データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 人への投資(G7倉敷労働雇用大臣会合,G7倉敷労働雇用大臣宣言)

[場所] 日本,倉敷
[年月日] 2023年4月23日
[出典] 厚生労働省
[備考] 仮訳
[全文] 

前文

1. 我々、G7メンバーの労働雇用大臣は、ILO事務局長、OECD事務次長、労使及びエンゲージメントグループの代表とともに、2023年4月22~23日に日本の倉敷で会合を行った。

2. 我々は、最も強い言葉で、ロシアのウクライナに対するいわれのない不当な侵略戦争への我々の非難を改めて表明する。これは、国連憲章を含む国際法に明確に違反するものである。この侵略は、ウクライナの人々に計り知れない被害を及ぼしている。また、食糧やエネルギー価格の上昇をもたらし何百万もの人々の貧困に陥るリスクを高めることで、ウクライナやそれにとどまらない各国の社会・経済や労働市場に甚大な影響を与えている。

3. ウクライナにおける戦争が世界に及ぼす経済的・社会的影響に加え、人口動態の変化やデジタルトランスフォーメーション、グリーントランスフォーメーション*1*(昨年ドイツ議長国下では「3D(digitalisation, decarbonisation, demographic change)」と称された)といった構造変化は、ディーセント・ワークの促進に加え、人への投資の重要性を高めている。デジタルトランスフォーメーションやグリーントランスフォーメーションは雇用創出や持続可能性、経済成長等を促す一方、不平等や不安定な仕事・収入、労働条件の悪化を招く可能性もある。さらに、特に不利な立場に置かれやすい人々に対する不十分な社会的保護の適用に繋がる可能性もある。労働者及び企業が変化に対応し、イノベーションを促進するとともに、あらゆる段階で公正な移行*2*を確保することが必要である。また、COVID-19パンデミックや気候変動、物価上昇などの危機は、構造変化と相まって、実質賃金の低下を招くなど、労働者の将来の展望を描きにくくさせている。我々は、この不確かな時代において、個々人がキャリアの展望や将来のプランを持てるよう、人への投資が必要であることを確認する。

4. これらの課題に対応するためには、幅広い人への投資が必要であり、これは職業能力開発のみならず、質の高い雇用を促進するための包摂的な労働市場の整備や、グローバルサプライチェーンを含め、誰も取り残さない形で働きがいのある人間らしい仕事を実現することを含んでいる。こうした投資は、労働者の幸福及び健康(ウェル・ビーイング)と社会経済の活力の好循環の実現に貢献し、これが経済成長や生産性向上に伴う賃金の上昇につながり、更なる人への投資に貢献する。我々は、労働者がこれらの変化に対応することを支援するリスキリングは、経費とみなすべきではなく、人への投資であると考える。

5. 人への投資とディーセント・ワークの確保に注力することにより、人々の意欲・能力を経済のしなやかさ、活力、イノベーションの原動力にしていくと共に、労働者一人一人が充実した職業生活を送れるような社会を実現できるように取り組むことが、まさに我々の使命である。このため、我々は「G7労働者のキャリア形成と構造変化に対応するレジリエンスを促進する行動計画」を採択する。

6. 国際機関、特にOECDとILOの重要な支援、報告と背景事情の研究に感謝する。我々は、2022年のドイツ議長下で、G7に雇用作業部会(EWG)を恒久化する旨合意したことを引き継ぐ。

I. 労働市場のレジリエンスの涵養

7. パンデミックの影響から回復しつつも世界の経済情勢の不透明さに依然として影響を受ける中で、我々は、労働者及び使用者の声に注意深く耳を傾け、人への投資が、ポストコロナの労働市場や技術革新、気候変動、人口動態の変化といった課題に力強く対応していく鍵であることを認識し、そのコミットメントを強化する。この社会的機運を活かし、我々は、労使と協働し、将来の様々な変化に対応できるしなやかな社会基盤を確立し、社会・経済の持続可能性としなやかさを高め、すべての人が成長の恩恵を受けられるように取り組み続けることを決意する。

