データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 世界の食料安全保障に関するG7声明

[場所] エルマウ
[年月日] 2022年6月28日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

我々、G7首脳は、世界の食料及び栄養の安全保障を強化し、食料危機に最も強く影響を受けかねない最も脆弱な人々を守るため、努力を惜しまない。

I.課題

我々は、食料・エネルギー・金融に関する国連グローバル危機対応グループ(UNGCRG)によれば、2022年に世界で最大3億2300万人が深刻な食料不足状態に陥る、又はその高いリスクにさらされており、史上最多となることに重大な懸念をもって留意する。世界中の紛争、新型コロナウイルスのパンデミック、生物多様性の損失、気候変動及び進行中の世界経済の不確実性を含む、複数の絡み合った危機が、この存亡に係る課題をもたらしている。ロシアによるウクライナの穀物輸出ルートの遮断を含む、ロシアによるウクライナに対する侵略戦争は、飢餓の危機を劇的に悪化させている。同侵略戦争は、世界の食料及び肥料の価格の前例のない水準への押し上げをもたらした農産物の生産、サプライチェーン及び貿易の混乱を引き起こしてきており、これらに関してロシアは重大な責任を有する。全ての人々が十分な食料を得る権利を実現できるよう確保することを追求する中で、我々は、2015年のG7エルマウのコミットメントで決意したとおり、2030年までに5億人を飢餓と栄養不良から救い出すという我々の目標を再確認する。

II.我々の対応:食料安全保障のためのグローバル・アライアンス

我々は、この多方面にわたる危機は、共同の世界的な取組によってのみ解決できると確信する。したがって、UNGCRGへの強力な支援として、我々は、目前の諸課題に対する調整され連帯した対応として、世界銀行と共同で「食料安全保障のためのグローバル・アライアンス」を設立している。我々は、チーム・ヨーロッパの世界食料不安への対応及び食料農業強靱化ミッション(FARM)、世界的な食料安全保障のためのロードマップ-行動要請といった様々なイニシアティブや、アフリカ諸国に向けたもの、食料安全保障危機に関する地中海閣僚級対話を含む主要な地域的なアウトリーチのイニシアティブ並びにグローバルな食料安全保障に向けた結束のための閣僚会合で計画されているように、政治的コミットメントを具体的行動に移すことを目指し、G7以外の国際的なパートナーと緊密に協力する。我々は、民間部門を含むパートナーに対し、最も脆弱な人々への連帯を強化するための我々の取組に参加することを求める。

III.我々の行動

「食料安全保障のためのグローバル・アライアンス」への我々のコミットメントとして、

1.最も脆弱な人々を飢餓及び栄養不良から守るため、我々は追加的に45億をコミットし、今年の世界の食料安全保障への我々の共同のコミットメントは総額140億7500万米ドルとなる。

2.我々は、ロシアに対して、ウクライナの黒海の港の封鎖、主要港、輸送インフラ、穀物サイロ及びターミナルの破壊、ロシアによるウクライナの農産物商品及び設備の違法な接収、並びにその他ウクライナの食料生産及び輸出を更に妨げる全ての行為を無条件に終えるよう、我々の緊急の要求を改めて表明する。これらは、地政学的動機による世界の食料安全保障への攻撃であるとしか評価できない。我々は、次の収穫期を考慮し、ウクライナの農産物生産の継続を支援する取組を強化し、ウクライナの農業従事者が必要不可欠な農業用の投入財や動物用医薬品へのアクセスを得られるよう支援することにコミットする。我々は、世界市場に向けたウクライナの農産物輸出の再開及び黒海を通る安全な海上回廊を実現するための国連の取組を強く支援している。加えて、我々は、既に実施されている、EUによる「連帯レーン」イニシアティブの下に、代替ルートを確立するための我々の取組を強化する。関連機関及びパートナーと協力し、我々は、違法に奪取されたウクライナの産品を特定し、ロシアが違法な奪取を継続することを阻止することを目指し、輸入穀物の原産地を特定するために協力する。我々は、ロシアに対して、ロシアの穀物及び肥料の輸出を妨げる措置を解除するよう更に求める。

