データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7財務大臣・中央銀行総裁声明

[場所] 日本・新潟
[年月日] 2023年5月13日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文] 

我々、G7の財務大臣・中央銀行総裁は、国際通貨基金、世界銀行グループ、経済協力開発機構及び金融安定理事会の長の参加を得て、新潟にて会合した。

我々は、ウクライナのセルゲイ・マルチェンコ財務大臣のヴァーチャル形式での参加を得たことを光栄に思う。我々は、法の支配と国連憲章の原則に対する攻撃でもある、ロシアのウクライナに対する侵略戦争に対する我々の一致した対応と、必要な限り続けられるウクライナに対する我々の揺るぎない支援への強いコミットメントを再確認した。複数の複雑なグローバルな課題に直面する中、我々は、自由で公正かつルールに基づく多国間システムを堅持するという我々のコミットメントを新たにし、また、国際協力を前進させ、全ての人々に繁栄をもたらすための広範な対話を通じて、国際的なパートナーとの関与を新たな高みへと導いた。我々は、ブラジル、コモロ、インド、インドネシア、韓国、シンガポールとの生産的な対話を高く評価した。G7メンバー及びこれらの国の財務大臣は、最近の世界経済の動向及び強固で持続可能な成長を促進する上での主要な課題について意見交換を行い、そして、様々な世界経済の課題に共同で取り組み、貧困と戦い、強固で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な世界経済の成長を達成することにコミットした。

I. 喫緊の世界の課題への対処

ロシアのウクライナに対する侵略戦争とウクライナに対する支援

1. 我々は、必要とされる限り続けられるウクライナに対する我々の揺るぎない支援を再確認し、ロシアのウクライナに対する不法かつ、不当で、いわれのない侵略戦争を非難することで結束する。ロシアの戦争は、悲劇的な人命の損失と財産及びインフラの破壊を引き起こし、インフレ圧力を助長し、サプライチェーンを混乱させ、エネルギー及び食料不安を高めるなど、世界経済の課題を悪化させた。我々は、低・中所得国や脆弱なグループに偏って影響を与えている、ロシアの戦争とロシアによる食料及びエネルギーの武器化に起因する、世界経済の困難に対処するために、引き続き国際協力を促進する決意である。この文脈で、我々は、ロシアにより繰り返される、我々の制裁による食料及びエネルギー安全保障への波及効果についての誤った言説を断固として否定する。我々は、ロシアのウクライナに対する不法な戦争の即時の終結を求める。これは、世界経済の見通しに対する最大の不確実性の1つを解消するものである。

2. 我々は、ウクライナの緊急の短期的な資金ニーズへの対処と、周辺国やその他の深刻な影響を受けた国々への支援を継続することに強くコミットしている。我々は、国際社会と共に、2023年及び2024年初頭に向けたものとして、ウクライナに対する財政・経済支援のコミットメントを440億米ドルに増加させた。これは、4年間にわたる総額156億米ドルのウクライナに対する国際通貨基金(IMF)のプログラムの承認を可能にした。これらの支援はウクライナに確実性を与え、当局が政府の機能を守り、基本的なサービスの提供を継続し、損害を受けたインフラの最も重要な修復を実行し、経済を安定させることを可能にするものである。我々は、IMF支援プログラムの下でのウクライナによる構造改革の迅速な実施と、プログラムのレビューが成功裏に完了することを期待している。これらは、マクロ経済と金融の安定を促進し、ガバナンスを向上させ、制度を強化し、長期的な経済の持続可能性や戦後の復興に貢献する。また、これは他の国や機関及び民間セクターによる更なる資金支援の促進にも資する。

3. 我々は、複数の機関から成るドナー調整プラットフォームを通じたものを含め、ウクライナの重要インフラの修復、復旧及び復興を支援するための共同の取組を継続する。我々は、IMFや世界銀行グループ(WBG)、欧州復興開発銀行(EBRD)、欧州投資銀行による継続的な関与を歓迎する。復旧・復興のための膨大な資金ニーズを踏まえ、我々はドナーベースを拡大すべきである。また、民間資本の動員も極めて重要である。この文脈で、我々は、国際金融公社や多国間投資保証機関によるものも含めて、保証や保険の提供を通じて民間資金を促進する進行中の取組を歓迎する。我々は、民間投資を促進するという開発金融機関(DFIs)の役割を認識し、先導的な機関としてのEBRDとともに、DFIs間の更に効率的な協調融資と更なる協働を通じて、ウクライナ及び影響を受けた国々をより広く支援するためのウクライナ投資プラットフォームの設立合意(5月12日、東京)を歓迎する。我々は、6月にロンドンで開催予定のウクライナ復興会議に期待する。

