データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ロシアによるウクライナに対する戦争に関するG7外相声明

[場所] ヴァイセンハウス
[年月日] 2022年5月14日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1.我々、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国のG7外相及びEU上級代表は、ロシアの不当な、いわれのない、不法な、ベラルーシが加担している侵略戦争から自らを守るウクライナとの我々の連帯及び支持を堅持する。我々は、民主主義国家であり、国連加盟国であるウクライナが、その主権と領土の一体性を堅持し、自国を防衛し、将来の攻撃や威圧に抵抗し、自らの未来を選択し、繁栄するよう支援することにコミットしている。

2.ウクライナ及びモルドバの外相の出席の下、我々は、ウクライナの主権、領土の一体性、独立及び国連憲章の下での自衛権を強調する。この侵略戦争により、我々は、主権と領土の一体性を侵害する、力によって国境を再画定しようとする公然の試みを拒絶するとの決意を再確認した。

3.我々は、ウクライナ及びその周辺諸国に対し、緊急の保護及び命を救うためのその他のニーズに応えるため、多大な人道支援を提供している。我々は、ウクライナ経済の強靭性を強化するため、実質的な財政的・経済的援助を継続している。我々は、同国の復興を含め、ウクライナを支援するというコミットメントを再確認する。我々は、全てのパートナーに対し、ウクライナが緊急の人道上及び財政上のニーズを満たし、ウクライナが自らの将来を再建するに当たっての支援を確保するための我々の取組に加わるよう求める。我々は、現在実施しているウクライナへの軍事・防衛支援を必要な限り継続する。

4.我々は、ロシアに対し、自身が始めたいわれなき戦争に終止符を打ち、それが引き起こし続けている悲劇的な苦痛及び人命の喪失を終わらせることを改めて要求する。我々はまた、ベラルーシに対し、ロシアの侵略を可能にすることを止め、国際的な義務を遵守するよう引き続き求める。我々は、国際人道法を完全に遵守し、迅速で安全かつ妨げられない人道アクセス、及び避難者が有する行き先を選択する自由を保障する文民の人道的避難を可能とし、促進することを強く求める。我々はロシアに対し、2022年3月16日の国際司法裁判所の法的拘束力のある命令に直ちに従い、国連総会の関連決議を遵守して軍事的侵略を停止すること、すなわち、停戦し、ウクライナの国際的に認められた国境内の領土全域から直ちにかつ無条件で軍隊を撤退させることを求める。

5.ロシアは、国連憲章に違反し、ヘルシンキ最終文書及びパリ憲章に記されている欧州の安全保障体系の基本原則を損なっており、その行動の報いを受けることになる。我々は、いかなる勢力圏の概念及び国際法に従わない武力の行使を拒否する。我々は、ロシアが軍事的侵略によって変更を試みた国境を決して認めず、クリミアを含むウクライナ及び全ての国家の主権及び領土の一体性を支持するための関与を堅持する。我々は、ロシアによる化学兵器、生物兵器、若しくは核兵器又はその関連物質の使用についての無責任な威嚇を非難する。我々はまた、そうした兵器のいかなる使用も、厳しい報いを受けることとなることを改めて表明する。

6.ロシアのウクライナに対する侵略戦争及びウクライナの農産品の輸出を制限する一方的な行動は、商品市場における価格高騰及び我々が現在目撃している世界の食料安全保障に対する脅威につながっている。食料及び商品価格の上昇を通じて、グローバルな市場がロシアの選択により始められた戦争に苦しみ、その結果、世界中の人々の生活に影響を及ぼし、既存の人道上及び保護上のニーズを悪化させている。その中で、我々は、食料、エネルギー、資金及び基本的物資の入手及びアクセスを、全ての人に確保することを目的とする全ての関連する取組に、追加的な資源を提供し、支援することを決意している。我々は、ロシアに対し、ウクライナの農産物の輸出に利用できるようにするため、港湾を含むウクライナの主要な輸送インフラに対する攻撃を直ちに停止するよう求める。我々は、G7開発大臣会合で正式に発足する予定の「食料安全保障のためのグローバル・アライアンス」や他の取組を通じて、G7を超えた国際的なパートナー及び組織との緊密な協力の下、世界的な食料危機の原因と影響に対処する。我々は、G7を超える国際的なパートナー及び組織と緊密に協力し、政治的コミットメントを、「食糧・農業強靱化ミッション(FARM)」や、アフリカ及び地中海沿岸諸国向けを含む主要な地域のアウトリーチ・イニシアティブ等の様々な国際的イニシアティブにより計画された具体的行動に転換することを目的とする。

7.我々は、我々のロシアに対する制裁及び輸出管理が、開発途上国にとって不可欠な食料と農業投入財の輸出を対象としておらず、今後も対象としないことを強調し、この目的のため、食料の生産及び流通への悪影響を避けるための方策が含まれることを強調する。我々は、ロシアのウクライナに対する戦争及びその世界的な影響によって苦しんでいる最も脆弱な国々及び人々を保護するというコミットメントを再確認する。

8.我々は、ロシアがウクライナに対する侵略戦争を正当化し、支持させるために用い、進行中の戦争における自らの責任を覆い隠す目的で国内及び世界の世論を意図的に操作しようとする、ロシアの偽情報を含む情報操作及び干渉の方針を非難し、体系的に暴いていく。我々は、特に G7 即応メカニズムの中で、この操作的行動に対処するため、引き続き協調する。また、とりわけこの戦争とそれが世界に及ぼす影響に関し、意見及び表現の自由の行使並びに自由で多面的かつ独立したメディアからの信頼できる情報へのアクセスを促進する。

