データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7長崎保健大臣宣言

[場所] 
[年月日] 2023年5月14日
[出典] 厚生労働省
[備考] 抄訳
[全文] 

1. 我々G7保健大臣は、2023年5月13・14日に日本の長崎において、コロナパンデミックの急性期から世界が過渡期に移行したとみられる時期にはじめて、G7としての会合を開催した。我々は、パンデミックの教訓を活かし、国際保健を改善するために、グローバルヘルス・アーキテクチャー(GHA)を強化し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成を再確認し、ヘルス・イノベーションを活用するという共通の責任を負っており、国際社会と連携してこれらの重要な取組を支援するという確固たる決意を表明する。

2. 我々は、2月の地震の被害を受けたトルコ及びシリアの人々と連帯するとともに、この大災害が及ぼした影響に取り組む我々の支援を引き続き行う計画である。人道支援はまた、それを必要とする全ての人々に、安全で、妨げられることなく、可能な限り効率的に届けられることが極めて重要である。また、我々は、国連憲章を含む国際法の深刻な違反を犯す、ロシアによるウクライナに対する侵略戦争を可能な限り最も強い言葉で非難する。その戦争は、激しい苦痛を与え、多くの生命を奪い、インフラに深刻な損害を与え続けている。ロシアは、ウクライナから全ての軍及び装備を即時かつ無条件に撤退させなければならない。我々は、ロシアに対し、自らが始めた戦争に終止符を打ち、それが引き起こし続けている苦痛と人命の損失を終わらせるよう、常に呼びかける。我々は、この戦争によって引き起こされたウクライナの医療システムの著しい混乱を強調し、数百の医療施設が攻撃によって損傷・破壊され、数千人の医療従事者が避難を余儀なくされていることを明らかにする。現在、数百万人の避難民が保健サービスへのアクセスを制限され、あるいは全く利用できず、救命治療が中断されたために多くの命が失われている。我々は、国民の健康を守るための努力を続けるウクライナ政府を支援することを約束する。我々は、現在及び将来の保健システムの運用と再建を強化する観点からもウクライナを支援し続け、2023年のG7の活動の中心的な部分として、G7各国それぞれの努力を緊密に連携させていく意向である。我々は、スーダンの人々の治安及び安全を脅かし、スーダンの民政移管の回復への努力を損なう、スーダン国軍と即席支援部隊との間の進行中の戦闘を強く非難する。我々は、当事者に対して、即時かつ前提条件なしに敵対行為を終結させ、支援を必要とする人々及び影響を受けたコミュニティが基本的なサービスに安全で迅速かつ妨げられずアクセスできるようにすることを強く求める。我々は、当事者に対して、緊張を緩和し、外交及び人道支援関係者を含む全ての人々の安全を確保するための積極的な措置を採るよう求める。我々はまた、民間のインフラと医療施設を保護することを特に強く求める。国内各地の病院の破壊と閉鎖は、スーダンにおいて既に悲惨な人道的状況を更に悪化させる。

3. 新型コロナパンデミックを契機に、感染症対策における取組は加速化し、とりわけワクチン、診断薬、治療薬を含む感染症危機対応医薬品等(MCM)の研究開発はかつてないほど迅速に行われた。そのようなMCMにより多くの命が救われる一方で、世界は、MCMの研究開発から製造、調達を含むアクセス&デリバリーのプロセスにおいて、多くの課題に直面するとともに、プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)を含む医療システム、健康アウトカム、そして経済への大きな二次被害にも直面した。コロナパンデミックと過去の公衆衛生危機から学んだ教訓に基づき、パンデミックの予防・備え・対応(PPR)のために、安全で有効なMCMの研究開発から入手までのサイクルを加速し、ラストマイルを含むVTDの製造、デリバリー&アクセスにかかる時間を短縮できるよう、公平性、包摂性、効率性、負担可能性、質、説明責任、機動性、迅速性のあるMCMエコシステムを構築することが必要と考えられる。このようなエコシステムは、特に低中所得国において、将来の健康危機の際に、現場のニーズに応じたグローバルで、公平、迅速、有効かつ負担可能なMCMへアクセスを促進する。

4. 我々G7は、パンデミックによる経験や関連するすべての取組に基づいて、国際保健がグローバル・アジェンダの最上位に位置する必要があること、パンデミックPPR、UHC、ヘルス・イノベーションに関する取組を進めること、そして、進行中の様々なプロセスを効果的かつ相補的に連携させることによってGHAを強化することについて、その必要性を強調する。加えて、我々は、迅速で、公平で、持続可能なMCMの研究開発システムとデリバリーを強化する必要性を認識している。このようなエコシステムが、将来の健康危機へのより良い対応や、現在進行中の保健課題への対応、UHC達成の基本であるPHCの強化にも資するものであると考える。このビジョンを達成するために、G7でもWHO加盟国間でも臨床試験における連携を進め、さらに世界保健総会の決議の採択を通じて、臨床試験を強化し、より日常的に質の高いエビデンスを生み出すための取組が進んでいる。

5. コロナパンデミックから脱却しつつある国々の多くは、保健システムの脆弱化、医療従事者の疲弊、定期予防接種を含めた重要な医療サービスの中断といった課題によって、継続的な健康危機を経験している。コロナパンデミックから完全に回復し、現在の課題に対処し、次の危機に備えるためには、UHCに改めて取り組む必要がある。

6. 以上から、我々はG7保健大臣として、より健康な未来に向けた協働のために、GHA、UHC、ヘルス・イノベーションの3つの柱について、以下の行動をとることを約束する。


I.公衆衛生危機対応のためのグローバル・ヘルス・アーキテクチャーの構築・強

【GHAに関する序文】

7. 我々は、予防、連帯、公平性、包括性、多機関協力、国、地域、世界のアクター間の調整の重要性を再確認する。地域レベルの取組は各国の行動やニーズに基づいた行動のプロセスを促進するために重要であり、グローバルヘルスにおける主導的かつ調整的な役割を果たすために、持続的に資金を共有することを視野に入れ、各国と国際社会の間の重要な調整薬や橋渡し役、改革の進展の役割を担っています。共同研究、多機関研究ネットワーク、多機関協力、データの近代化の取組は全ての関係機関が情報、データ、サンプルを迅速に共有するために不可欠である。また、WHOCA+(いわゆるパンデミック条約)や国際保健規則の改正といった進行中の交渉の重要性を鑑みると、パンデミックPPRを強化し、公衆衛生危機時の安全で、有効で、質の確保された負担可能なMCMの迅速で公平なアクセスを促進するためには、国や地域間の協力が重要である。この観点から、パンデミックの備えに関するG7合意の目的も踏まえ、我々は、疾病の蔓延を効果的に最小化し、将来のパンデミックを予防し、人々の命を救い、経済的な損失を減らすために、保健医療人材の強化、早期発見と迅速な封じ込めのための国内、各国間及び地域間でのネットワークを支持・強化する。