4. 我々は、ロシアの不法かつ不当で、いわれのない侵略戦争を遂行する能力をさらに低下させるために、制裁及びその他の経済的措置を課し、遵守を確保するという我々の揺るぎない決意を再確認する。我々は引き続き、我々の制裁措置を回避し、損なうようなあらゆる試みに対抗することにコミットする。2月24日の首脳声明に従い、我々の制裁及びその他の経済的措置の履行確保を強化する取組の一環として、我々は、実施調整メカニズム(ECM)を通じた迂回、回避の類型及びその他関連情報の共有を開始した。将来に向けて、我々は、ロシアと他の国々との間のクロスボーダー取引の監視における連携を引き続き強化し、ロシアの金融セクターに対して必要に応じて更なる行動を取り、ロシアの原油及び石油製品への上限価格がその目的を実現していることを確保し、また必要かつ適切な所要の履行確保措置を取るために、その効果を注意深く監視する。我々は、他の国々にも我々のロシアに対する措置とその履行確保を強化する取組に参加するよう呼び掛ける。我々はまた、2月24日の首脳声明に沿った形で、我々の管轄権の下にあるロシアの国家が有する資産を引き続き動かせないようにしておくことを確保する。

世界経済と経済政策

5. 世界経済は、新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナに対する侵略戦争、関連するインフレ圧力などの、複数のショックに対する強靭性を示した。しかしながら、我々は、世界経済の見通しについて不確実性が高まる中、引き続き警戒し、マクロ経済政策において機動的かつ柔軟である必要がある。

6. 我々は、中期的な財政の持続可能性と物価の安定を支援する、安定及び成長を志向するマクロ経済政策の組み合わせにコミットしている。

* 財政政策は、引き続き、適切な場合には、生活費の上昇に苦しむ脆弱なグループに対して一時的かつ的を絞った支援を提供し、グリーン及びデジタル・トランスフォーメーションに必要な投資を促進するべきである。全体的な財政スタンスは、中期的な持続可能性を確保し、インフレ圧力の中での金融政策スタンスと整合的であるべきである。

* インフレ率は引き続き高く、そして中央銀行は、それぞれのマンデートに沿って、物価の安定を達成することに引き続き強くコミットしている。中央銀行は、インフレ予想の安定維持を確保し、各国間の負の波及効果の抑制に資するよう、政策スタンスについて明確に意思疎通を行う。

* 我々は、2017年5月の為替相場についてのコミットメントを再確認する。

* 我々は、供給サイドの改革、特に労働供給を増やし生産性を高める改革の重要性を改めて強調する。また、我々は、包摂、多様性とイノベーションの促進を通じた、我々の経済の長期的な成功のための、女性及び少数派のグループの極めて重要な役割を強調する。我々は、民間部門の持続可能性と強靱性を強化するための、「G20/経済協力開発機構(OECD)コーポレート・ガバナンス原則」の成功裏の見直しを期待する。

7. 我々は、監督・規制当局と引き続き緊密に連携して金融セクターの動向を監視するとともに、金融安定及びグローバルな金融システムの強靱性を維持するために適切な行動をとる用意がある。我々は、銀行の資本及び流動性水準の相当の引き上げや破綻機関を効果的に処理するための国際的な枠組、国境を越えた規制・監督上の協力の強化を含む、2008年の世界金融危機後に実施された金融規制改革に支えられ、我々の金融システムが強靱であることを再確認する。我々は、銀行部門における、データ、監督及び規制のギャップに対処する。我々は、金融安定理事会(FSB)による、銀行のプルーデンス及び破綻処理の枠組に関するものを含む、最近の出来事から得られる教訓、及びその結果としての、金融の安定を強化するための将来の作業の優先事項を引き出すために進行中の取組を支持する。また、我々は、引き続き、ノンバンク金融仲介(NBFI)における脆弱性への対処を優先する。我々は、FSBによるマネー・マーケット・ファンドの政策提案の実施の推進、オープンエンド型ファンドにおける構造的な流動性ミスマッチへの対処、NBFIのレバレッジにおける脆弱性への対処、並びに中央清算市場及び中央清算されない市場における証拠金の慣行の改善を含む、NBFIの強靱性の強化に関するFSB及び基準設定主体(SSBs)の作業を強く支持する。

