような世界的なシステムの変化を促すため、共同のデザイン、意思決定及び履行に関して先住民及び地域社会の包摂を優先事項とし、貧困の中に生きる人々や、女性及び女児、障害を持つ人、若者といった、脆弱で周縁化されたグループの利益を認識しつつ、パートナー及びステークホルダーと協働して取り組むことにコミットする

E. 新型コロナウイルスが公衆衛生、経済、食料システム及び自然に及ぼす影響を考慮しつつ、我々は、生物多様性の損失への対処という使命が、本来的に、人間、野生生物、動物の健康を守り、将来のパンデミックを予防する使命と繋がっていることを認識する。したがって、我々はG7ワン・ヘルス作業部会の活動を支持し、英国の議長の下で設立された新たな国際人獣共通感染症専門家コミュニティ(IZCE)に、自主的な形で参加する。我々はまた、新たに設立されたワン・ヘルス・ハイレベル専門家パネルを歓迎する。

F. 次の10年間を通して、我々は、生物多様性の損失を止めて反転させるために、それぞれが政府全体を基礎として動員し、(1)移行、(2)投資、(3)保全、そして(4)説明責任、の4つの主要な柱にまたがる行動をとる。

一つ目の柱/自然資源の持続可能かつ合法的な利用への移行を主導すること

我々は、自然に悪影響を与える、持続可能でない違法な行動に対処するため、インセンティブを変化させ、あらゆる適切な手段を使用する. . . 

(1A)持続可能なサプライチェーンを支持し、国内における明確な行動を示すこと等により、森林減少に対処すること。我々は、違法な土地転換を含む森林減少及び森林劣化から農業生産を切り離す持続可能なサプライチェーンを支援するため、ベストプラクティスを共有し、適切な場合にはデューディリジェンス要件の導入を含み得る適切な国内行動を検討することについて、貿易大臣が環境省及び他の省庁と共に取り組むというコミットメントを歓迎する。我々は、これらの省庁に対し、本年後半に開催されるCOP26に先立ち、最初の会合を合同で開催するよう指示する。この行動は、生産国との強化された協力を始め、我々のより広い国際協力を補完する。

(1B)COP26の森林・農業・コモディティ貿易(FACT)対話に参加し支援すること。我々は、持続可能な貿易及び開発を促進しつつ、世界的・地域的な持続可能なサプライチェーンや森林及び他の生態系の保護、保全及び持続可能な管理を前進させるための消費国と生産国との共同作業に尽力する。

(1C)いくつかの補助金が環境に対して有害な影響を持つこと、及び自然に悪影響があると分かっている政策を改革する必要性を認めること。我々は、国内的な事情に応じて、国内の関連する政策を可能な限り迅速に見直すことにより範を示すことにコミットし、ネイチャーポジティブな代替手段の開発に取り組むため、適切な場合に行動をとる。我々は、関係する場合には、「持続可能な農業への移行」を加速させるCOP26における政策対話等を通じて、持続可能かつ気候について強靭な農業への包摂的な移行を加速するために、世界的に取り組む。

(1D)環境に影響を及ぼす犯罪に対抗するため、国内及び国外における我々の努力を強化すること。我々は、深刻な組織犯罪としての野生生物の違法取引(IWT)のような、自然への不正な脅威を認識し、それに対処する。これは、これらの犯罪の収益のマネーロンダリングと闘う取組を強化することを含む。財務大臣の協力を得て、我々は、法執行当局及び権限ある当局に対して、不正資金に対処するに当たり、情報へのよりよいアクセスを与える法人の実質的所有者情報の登録機関を実施及び強化しつつあり、さらに、可能な場合、実質的所有者情報を一般にも入手可能とすることの利点についても留意する。本件に係る関係する大臣による取組の前進を基礎として、我々は彼らに対し、IWTに関連するマネーロンダリングのリスクを特定、評価、対処するために、金融活動作業部会が提案した行動に適切に対応し、前進について9月の内務担当大臣会合で報告する任務を課す。これに先立ち、我々は、これらの課題に対処するに当たり、市民社会及び民間部門の創造性と野心を最大化させるために、これらのグループと連携する。