8. 我々は、多国間協力を強化し、公衆衛生危機に対する世界のPPRを導くために、世界保健機関(WHO)がGHAにおいて中心的なリーダーシップと調整役を担うことを引き続き全面的に支持することを約束する。我々は、世界保健総会(WHA)およびWHOの技術会議への台湾の有意義な参加への支持を再確認する。グローバルな健康問題に取り組む上で、国際社会はすべてのパートナーの経験から利益を得ることができるはずである。我々はまた、第75回WHAにおいて、予算案とともに改革の進捗をしっかりと確認しながら、2022-2023年のWHOの基本予算の50%に相当する額まで分担金の割合を増やすよう努力するという画期的決定も歓迎する。我々は、より多くの国に焦点を当てることを反映したプログラム予算案2024-2025を支持する。

【ガバナンス】

9. GHAを強化するために、現在進行中の様々なイニシアティブの効果的な連携と収束を確保し、すべての関連機関がその権限の範囲内で十分に貢献できるようにし、すべてのステークホルダーが、重複を避け、一貫性を重視しながら、最も適した機能に従って参加できるようにすることが重要である。我々は、健康安全保障を含むグローバルヘルスを国際アジェンダの中核に維持し、将来の健康危機に対する「パニックとネグレクトの連鎖」を断ち切ることを約束する。この観点から、科学に基づく意思決定による正当性、優先順位選択、及び有効性とともに、すべての国や関係者にとっての公平性及び代表性を確保できるよう、2023年9月のパンデミックPPRに関する国連総会ハイレベル会合を見据えて、あらゆるレベルでより協調的、持続的で強力なガバナンスに向けて政治的関与を強化することを呼びかける。また、このようなガバナンスの検討は、国際保健規則、パンデミックの予防、備え、対応に関するWHOの条約、協定、その他の国際文書(WHOCA+)や、国連とWHOを含むその関連組織の任務など、現在進行中の議論と補完関係にあることが期待されることに留意する。

10. コロナパンデミックによる損失を取り戻し、UHCとPPR強化を達成するという全体目標のもと、特に2023年に予定されているUHC、パンデミックPPR、結核、そして2024年と2025年の薬剤耐性(AMR)と非感染性疾患(NCDs)に関する国連総会ハイレベル会合を鑑みて、関連する機関間の調整と相乗効果を確保することは不可欠である。我々は、GHAのさらなる発展と強化に向けた努力を最大化し、加速するために、G20、WHO、国連総会といったグローバルなフォーラムと密接に連携する決意を新たにする。

【財保連携枠組み】

11. 我々は、パンデミック対策における財務省・保健省間の協力強化へのコミットメントを再確認する。2019年の日本議長国下で創設されたG20財務・保健合同トラックに関して、我々は、G20財務・保健合同タスクフォース(G20JFHTF)が2021年のイタリア議長国下で開始され、複数年の計画期間、パンデミックによる経済的リスクと脆弱性についてのさらなる分析と緩和、及び、大規模なパンデミック対応への備えの強化をはじめとした取組を支持する。複数年計画を視野に入れて、財務、保健当局はその連携枠組みにおいて、パンデミックへ協調して対応するためのベストプラクティスや経験を適宜共有することで、GHAの改善に寄与することが期待されている。我々は、G20JFHTF会合に主要な地域組織の代表が適宜参加することを歓迎し、タスクフォースと国際通貨基金(IMF)、世界銀行、WHO及び他の関係国際機関との協力を継続することを支持する。

【ACT-Aの教訓】

12. また、安全で効果的なMCMへの公平かつ迅速なアクセスを促進するためのガバナンス、資金調達、法律・規制、生産、分配、供給、デリバリーの重要性を強調する。それは、ACTアクセラレータ(ACT-A)やその他の関連イニシアティブから学んだ教訓に基づき、公平で、包括的で、有効で、負担可能であり、質が担保されており、信頼性、敏捷性や迅速性に加えすべての関係者間の調整と協力の改善によって導かれ、重複を避ける必要がある。将来の健康危機を予防、備え、対応するために、我々はWHOによる協議プロセスや、G20などのその他の国際フォーラムにおける議論、連携と情報共有の改善に配慮する議論がなされることを認識している。

13. この点で、我々は、二国間、地域、多国間のパートナーシップと協力が、PPRのためのMCMの開発、製造、調達、デリバリーの原動力になり、地域機関、国際機関を通じた多国間協力を補完する。また、MCMの安全な開発、製造、調達、デリバリーのための能力構築のみならず、将来の健康危機に対する予防、検知、対応の能力開発、例えばギャップが大きい国の保健システムの強化を促進し、取組の一貫性が確保されれば、良い影響を与えるものであることを強調する。より効率的、効果的、包括的に健康課題に取り組むために、多国間組織やイニシアティブに加え、関連するプロセスとの協働の下、二国間、地域、多国間協力による貢献も適切かつ首尾よく活用することが必要である。

【パンデミック基金】

14. 我々は、国、地域及びグローバルなパンデミック対応能力を強化するための持続可能な資金調達が極めて重要であることを認識する。我々は、将来のパンデミックに対するより良い予防と備えのために、世界銀行にパンデミック基金が設立され、初回の案件募集が開始されたことを歓迎する。この提案は、サーベイランス、検査システム、ヒト、動物、環境部門にわたる緊急対応の人材を含めた人材強化を加速化させるリソースに焦点をあて、国際保健規則のコア・キャパシティや合同外部評価(JEE)などの国際保健規則のモニタリングと評価のフレームワークに沿う他の指標と合わせて検討されたことを歓迎する。我々は、本年後半に案件の採択及び資金が提供されることを期待するとともに、他の国々からの積極的な参画と貢献も得ながら、資金ギャップを解消するためのコミットメントを強調する。さらに我々は、パンデミック基金の運用が成功を収めるよう、G7を含むすべての国及び他のドナーに対して、財政的、政治的、技術的支援の強化を約束するよう求める。