脆弱国に対する支援

8. 我々は、複数の経済的ショックが低・中所得国に偏って影響を与える中で、こうした国々の債務脆弱性に対処する緊急性を再確認する。我々は、参加者に明確性を与えながら、予測可能かつ適時に、秩序だった方法で連携した「共通枠組」の実施を改善するためのG20の取組を完全に支持する。我々は、ザンビアに対する債務措置の迅速な妥結を要請し、想定されるIMF支援プログラム下でのエチオピアに対する債務措置の進捗を奨励する。我々は、最近提供された資金保証による、ガーナのためのIMF支援プログラムに向けた進捗を歓迎する。「共通枠組」を超えて、中所得国(MICs)の債務脆弱性は、債務措置の要請に迅速に対応する全ての公的二国間債権者を含む多国間の協調によって対処されるべきである。この点において、我々は、(パリクラブの議長としての)フランス、インド、日本の3か国の共同議長の下、スリランカのための債権国会合の立ち上げを歓迎し、中所得国の債務問題に対処するための将来の多国間の取組の成功モデルとして、迅速な解決を期待する。我々は、また、民間債権者が、措置の同等性の原則に沿って公平な負担を確保するため、債務措置を少なくとも同程度の条件で提供することの重要性を強調する。こうした中、民間債権者が将来のシンジケートローン契約における多数決条項を組み込むことを含む、契約的アプローチは国家債務再編を促進しうる。我々は、IMF、世界銀行グループ及び(G20議長国である)インドが主導するグローバルな国家債務再編ラウンドテーブルが、債務者と公的・民間債権者との建設的な対話を促進することを期待し、債務再編プロセスにおける予測可能性と効率性を支援するための更なる作業を望む。

9. 債務データの正確性と透明性を高めることは、信頼できかつ効果的な債務の持続可能性分析を確保するために極めて重要である。債務データの透明性に関するG20のイニシアティブを支援するため、我々は、有志の他の債権者と共に、初のデータ共有の取組を通じて、債務データ突合のために世界銀行グループに詳細な貸付データを提供することによって、模範を示した。我々は、初期段階で計65億米ドルに上るデータギャップを特定したこの取組の結果に勇気づけられている。このような目に見える恩恵を念頭に、我々は、全ての公的二国間債権者が、債務データの正確性の分野におけるG20のイニシアティブをさらに前進させることを含め、債務データ突合のためのデータ共有の取組への参加を促す。我々は、民間債権者に、国際金融協会(IIF)/OECD共同のデータ保存ポータルに彼らの貸付の詳細を自発的に提出することを求める。

10. 我々は、国際開発金融機関(MDBs)の改革に関する進行中の作業を強く支持する。我々は、MDBsが、貧困削減と繁栄の共有を達成するために不可欠である、気候変動やパンデミック、脆弱性、紛争のような国境を越えた課題によりよく対処するために、ビジネスモデルを見直し、変革する作業をさらに加速させることを奨励する。この改革は、既存の資本を最も効率的に活用することを伴うべきである。この目的のため、我々は、G20の「MDBの自己資本の十分性に関する枠組みの独立レビュー」の勧告の実施に関する野心的なG20ロードマップの策定に貢献するとともに、MDBsに対し、その長期的な財政の持続可能性、強固な信用格付及び優先的に弁済を受ける地位を守りつつ、包括的な方法の下での更なる進展を求める。我々は、世界銀行グループにおける、今後10年間で最大500億米ドルのファイナンス能力を追加することができる財務改革の最初の提案を含む、世界銀行グループのビジョンとミッション、業務モデル、及び財務能力の見直しのための進行中の議論を歓迎する。我々は、野心的な改革が継続的に行われるよう、2023年の世銀・IMF年次総会とそれ以降に向けた、世界銀行グループにおける更なる進展を期待するとともに、他のMDBsに対し、1つのシステムとしてのMDBsによる協調的な取組という観点からこのイニシアティブへの参加を奨励する。グローバルな課題に対処するためのMDBsの新たな価値の提案を検討するにあたり、我々は、対象を絞ったより体系的なアプローチと低所得国(LICs)への優先順位を維持することの重要性を強調する。また、我々は、MDBsが、長年の経験に基づき、政策・知識面の支援を最大限に活用し、その分析力と進化するミッションを整合させ、国内資金や民間資金の動員及び民間部門の関与を促進するための強化されたアプローチを模索することを求める。