I-1. ポストコロナや現下の課題に対応した労働市場政策

8. 我々は、迅速かつ大規模に、ジェンダーの観点も踏まえ、既存の政策を拡大もしくは新規政策を導入し、パンデミックに対応した。これには、雇用維持制度、失業給付、所得支援、積極的労働市場政策や不利な立場に置かれやすい人々に対する支援策が含まれる。これらの政策は、労働者や自営業者、企業などへの悪影響を緩和し、迅速な経済の回復に貢献した。我々は、将来の危機により良く対応するために、労働者の雇用の維持のみならず雇用への参画・再参画への支援を含めた適切に設計された労働市場政策と、普遍的かつ適切な水準の、財政的にも持続可能な社会的保護へのアクセスを備えることの必要性を再確認する。また、我々は適時に(timely)、適切な対象に(targeted)、時限的に(temporary)緊急対応を行うことや、迅速かつ適切な政策実行のための、関連する給付・支援制度のデジタル化への投資の重要性を強調する。雇用維持制度は多くの国で機能したが、予期せぬ予算支出が失業保険制度への負荷となった国もあった。パンデミックに関連する政策の経験からの教訓を得ることは、社会的保護の持続可能性を損なうことなく将来の危機により良く対応するため、重要である。また、国家経済や国民生活の基礎となる労働者や産業、サービスを特に支えるために、影響を受ける産業政策と労働政策・社会的保護政策との連携も重要である。このためにも、公共・民間部門が協力して、ディーセント・ワークの確保や質の高い仕事の創出に取り組むことが必要である。

9. パンデミックは、生産や消費者の嗜好の大きな変化と、eコマースやデジタルプラットフォームの活用をもたらし、テレワークや仮想的なコミュニケーションへの移行を含むデジタルトランスフォーメーションを加速させている。加えて、パンデミックは構造変化を加速させ、その回復の過程において、我々は、広い分野での労働力不足や、労働者が持続的に労働市場から退出していくというケースも経験した。概して、パンデミックは、性別、年齢、教育や所得水準、人種や種族的出身、障害や在留資格、性的指向や性的自認やその他の要素に基づいて、G7において人々に偏った悪影響を及ぼした。特に、無償ケア労働の負担が大きい女性においては、パンデミック時の外出自粛政策等により、キャリアの後退を含めた影響を受けたケースもあった。これは、しばしば、女性の労働市場参加や賃金、雇用の質の向上の停滞や後退に繋がり、結果的には、女性の将来の年金や適切なジェンダーバランスの確保に悪影響を及ぼすことに繋がる。こうしたことを踏まえ、我々は、労使の役割を尊重しつつ、生産性の向上に伴う実質賃金の上昇、すべての人々の労働環境の改善やケア責任を担う人への支援などを含む労働条件の適切な改善の推進に取り組む。我々は、無償ケア労働を担う人々の負担を和らげ、有償ケア労働に従事する人々のディーセント・ワークを確保し、労働条件を向上させるために、引き続き介護・福祉分野に投資をしていく。

I-2. デジタルトランスフォーメーション/グリーントランスフォーメーションと人への投資

10. 我々は、人口動態の変化に加えて、デジタルトランスフォーメーション・グリーントランスフォーメーションは持続的な産業やサービスの発展における不可避な社会変化をもたらす可能性があることを認識する。この変化は、生産性の向上や、新しく良質な雇用機会の創出、仕事の質の向上をもたらす大きな可能性を秘めている。十分なリスキリングの機会の提供は、雇用の不安定さ、スキルミスマッチ、スキルギャップや労働市場におけるスキルのある労働者の不足のリスクの減少に貢献することができる。我々は、官民の連携を強化しつつ、労働市場で最も教育訓練を必要とする人々が、生涯を通じて質の高い教育訓練機会を得られるようにするための努力を改めて行う。

11. 教育訓練への参加はG7においても依然として非常に不平等であり、リスキリングに取り組む政策は、障害者を含めた失業や労働市場から取り残されるリスクが高い人々に行き届かないことがある。我々は、2022年のG7ドイツ議長下で採択された「包摂的な成人教育訓練のための行動計画」の重要性を再確認する。我々は、生涯を通じた学びの文化の醸成に取り組むとともに、労使双方の公正な移行のため、スキルの習得と開発への十分な投資を進めていく。我々は、特に、障害者、スキルレベルの低い方や、NEETの若者、エネルギー価格の上昇により影響を受けるセクターやデジタル化に遅れのみられる中小企業で働く労働者など、特定の層を注意深く意識するとともに、あらゆる側面での公正性に着目していく。我々は、教育訓練やスキルのミスマッチの減少(ミスマッチは、とりわけ新卒者や徒弟の間に見られる)に取り組む。我々は、スキルレベルの低い成人の継続的な教育訓練(CET)への参加を改善し、その他のグループとのギャップの減少に向けて取り組むことを再確認する。2022年のドイツ議長下で合意したOECDのモニタリングについてアップデートを求める。