【キャパシティ・ビルディング】

15. 我々は、2022年にコミットしたように2027年までの5年間、G7による低中所得国100カ国への健康安全保障目標を達成するために作業計画を共有し、優先国での進捗をフォローすることを含め、協働することを約束する。我々は、パンデミック基金及び世界健康安全保障アジェンダ(GHSA)の活用、共同融資の構築、他の政府・非政府ドナーの開拓を含め、健康安全保障及びパンデミックPPRのためのドナー基盤を拡大することにコミットする。

【サージファイナンス】

16. また、我々はパンデミック「対応(Response)」のための資金調達を強化する必要性を強調した。この目的のため、我々は既存の資金源、特に未活用の資金源をパンデミックへの「対応」に如何に活用しうるかを包括的に評価すること、そして、既存のマルチの仕組みを、調整改善を通じて補完し、未使用の資金を蓄積することなく、パンデミック発生時に必要な資金を迅速かつ効率的に供給できる、「サージ」ファイナンスの枠組みをG20財務・保健合同タスクフォースや国際的なパートナーとの緊密な協力の下、検討することにコミットする。この文脈で、我々は、G7財務大臣との合同セッションにおいて、「財務・保健の連携強化及びPPRファイナンスに関するG7共通理解」を承認したことを歓迎する。

【パンデミック条約及びIHR改正】

17. 我々は、国際的な規範・規則の強化は、パンデミックPPRにとって不可欠であり、ワンヘルス・アプローチに則った国、地域、世界レベルで、ヒト、動物、植物、環境、さらには社会や経済に対する健康危機への負の影響を最小限に抑えるために、重要な役割を果たすことを再確認する。我々は、2024年までにWHOCA+の交渉を終了させるべく、すべての関係者とともに、WHOCA+の草案作成と交渉のための政府間交渉における議論、また、国際保健規則の更新と強化を目的とした改正案に関する補完的な作業に貢献し、そのモメンタムを持続させるという確固たる決意を改めて表明する。WHOCA+及び国際保健規則に係る交渉は、補完性を確保しつつ、ギャップや重複を避けるために、密接に関連させる必要がある。どちらのプロセスにおいても、世界中の国々によってその能力及びパフォーマンスを評価するために用いられてきた、既存のレビューとモニタリングの仕組みや、実施に関する技術支援、そして最近改訂された国際保健規則モニタリングと評価のための枠組みツール(JEE、SPAR、NAPHS、行動内・事後報告、シミュレーション訓練等)を認識すべきである。

18. WHOCA+が効果を発揮するためには、パンデミックPPRの全サイクルを適切な形でカバーする必要がある。このような背景から、我々は、強固な公衆衛生対策を促進するために、人や動物から発見された病原体や遺伝子配列データを、生物学的安全性の担保された方法で、かつ、責任ある方法で迅速に共有することの重要性を強調する。この仕組みにおいて、予防は重要な柱でなくてはならず、我々は、パンデミックの脅威を早期に検知し、パンデミックPPRに対するワンヘルス・アプローチを定着させるために、多分野との協力と連携の強化を通じて、システムと能力の強化にコミットしている。パンデミックを防ぐためこの取組は、効果的かつ効率的な方法でAMR対策にも取り組むべきである。加えて、遺伝子配列データを含む公衆衛生に係る情報及びデータの迅速な共有を強化することは、リスクを伝え、エビデンスに基づくアプローチを発展させるために重要である。

19. 我々は特に、公衆衛生危機に適切に対応するための必須の保健サービスを維持し、公衆衛生危機に適切に対応できる人材育成を含む、強靱で統合された保健システムの構築によってもたらされる連携と協働を強化する。このことにより、世界全体、特に低中所得国は、国際保健規則コア・キャパシティを含めた国際保健規則の完全なる遂行と、健康に関連した持続可能な開発目標(SDGs)に向けて、更に前進することができる。我々はまた、各国の対応能力を強化し、知識の普及を可能にするイノベーションを奨励し、相互に合意した条件の下での自発的な技術移転を促進し、低中所得国や地域におけるMCMの研究開発、臨床試験、製造能力を改善することを支援する必要があることも認識している。さらに、我々は、特に健康危機の最中において、公共部門、民間部門、慈善団体、学術団体、コミュミティ、市民社会組織を含む多部門のステークホルダーの参加と協力が、MCMの研究開発、製造、公平なアクセス、迅速なデリバリー、地域の支持と信頼の獲得、公衆衛生危機時に対応し、必要な保健サービスを維持するために健康リテラシーの改善にとって不可欠であると認識する。

【サーベイランス】

20. 我々は、ヒト・動物・環境における統合的なサーベイランスとオープンデータ共有のための、適時で、透明性があり、効率的で、多機関連携の取組を、データ保護規則を守りつつ行うことで、データ及び情報が共有されることの必要性を再確認する。このワンヘルスの観点では、生物学的安全性の担保を前提に、全ての国による人や動物の病原体について、遺伝子配列データの迅速な検出と透明性のある共有が必要である。我々は、ワンヘルス・ハイレベル専門家パネルとQuadripartite(WHO、国連食糧農業機関(FAO)、国連環境計画(UNEP)、国際獣疫事務局(WOAH)で構成される)が提供した専門知識と勧告を考慮しつつ、病原体配列データの生成と共有のための相互運用可能なグローバルな能力の開発、WHOの国際病原性監視ネットワーク(IPSN)などのイニシアティブの推進が強く求められる。ワンヘルス・アプローチに基づくマルチソースのサーベイランスシステムが必要であり、このようなシステムは、リアルタイムな疫学・臨床情報、血清疫学データ、下水サーベイランスシステムによるデータ等を含み、ヒト、動物、環境の各部門にわたるデータと知見をもとにした比較やアセスメントを可能とする。また、我々は、世界的なサーベイランス、各国のパンデミック対策と対応能力、そしてより広範なGHAにおいて、世界各国におけるポリオ撲滅に関わるインフラや人材が付加価値のある貢献を認識しています。私たちは、この重要な資源を公衆衛生危機に十分に活用し、2026年までのポリオ撲滅に向け、世界ポリオ撲滅イニシアティブ(GPEI)への継続的な支援を呼びかける。