11. 我々は、特別引出権(SDR)の自発的な融通あるいは同等の貢献を通じて、最も必要としている国々を支援するための共同の取組を更に前進させた。我々は、とりわけ日本とフランスによる追加のプレッジが、我々のこれまでの貢献及びコミットメントと合わせて、1,000億米ドルの世界的な野心を射程に入れたことを歓迎し、既存のプレッジの履行を求め、野心達成のために全ての意欲ある、貢献可能な国、特にまだ貢献を行っていない国からの更なるプレッジを要請する。我々は、最初の強靱性・持続可能性トラスト(RST)のプログラムを歓迎する。我々はまた、貧困削減・成長トラスト(PRGT)が、2023年の世銀・IMF年次総会までに、IMFが2021年に合意された利子補給金及び融資原資の資金調達目標を達成することや、PRGTを持続可能なものとするためにあらゆる方策を探求することも含め、今後数年間に増大する低所得国のニーズを満たすために、引き続き、強力な支援を提供できるようにする、IMFの様々な角度からの戦略を支持する。我々は、国内の法的枠組みとSDRの準備資産としての性格と地位を保持する必要性を尊重しつつ、MDBsを通じたSDRの自発的な融通を可能にするため実現可能な選択肢をさらに模索する。

12. 我々は、アフリカ諸国との金融・経済面での協働及び政治対話を更に強化することにコミットしている。我々は、持続可能かつ包摂的な成長を促進するための民間セクターの開発の極めて重要な役割を強調する。我々は、アフリカのパートナーと共に、G20の「アフリカとのコンパクト」、及びアフリカの潜在成長力を実現するためのマルチドナーによる取組のような、アフリカの投資環境を改善し、アフリカへの民間投資を動員するための様々な公的イニシアティブ、に協力し、支援する。これらのイニシアティブに基づき、我々は今年10月に開催されるG7アフリカラウンドテーブルにおいて、民間投資を更に動員するための重要な課題にどのように対応するかに関する議論を継続する。この点で、我々は、持続可能な開発の促進における海外直接投資(FDI)の触媒的役割を強調するとともに、投資環境整備を通じて質の高いFDIを誘致・維持し、またFDIと現地経済のつながりを強化するためのドナー国・受益国及び国際金融機関の取組を歓迎する。我々は、紛争が経済及び開発の利益に与える脅威を認識しつつ、エチオピアにおける敵対行為の停止を歓迎し、スーダンにおける敵対行為の持続的な停止を双方に求め、コンゴ民主共和国(DRC)東部の人道状況の悪化への懸念を表明し、DRCにおける和平プロセスの重要性を強調する。より広い文脈では、我々は、開発及び気候変動資金のアーキテクチャを強化し、新興・開発途上国(EMDEs)のニーズに対応するために、フランスが6月に新たな国際的開発資金取決めのための首脳会合を開催することを歓迎する。

II. 世界経済の強靱性の強化

気候変動

13. 我々は、この決定的に重要な10年間に行動を拡大することにより、世界の気温上昇を摂氏1.5度に抑えることを射程に入れ続け、気候変動に関する政府間パネルの最新の報告書を強調しつつ、気候変動の最悪の結果を避けるために、気候変動に緊急に取り組むことを決意している。ロシアの侵略戦争によって引き起こされたエネルギー不安は、雇用・成長・競争力・公平性に前向きな影響を与えると同時に、エネルギー安全保障を強化する形で気候変動対策を更に加速させ、2030年までの我々の排出削減目標の達成及び2050年またはそれより早くの温室効果ガス排出量のネット・ゼロへの到達のために、秩序ある公正な移行を促進するという我々の決意をより強化した。エネルギー価格の高騰に対応する我々の一時的な支援は、最も脆弱な人々に的を絞り、クリーンで安全かつ持続可能なエネルギーへの移行を遅らせないために、適切に段階的に廃止されるべきである。我々はまた、「気候関連金融リスクに対処するためのFSBロードマップ」を支持し、その他の国際的なSSBsの関連作業を歓迎する。G7の中央銀行は、それぞれのマンデートに関連する気候変動の影響に対処することにコミットしている。我々は、物価の安定と金融の安定が秩序ある移行にとって重要な前提条件であることを確認する。我々はまた、各国で異なる野心やアプローチから生じ得る国境を越えて波及する効果を含め、気候変動及び異なる緩和政策による短期及び長期のマクロ経済的な影響に関する我々の理解を更に向上させることにコミットする。その際、我々は、我々のモデル専門家のネットワークを活用し、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)及びその他の国際機関と協力するとともに、気候変動及び移行の道筋における世界各国に固有の状況を考慮する。