(1E)ごみ、持続可能でない漁業慣行等の人間の活動が海洋環境に与える悪影響に対処すること。我々は、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を基礎として、陸地及び海洋全ての発生源からのプラスチックによる海洋汚染の深刻化に対処するための行動を加速化する。その行動には、第5回国連環境総会(UNEA-5)を含む国連環境総会を通じて、既存の枠組みの強化及び海洋プラスチックごみに対処するためのあり得べき新たな世界的な協定又はその他の枠組みを含めた選択肢について取り組むことを含む。我々はまた、グローバル・ゴースト・ギア・イニシアティブ(GGGI)と共に取り組み、又はそれを支援する。我々は、違法・無報告・無規制(IUU)漁業を防止し終わらせるため、開発途上国への支援等を通じた国際的行動の重要性を認識し、過剰漁獲、過剰漁獲能力及びIUU漁業につながる特定の有害な漁業補助金を禁止するため、WTOにおいて継続中の交渉を可能な限り迅速に終了させることにコミットする。

二つ目の柱/自然に投資し、ネイチャーポジティブな経済を促進すること

我々は、全ての資金源からの自然に対する投資を劇的に増加させるために、また、経済的及び財政的な意思決定に当たり、自然について考慮され、自然に関することが主流化されることを確保するために取り組む...

(2A)財務省及び関係する省庁に対し、経済や財政の計画及び意思決定において自然について説明責任を果たす方法を特定するために、共に取り組むことを指示すること。我々は、他国や非政府主体がそれに続くよう奨励し、生物多様性に関する経済活動のフットプリントを考慮する。我々は、生物多様性の経済学に関するダスグプタレビュー及び関連するOECDの生物多様性に関する政策ガイドを歓迎する。我々は、適切な場合に、下記に概説されたものを含め、行動を特定した彼らの調査結果を活用する。

(2B)次の5年間を通して、全ての資金源から自然のための資金を増加させることに集中的に取り組むこと。特に、我々は、2025年にかけて自然を活用した解決策のための資金貢献を増加させることにコミットする。自然に投資することでもたらされる多元的な利益を認識しつつ、我々は、気候と生物多様性への資金の相乗効果を最大化させ、気候と自然のための共通便益をもたらす資金調達を促進する。

(2C)我々の国際開発援助が自然に害を及ぼさないこと、また、人々、気候及び自然に対して全体的に良い結果をもたらすことを確保するために取り組むこと

(2D)全ての国際開発金融機関(MDBs)、国際金融機関及び開発金融機関(DFIs)に対し、彼らの分析、政策対話及び活動において、自然に関することを取り入れることを奨励すること。我々は、MDBs及びDFIsに対して、自然への資金を増加、及び動員させることを、また、MDBsに対して、適切な場合には、COP26に先だって自然に関する共同声明に署名することを求める。これは、パリ協定の目標に適合するためのMDBsの取組を補完する。

(2E)金融界、産業界及びビジネス界のリーダーと共に取り組むこと。それは、自然資本への十分な投資及び自然関連リスクへの考慮を取り入れることによりネイチャーポジティブへの移行を促すため、ウェールズ公皇太子殿下により開始されたテラ・カルタ及び持続可能な市場のためのイニシアティブや、持続可能な資金に関するワン・プラネット・サミット・コアリションを始めとする、公式・非公式なパートナーシップ等を通じて行う。我々は、自然関連財務情報開示タスクフォースの設立及びその提言に期待する。

三つ目の柱/野心的な世界目標等を通じたものを含め、自然を保護、保全、回復させること

我々は、生物多様性の損失及び環境劣化を止めて反転させ、気候変動に対処するために重要な、生態系の保護、保全及び回復を支援し促進する...

