データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7農業大臣声明2023

[場所] 宮崎
[年月日] 2023年4月23日
[出典] 農林水産省
[備考] 仮訳
[全文] 

I

1. 世界の食料及び農業をめぐる状況は、我々G7農業大臣が2009年に初めて参集して以来大きく変化してきている。これまでの我々の取組は、農業・食料システムに関する多くの課題への対処に貢献してきたとはいえ、未来の世代へ引き継いでいくためには、農業・食料システムをより強じんで持続可能なものにするための努力を緊急に強化する必要がある。我々G7農業大臣は、将来の農業・食料政策に向けた課題と機会について議論すべく2023年4月22-23日に宮崎に会した際に、このことを認識した。

2. 気候変動及び生物多様性の損失が世界の食料安全保障に与える影響は、例えば作物、水資源及び土壌の健康への甚大な影響等を通じて、より顕著になってきている。更に、新型コロナウイルスのパンデミックや、ロシアのウクライナに対する違法な侵略戦争は、既に困難に直面していた世界の食料安全保障及び栄養をめぐる状況を悪化させている。

3. 我々は、ロシアのウクライナに対する違法で、不当で、いわれのない侵略戦争を引き続き最も強い言葉で非難するとともに、今も続く悲劇的な人命の損失と苦痛に驚愕し、心を痛めている。我々は、最も脆弱な人々に特に大きな影響を与えている穀物、燃料及び肥料の価格高騰をはじめとして、この戦争が世界的に食料安全保障に与えている破壊的な影響を深く懸念する。我々は、EU・ウクライナの連帯レーン、ゼレンスキー大統領の「ウクライナからの穀物」イニシアチブ並びに国連及びトルコの仲介による黒海穀物イニシアティブ(BSGI)の重要性を認識する。これに関し、我々は、BSGIの延長、完全な実施及び拡大を強く支持する。我々は、食料を不安定化の手段や、地政学的な威圧の道具として利用するロシアの企てを非難するとともに、連帯して行動し、ロシアが食料を武器化することにより最も影響を受けている人々を支援するとのコミットメントを再確認する。我々は、支援を必要としている人々に対し予期せぬ結果をもたらさないよう、食料及び肥料をその対象から除外した上で、ロシアに対する我々の制限的な措置の設計を続ける。

4. 我々は、農地における地雷除去に関する我々の経験、知識、専門性を共有することや、ロシアにより破壊された灌漑、倉庫及び食品加工施設等の農業インフラの再建を含め、ウクライナの回復と復興を支援する用意がある。我々はまた、国際機関と連携し、小規模農家による資金や種子等の投入財へのアクセスや、持続可能な農業生産性向上のためのデジタルその他の新技術の導入を引き続き支援していく。我々は、首脳によるコミットメントへの対応として、英国の拠出により穀物の出荷元を特定するために活用できる穀物データベースが創設されたことを歓迎する。

5. ロシアのウクライナに対する違法な侵略戦争が始まる前の2021年においても、慢性的な飢餓人口は8億2,800万人と推計され、新型コロナウイルス発生前から1億5,000万人増加している。国連食糧農業機関(FAO)の推計によると、ロシアのウクライナに対する違法な侵略戦争によって、2022年には更に1,070万人が慢性的な飢餓に陥り、我々は、持続可能な開発目標(SDG)2「2030年までに飢餓をゼロに」の達成や、国家の食料安全保障の文脈における、十分な食料への権利の漸進的な実現から更に遠ざかっている。適切な政策対応が急務であることは明らかである。短期的には、ウクライナを支援し、ロシアのウクライナに対する違法な侵略戦争が、世界の食料安全保障と栄養、とりわけ脆弱な途上国に与える悪影響を緩和することが不可欠である。また、中長期的には、強じんで持続可能な農業慣行への急を要する変革を継続して、最近80億を超え増え続ける世界人口を養うために十分で持続可能な生産を実現するとともに、農業・食料生産による環境への負の影響を軽減し正の影響を高めていくことが不可欠である。

6. 短期的な課題への対処が、より強じんで持続可能な農業・食料システムの達成に向けた長期的な目標に注力することを妨げてはならない。その目標とは、食料の損失・廃棄の削減から、持続可能な生産及び消費の増加まで、サプライチェーンに沿って幅広いものである。我々は、農業が、気候変動や生物多様性損失の原因でもあると同時にその影響を受けること、これらを助長もすれば緩和させることもできるという、独特な産業部門であることを認識する。我々は、食料システムの変革に向けて前進すべく、150以上の国々が、2021年の国連食料システムサミット、及びその他の関連する国際会議に参集したという事実に勇気づけられる。我々は、このモメンタムを今後も維持し、誰一人取り残すことなく、持続可能な開発のための2030アジェンダ及びその目標の完全な履行を達成しなければならない。