14. 我々は、G7及びその他の国々、特に新興・開発途上国と、気候変動緩和政策に関する国際協力と連携を強化する必要性を強調する。我々は、高い十全性のある炭素市場及び炭素の価格付けが、炭素の価格付けのための政策手段の最適な活用を通じ、費用効率の高い排出レベルの削減を促進し、イノベーションを推進し、ネット・ゼロへの転換を可能にする潜在力を有することを再確認する。同時に、カーボンプライシング及びかかるプライシングによらないメカニズム並びにインセンティブを用いた政策の組み合わせは、各国固有の状況を反映して変わり得ることに留意しつつ、国際協力には、多様な緩和政策手段の徹底的なマッピングと評価をする必要がある。我々は、G7首脳が設立した開放的、協調的かつ包摂的な気候クラブを、国際的なパートナーと協力して進めることを期待する。我々は、排出を緩和する様々な政策手段の有効性についての理解を深めるために、OECDの「炭素削減策に関する包摂的フォーラム(IFCMA)」を支持する。我々はまた、製品やセクターの炭素集約度を測定する方法論の探求に関するIFCMAによる今後の作業にも期待する。我々は、今世紀半ばまでにグローバルにネット・ゼロを達成するために、新興・開発途上国、特に主要排出国に積極的に関与することの重要性を強調する。この点で、我々は、非OECD加盟国に働きかけるIFCMAの取組を支持する。我々は、パートナー国がそれぞれの固有の状況を反映しつつ、加速された野心的な移行を追求することを支援する、「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」を迅速に前進させる取組を継続することにコミットしている。

15. 我々は、緩和と適応の両方に対処するための気候資金を動員するための共同の取組を強化する。我々は、意味のある緩和行動及び実施の透明性の文脈において、2025年にかけて出来るだけ早く、様々な資金源から、開発途上国に対する毎年1,000億米ドルの気候資金を共同で動員するという目標への強いコミットメントを再確認する。我々は他の関連するG7トラックとの緊密な協力の下、2024年末までの、新たな共同の気候資金の量的目標に関するパリ協定の枠組の下での議論に関与する。我々の継続的な取組に加え、我々は、気候資金のドナーベースを拡大することの必要性と、民間の気候資金の動員を増加させることの重要性を強調する。我々は、トランジション・ファイナンスの枠組を含む、「G20サステナブル・ファイナンス・ロードマップ」の実施及びモニタリングを支持することに引き続きコミットする。1.5度の気温上昇目標を射程に入れ続けることと整合的で、カーボン・ロックインを回避し、効果的な排出削減に基づいているトランジション・ファイナンスは、経済全体の脱炭素化を推進する上で重要な役割を有している。我々は、先を見据えた方法による移行の進捗の評価を可能にすることと、実体経済の排出削減に関連するファイナンスト・エミッションの軌跡について説明することにより、秩序あるネット・ゼロへの移行と整合的な投資を促進する助けとなる、信頼性のある道筋に支えられた移行計画を通じたものを含む、科学に基づく、移行関連の情報の入手可能性と信頼性を公的・民間セクターが強化することを奨励する。気候変動により悪化した自然災害の頻度と深刻度が増していることを踏まえると、特に脆弱な国にとって、補償ギャップを縮小するために、保険を含む災害リスクファイナンスの促進における、民間・公的セクターの協調の強化が極めて重要である。我々は、V20及びG7の共同イニシアティブである「気候リスクに対するグローバル・シールド」、地域の災害リスクプールなどの進行中のイニシアティブを支持する。我々は、より多くの債権者に、融資契約における、「気候変動に対する強じん性を取り入れた借入条項」を提供することを奨励する。我々は、気候ショックや災害に対する金融の強靱性の最近の進展と新たなフロンティアに関する世界銀行グループによるテクニカルノートを歓迎する。我々はまた、OECDとの連携の下での、保険監督者国際機構(IAIS)による、自然災害リスクに対する経済的及び財務的な強靱性をいかに強化するかについての、2023年末までの報告書に期待する。また、我々は、気候のための資金と生物多様性のための資金の相乗効果を強化するというコミットメントを再確認し、2022年12月の生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)における昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)の採択という歴史的成果を歓迎する。