9.我々は、ロシアによる国連憲章及びその他の国際法の基本原則の違反に対し、結束して立ち向かう。我々は、ウクライナにおいて文民及び非戦闘員を殺傷している進行中の攻撃、重要インフラの体系立った標的化及び医療関係者や施設に対する広範な損害、並びに紛争に関連する性的及びジェンダーに基づく暴力を最も強い言葉で非難する。我々は、ウクライナで行われた国際人道法違反、人権侵害、戦争犯罪及び人道に対する罪であり得る行為を含む、国際法違反に関する進行中の調査を引き続き支援する。我々は、国際刑事裁判所の検察官、ウクライナの検事総長、及び国内法に基づき管轄権を確立することができるその他各国の検察官による調査を支持する。我々はさらに、国連人権理事会の委任を受けた調査委員会、ウクライナにおける国連人権監視ミッション、及び違反を調査し戦争犯罪であり得る行為を記録する市民社会団体による取組を完全に支持する。我々は、犯された残虐行為及び犯罪の責任者の責任の追及を確保するために、調査への支援、 技術的な専門知識、資金の提供及びその他の支援を提供することにコミットする。

10.複数の国が、ロシアの侵略戦争から逃れた人々に対し、連帯を示し、安全な避難先を提供している。我々は特に、相対的、絶対的に多数の難民を受け入れているモルドバの卓越した取組を称賛する。4月5日にベルリンで発足した「モルドバ支援プラットフォーム」及びその他の形式を通じて、我々はモルドバが短期的なニーズ及び長期的な開発・改革プログラムに対応するために支援する。我々は、トランスニストリア地域を不安定化させる最近の試みについて懸念を表明し、モルドバの安定、主権及び領土の一体性に対する我々の支持を強調する。

11.我々は、引き続き結束して行動し、ロシアに対する経済的・政治的圧力を更に増強させる決意を改めて確認する。我々は、5月8日に G7首脳が強調したように、ロシアの経済及び金融システムに対して協調した更なる制限的措置を科すこと、プーチン大統領が自身の選択による戦争を主導することを可能とする経済主体、中央政府機関及び軍を含むロシアのエリート層を更に制裁の対象とすること、並びに我々の経済、国際金融システムから、及び国際機関の内部においてロシアを孤立させることにより、こうした圧力を強化していく。我々は、ロシアが特に依存している分野に制裁措置を広げていく。

12.我々は、我々と共同歩調をとるパートナーを称賛し、他のパートナーに対し、ロシアを世界経済から孤立させ、制裁の回避、迂回及びバックフィルを防ぐことにより、ロシア及びロシアを支持するベラルーシにとっての戦争の代償を高める措置を採用するよう奨励する。我々は、プーチンの戦争によって自国の経済が受ける影響を緩和するために、アウトリーチ活動の拡大を通じて世界中のパートナーに耳を傾け、協力し、コストを軽減させるための支援を誓う。

13.我々は、ロシアの石炭及び石油輸入を段階的に削減あるいは禁止するG7のコミットメントに基づき、ロシアによるエネルギー供給への依存を可能な限り早期に低減及び終了させる取組を速やかに進める。我々は、気候変動の目的とエネルギー安全保障上の要求に沿い、ロシアのエネルギーへの依存の低減を加速するという面において、エネルギー転換を促進し、エネルギー効率を高め、これによりロシアへの外貨流入を着実に減らし、ロシアの軍事機構に資金を供給するための手段を制限する。我々は、こうした取組を適時、整然と、世界が供給代替を確保するために必要な時間が確保された方法で行うことを確実にする。

14.我々は、ロシアとベラルーシにおける、ロシアのウクライナに対する戦争に平和的に不支持を表明する独立メディア、市民社会、野党、及び市民に対する国内の抑圧を強く非難する。ロシアとベラルーシの人々の権利は、より認められて然るべきである。すなわち、基本的人権、特に、自身と自国の運命を自ら決定する権利を完全に行使できるべきである。我々G7は、ロシア又はロシアの人々と戦争状態にない。ロシアによるウクライナ攻撃の決定は、民主的責任を拒否する指導者によって行われた。我々は、弾圧の犠牲となった人々に支援を提供する。我々は、ロシア及びベラルーシの人々が、自由で多元的かつ独立したメディアから事実に基づく情報を求め、受け取り、伝える権利を再確認する。我々はまた、インターネット及びソーシャルメディアサイトへのアクセス制限によるものを含めた、ロシア及びベラルーシの人々による独立したメディアへのアクセスを阻害する検閲及びその他の方法に頼るロシア政府及びベラルーシ政権を非難する。

15.我々は、ウクライナにおける核物質及び原子力施設の安全及び核セキュリティを損ない、結果として人命と環境に深刻なリスクを与えるロシアの行動を非難する。我々は、ウクライナの核物質及び原子力施設の安全及び核セキュリティ、並びに保障措置の適用を確保するためのIAEA及び同事務局長の取組に対する完全な支持を強調する。我々はロシアに対し、ウクライナの核施設から部隊を完全に撤退させ、正当なウクライナ当局に全ての統制を戻すことを要求する。我々は、IAEAがウクライナの全ての原子力施設に安全かつ障害なくアクセスできなければならないことを改めて表明する。