12. 我々は、労働者が人口動態の変化やデジタルトランスフォーメーション・グリーントランスフォーメーションによる産業構造変化に柔軟に対応し、労働者と企業のいずれもが恩恵を受けられる公正な移行の確保のため、労使やその他の関係者と協働し、十分な賃金水準や持続可能な成長分野や新規分野への労働移動を支援する。また、このためには、適切な社会的保護とキャリアガイダンスを含む積極的労働市場政策をリスキリングと組み合わせることにより、個人を支援することが極めて重要であることを強調する。また、リスキリングは現下の構造変化に沿うのみならず、今後の構造変化に伴ってその内容が見直されていくことが重要である。

13. また、我々は、リスキリングのモチベーション維持・向上につなげるための方策や、リスキリングの効果や目的について異なる背景を持つ各国の経験を共有した。我々は、持続可能な公正な移行を達成するためには、地域レベルを含めた労使を含む関係者との建設的な対話を続けていく。我々は、生涯を通じた学びへの投資により企業が果たしうる役割は大きいことを強調する。よって、財政的なインセンティブも含め、企業が学習・研修休暇の付与や研修の時間確保などにより従業員の学びを促進することを奨励することが有益である。また、企業やその団体が、雇用形態やケアの責任に関わらず、労働者の生涯を通じた学びの機会を確保できるよう労働者の代表の意見に耳を傾けることが重要である。我々は、とりわけ、障害者の労働参加の促進に向けて、ITスキル開発の技術革新に留意しつつ、職業教育・訓練・再訓練を支援する。我々は、世界公共雇用サービス協会の「変化する労働市場におけるG7ワーキング・グループ」による、G7雇用作業部会に対する公共職業紹介サービスの視点からのインプットを歓迎する。

II. 包摂的な労働市場の整備

14. 我々は、生産年齢人口の減少・増加率の低下も背景に、人々の労働市場参加を促してきた。人材の確保や維持など、労働市場の多様性や包摂性に注力することは、イノベーションや生産性、パフォーマンスの向上、労働者のウェル・ビーイングにもつながる。したがって、我々は、高齢者や障害者を含む不利な立場に置かれやすい人々も含め、誰もが意欲と能力に応じて活躍できる労働市場としていくための強い決意を共有する。意欲のある全ての人が労働市場に参加し、質の高い働きがいのある仕事につき、ワーク・ライフ・バランスを実現できる環境を確保することが重要である。我々は、社会的連帯経済に貢献する組織が、不利な立場に置かれやすい人々の労働市場への参加を促進する上で重要な役割を担っていることを強調する。また、企業のデュー・ディリジェンスに沿って、高齢者や障害者等の不利な立場に置かれやすい人々を雇用し、支援するには、多国籍企業をはじめとする企業が果たす役割が重要であるとの認識を共有する。

15. 高齢者のより長いキャリアを支援する:高齢化の進展の中で、高齢者の労働参加は高い

伸びを示している。高齢者が労働市場で長く働き続け、その潜在能力を最大限に活用する重要性は、熟練労働者の人手不足にも現れている。このため、持続可能でより健康的かつ良質な労働環境を促進することにより、キャリアを通じて雇用可能性を維持する支援の重要性が高まっている。したがって、我々は、

・ 年齢による変化に伴うニーズに応じた働き方が可能な労働環境の整備、

・ 年齢による志向や健康状態の変化に応じた、本人のニーズと要望を踏まえた仕事の方法の変更によるものを含む働き方の見直しや、必要に応じた社内外での労働移動の機会の提供の促進、