経済効率性と強靭性

16. 新型コロナウイルスのパンデミックやロシアの戦争による影響の中、経済の強靭性の重要性に一層注目が集まった。国境を越えた経済活動は、経済効率性と強靭性の両方を達成するという視点で、一層検討されるようになっている。経済安全保障に関する進展中の戦略的協調へのG7エルマウ・サミットのコミットメントを想起しつつ、我々は、様々なショックに対する世界経済の強靭性を高め、我々の共通の価値観を断固として守り、自由で公正かつルールに基づく多国間システムを堅持することにより経済効率性を維持するために、G7同士、及びそれを超えて協力する。経済の強靭性を高めるための我々の取組は、大幅な排出削減の達成や、遅くとも2050年までの温室効果ガス排出量ネット・ゼロ達成に向けた進捗を推進すること、及びデジタル化の恩恵を活用することにより、我々の経済及び世界における社会的・経済的変革の加速にも資する。

17. 我々は、サプライチェーンの強靭性を高めるために、G7メンバー及びそれ以外の国々との更なる協働強化にコミットする。我々が4月に公表した「脱炭素時代における強靭なサプライチェーン構築に向けた財政・公的金融手段に係るハイレベル政策ガイダンス」は、クリーンエネルギーにとって重要な製品の、サプライチェーンが高度に集中しているという既存の脆弱性への対処が緊急に必要であることを認識する。サプライチェーンの多様化は、エネルギー安全保障の確保に貢献し、マクロ経済の安定維持に役立つ。ガイダンスを具体的な行動に移すため、我々は、関心ある国々とともに、世界銀行グループ、及び関連する国際機関と協働して、遅くとも本年末までの立ち上げを目指し、

「RISE(強靭で包摂的なサプライチェーンの強化)に向けたパートナーシップ」を現在策定している。資金、知見、及びパートナーシップを組み合わせた互恵的な協力を通じて、RISEは、低・中所得国がクリーンエネルギー製品のサプライチェーンの中流及び下流において、より大きな役割を果たせるよう支援することを目指す。

18. 我々は、「より多くの、より良い、安全な」FDIを引きつけることで、強靭な成長を達成するための新興・開発途上国の取組を支援する。FDIは、雇用創出や、現地における技能開発、技術移転といった恩恵を通じて、世界経済の統合の重要な実現手段である。特に、FDIは新興・開発途上国の多額のインフラ需要を満たす上で重要な役割を果たす。同時に、重要インフラに対する海外からの投資は、経済的主権にリスクをもたらすおそれがある。我々は、FDIが、最も必要とされるところになされ、かつその質も高く、受入国の経済的主権を損なわないことを確実にするための作業に貢献する。この目的のため、我々は、生産性とイノベーション、雇用の質とスキル、ジェンダー平等、脱炭素化に重点を置きながら、新興・開発途上国への、より多くの、より良いFDIを促すための投資環境の改善を目的とする、OECDの「海外直接投資の質に関するイニシアティブ」の実施を歓迎する。また、我々は、OECDが非OECD加盟国への取組を拡大・深化させ、非OECD加盟国の投資枠組の強化を支援することを支持する。我々は、OECDに対し、これらの取組を支えるための戦略を策定することを求める。

金融デジタル化

19. 我々は、通貨・金融システムの安定性、強靱性及び健全性に対する潜在的なリスクに対処しつつ、決済の効率性及び金融包摂のようなイノベーションの恩恵を活用するためのデジタル・マネーに関する政策検討を継続する。信頼できる、安定した、透明性の高いグローバルな決済システムは、我々の経済・金融活動の重要な基盤であり、中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、この文脈で大きな役割を果たしうる。我々は、いかなるCBDCも、とりわけ透明性、法の支配、健全な経済ガバナンス、サイバーセキュリティ、データ保護に基づくべきであると強調する、2021年10月に合意された、「リテールCBDCに関する公共政策上の原則」を想起する。我々は、政策ガイダンスと能力開発に対する新興・開発途上国からの需要の高まりに照らし、他の国際機関や基準設定主体、各国当局を含む専門家や関係者との緊密な協力の下、こうした主体からのインプットを活用しつつ進められる「CBDCハンドブック」に関するIMFの作業を歓迎し、2023年の世銀・IMF年次総会までに公表される最初の一連の成果物に期待する。