II 現在及び将来世代のニーズに即した強じんで持続可能な農業及び食料システム

7. 新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナに対する違法な侵略戦争は、伝染病、サプライチェーンの混乱、価格の高騰といった世界の食料安全保障及び栄養に対する既存の脅威を浮き彫りにし、肥料を含む投入財の入手及び手頃なアクセスを困難にした。このことにより、より広範な“食料システム”の視点を取り入れる重要性が、これまで以上に明白となっている。

8. 我々は、強じん性と持続可能性を長期的に向上させるため、農産品や投入財の国際、地域、そして地元のサプライチェーンを多様化することの重要性を強調する。我々は、現在ほとんどの国が自国の食料供給のために国内生産と国際貿易の双方に頼っていることを認識する。したがって各国は、既存の国内農業資源を有効活用し、食料貿易を円滑化しつつ、地元の、地域の、そして世界の食料システムを強化する途を追求すべきである。更に、我々は、食料生産に用いられる資源を保存し、食料の入手可能性を向上させるため、食料の損失・廃棄の削減に向けた取組を継続する。我々はまた、栄養、及び健康的な食事の推進の重要性を強調する。我々は、母親、乳児、幼児を対象とした栄養プログラム、及び、対象を絞った学校給食プログラムの提供等のその他の様々なイニシアチブが、食料安全保障や栄養、並びに子供たちが学校に通うことや学習することに重要な貢献を果たすことができると認識する。

9. 我々は、公平な、開かれた、透明性のある、予見可能な、無差別でルールに基づいた貿易にコミットする。我々は、強じんで持続可能な食料システムを構築し、食料安全保障を促進し、栄養価の高い食料や健康的な食事をより手頃で入手可能なものにする上で、貿易の重要性を強調する。世界の食料安全保障及び栄養の達成に努める中で、我々は、貿易措置が、透明かつ、WTOルールに整合したものであることを確保することの重要性を再確認する。現行のWTO農業交渉は食料安全保障及び持続可能性の両観点からSDGsの実現に貢献すべきである。我々はまた、市場がうまく機能するためには農業データの入手可能性及び透明性が重要であることを再確認する。この観点から、我々は、G20農業市場情報システム(AMIS)への支援を強化することにコミットする。我々は、肥料・植物油の市場や政策に関する報告の促進等のため、任意の追加的な資金提供をしており、他のAMIS加盟国に対しても同様に対処するよう呼びかける。我々は、すべてのAMIS加盟国が時宜を得たデータや完全で正確な情報を提供するよう、G20メンバー国と協働することにコミットする。我々は、引き続き、食料・投入財の価格変動の増加を悪化させ得る、輸出に対するいかなる不当な制限措置も執らないようにし、他国も同様に対処するよう呼びかける。

III 持続可能な生産性向上のための実践的な措置

10. 強じんで持続可能な農業・食料システムを達成するための一手段として、我々は、持続可能な生産性の向上を支援する政策の促進にコミットする。世界人口が増加を続けており、また、ネットゼロ達成のために温室効果ガス(GHG)排出を削減し、生物多様性の損失を食い止め反転させ、気候変動の影響に適応する必要性がより緊急性を増している中、生産性を高める方法で、農業・食料システムの持続可能性を迅速に向上させることが非常に重要である。

11. 我々は、このことを、あらゆる形のイノベーションの実施や、緑肥、輪作、不・低耕起栽培の利用、管理の行き届いた様々な牧草地の保全といった持続可能な農業慣行の促進や、作物栽培における、適切で安全かつ効率的な、地元の畜産セクターから調達した堆肥の使用といった地域の資源の効果的な活用により、達成する。

12. 我々は、農業・食料生産の文脈において、気候変動への適応・緩和は、生物多様性の損失を食い止め・反転させることと高度に相互依存していることを認識する。有機農業や、化学農薬のみに依存しない統合的害虫管理など、様々な手段が、生物多様性の保護、保全、回復、及び持続可能な利用に貢献できる。環境中への栄養損失を低減するための責任ある肥料の使用及びアグロフォレストリーは、生物多様性の保全を助けるとともに、気候変動の緩和・適応の一部にもなり得る。同様に、メタン削減対策、エネルギー消費の削減、炭素隔離など、温室効果ガスの排出削減に向けた取組は、生態系への影響を考慮して策定することで、最も効果的なものとなり得る。このような取組において、我々は、万能の解決策はないことを認識し、地元の環境・農業条件に最も適した措置と慣行の組み合わせを促進・実施する。