・ 生涯を通じた特にデジタルスキルに対応したリスキリングの機会の確保

・ より長期的・健康的な職業生活の実現による年金や老後資金の確保を通じた、高齢者の経済基盤の強化、

・ 高齢者が労働市場で活かすことができるこれまで培ったスキルや経験を情報共有・認識することによる、職場に存在しうる年齢差別の打破

に取り組むことが必要である。

16. 障害者のインクルージョンの推進:我々は、社会的包摂や自立にとっても重要である労働参加を実現するため、障害者に十分な支援がなされることを確保する必要がある。我々は、雇用の「質」の点でも一層の取組を進め、障害者の有意義な労働市場参加につなげていくことが必要であることを強調する。働くことが難しいとされてきた重い障害のある方も、テレワークなどの柔軟な働き方や、ロボットやAIの活用、雇用と福祉の連携等により、益々活躍の場を得られるようになってきている。我々は、障害者の権利に関する条約も踏まえながら、引き続き、障害者にとってよりオープンで、包摂的で、アクセスしやすい労働市場と労働環境の実現に向けた取組を進めていく。我々は、障害者にとって公正な待遇、職業能力開発、労働市場への参画の確保のための障害に対する包摂的なアプローチをまとめた、OECDの新たな報告である「障害、仕事、インクルージョン:あらゆる政策実践における障害の主流化」を歓迎する。

17. ジェンダー平等を加速する:我々は、G7ジェンダー平等アドバイザリー評議会(GEAC)及びそのジェンダー格差に関するG7ダッシュボードを、断続的な発展や持続的な課題を考慮しながら、方法論や指標の更新を確実にし、全面的に支持することにコミットする。我々は、特に上級管理職レベルにおける、男女間の賃金格差、職業的地位格差や固定的性別役割分担など、労働市場における機会・結果のジェンダー格差はいまだに存在することを認識する。我々は、複合的な要素による格差を経験する女性が、仕事の世界でより不利な立場に置かれやすいことを認識する。ジェンダー平等を促進するには、リーダーシップの向上、社会対話を含めた意思決定プロセスへの参加の促進、個人や企業の無意識の偏見や差別の解消により、女性の声が傾聴されることが重要である。さらに、我々は、差別のない資金へのアクセスを含めた女性による起業の支援の重要性を認識する。また、女性の科学、技術、工学、数学(STEM)に関連する教育訓練へのアクセスを、例えば、こうした分野のプログラムへの資金支援の機会を増やすことにより、向上することが重要である。我々は、多様で柔軟な働き方を可能とする共働き・共育てモデルの構築が、保育サービスの強化を含めて重要であることを確認する。我々は、使用者と密接に連携しながら、父親の育児休業取得を促進する。加えて、我々は、介護休業、包摂的かつ質の高いケアの選択肢、無償ケア労働を女性が背負うことが多いという社会的規範への対処の重要性を強調する。

18. また、全ての労働者に対する暴力やハラスメント、特に仕事の世界におけるジェンダーに基づく暴力やハラスメントを防止する措置の促進が重要であることを確認する。また、あらゆる分野におけるジェンダーバランスや適切な労働条件、同一労働同一賃金又は同一価値労働同一賃金を促進することが必要である。我々は、労働市場におけるジェンダー平等の更なる促進に向けて、様々なエンゲージメントグループと、それぞれの労働市場における男女平等をさらに改善させる活動の範囲内の事項において、緊密に連携する。我々は、ジェンダーや年齢、障害などの要素が絡み合い、労働参加のより大きな障壁となっていることに留意しつつ、引き続き包摂的な労働市場の整備を進めていく。

19. 若年者の労働市場への参加促進:G7の中には若者の失業率やNEETの若者の割合が高い国もある。特に、若者は、例えばスキルのミスマッチやスキルギャップにより、教育から労働市場への円滑な移行に苦労することが多い。若年者雇用対策は、総合的かつ体系的な支援が必要である。具体的には、就職前段階からの情報発信、学校でのキャリアオリエンテーション、職業選択や定着支援、不安定雇用やNEET状態を防止するための就職支援・キャリア形成支援が挙げられる。特に、教育から労働市場への移行を円滑にするため、職業指導や、質の高い職業訓練や職業教育(職場での訓練や徒弟制度を含む)、職業能力開発やキャリア形成支援が重要であることを強調する。また、支援に当たっては、労使や大学等を含む教育訓練機関との連携が重要であるとともに、若者のデジタルスキルや読み書き計算などの基礎的スキルの向上にも取り組むことが必要である。