20. 効果的なモニタリング、規制及び監視は、責任あるイノベーションを支援しつつ、暗号資産の活動及び市場がもたらす金融安定及び健全性のリスクに対処するために、極めて重要である。我々は、FSBによる2023年7月までのハイレベル勧告最終化に期待する。我々は、FSBの勧告及びSSBsにより確立された基準及びガイダンスと整合的な形で、暗号資産の活動及び市場並びにステーブルコインに関する効果的な規制監督上の枠組みを実施することにコミットする。我々はまた、FSB及びSSBsが、規制裁定を避けるため、一貫した、効果的かつ適時の勧告の実施を、グローバルに促進することを奨励する。我々は、FSB及びSSBsが、分散型金融(DeFi)及び多機能暗号資産仲介業者に関するフォローアップ作業を実施することを支持する。我々は、拡散金融のための暗号資産の窃取、ランサムウェアによる攻撃、テロ資金供与及び制裁の回避を含む、特に国家主体による不正な活動による脅威の高まりに鑑み、「トラベル・ルール」を含む、暗号資産に関するFATF基準のグローバルな実施を加速するための金融活動作業部会(FATF)によるイニシアティブ、並びに、DeFi及び個人間で行われる取引(P2P取引)から生じるものを含め、新たなリスクに関する作業を支持する。我々はまた、FATFによる4回目の暗号資産にかかる進捗報告及びこれらのイニシアティブに関する更なる作業に期待する。

金融の持続可能性と健全性

21. 我々は、一貫性があり、比較可能で信頼できる、気候を含むサステナビリティ情報開示に対するコミットメントを強調する。我々は、投資を動員し、イノベーション、生産性向上及び排出削減の潜在力を引き出す助けとなる、サステナビリティ情報の入手可能性を強化するための取組を歓迎する。我々は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、サステナビリティに関する全般的な報告基準及び気候関連開示基準を最終化し、また、グローバルに相互運用性のあるサステナビリティ開示枠組の達成に向けて取り組むことを支持する。我々は、ISSBによる、その作業計画の市中協議に沿った、生物多様性及び人的資本に関する開示に係る将来の作業に期待する。これは、生物多様性、従業員への投資並びに多様性、公平性及び包摂性に関する活動による企業の価値創造を投資家が評価する能力を強化しうる。我々は、証券監督者国際機構(IOSCO)によるISSBの2つの基準を承認するかどうかに関する議論に期待する。また、我々は2023年9月に発表予定の自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の最終版の枠組に期待するとともに、TNFDとISSBが協力を継続することを奨励する。

22. 金融の健全性は、世界経済の強靱性を維持し、繁栄を促進するための礎である。マネーロンダリング・テロ資金供与・拡散金融と闘うためのグローバルな取組を強化することが重要である。我々は、来る第5次相互審査の文脈も含め、グローバルネットワークに渡るFATF基準の実施を監視することにおけるFATFとFATF型地域体(FSRBs)の高まる役割とリソースのニーズを支援することにコミットする。これに関して、我々は、この作業を支援するために追加的な専門性と資金を提供するとの我々のコミットメントを再確認し、G20及び全てのFATFメンバー、IMF並びに世界銀行グループにも支援を増加させるよう要請する。また、我々は、マネーロンダリング対策に関するIMFの戦略及び世界銀行グループの腐敗対策に関する戦略の今後の見直しを期待する。上記の暗号資産に関する課題に加えて、我々は、不正な資金を特定し、標的とするための各国の能力を向上させる、法人及び法的取極めの実質的支配者の透明性に関する改訂されたFATF基準を適時かつ効果的に実施することにコミットする。また、我々は、犯罪収益を回復するためのグローバルな取組を強化するべく、国際基準を強化するためのFATFの進行中の作業を支持する。FATFは、国際金融システムの健全性を保護する上で重要な役割を果たしている。この文脈で、我々は、容認できないほどFATFの基本原則に反する、無責任な核のレトリックを含むロシアの行動を非難する。我々は、本年にFATFによって下されたロシアのメンバーシップ停止の決定を全面的に支持する。我々は、大量破壊兵器の拡散と、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBMs)を含む前例のない数の弾道ミサイルの最近の発射を可能にした、その資金調達に関連する北朝鮮の不正な活動がもたらす脅威に対する深刻な懸念を共有する。また、イランから生じる不正な資金調達のリスクも深く懸念している。