21. 我々は、特に公衆衛生機関とそのネットワークの強化のために、科学的根拠を適時かつ透明性のある方法で共有することの重要性を再確認する。また、円滑で効果的な情報収集・共有のためには、地域におけるハブが、国内、地域内もしくは公衆衛生機関のように、各地域において感染症がパンデミックに発展しないよう管理するために各国を支援するリソースとして、重要な役割を果たすと理解している。我々はまた、WHOのパンデミック及びエピデミックのインテリジェンスのためのハブを支持する。我々は、安全かつ確実な方法による迅速なデータ共有のプラットフォームとして、また、新興及び流行中の疾病を予防・管理するためのリソースとして、これらのハブの確固たるネットワークを通じて、各地域及び世界のハブを最大限に活用することにコミットする。

22. 我々は、WHOがSARS-CoV-2の起源を解明することが、このウイルスによって命を落とした何百万人もの人々、その家族、そしてこの病気と共に生き続ける人々にとって必要であることを繰り返し述べてきたことを強調し、COVID-19の世界的拡大の原因となった国を含むすべての国による科学的で、透明性を持ち責任ある対応を求めるWHOの立場を十分に支持する。

【保健医療人材】

23. 保健医療人材は、質が高く強靱な保健システムを支える中核である。我々は、UHCを達成し、事業の継続性と新たな脅威への対応力を確保し、プライマリーヘルスケアの提供に不可欠な保健医療人材の不足、疲弊、世界各国間での不公平な分布という課題に直面している。医療従事者の教育や訓練への投資不足は、慢性的な労働力不足につながる。私たちは、質の高いケアを提供するための革新的なアプローチを促進するために、医療従事者のデータを改善し、感染予防や個人の保護のための資源の適切な供給を含む労働条件の改善に取り組むべきである。我々は、将来の公衆衛生危機に対するPPRと、平時からの保健システム強化の双方に資するよう、国、地域、世界レベルで、十分かつ質の高い保健医療人材への投資を優先し、持続させることを呼びかける。この点で、我々はまた、「国際保健緊急部隊(Global Health Emergency Corps)」の検討も含め、あらゆる国や地域、世界において、国際的な健康脅威に対する健康危機時の専門家を強化する必要性を強調する。また、動物や環境衛生の専門家を含む有資格者の必要性を強調し、WHOアカデミーなどのイニシアティブを含め、専門家のグローバルなネットワークと研修のさらなる強化を支持する。

24. また、健康分野におけるジェンダー不平等に取り組むため、「ジェンダー平等に関する医療・介護人材イニシアティブ」を支持し、女性の安全でやりがいのある仕事、同じ価値の仕事に対して同じ報酬を得ること、平等で公平な雇用機会、労働者の健康支援、暴力や嫌がらせの廃止、医療・介護分野におけるリーダーシップや意思決定への平等な参加などの対策の実施促進を図る。

【グローバルヘルス戦略】

25. G7メンバーのグローバルヘルス戦略や関連する政策文書に基づく活動の調整は、UHC達成や健康に対する脅威の予防・対策に向けた各国の努力を支援するために不可欠である。この観点から、我々は、関係者の強みを生かして政策実施の効率と効果を高めるために、関係者間で情報共有、協力、調整をさらに推進する。


II.保健システムの強化を通じたより強靱、より公平、より持続可能なユニバーサ

ル・ヘルス・カバレッジ達成への貢献

【UHCに関する序文】

26. コロナによるパンデミックは、世界中の保健システムに深刻な影響を及ぼし、あらゆるレベルの保健システム強化を通じた、そのための礎となるPHCを含むUHCを達成することが極めて重要であることが明らかになった。また、保健システムや医療従事者がコロナパンデミックへの対応にシフトしたことにより、各国は他の必須の保健サービスの中断を余儀なくされ、数多くの保健課題への対応が後退することとなった。これらの保健課題としては、例えば、予防接種アジェンダ2030の支援を含む定期予防接種、HIV/AIDS、結核、マラリア、ポリオ、麻疹、コレラ、顧みられない熱帯病(NTDs)、肝炎、薬剤耐性(AMR)、メンタルヘルスを含む非感染性疾患(NCDs)、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)、母子・新生児・思春期の健康、健康的な高齢化、栄養、水・衛生(WASH)、気候変動や大気汚染といった環境による健康へのリスク等が挙げられる。また、コロナ後遺症(long-COVID)の状態や、個人的、社会的、経済的なレベルへの影響といった、ポスト・コロナに関連した医療への理解を深める必要性を認識している。患者への影響がまだ十分に理解されていないため、コロナ後遺症の研究や管理、メンタルヘルスを含む適切なケアの開発と提供の重要性を指摘する。そのために、我々は、平時の保健システムを強化する取組の一環として、2025年末までにパンデミック前のレベルよりも良い状態を達成することを目指して、PHCへの投資・支援、必須保健サービスの開発・回復によって、各国がUHCを達成できるよう、国際的なパートナーとともに支援することを約束する。我々は、他の国々にも同様のコミットメントを行うよう呼びかける。我々は、このことを、UHCの達成と維持、そして脆弱で疎外された状況にある人々を誰一人取り残さないことを目的とした、持続可能な開発目標(SDGs)のうち、特に健康とウェルビーイングに関する目標3の達成への進捗を加速させるための不可欠なステップであると考える。

27. 我々は、保健医療従事者への支援の強化を含め、PHCの充実のために、被援助国への投資・支援を行うことを約束する。また、我々は、UHCに関連するすべてのSDGsの目標及び指標と同様に、妊産婦、新生児、子どもの死亡率を減らすことを含め、生存率をパンデミック前のレベルよりも良い状態に戻すことにコミットする。我々は、医療費によって家族が貧困に陥ることを防ぐため、経済的リスクの保護の重要性を認識する。