III. ワーク・エンゲージメントの向上とディーセント・ワークの推進

20. ディーセント・ワークの推進及びワーク・エンゲージメントの向上は、仕事への満足度や業績・生産性の上昇につながるものであり、その重要性を認識する。我々は、ワーク・エンゲージメントが、自律性、仕事の多様性、仕事の重要性、十分な報酬、従業員の健康やウェル・ビーイング、安全で健康的な作業環境、組織からのリソース(承認、昇進の機会など)を十分に受け取ることなどの要素を含んでいることに注目する。ワーク・エンゲージメントの向上には、労働者が適切に評価、尊重され、組織に有意義に貢献できることも重要である。したがって、ワーク・エンゲージメントの向上及びディーセント・ワークの推進のため、次の課題に取り組む。

21. 格差の是正:我々は格差が労働市場や経済、社会に与える悪影響を認識する。パンデミックが特定の人々の格差を拡大してきたことに加え、ロシアのウクライナ侵略により加速した食糧やエネルギー価格の高騰は、多くの国で、最もリスクの高い立場の人々に更なる悪影響を与えている。これらの人々に対するディーセント・ワークの確保は、格差の是正や、ワーク・エンゲージメントの向上に必要不可欠である。雇用や職業におけるあらゆる形態の差別を防止する政策を実施するとともに、不利な立場に置かれやすい人々の平等な労働市場への参加を確保する政策や仕組みを実行することにより、ディーセント・ワークを妨げるあらゆる障壁の縮小に引き続き取り組む。

22. 適切な賃金の確保:ワーク・エンゲージメントに資する要素は様々あるが、公正で人材を惹き付ける魅力のある賃金は、ディーセント・ワークにとって必要不可欠な要素の一つである。我々は、成長の果実が公正に分配されるよう、団体交渉や公正な職務評価、賃金及び労働時間の関連法の確実な施行によって、十分な賃金を確保することが重要であることを認識する。また、我々は、リスキリングなどの人への投資を進め、継続的な賃上げや本人の希望に沿った社内外の成長分野への労働移動を促していかなければならない。

23. 労働安全衛生の確保:我々は、安全で健康的な作業環境がILOの労働における基本的原則及び権利に含まれたこと及び関連する労働安全衛生条約がILOの基本条約になったことを歓迎する。我々は、デジタル化や人口動態の変化、気候変動といった仕事の世界の大きな変化が、労働者の安全と健康に与える影響を考慮する必要があることを再確認する。高齢化や医療技術の進歩により、治療と仕事を両立させて働きたいという希望を持つ労働者に注意を払う必要がある。我々は、高齢化する労働力を踏まえた適切な安全衛生施策を講じていく必要がある。効果的な社会対話や労働者の参画により、安全で健康的な働きやすい職場を確保するために労働施策と医療・福祉施策の連携を促進することで、労働者及び企業を支えていく。また、職場におけるメンタルヘルス施策の充実が重要であることも再確認し、メンタルヘルス対策と労働政策の統合的な政策の構築に引き続き取り組んでいく。

24. 職場における健康とウェル・ビーイングの促進:職場における健康とウェル・ビーイングを促進することは、労働者の健康を増進するのみならず、生産性向上やディーセント・ワークにもつながるなど、更なる経済的利益をもたらすことが可能である。G7各国は、規制、財政的インセンティブ、情報の普及、認証・表彰制度などの様々な施策を講じ、職場における健康の促進に大きな役割を果たしてきた。我々は、G7各国が、職場での健康を含む労働者のウェル・ビーイングを促進する雇用主のインセンティブを強化する好事例を共有し続ける重要性を認識する。同様に、女性の健康ニーズ(例えば、月経や更年期に関するもの)に取り組むことは、女性労働者の全体的な健康とウェル・ビーイングを改善するとともに、ジェンダー平等を促進し、より包摂的で協力的な職場文化をつくり、労働者と事業主双方に利益をもたらすものである。

