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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 人道支援における先行的行動の強化に関する声明

[場所] ヴァイセンハウス
[年月日] 2022年5月13日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

I.背景

1.人道的ニーズは記録的高水準にある。危機、紛争、気候変動の影響、災害は、何百万人もの人々の命と生活をさらに脅かしている。この傾向は、新型コロナウイルスやロシアのウクライナに対する不当でいわれのない違法な侵略戦争の影響を受けてさらに悪化している。人道システムが影響を受けた人々を守り続け、拡大する資金ギャップを埋め、苦労して手に入れた開発の成果を守るためには、より効率的、効果的、かつ将来を見据えた人道支援へのパラダイムシフトが必要である。

2.2021年にロンドンで採択された飢饉防止及び人道危機に関するG7コンパクトとニューヨークの先行的行動に関するハイレベル・イベントでのコミットメントを踏まえ、また、人々の苦しみを予防・緩和し、未然にニーズを削減することの決定的な重要性への共通の理解に基づき、我々G7は、人道システムをできる限り先行的なものとすることにコミットする。

3.我々は、気候変動の影響の増大に対処するために進行中の重要な取組を認識するとともに、気候変動の影響に伴う損失と損害のリスクの回避、最小化、対処に先行的行動がもたらす主要な貢献等を通じて、パリ協定で合意された人道支援と気候変動への対処の間の一貫性と相乗効果が最大化されるよう努力する。我々は、G7開発トラックにおける気候リスクに関する作業との相乗効果の最大化を追求する。さらに、我々は、今後5年以内に、地球上の全ての人々を異常気象や気候変動の悪化から早期警報システムにより保護するとの国連事務総長の目標を歓迎し、支持する。我々は、この目標を達成する上で、気候リスクに関する早期警報システム(CREWS)イニシアティブの重要性を認識する。我々は、エジプトで開催される COP27 において、世界気象機関が作成する行動計画に期待する。

4.我々は、ロシアのウクライナに対する侵略戦争によってさらに悪化した世界の食料安全保障と栄養の問題の深刻化に深い懸念をもって留意する。飢饉のリスクが依然として現実の脅威である今、早期行動を促進し、最悪の事態を防ぐために、先行的メカニズムの導入と拡大の土台作りが不可欠である。我々は、G7食料安全保障作業部会の重要な補完的取組を認識する。


II.先行的行動の可能性についての共通理解

5.先行的行動とは、予測される危険に先立って行動し、深刻な人道的影響が完全に拡大する前に、未然に防止または軽減することである。そのためには、事前にパートナーや活動を特定した事前合意された計画、信頼できる早期警報情報、及び同意済みのトリガー値に達した際に、事前合意された資金を予測可能な形で、迅速に提供する必要がある。

6.我々は、人道支援システムの枠を超えた協力体制の強化を通じて、共同計画とより適時的な行動を促進するため、先行的行動の可能性を最大化することにコミットする。これには、特に気候変動への適応、防災、早期警戒、準備、社会的保護、災害リスクと気候に関する資金調達、地域社会、国家、地域、国際などあらゆるレベルでの能力強化と参画に関する取組の強化が含まれる。人道ニーズの増加を遅くするには、紛争や長引く危機において、先行的行動のために事前に取り決めたリスクファイナンスの利用を促進するためにも、仙台防災枠組、気候資金並びに現在進行中の気候・災害リスクファイナンスに関するG7ワークストリームの進捗が然るべく連関される必要がある。このため、我々は先行的行動のための環境を強化し、連携と縦割りを越えた取組の改善にコミットする。

7.紛争や長引く危機を経験している国々は、気候変動に対して最も脆弱であり、ショックを吸収する能力も、先行的行動を可能にする災害リスク管理制度を開発する能力も限られている。先行的行動への取組を強化する我々の共同コミットメントは、自然や気候変動関連のショックが紛争関連のニーズを悪化させている、長引く危機や紛争の状況においてそれをさらに適用させる努力が必要である。現在、我々のコミットメントの焦点は自然や気候関連へのショックに向けられているが、特に人道的ニーズの大半が紛争や暴力といった人災から生じることに鑑み、我々は、その他のショックによる人道的影響の緩和に先行的行動が果たす役割への理解を引き続き深めなければならない。

8.効果的な先行的行動の実施には、十分に確立され機能している災害・気候リスク管理の制度とシステムが重要である。これらのシステムが十分に機能していない人道的状況下では、先行的行動を進展させるため、能力を強化し、既存の取組を補完する国際的取組が必要となる。このため我々は、こうした状況下における先行的行動の拡大支援のため、国、地域、地方の災害・気候リスク管理体制・システムが脆弱な場合、構築・強化させる支援を継続する必要性を強調する。