【「G7UHCグローバルプラン」の概要】

28. UHC達成やPHC強化に向けて確実に前進するためには、各国の法的、資源的、文化的、経済的条件や関係者を考慮し、各国の事情に応じた実践と、各国の能力強化が重要である。そのため、WHOのガイダンスに沿って、各国において実現可能性、適応性、持続可能性、汎用性等の様々な指標により現状を把握しながら、各国の具体的なニーズや資源、科学的なデータ・知見に基づいてUHCの取組を推進し、市民社会や若者、弱者集団、医療従事者を含む関係者と協力していくことが求められる。我々は、UHC2030による「UHCアクションアジェンダ」を支持し、UHCを推進するためのこれらの重要な要素を示し、各国におけるより強靱、より公平、より持続可能なUHCの達成に貢献するためにG7にどのような行動が求められるかを記述した「G7UHCグローバルプラン」を附属文書として公表する。我々は、このアクションプランに基づき協働することを約束するとともに、UHCに関する財政、知見の管理、人材に係るグローバルなハブ機能の重要性を指摘する。

【国連総会ハイレベル会合へのコミットメント】

29. UHCを段階的に実現するために、強靱で十分に支援された医療従事者の確保とともに、強固で、包括的で、質の担保された、持続可能な保健システムに投資することは、重要な社会経済的効果を生み出す政治的選択である。UHCに関する国連総会ハイレベル会合はUHCへの投資がコストではなく、むしろ投資であることを認識し、各国のコミットメントを再活性化させる機会となる。したがって我々は、2023年のUHC、パンデミックPPR、結核、2024年のAMR、2025年のNCDsに関する国連総会ハイレベル会合の成果が有意義でインパクトのあるものとなるように、すべての加盟国や、特にUHC2030といった様々な国際機関を含む幅広い関係者との協力の下、相乗効果を生み出しながら協働する。我々は、パンデミックPPRに関するハイレベル会合の成果が、WHOCA+の交渉や、公平性を高めるMCMエコシステムの構築に弾みをつけるべきであることを強調する。また、我々は、結果を予断することなく、将来的に、関連するすべての健康課題を包括的に議論し、断片化と重複を避け、既存のプロセスの相乗効果を確保する観点から、健康に関するハイレベル会合を検討するというアイデアに留意する。また、我々のコミットメントと協力は、「G7UHCグローバルプラン」にも基づいている。

【国内資金の動員と民間投資】

30. 我々は、ポスト・コロナ時代に向けて、保健システムの強化やPHCの推進を含むUHCの達成を視野に、世界におけるより良い健康への貢献を行う決意を表明する。この観点から、我々はまた、UHCと健康安全保障を達成し、維持するために必要な、既存の資源のより効果的な活用、革新的な資金調達、追加国からの更なる資金拠出、国内資金動員を求める。加えて、開発銀行等と民間セクターが、持続可能な資金調達への貢献を通じて、グローバルヘルスにおいて果たし得る役割についても強調する。我々は、開発銀行等や保健分野の投資家を含むステークホルダーによる、積極的で測定可能な社会的インパクトの創出に貢献することを目指すインパクト投資を、グローバルヘルスの分野に拡大するといった革新的アプローチを推進することにコミットする。

【グローバルヘルスのための既存の官民パートナーシップの改革・合理化】

31. 我々は、グローバルヘルスに対する既存の官民パートナーシップによる重要な貢献を強調する一方で、UHCの達成とパンデミックPPRの進展という全体目標に向けて、世界各地における持続可能で公平かつ強靱な保健システムの構築に貢献できるよう、その効率性と可能性を最大限に高めるために、国別の計画に基づいて、これらの取組及びイニシアティブの連携、相乗効果、一貫性、整合性を強化する必要性を認識している。我々は、WHO、世界銀行、Gavi、Unitaid、グローバルファンド、グローバル・ファイナンシング・ファシリティ、パンデミック基金といった関連するステークホルダーとともに、断片化や重複を避けながら、より効率的、より効果的、より強靱なグローバルヘルスのパートナーシップに貢献する決意を表明する。この観点で、我々は、Future of Global Health Initiatives による取組を歓迎する。我々は、グローバルファンドの第七次増資の歴史的な結果 に留意し、HIV/AIDS、結核、マラリアの蔓延を終わらせるための G7及びさらなる国々からの資金援助を歓迎する。我々は、UHC2030、Global Action Plan for Healthy Lives and Well-being for All (SDG3 GAP)といった既存のイニシアティブに対する政治的、技術的、財政的支援を強化することにコミットする。我々はまた、UHC2030による、保健システムに関する情報のデータセットの提供と可視化を行うUHCデータポータルの活動についても歓迎する。

【栄養】

32. 我々は、SDGsにおける目標2の栄養ターゲットと、国連による「栄養のための行動の10年(2016-2025年)」に沿って、UHCの達成は栄養不良に終止符を打つために不可欠な要素であるため、UHCの中で栄養サービスを主流化する必要性を認識している。我々は、栄養が健康の社会的決定要因のひとつであり、栄養不良が子どもの死因の約半数を占める根本的な要因であることを認識する。栄養不良により、特に5歳未満の子どもや青少年は感染症や疾患に罹りやすくなり、その潜在能力を十分に発揮できなくなる。さらにその負担は、女児、女性、妊産婦に不公平に大きくのしかかることとなることから、ジェンダー平等への対処は、栄養不良を減らすための基礎的なステップとなる。また、我々は、栄養不良に対処するためのひとつの手段として、WASHの推進の重要性も強調する。我々は、東京栄養サミット2021における成果を歓迎し、フランスでの栄養サミットにも野心的に貢献することを約束する。我々はまた、国連、多国間機関、グローバルヘルス・イニシアティブ、国際金融機関が、栄養不良の予防と治療、健康的な食生活を促進し、適切な食料を得られるよう食糧システムをより持続可能にする上で果たす重要な役割を認識し、共同の栄養成果をもたらすためにこれまで以上に緊密に協力し、栄養への配慮をより広いプログラムに統合し、OECD-DAC栄養政策マーカーを使用するなどして栄養への影響をモニターすることを求める。

【メンタルヘルス】

33. コロナパンデミックだけでなく、その他の多くの自然的、人的、社会的、経済的危機が示すように、国民のメンタルヘルスニーズを支援することは、政府が直面する主要なグローバルヘルス課題のひとつである。コロナパンデミックは、精神保健サービスと心理社会的支援に対する需要の増加をもたらし、特に最前線で働く医療従事者を含む、十分なサービスを受けられない人々において、精神保健サービスに対する既存の障壁を悪化させ、若年層が精神的な負担のリスクを負っていることを認識する。予防と治療を通じて質の担保された精神保健サービスへのアクセスを改善し、PHCサービスに適切かつ効果的に統合する必要性を改めて強調する。我々は、情報システムや指標の強化を伴う横断的な政策の実施と評価、地域ベースの子どもへのケアを含めた精神保健サービスと心理社会的支援の推進、急性期の精神疾患の増悪への介入や、精神障害を有する患者を支援する専門職の強化を含め、国民のメンタルヘルスのための取組において模範を示し、UHC達成のための優先事項のひとつとして漸進的に取り組んでいくべきである。