13. 我々は、気候変動及び生物多様性についての、すべての関連する国際協定及び文書の実施に向けた取組を強化する。これには、「パリ協定」やその下にある「グラスゴー気候合意」、「農業及び食料安全保障に係る気候行動の実施に関するシャルム・エル・シェイク共同作業」「森林・土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」等の決定が含まれる。我々はまた、生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の完全、迅速かつ効果的な実施に向けた我々のコミットメントを堅持する。我々は、これらの目標を達成するに当たり、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間の科学・政策プラットフォーム(IPBES)」を含む他の国際機関の知見に基づき、利用可能で最善の科学と証拠の使用にコミットする。

14. 我々は、食料生産のための水利用の効率性を向上させることの重要性を強調する。我々は、持続可能で効果的な水管理、及び信頼できる水インフラが、より強じんで持続可能な農業の実現、人間の健康の保護、経済的安定、及び環境・気候上の目標に不可欠であることを認識する。それは災害リスクを軽減し備えを強化するためにも非常に重要である。

15. 我々は、すべての農業者及び食品生産者が、人々を養い、自然界を向上させ、SDGsを達成するための土台として重要であると認識する。より持続可能な農業・食料システムに向け、我々は、彼等が持続可能な農業慣行を実践するよう支援する。同時に、我々は、環境に好ましい結果を創出し、温室効果ガス排出を削減するために、農業政策を改革・方向転換するための取組を必要に応じ強化することにコミットする。

16. 人間、動物、植物及び環境の健康の相互依存性に対処することの重要性が増している。それらの分野横断的な課題に対する解決策を見つけるため、我々は、世界的にワンヘルスに関する助言を提供し、戦略的調整を強化する四者国際機関(FAO、国連環境計画(UNEP)、世界保健機関(WHO)、国際獣疫事務局(WOAH))による、「ワンヘルス共同行動計画(2022-2026)」の目的を支持する。また我々は、薬剤耐性(AMR)、越境性の動物由来感染症及び植物疫病に対する措置を、国際的な協調、科学的根拠及びリスク分析に基づいて推進・実施すること、それらの分野における透明性を確保することの重要性を強調する。我々はまた、コーデックス委員会、国際植物防疫条約(IPPC)及びWOAHによる国際基準設定の取組の重要性を認識する。我々は、獣医当局間の既存の協力を強化することの重要性を再確認し、鳥インフルエンザ、AMR及びその他の世界的な動物衛生の問題への対処方法に関して、今秋開催されるG7首席獣医官フォーラムの成果に期待する。

17. 我々は、農産・食料品がどのように生産・加工・流通されたのかについて、また、農業者/食品業界が気候変動や生物多様性の課題に配慮し行う努力について、消費者が明確に知った上で商品を選択・購入できるようにするため、消費者の情報へのアクセスを改善する重要性を再確認する。また、我々は、「小売・消費者レベルにおける世界の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失を含む、生産とサプライチェーンにおける食料の損失を削減する」というSDG12.3における共通の目標を再確認し、この点においてすべての利害関係者を取り込むための取組を強化する。

18. 我々は、食料システムにおける持続可能な生産性の向上に向けた取組が、とりわけ農村地域における農業者やその他の利害関係者の収入機会の改善にもつながるべきことを強調する。この観点から、我々は、木材やその他産品のための持続可能な森林経営や農業観光といった、農業に付随する収入の多様化の促進を通じて農村地域の活性化を支援する。我々はまた、それらの活動を可能にし、農村地域の活性化に貢献する公共インフラの整備を促進する。

19. 我々は、農業の将来的な持続可能性に作用する気候変動、生物多様性の損失、土地劣化やその他の要因の短期・長期双方の影響を適切に分析する手段の必要性を認識する。このため、我々は、既存の研究や分析におけるギャップを特定し、強じんで持続可能な農業・食料システムに向けた包括的な変革を促進するべく、提言を行うために、G7の政策専門家間の議論を開始するという議長国のイニシアチブを歓迎する。

Ⅳ強じんで持続可能な食料システムのための更なるイノベーションと投資の重要性、民間セクターや関係者を取り込む必要性

20. 我々は、強じんで持続可能な農業・食料システムに向けた変革のためには、あらゆる形のイノベーションが必要であることを強調する。農業・食料システムのすべての段階において、そのようなイノベーションには、新たな技術の開発のみならず、自然を基盤とする解決策、アグロエコロジーやその他の革新的なアプローチなど、持続可能な新しい、あるいは既存の技術又は慣行の効果的な実施・活用を含むべきである。我々は、先進国/途上国、小規模農家/大規模農家、若年/高齢、男女の別を問わず、すべての人々がイノベーションの恩恵を受けるべきであることを強調する。