25. 人材マネジメントの改善とキャリア形成支援:我々は、キャリア形成支援はワーク・エンゲージメントの向上のためにも重要であることを確認する。キャリア形成支援は在職者と求職者の双方に対して行われる必要がある。また、若者に対するTVET(職業・技術教育訓練)や学校におけるキャリアガイダンスに始まり、職業人生を通じてキャリア形成支援が行われることが必要である。労働者が、キャリアアップのための公平な機会やツール、透明性のある昇進・昇格の機会を利用できるようにすべきである。我々は、質の高いキャリア形成支援が労働者に行き届き、モチベーションを高めつつ生涯のキャリア形成を可能にするため、企業や労使、公的雇用サービス、官民の職業訓練提供者など幅広い関係者と連携していく。また、労働者のキャリア形成支援に当たってのマネジメントの好事例や良いリーダーシップのマネジメントが果たす役割に留意する。特に、訓練機会やマネジメント能力に課題があることもある中小企業に注意を向けなければならないことについて合意する。

26. 介護・福祉関連の仕事の質の向上:介護・福祉関連の仕事は、国民のウェル・ビーイングや持続可能な経済成長に必要不可欠にも関わらず、その価値が正しく認識され評価されているとは言いがたい。介護・福祉関連の仕事は、パンデミックとの戦いにおいても最前線で活躍したが、しばしば低賃金を含む厳しい労働条件によって特徴付けられ、結果として多くの国で人材不足が生じている。介護・福祉従事者の多くは女性であり、この分野の低賃金や厳しい労働環境は労働市場における男女間の格差の要因の一つにもつながっている。介護・福祉関連の仕事について、賃金、長時間労働の防止を含む健康で安全な職場作り、キャリアアップ、社会的保護へのアクセス、専門性の評価、能力開発や資格取得などを含む労働条件の改善を進め、質を高めることが必要である。

27. 労働における基本的原則及び権利の遵守の推進:結社の自由や団体交渉権といった労働基本権の確保はディーセント・ワークの基礎となるものであり、賃金の上昇に重要な役割を果たすことを強調する。我々はまた、「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」に示された基本原則であるそれらの権利や、あらゆる形態の強制労働の廃止、児童労働の撤廃、雇用及び職業における差別の排除、安全で健康的な作業環境を積極的に推進する。我々は、適切な場合における執行メカニズムの強化や、社会対話、結社の自由、団体交渉権への世界的な注目と支援の向上に向けた多国間パートナーシップの支援を含め、労働者やその代表の権利実現に向けた取組を尊重する。また、グローバルサプライチェーンにおける効果的な社会対話とディーセント・ワークの確保は、すべての人のための公正な移行の実現という観点から不可欠である。

28. より強靭で持続的なグローバルサプライチェーンの構築:グローバルサプライチェーンにおいて、人権、ディーセント・ワークの確保、環境の保護を実現する重要性を強調する。我々は、企業活動や企業間の取引において、人身取引の禁止を含む人権及び労働・環境基準の尊重を確保するとともに、技術協力を含めてディーセント・ワークを促進することに引き続き取り組む。昨年のG7議長国下で確認されたように、法令、規制、インセンティブ、企業向けのガイダンスなどの義務的及び自主的措置のスマートミックスを通じ、人々と地球のためによりよい結果を達成する上で、重要な役割を果たしていく。我々は、国連、ILO及びOECDの権威のあるフレームワークに沿ってサプライチェーンにおけるディーセント・ワークを促進することにコミットする。我々は、G7として首尾一貫した協調的なアプローチに取り組むとともに、実行可能でありかつ既存の政策的アプローチに付加価値を与えるような、国際的な合意に基づいた法的拘束力のある措置のアイディアと選択肢を探求するため、全てのステークホルダーと緊密に協議し、国連及びILOにおける議論に建設的に取り組む準備があるとした、G7ヴォルフスブルグ労働雇用大臣宣言におけるコミットメントを改めて強調する。我々は、また、アライアンス8.7を含むディーセント・ワークの推進への取組について、他国などにも広がるよう働きかけていく。

今後の対応

29. 我々、G7の労働雇用大臣は、このG7労働雇用大臣会合と雇用作業部会を、G7のアジェンダ全体を推進するための重要な場として評価する。我々は、日本議長国に感謝するとともに、イタリアが2024年のG7議長国を引き継ぎ、活動を促進するために協力を続けることを期待する。