3.我々は、我々の制裁パッケージが食料を標的とせず、ロシアからのものを含む農産物の自由な流通及び人道支援の提供を可能とすることを引き続き確保する。

4.我々は、特に最も影響を受けた国々において、これらの国の強じん性を築き国内生産を支援するため、農業の生産性を強化することを通じたものを含む、農産物の入手可能性を持続可能に増加させることにコミットする。我々は、肥料不足に対し、より効率的で対象を特定した使用を支援し、適切な場合には、一時的に現地及び世界規模での生産を増やし、無機肥料の代替を促進することで、対処することに努める。短期的な支援として、我々は、食料の大量備蓄を有するパートナー及び民間部門に対し、世界食糧計画の購入戦略を支援することによるものを含め、市場を歪めることなく食料を利用可能にするよう求める。我々は、全ての国に対し、更なる価格上昇を招く可能性のある過度の食料備蓄を回避するよう求める。我々は、食品ロス及び廃棄への対応並びにバランスのとれた健康的な食生活の促進に引き続き取り組む。我々は、アフリカの食料の強じん性に不可欠なバリューチェーンの発展を加速させる戦略的投資計画を、アフリカ連合(AU)と連携して企画する、国際農業開発基金(IFAD)により実施されるイニシアティブを支持する。

5.我々は、我々の食料及び農産物市場を開放的にし続けることへのコミットを堅持するとともに、全てのパートナーに対し、市場の不安定さ、ひいては食料不安のリスクを増大させる、不当な貿易制限措置を回避するよう求める。我々は、第12回世界貿易機関(WTO)閣僚会議において採択された、食料不安への緊急対応に関する閣僚宣言を歓迎し、国連世界食糧計画(WFP)による食料品の非商業的かつ人道的な購入を輸出禁止又は制限から除外するという決定を完全に支持する。我々は、追加の資金並びに適時なデータ及び透明性のある情報を提供することによるものを含む、G20農業市場情報システム(AMIS)に対する我々の支援を強化することにコミットし、全てのAMISメンバーに対しても同様に対応することを要請する。我々は、AMISに対し、投入財市場についてもより詳細にモニターすることを奨励する。我々は、食料安全保障や、脆弱な国々や人々の栄養価の高い食料へのアクセスを危険にさらすいかなる投機的な行動とも闘う。

6.我々は、現在の諸課題への対応が、持続可能な開発目標、パリ協定及びグラスゴー気候合意、砂漠化対処条約並びに生物多様性条約と整合し、小規模農業従事者への我々の支援の増加を通じたものを含め、農業及び食料システムの長期的な強じん性及び持続可能性も強化することを確保する。この文脈で、我々は、ローマに拠点を置く機関であるWFP、国連食糧農業機関(FAO)及びIFAD並びに世界食料安全保障委員会(CFS)、WTO及び国際金融機関を含む、全ての関連する多国間機関の重要な取組を支持する。我々は、世界銀行グループにより発表された世界食料危機対応のための計画された行動及び「食料不安に対処するための国際金融機関行動計画」を歓迎する。我々は、国連食料システム・サミットの目標への継続的な関与及び支持にコミットし、全てのパートナーに対しゼロ・ハンガー・コアリションを支援又はこれに参加するよう奨励する。我々は、「栄養のためのAU年2022」の取組を基礎として、食料不安に対処するための国主導及び地域主導の計画及び解決策を支持する。我々はまた、栄養不良の負荷が最も高い国々における不可欠な栄養のサービスを拡大することにコミットする。

7.我々は、政府、国際機関、グローバル及び地域的なイニシアティブ、研究機関、市民社会、民間部門並びに慈善団体を含む、全てのパートナーに対し、世界の食料安全保障を確保するための我々の取組において我々と結束し、「食料安全保障のためのグローバル・アライアンス」を支持するよう招請する。