(3A)この10年間に必要とされる、保全と回復の努力のための重要な基礎として、2030年までに世界の陸地の少なくとも30%及び世界の海洋の少なくとも30%を保全又は保護するための新たな世界目標を支持すること。我々は、保護地域とその他の効果的な地域をベースとする保全手段(OECMs)の質の改善、有効性及び連結性を提唱し、これらの目標を実施するに当たり先住民及び地域社会が完全なパートナーであることを認識する。また、我々は、適切な場合には、運用を促進させるための法律、十分な資金供給、執行等を通じて、国の状況やアプローチに応じて、2030年までに、少なくとも同じだけの割合の自国の陸水域と内水面を含む土地と沿岸・海域を効果的に保全し又は保護することにつき範を示す。

(3B)生態系の損失、分断及び劣化を予防するために、また、劣化又は改変された生態系を持つ重要地域を回復させるため、合意及び目標の履行を支持すること。国連生態系回復の10年を支持しつつ、我々は、例えばサハラ及びサヘル地域における「緑の長城」のような、これらの目標の実施を促す野心的なイニシアティブを支持する。我々はまた、2014年の森林に関するニューヨーク宣言及びSDGsの目標15における我々のコミットメントに従い、2030年までに天然林の消失を終わらせるために努力するという我々のコミットメントを再確認し、ブルーカーボン生態系の価値を認識する。

(3C)世界的に多様な種の個体群を増大させ、全体的な種の絶滅リスクを大幅に減らし、結果的に人為的な絶滅を止めるという目標に合意し、それを達成するために協働すること

(3D)海洋の3分の2が国家管轄権外にあることを認識し、海洋に関する世界的な協力の増加を促進させること。この10年間での海洋保護及び保全の拡大を支持しつつ、国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する、国連海洋法条約(UNCLOS)の下での新たな野心的で国際的な法的拘束力を有する文書に係る交渉を、可能であれば2021年末までに、完了させるために取り組む。また、我々は南極の海洋生物資源の保存に関する委員会(CCAMLR)による、利用可能な最良の科学的証拠並びに、東南極、ウェッデル海及び南極半島に新たな海洋保護区(MPAs)を設置するという提案に基づいて条約地域における南極海のMPAsの代表システムを開発するためのコミットメントを全面的に支持する。

(3E)持続可能な開発のための国連海洋科学の10年を支持すること。海洋を保護し我々の海洋との持続可能な関係を前進させるため、変化し続ける海洋科学における進歩を促進すべく、「G7海洋の10年ナビゲーションプラン」を承認する。この作業の一部として、我々は、目標設定された有効な海洋行動を促進しつつ、海洋の炭素吸収機能につき議論すべく科学的及び政策的専門家を招集する。

四つ目の柱/自然に対する説明責任及びコミットメントの実施を優先すること。

我々は、自然に対する国内の及び世界的な行動に責任を負う...

(4A)本協約を実施すること。我々は、関連する場合には、各国の計画に本協約のコミットメントを取り込み、可能な限り目標を高く持ち、それらを気候変動の緩和と適応の支援と一致させた効果的な行動を取ることに責任を負う。

(4B)定期的に本協約の進捗状況をレビューすること。これは、2030年のビジョンの実現を確保するため、必要に応じて我々の行動と野心を徐々に高める選択肢のレビューを行う今後5年間のG7首脳サミットを含む、既存のG7メカニズムを通じて行われる。

(4C)我々が締約国であるあらゆる多国間環境協定のメカニズムの履行及び強化された責任を促すこと。特に、生物多様性条約締約国であるG7メンバーは、野心的なポスト2020生物多様性枠組の一部として、(i)全ての締約国による野心的かつ強化された国家計画の策定、(ii)より透明性のある評価基準及び成功指標、及び(iii)より強固なモニタリング及び報告に尽力する。

本協約の採択と共に...

 我々は、2022年の国連環境総会及び国連砂漠化対処条約(締約国会議)と同様に、第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)、第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)、国連海洋会議において2021年に自然に関する野心的な結果を促進するために、政治的リーダー及び他の関係者と共に取り組むことで、自然及び気候に関する力強く、統合された世界的な行動を取ることにコミットする。我々は、極めて重要なこの10年間を通して、我々の努力を増大させ続けていく。