付属文書

労働者のキャリア形成と構造変化に対応するレジリエンスを促進する行動計画

1. 構造変化(人口動態の変化、デジタルトランスフォーメーション、グリーントランスフォーメーション)は労働市場に大きな影響を与えるとともに、労働者のキャリアや生活の展望を描きにくくさせている。労働市場におけるスキルニーズが変化することで、スキルの需給ギャップや教育訓練のアクセスへのギャップが存在している。このスキルと教育訓練のギャップに対処し、労働者が急速に変化する職場環境で成功するために必要な自信とスキルを提供することで、労働者のキャリアのレジリエンスを高める必要がある。

2. 高齢者、障害者、ニートの若者、スキルレベルの低い労働者、失業者、非正規雇用労働者、低所得者、中小企業の労働者、特にこれらのグループの中でも女性について、訓練へのアクセスを改善する必要がある。我々は、これらの人々やスキルニーズの変化による悪影響を受けやすい特定産業の労働者を取りこぼさず、支援対象とすることが必要である。

3. 効果的で包括的な「学びのプロセス」には次のような要素が含まれうる。:

・ キャリア形成促進または現在の仕事のスキルニーズの変化に適応するために必要なスキルの明確化、

・ 適切なリスキリングの機会の把握、

・ 研修休暇、キャリアガイダンスを含む公共雇用サービス、財政的援助、キャリアアドバイス、子育て支援及びスキル評価の結果の獲得、

・ 持続的な職業能力開発につながるような、スキルを活用できる仕事や職場環境の確保。

これには、政府や自治体、労働者、企業を含む関係者間の協働が不可欠であり、適切な教育訓練の開発も必要である。加えて、労働者・企業双方の持続可能な成長を図るためには、労働者の自律的・主体的かつ継続的なリスキリングを促進するとともに、企業主導のリスキリングの強化を図ることも重要となる。

4. スキルギャップに対応し、労働者のキャリア形成や構造変化に対応するレジリエンスを高める職業能力開発の枠組みを強化するために、例えば、以下の取組を推進する必要があると考えられる。

 i. 職業能力開発施策の方向性を、他の政策や社会対話の方向性と適切に整合させること

 ii. デジタル化及びグリーン化を踏まえた短期的・長期的両面からの必要なスキルの予測、及び、新しい職業・スキルに関する若者の意識の向上

 iii. 雇用機会やキャリアアップの機会の向上を含む不利な立場に置かれやすい人々に対する的を絞った措置

 iv. 財政的・非財政的インセンティブ等を含むリスキリングへの参加を促進する革新的な仕組みの構築

 v. キャリアガイダンス、仕事のマッチング、社会的保護と積極的労働市場政策、事前学習の認定、教育訓練のデジタル化、職場内訓練へのインセンティブなど、他の政策手段との統合的なアプローチの促進

 vi. 労使の関与を含めた、人事・労務管理、人材育成、スキル活用の改善に向けた、企業(特に中小企業)への支援

● キャリア形成支援の強化には、関係者が協調して取り組むことが必要である。G7それぞれの関係者の管轄や責任の相違を勘案しつつ、関係者の役割としては、下記が挙げられうる。

◇ 政府(中央政府/自治体等、様々なレベルを含む政府)

・ スキルニーズに関連するデータを情報収集し、広く一般に情報収集・提供するため、特に労使を含むあらゆる関係者と連携する

・ リスキリング政策や研修の提供、研修内容と、スキルニーズの整合性を促進する

・ 成長産業や新興産業から生じるスキルニーズの特定を支援する

・ 産業部門別の職業訓練を提供する

・ 個人向けの財政的インセンティブの付与等を含む労働者への支援の強化を通じて、訓練の経済的・時間的制約の解消に努める

・ 有給研修休暇などの経済的支援や子育て支援等を通じて、労働者がキャリア形成支援プログラムに参加できるよう支援する

・ 適切な積極的労働市場政策を通じて、特に訓練を最も必要とする人々や訓練参加への障壁がある人々を含め、構造変化によって影響を受ける労働者等の就職・転職支援を推進する

・ 適切な教育訓練やキャリアガイダンスなどを通じて、労働者が急速な技術革新やキャリアの長期化を含む構造変化に対応し、キャリアパスの中断を回避することを、労使とも連携しつつ、支援する