【高齢化】

34. G7メンバーのみならず多くの国々が高齢化に直面していることから、我々は、健康的な高齢化が喫緊の健康課題のひとつであり、UHC達成のための重要な要素であることを改めて認識する。高齢化の課題に対処するためには、「包摂性」と

「リスク低減」の両方が必要であり、高齢者が本人中心の連携したケアを受けられるよう、医療、メンタルヘルス、介護、認知症に優しいコミュニティ、健康増進、疾病予防といった支援をコミュニティにおいて包括的に提供する「地域包括ケア」の確立が必要である。我々は、健康的な高齢化を実現するために、これらの要素を備えた保健システムの構築に引き続き貢献していくとともに、すべての人の健康寿命を延伸するために何が有効かを特定し、長期疾患や障害の予防、診断、治療など、高齢化に直面し始めた、または、これからその課題に向き合うこととなる国々へ我々の知見を共有していく。

【母子保健と包括的なSRHR(性と生殖に関する健康と権利)】

35. 我々は、母子保健を含むライフコースの各段階における包括的な性と生殖に関する保健サービスへの普遍的なアクセスを、特に脆弱で、疎外された人々を含め、すべての人のために確保することにコミットする。これは、権利に基づく家族計画とエビデンスに基づいた避妊法、妊産婦・新生児・子どもの健康(MNCH)、月経に関する健康と衛生、HIVと性感染症の予防、多様な観点から包括して行う性教育、メンタルヘルス、安全で合法的な中絶と中絶後のケアへのアクセス、性機能障害に関する予防・発見・治療に係るケアと情報、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を含むがんの予防と管理に関する取組、SRHRのアドボカシー、性・ジェンダーにもとづくスティグマ・差別・暴力に関する有害行為の防止と撲滅といった、すべての人のための包括的なSRHRを推進する幅広いアプローチを包含するものである。我々は、SRHRを守り推進するための幅広い取組の一環として、PHCレベルのUHCに、包括的な性と生殖に関する健康のサービスが含まれるよう提唱していく。

36. 我々は、誰一人取り残さないために、予防可能な妊産婦・新生児・子どもの死亡をなくすための母子保健に関するムスコカ・イニシアティブを支持し、公平で質の担保された保健サービスが提供できるよう、関連基金への拠出や多国間・二国間協力を通じて支援する。コロナ、紛争、気候変動といった新たな課題を踏まえ、我々は、すべての人のためのUHCを達成するための努力において、予防可能な妊産婦、新生児及び子どもの死亡率、SRHR、関連する保健及びジェンダーの指標に関するターゲットを含むSDGsの目標2,35及び6の達成を加速することを改めて約束する。

【気候変動、生物多様性の損失、汚染による健康への影響】

37. 我々は、環境保全と気候変動の緩和と適応が、ヒトと動物の健康とウェルビーイングを改善し、保健システムの持続可能性と回復力を高めることを認識する。気候変動、生物多様性の損失、環境汚染という3つのプラネタリー・クライシスは、ヒトの健康だけでなく、動物や植物及び環境の健康にも大きな影響を与える地球規模の課題である。これには、大気汚染、有害化学物質、猛暑、大災害に関連する疾患や死亡、気候に影響されやすい感染症などが含まれる。また、我々は、3つのプラネタリー・クライシスやその他の環境影響によって最も影響を受ける集団は、農村や遠隔地の人々、人種的・民主的・宗教的・言語的マイノリティ、難民、移民、避難民、高齢者、女性、女児、先住民族など、医療サービスへのアクセスから疎外され、排除されてきた人々であることを認識する。従って我々は、それらの影響をより良く特定し、対処し、適応するために、また、SDGsとすべての人のためのUHC達成を支援し加速するために、ワンヘルス・アプローチの包括的な実施に貢献し、保健システムの取組を進めることを約束し、また、緊急的な戦略や行動、研究を求める。我々は、他の国や地域、WHO、国連食糧農業機関

(FAO)、国連環境計画(UNEP)、国際獣疫事務局(WOAH)で構成されるQuadripartiteと協力し、化学物質や廃棄物の地球規模の健全な管理食糧システム、WASHといった様々な分野とのより広いつながりを認識し、この課題に取り組んでいく。


III.様々な健康課題に対応するためのヘルス・イノベーションの促進

【ヘルス・イノベーションに関する序文】

38. パンデミックPPRの能力を開発し、公衆衛生危機に対応するためのGHAを強化し、外的な影響にも耐え得るUHCを達成するためには、デジタルヘルスを含む革新的な取組が必要である。現在及び将来の健康課題を解決するために、企業、アカデミア、市民社会、財務セクターを含む政府といったすべてのステークホルダーが官民連携パートナーシップ等を通じて貢献する必要がある。安全で有効かつ入手可能な価格のMCMの研究開発に係る国際協力、デジタル技術の活用による公平なアクセスと効率的な流通の仕組み、効果的なエビデンスに基づく政策立案(EBPM)といったヘルス・イノベーションをどのように推進できるか、その可能性を探る。

【end-to-endのMCMエコシステム】

39. 我々は、関連する国内、地域、国際的組織と機関への支援によって、公平なアクセス&デリバリーを効果的に調整、収斂するための、関連イニシアティブ及びパートナーとの協力によるend-to-endのMCMエコシステムの原則を支持する。我々は、緊急時、特に低中所得国において、よりタイムリーで公平なMCMへのアクセス&デリバリーを支援するための具体的な取組の一つとして、公平性、包摂性、効率性、負担可能性、質、説明責任、機動性、迅速性を優先した公平なアクセスのためのMCMデリバリーのパートナーシップの構築を支援する。同時に、このデリバリーのためのMCMパートナーシップは、WHOCA+で進行中の議論と整合させるべきであり、特に世界貿易機関(WTO)や世界知的所有権機関(WIPO)といった既存の組織やイニシアティブの能力と権限を尊重しながら、相乗効果や補完性を促進すべきであることを念頭に置く必要がある。