III.人道的システムにおける、先行的行動の拡大と定着

9.紛争・災害時、従来の人道支援は依然として不可欠であるが、先行的アプローチにより、災害が発生し、危機が完全に展開するよりも前に、そして、生命や生活が損なわれる前に行動することが可能となる。このため、我々G7は、特に防災インフラが確立された国々において、人道支援システム内で先行的行動を提唱し、規模を拡大し、組織的に主流化するという我々のコミットメントを再確認する。

10.我々は、災害リスクの高い地域における早期の行動と対応を可能にする制度、システム、能力を構築・強化するために、人道プログラム・サイクル、開発計画や国家適応計画の中に先行的行動を含めるべく支援することにコミットする。この点に関し、我々は、UNDRR の人道的行動における防災規模拡大 2.0 の重要な勧告とチェックリストを称賛する。

11.我々は、早期警報システムとリスク分析を改善するために、危険と予測ニーズの両方を含むリスクに関する質の高い予測データを支援、強化、利用可能とすることにコミットする。これには、革新的なリスク分析、閾値、トリガー、先行のためのモデル化の共同設計と開発に加え、先行的行動の知識、証拠、経験を倍増するためのデータとモデルの共有を可能にする調整とインフラへの投資が含まれる。我々は、特に国連の複合的リスク分析基金(CRAF'd)とリスク管理のための指標(INFORM)を通じて、これを支持することにコミットする。

12.先行的行動の実施の成功には、現地関係者が極めて重要な役割を果たすことが実証されている。彼らは、現地の脆弱性、ニーズ、能力、参加への障壁を最もよく理解しており、包摂的な対応を可能にする。危機に先立ち行動することで、地域主導の行動の機会が大きく広がる。我々は、気候や災害リスクの分析、管理、データ収集、準備、計画において、地域社会、市民社会、関連諸国の当局が主導的な役割を果たせるよう支援することにコミットする。

13.我々は、先行的行動への包摂と参加、及び先行的行動における周縁化された脆弱なコミュニティ、グループ、個人のエンパワーメントにコミットする。我々は、性別、年齢、能力、民族的・宗教的アイデンティティ、移動の状況、性的アイデンティティが、先行的行動への参加に対する社会的、文化的、及び経済的障壁と重なっていることを認識する。我々は、強力な先行的行動とは、すべての人々を変化の担い手として認識し、ジェンダーに基づく暴力、差別、不平等のリスクを緩和する行動であると信じる。

14.集合的学習、調整、パートナーシップは、先行というアジェンダを推進するための基礎であり、あらゆるレベルにおいて強力なエビデンス基盤を構築・普及させていくことを含む。我々は、特に、先行ハブ、リスク情報を活用した早期行動パートナーシップ、食料危機に対するグローバルネットワークのようなイニシアティブを通じて、この支援にコミットする。


IV.先行的行動のための資金増額

15.資金調達は、先行的行動を適切な場合に計画・促進するため、より大規模、柔軟かつ予測可能な方法で行われなければならない。また、発動すべき時に先行的措置を実行できるための体制と手順が確保されていなければならない。

16.我々は、人道支援システムの主要ドナーとして、先行的行動計画への財政支援を大幅に増やすよう努める。これには、特に人道機関におけるプールされた基金及び関連の資金調達手段による予備的資金配置が含まれる。我々は、その特有の脆弱性と課題に留意しつつ、長引く危機と紛争下の状況に注力していく。

17.我々は、既存の資金調達手段の活用と新たな資金調達解決策の追及を通じ、我々のコミットメントを実現する。特に防災インフラが整備された国に対しては、既存の資金枠組みと新たな資金調達解決策の双方を通じて先行的行動を拡大していく。人道的資金調達手段の多様性を支援するため、我々は、国連中央緊急対応基金(CERF)、IFRC の災害救援緊急基金(DREF)、スタートネットワークのスタート基金やスタートレディのような合同基金など、既存の手段への支援拡大を追求する。我々はさらに、適切な場合には、このアプローチを国別プール基金に拡大することを求める。我々は、モデル化された影響に基づいてリスクプールから資金を拠出するのではなく、予測を用いて支払いを開始するなど、災害リスクファイナンスをより先行的なものとする方法をさらに検討する。

18.我々は、先行的行動における地域のリーダーシップ、コミュニティ、システムに対応する資金調達手段を特に重視していく。これにより、先行的行動計画が、地域の状況、情報、リスク評価を反映し、地域の構造に組み込まれ、地域社会と国家システムの能力を引き続き強化することが可能となる。

19.説明責任と透明性の精神に基づき、我々は、先行的行動に対する人道的資金の追跡・報告を改善する方法の開発に向けて努力をする。このため、我々は、先行的行動に向けられる資金額と、増資機会についての理解を深めるための方法を開発することにコミットする。このコミットメントは、飢饉防止及び人道危機に関するG7パネルが始めた取り組みを基礎とし、災害保護センターの活動から情報を得ることができる。共通の方法を用いて、我々は個々の資金拠出のベースラインを確立し、その後、将来の先行的行動に対する資金援助について報告することを追求する。