国際保健

23. 我々は、グローバル・ヘルス・アーキテクチャー(GHA)のガバナンスとファイナンスの強化に対する強いコミットメントを再確認する。国際社会は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に向けた保健財政の強化やワン・ヘルス・アプローチの促進を含め、将来のパンデミックやその他の公衆衛生危機に対して、より良く備えるべきである。この努力において、我々は、財務・保健の連携を更に強化すること及びG20財務・保健合同タスクフォース(JFHTF)を更に強化するための政治的モメンタムを集結することへのコミットメントを改めて表明する。同タスクフォースは、幅広いメンバー構成を有する最適のプラットフォームであり、継続的なギャップ評価と保健上の脅威のモニタリングによってGHAの改善に資することが見込まれる。我々はまた、パンデミックPPR(予防、備え、対応)のためのファイナンスの強化に引き続きコミットする。重要な一里塚として、我々はパンデミック基金(PF)の立ち上げを歓迎し、また、そのサーベイランス、研究施設及び人材・公衆衛生従事者に関する国及び地域の能力強化に焦点を当てた初回案件募集の成功裏の実施を期待する。我々は、より幅広いドナーからのPFへの積極的な参加と貢献の増加を奨励する。このような進展にもかかわらず、パンデミックの「対応」のためのファイナンスへの取組には格別の配慮が求められる。この目的のため、我々は、G20JFHTFや国際的なパートナーと協力し、既存の資金源、特に未活用の資金源をパンデミックへの「対応」に如何に活用しうるかを包括的に評価すること、そして、既存のメカニズムを調整改善を通じて補完し、未使用の資金を蓄積することなく、パンデミック発生時に必要な資金を迅速かつ効率的に供給できる、「サージ」ファイナンスの枠組みを検討することに合意した。この文脈で、我々は、G7保健大臣との合同セッションにおいて、「財務・保健の連携強化及びPPRファイナンスに関するG7共通理解」を承認したことを歓迎する。我々は、抗生物質の開発を支援するというコミットメントを再確認し、世界保健機関(WHO)及び国際薬剤耐性(AMR)研究開発ハブによるAMRに関する最新の進捗報告書を歓迎する。

国際課税

24. 我々は、OECD/G20包摂的枠組みによる経済のグローバル化及びデジタル化に伴う課税上の課題に対応し、より安定的で公正な国際課税制度を確立する二つの柱の解決策の迅速かつグローバルな実施に向けた我々の強い政治的コミットメントを再び強調する。我々は、第1の柱に関する多国間条約(MLC)の交渉における重要な進展を認識し、合意されたタイムライン内にMLCの署名ができる状態となるよう、交渉の迅速な完了に対する我々のコミットメントを再確認する。我々は、第2の柱の実施に向けた国内法制における進展を歓迎し、包摂的枠組みに対し、グローバルに一貫性のある実施のために、更なる執行ガイダンスについて作業することを求める。我々は、途上国に対して、二つの柱の解決策の実施に係る支援の重要性を強調しつつ、持続可能な税収源を築くための税に関する能力強化に対する支援を更に提供する。我々は、OECDの「21世紀の税務協力に関する2023年進捗報告書」を歓迎する。

Ⅲ.ウェルフェアを追求する経済政策

25. 我々の経済・社会構造は、ダイナミックかつ根本的な変容を遂げている。デジタル化、特に気候変動といった持続可能性、不平等、ジェンダーや多様性は、GDPのような集計された単一の指標では十分に捉えられない、ウェルフェアの重要な要素のほんの一例にすぎない。我々の会議において、ジョセフ・E・スティグリッツ教授との対話を通じて、この重要な課題を再検討し、ウェルフェアの多元的な側面を強調した。

26. 政策立案者は、ウェルフェアを測定するための多元的な指標を把握する共に、そうした指標を政策立案に反映させるための運用ツールを探求する必要がある。国連の国民経済計算体系に関する2025年基準は、例えば無料のデジタル製品の消費をよりよく記録することを含め、計測における課題に対処するための進行中の取組である。多くの当局や機関が、証拠に基づいたアプローチに則り、経済的ウェルフェアをよりよく評価するための補完的な指標を一層活用している。同時に、予算編成や評価枠組を含め、いかにそのような指標を実用的かつ効果的な方法で政策立案に組み込むかについても検討する必要がある。我々は、引き続き、ベスト・プラクティスを共有し、急速な経済・社会の変革に対応して政策検討を深めていく。これらの取組は、G7の中核的価値観である民主主義と市場経済への信頼を維持することに資する。