40. 我々は、強固な倫理的・規制的ガバナンスを通じて、新製品の安全性、有効性、品質を確保しつつ、「100日ミッション」や「G7治療薬とワクチンの臨床試験憲章」で示されたように、研究開発の加速化と目標達成のために、グローバルな協力を通じて、イノベーションを促進し、研究開発を強化する緊急的なニーズを再確認する。我々は、病原体分離株、臨床サンプル、遺伝子配列データのグローバルでタイムリーかつオープンな共有が重要であることを認識する。さらに、公衆衛生危機に対応するために、薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)、国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)、医薬品規制調和国際会議(ICH)のガイドラインや提言といった既存の国際的枠組みを活用し、国際的調和と標準の取り込みを支持します。

41. さらに、将来のパンデミックに備えて研究開発を進める一方で、すべての人のMCMへの公平なアクセスを支援する基盤として、より強靭で持続可能な保健システムを構築するという課題を認識しており、世界中、特に低中所得国の人々のMCMへの公平なアクセスを促進するために、関係者を効果的に調整したMCMエコシステムが重要である。したがって、我々は、ACT-Aの経験から学んだ教訓をもとに、関連する政府、多国間パートナー、WHO、世界銀行、ユニセフ、グローバルファンド、Gavi、GHIT Fund、CEPI、FIND、Unitaid、Medicines Patent Pool(MPP)といった製品開発のパートナーシップ、規制当局やBARDA、HERA、AMEDといったヘルス・イノベーションに関連する機関、二国間・多国間の開発銀行やイニシアティブ、市民社会、民間パートナーとの連携を含めて、持続的にかつ迅速に、公平性、透明性、有効性があり、入手可能な価格でのアクセスを実現する環境醸成を行い、イノベーションと包摂的なパートナーシップの触媒とする。このような協力関係において、我々は、各ステークホルダーが、G20のような国際的な場において、それぞれの専門性を生かし、それぞれの権限の範囲内で行動し、二国間及び多国間の努力を最大限に生かし、低中所得国との技術協力と能力開発に焦点を当てた、公平で持続可能な国主導及び地域のパートナーシップを支援することを奨励する。G7は、公平性を担保するための重要な手段として、ワクチンやその他の医療製品のボランタリーライセンスのプロセスの強化について、MPPが関連するステークホルダーと協働することを歓迎したい。我々は、公衆衛生及びコミュニティのニーズに応じて、地理的に多様で持続可能な製造とデリバリーを促進することの重要性を強調し、全てのステークホルダーの参加を奨励する。

42. 加えて、ワクチンへの忌避感は、ワクチン接種率を上げるための大きな課題であり、医療従事者、市民社会組織、コミュニティも参画した上で、ヘルスリテラシーの向上や社会的・行動的変化の促進により、ワクチンに対する信頼を高めるよう全般的に取り組んでいく必要がある。WHOやそのガイドラインとうまく連携しながら、ワクチンに関するインフォデミックや誤情報に対抗することも、我々にとって優先すべき事項である。

【AMRを含む感染症】

43. AMRの出現と影響を抑えるためには、既存の基準の遵守や抗菌薬の慎重かつ適正な使用とともに、感染症予防、検査施設による検出、治療、管理といったイノベーションが不可欠である。加えて、これらのイノベーションは、効率及び効果やアクセスの面での課題解決を通じた保健システム支援により、UHCを強化し、パンデミックPPRを向上させることにもつながっている。これらの課題は、ワンヘルス・アプローチでの国際協力を通じて対処することが重要である。我々は、AMRをはじめとして、コロナ、HIV/AIDS、結核、マラリア、NTDsといった感染症に対処するために、抗菌薬の適正な使用、感染予防と管理、衛生環境の改善や保健指導といった非薬物的介入を含む、革新的な技術の開発及び実践に対する投資を支持する。特に、我々は、多剤耐性結核菌(MDR-TB)及び超多剤耐性結核菌

(XDR-TB)が国際的な健康と経済面への負のインパクトを与えることを認識し、特に脆弱なハイリスク集団における疾患に対する認識を高め、地域社会の関与を拡大し、早期診断のための新しいスクリーニング検査の開発を加速し、新しい治療を開発する重要性に留意している。

44. 加えて、AMRは、サイレント・パンデミックとも呼ばれ、ヒトの健康や医療システムに悪影響を及ぼし、有効な抗菌薬治療の喪失により、世界の公衆衛生、食品安全及び経済システムにも大きな影響を与えている。我々は、公平なアクセスと抗菌薬の適切な使用を推進する既存の、及び、新規の抗菌薬の持続可能な市場の重要性を再確認し、公衆衛生のニーズを満たすために、そのような市場を確保するための十分なインセンティブが必要である。このため、我々は、CARB-X、GARDP、SECURE等の既存の国際的な共同研究への貢献を含め、抗菌薬の研究開発への投資を促進するプッシュ型に加えプル型インセンティブを合理的かつ実現可能なスケジュールで早期に検討し、実施することに引き続きコミットする。加えて、抗菌薬のパイプラインに資する取組を促すとともに、ワンヘルス・アプローチに沿った、ヒトと動物の抗菌薬の慎重かつ適切な使用と安全な廃棄を保証する抗菌薬のスチュワードシップを通じて、既存の抗菌薬の有効性を保護する取組を推進する。AMR対策においては、多くの医療現場や地域社会で十分でない感染予防と管理を通じて抗菌薬の必要性を減らし、質が担保された抗菌薬の適正な使用は重要。我々は病院における抗菌薬の適正使用を支援するためのWHOの新しいAWaRe(Access、Watch、Reserve)抗菌薬ブックを歓迎する。また、新規抗菌薬や個人用保護具、衛生用品等の感染予防ツールの安定供給に関する各国のコミットメントを強化すること、地域や国レベルの関連情報・サーベイランスデータの共有を推進することを約束する。また、AMRに関するアジア太平洋ワンヘルス・イニシアチブ(ASPIRE)や大西洋横断抗菌薬耐性タスクフォース(TATFAR)のようなセクターを超えた連携を強化し、グローバル薬剤耐性サーベイランスシステム(GLASS)やグローバルAMR研究開発ハブ等の国際イニシアティブへの支援を通じて国際協力に貢献し、AMRに継続して取り組むことを約束する。また、臨床医や医療機関によって、抗菌薬スチュワードシップやデータに基づいた介入を行うことにより、抗菌薬の適切な使用の促進にも留意する一方、医療施設における安定供給のためにも、既存の抗菌薬のアクセス不足の問題に取り組んでいく。