21. 我々はまた、よく設計されたイノベーションは、食料システムの中で、人間らしい働きがいのある仕事や収入の機会を提供することによって、包摂的なサプライチェーンへの道を切り開く助けとなり得ることを認識する。我々はまた、とりわけ若者、女性、先住民、その他の十分な発言力のないグループが農業・食料セクターに関心を持ち、その参画を後押しするための措置を講じることにコミットする。これは、ひいてはその多くが人口減少や高齢化の課題に直面している農村地域の活性化に貢献し得る。この観点から、我々は、訓練、普及サービス、知識共有や教育、並びに資金への平等なアクセスの極めて重要な役割を強調する。

22. 幅広く持続可能なイノベーションを促進する上で、我々は、公共セクターと並んで、民間セクターが研究開発の促進、新規及び既存の慣行の拡大や普及において、重要な役割を果たし得ることを強調する。これには、データのプライバシーとセキュリティに十分配慮した上での、農業・食料システムにおける更なるデジタル化を含む。とりわけ、民間セクターは、新規及び/又は既存の技術や慣行を地域のニーズや状況に適応させる専門知識と能力を有している。

23. 我々は、イノベーションを支援するにはあらゆる財源からの投資拡大が必要であることを認識する。責任ある民間投資は、農村地域における若者、女性、発言力が十分ないグループ及び小規模農業者を含むすべての利害関係者の資金へのアクセスを向上させるための重要な要素の一つである。我々は、また、責任ある民間投資は、インフラ、ロジスティクス及び知識共有の改善を通じて、農村の経済を向上させる役割を果たし得ることを認識する。そのため、我々は、農業・食料システムへ民間セクターが投資しやすい政策環境を、「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則(CFS-RAI)」に沿って整備する必要性を特に強調する。

24. 民間セクターでは、農業・食料システムの変革に貢献しようとの機運が高まっている。我々は、この機運を促進する必要があり、政府、民間セクター、農業者とその他関係者間の連携を更に強化することにコミットする。たとえば、農業・食料システムをより強じんで持続可能にしようとの途上国の取組に貢献するために、民間セクターと途上国の地域コミュニティの連携を強化することが挙げられる。この観点から、我々は、農業・食料システムの変革に向けた地域コミュニティの取組に、民間セクターがその知識と専門的知見をもって関与することを、双方のニーズを橋渡しすることにより促進するという議長国のイニシアチブを歓迎する。

25. 我々は、責任ある持続可能な農業サプライチェーンへの対処には、様々なルール、任意ガイドライン及び民間セクター基準があること、各国状況は異なることを認識する一方で一貫した理解や補完的アプローチが必要なことを認識する。我々は、持続可能な農業サプライチェーンへの継続的な移行を促進するとのコミットメントを再確認し、この観点から、農業生産によって森林減少・劣化が起こらない持続可能なサプライチェーンへの支援を強化する。我々は、「責任ある農業サプライチェーンのためのOECD-FAOガイダンス」のより一層の普及・支援に向けた取組を継続する。我々は、関連商品の生産に関する森林減少や森林及び土地の劣化のリスクを低減し、この問題に対する様々な関係者との協力を強化する努力を継続することにコミットする。我々は、適切な場合には、これを支援するために更なる規制の枠組み又は政策を策定する。我々は、G7各国による持続可能な農業サプライチェーンのための任意・義務的なデュー・デリジェンス措置の収集作業が、2022年のG7議長国ドイツによって開始され、現在進行中であることを感謝の意をもって留意する。

V 国際的な展開と将来的な連携に向けて

26. 我々は、すべての関係者・国と協力し、より強じんで持続可能な農業・食料システムへの世界的な変革に向け、G7が継続的に努力していくことを再確認する。我々はまた、この取組におけるFAO、IFAD、OECD及びWFP、並びにCFS等関連する国際機関の重要な役割を強調する。G7による「食料安全保障のためのグローバル・アライアンス」及びそれに基づく具体的な行動を含む関連する国際的なイニシアチブを基盤とし、我々は、G7として、個々の国として、また国際社会の一員として、誰一人取り残すことなく、より生産力が高く、強じんで持続可能な農業・食料システムの実現に貢献するため、積極的に取り組んでいく。

27. これらの目標に向けて具体的に行動していくに当たり、我々は、別紙にまとめたように、宮崎での議論で共有した論点を念頭に置く。

28. 我々は、G7議長国である日本の作業に感謝し、2024年G7議長国のイタリアの作業に期待する。