・ 公共雇用サービスのアクセスも含め、労働者のキャリア形成支援を担う機関を支援する

・ 労働者のキャリア形成を支援するため、十分な訓練を受けた職業能力開発人材を確保し、強化する

・ 労使を含む地域の関係者との対話を促進するとともに、地域のニーズを反映した職業訓練を提供する

・ 地域において実施される職業訓練の効果を評価し、その結果も踏まえ訓練の継続的な見直しを行う

・ 下記に掲げる各関係者の役割について、政策を通じて促進する

◇ 公共雇用サービス

・ 各地域の労働市場のスキルニーズや労働者のスキル構成を把握し、中央政府や自治体、地元企業、労使等と情報共有する

・ 労使や関係者と協力し、構造変化の影響を強く受けると予想される産業や地域の具体的なニーズを踏まえた対策を行う

・ 失業者だけでなく在職者や転職を希望する労働者について主体的なキャリア形成を支援し、彼らに的確な職業相談・キャリアガイダンスを提供する

・ 地域の職業訓練施設や民間訓練機関と緊密に連携し、労働者のキャリアプランに応じた訓練機会や助成制度の情報提供を行う

・ 不利な立場に置かれやすい人々にも働きかけ、教育訓練のニーズを満たすために同じ機会とアクセスを確保する

◇ 企業(大企業/中小企業/ベンチャー企業)

・ 現在と将来のスキルニーズを把握し、短期的・長期的な企業の需要に沿ってそれらに投資する事業戦略を立てる

・ マネジメント層のリーダーシップ発揮を含め、リスキリングを行った労働者が獲得したスキルを適切に認識し、評価することにより、労働者の生涯を通じた職業能力開発のモチベーション向上に努める

・ 有給の教育訓練休暇や職場内訓練等を通じて、労働者が希望や能力に応じて教育訓練を受けられるよう努める

・ 労働者の時間的・財政的制約を緩和するため政府に提供された機会を活用する

・ 労働者が生涯を通じた学び・学び直しに取り組み、持続可能なキャリアを形成できるよう、労働者にキャリアガイダンスを提供する

・ 労働市場の実際のニーズに合った教育訓練カリキュラムを提供できるよう訓練機関(高等教育機関等を含む)と連携する

・ 特にSTEM分野のジェンダーバイアスと格差に留意し、女性のキャリアやリーダーシップの獲得を支援する

◇ 労使

・ 高齢者、障害者、ニートの若者、スキルレベルの低い労働者、またこうしたグループのうち特に女性の職業能力開発の機会が確保されるよう、中小企業の雇用主を含む使用者に働きかけ、支援する

・ 職業能力開発・生涯学習政策やプログラム(徒弟制度を含む)の設計、実施、モニタリング、評価において、労働者と使用者の関与を強めることを支援する

・ スキルや事前学習の認定、キャリアアップへの反映、その他教育訓練のモチベーション向上につながる取組を促進する

・ 教育訓練の機会や有給休暇の提供など包摂的なキャリア形成支援の機会を団体交渉に取り入れることを促進する

・ 現在及び将来の労働市場のニーズに対応した教育訓練カリキュラムを提供する教育訓練機関(高等教育機関を含む)と連携する

◇ 民間の訓練機関及び公共職業訓練施設

・ 地域及び国内の労働市場のトレンドや職業能力開発や生涯を通じた学びに関する施策に基づき、教育訓練内容とスキルニーズとの整合性を促進する

・ デジタルトランスフォーメーション・グリーントランスフォーメーションといった構造変化に対応しやすい機動的な教育訓練コースの設計、講師の資質向上、教材の提供等を行う

・ 企業と連携し、仕事の世界の絶え間ない進化を念頭に置き、企業のスキルニーズに対応した教育訓練を実施する

・ 時間や費用など教育訓練参加に制約のある労働者が参加しやすくなるよう、より柔軟な教育訓練を提供する(例えば、オンラインでの教育訓練提供を増やしたり、教育訓練のモジュール化によって短期間での教育訓練を可能にしたりする)


{*1* 我が国では「DX」、「GX」と称される。}

{*2* 国際労働機関(ILO)によれば、社会変化の中で、誰にとっても、できるだけ公正で包摂的な方法でディーセント・ワークの機会を創出し、誰一人取り残さないようにすること。

(https://www.ilo.org/global/topics/green-jobs/WCMS_824102/lang--en/index.htm)}