45. AMRの研究開発におけるインセンティブ付けのための進展に関するG7の取組をモニターし、調整し、強化するため、我々は、抗菌薬開発を支援するための行動に関する2021年12月のG7財務大臣声明に基づくコミットメントを再確認し、研究開発のためのプル型インセンティブに関する国際協力の可能性を探ることを含む、AMRに関するG7保健・財務・農業・環境トラックの進行中の作業を支持する。我々は、WHO及びグローバルAMR研究開発ハブによるAMR進捗報告書を歓迎する。また、抗菌薬イノベーションの強化に関するこれまでのG7財務大臣・保健大臣合同会合でのコミットメント基に、その実施を継続する。

【認知症】

46. 高齢化、特に認知症への対策においても、ヘルス・イノベーションの推進が重要である。我々は、認知症の予防、リスク軽減、早期発見、診断、治療を含めたトータルパッケージで健康アウトカムを改善するための研究開発を促進するとともに、健康な高齢化を促進するためのエビデンスを提供する努力をすべきである。我々は、WHOによるGlobalActionPlanonDementiaに沿って、認知症に関する統合的アプローチを採用し、戦略や行動計画を策定・実施することを加盟国に奨励する。我々は、医療・介護連携、官民を含めたマルチステークホルダーによる協議、認知症を抱える本人及びサポーターの参加といった取組を通して、高齢者や認知症に優しいコミュニティづくりを推進するとともに、好事例やエビデンスを蓄積・共有し、より効果的な施策の追求に努める。我々は、最新の科学的根拠を踏まえて、認知症の危険因子と社会的・環境的決定因子に取り組むとともに、さらなるエビデンス構築に貢献する。また、我々は、治療プロトコルの開発と、PHCの強化による医療従事者及びプライマリケア従事者の能力開発を通じて、認知症の早期発見、診断、治療を強化するよう努める。特に、研究開発の分野においては、アルツハイマー病を含む様々な種類の認知症に対して、疾患修飾の可能性がある治療薬の開発の進展を歓迎する。加えて、我々は、バイオマーカー等の早期診断に関連する開発にも注目すべきであると考える。我々は、製造者が、有効な新しい治療法をできるだけ早く世界市場に持ち込むよう努めることを奨励する。

【デジタル技術】

47. データと費用対効果の高いデジタル技術の活用は、保健医療サービスにおける重要なイノベーションのひとつである。我々は、各国の保健システムや個人情報に関する法律に従い、各国のデータ保護の制度を遵守した上で、医療、介護、健康診断、予防接種、薬剤といった人々の健康やケアに関するデータを適切に活用するための取組を行っている。これらのデータを最大限に活用することは、個人の健康管理を促進しひとりひとりに対するパーソン・センタード・ケアを促進するだけでなく、大規模な研究やEBPMを支えることにもつながり、医療従事者がより良いケアを提供し、国がすべての人により効果的な医療・ケアシステムを提供し、イノベーションを支援する環境を作ることにも資するものである。電子カルテの採用や、相互運用可能なデータ標準の使用により、電子医療情報へのアクセス、情報交換、利用を促進することが可能となる。デジタル技術の活用は、より効率的で、包括的、強靭、公平かつ持続可能なUHCの達成及び推進と、将来の公衆衛生危機のためのPPRの強化を革新的に支えるための不可欠な手段である。

48. 我々は、将来のパンデミックに対するPPRを強化し、グローバルヘルスを促進する取組の一環として、信頼できるグローバルなデジタルヘルス・ネットワークの構築と、相互運用性を促進するデータの近代化の取組に関して、国際対話と協力

が重要であると認識している。我々は、保健システムにおけるデジタル技術をさらに推進し、より良いケアと政策の先進事例を世界に示すことにコミットする。さらに、民主的価値観と人権尊重の基盤を通じて、デジタルヘルスの開発を促進し、その仕組みを構築する必要性を十分に認識する。この意味で、我々は、健康に関するデータへのアクセスに基づくデータ・ガバナンスに関する共通のビジョンと、国、地域、世界レベルでの行動計画の策定を目指す。

【ワンヘルス】

49. コロナパンデミックは、世界各国及び地域において、ヒト、動物の健康、環境の各セクター間の多部門かつ学際的な連携を改善する必要性を明らかにした。このような背景から、我々は、気候変動、汚染や環境悪化、生物多様性の損失に起因する将来の健康危機のリスクを軽減し、人獣共通感染症の波及や流出、パンデミック病原体や新規株の予防と早期検出を促進する必要性を強調する。例えば、データ、サンプル、情報の収集と共有、学際的な健康課題に対する分野横断的な研究開発、ヒト‐動物‐環境との接点における健康脅威への予防と対応のための協働、といった取組が挙げられる。この点に関して、我々は、昆明・モントリオール生物多様性枠組に関連する目標を実施する重要性を認識する。特にAMRの課題に取り組む上で、ワンヘルスに係る戦略を実践するためには、ヒト、動物、植物、食品安全、水、環境、農業といった複数のセクターが、社会全体及び政府全体のアプローチによって、国、地域、世界全体における取組と連携を強化し、状況に応じた協力体制を構築することが重要であると認識する。我々はこのため、2023年の後半に、すべての関係する省庁の参加を得て、ワンヘルスをテーマとしたハイレベル専門家会合を開催し、必要な方策及び協働について議論を行う予定である。また、我々は、Quadripartiteが国際レベルで不可欠な役割を果たしていること、また、これらの組織が策定した Joint Action Plan on One Health の重要性を認識し、加盟国との協議の下、そのリーダーシップを支持する。また、我々 は 、 PREZODE ( Preventing Zoonotic Disease Emergence ) や ZODIAC(the ZOonotic Disease Integrated ACtion)といった人獣共通感染症の出現を予防することを目的とした補完的かつ関連性のある国際的なイニシアティブならびにワンヘルス・ハイレベル専門家パネルとその作業およびワンヘルス・アプローチの定義も歓迎する。