データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ウクライナに関するG7首脳声明

[場所] 
[年月日] 2023年5月19日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1.前文

 本日、広島における我々の会合で、我々G7首脳は、ロシアのウクライナに対する違法で、不当で、いわれのない侵略戦争に対して一つに結束するという我々のコミットメントを再確認した。我々は、ロシアによる明白な国連憲章違反及びロシアの戦争が世界へ与える影響を最も強い言葉で非難する。15か月に及ぶロシアの侵略は、何千もの命を奪い、ウクライナの人々に甚大な苦難を与え、世界の最も脆弱な人々の多くのための食料とエネルギーへのアクセスを危険にさらした。我々は、ウクライナの人々の損失と苦難に、心から同情と哀悼の意を表明する。我々は、ウクライナの人々の勇敢な抵抗に敬意を表する。我々のウクライナへの支援は揺らがない。我々は、ロシアの違法行為が世界に与える影響を軽減するという我々のコミットメントに、疲弊を覚えることはない。

 本日、我々は、主権国家であるウクライナに対するロシアの違法な侵略を確実に失敗させ、国際法の尊重に根ざした公正な平和を追求するウクライナ国民を支援するため、新たな措置を講じている。我々は、必要とされる限り、ウクライナが求める、財政的、人道的、軍事的及び外交的支援を提供するという我々のコミットメントを新たにしている。我々は、ロシア及びロシアによる戦争遂行を支援する者に対するコストを増加させるための更なる制裁及び措置を課している。そして我々は、人道支援を含め、世界中のパートナーが、ロシアによる戦争によって引き起こされた苦難に対応する中で、彼らを支援するための措置を講じている。我々はまた、ロシアが我々や世界に対してエネルギーの入手可能性を武器にすることがもはやできないようにする取組において、成功を重ねている。2022年2月以降、我々は、制裁、輸入禁止及びその他の措置を実施し、ロシアのエネルギー資源への我々の依存度を低下させてきた。加えて、我々は、エルマウにおいて、ロシアの石油及び石油製品の上限価格措置の導入に合意した。この措置は機能している。ロシアの収入は減少している。世界の石油及びガス価格は顕著に下落し、世界各国に恩恵が及んでいる。

2.ウクライナの包括的、公正かつ永続的な平和に向けて

 我々は、ロシアに対し、進行中の侵略を止め、国際的に認められたウクライナの領域全体から即時、完全かつ無条件に部隊及び軍事装備を撤退させるよう強く求める。ロシアがこの戦争を始め、この戦争を終わらせることができる。ロシアによるウクライナ侵略は、国際法、特に国連憲章の違反を構成する。我々は、力によってウクライナの領域を獲得しようとするロシアの違法な試みに対する我々の断固とした拒絶を改めて表明する。我々は、ロシアの部隊及び軍事装備の完全かつ無条件の撤退なくして公正な平和は実現されないことを強調する。これは和平を求めるあらゆる呼びかけに含まれなければならない。

 ロシアの無責任な核のレトリック、軍備管理体制の毀損及びベラルーシに核兵器を配備するという表明された意図は危険であり、受け入れられない。我々は、ロシアを含む全てのG20首脳によるバリにおける声明を想起する。この関連で、我々は、ロシアのウクライナ侵略の文脈における、ロシアによる核兵器の使用の威嚇、ましてやロシアによる核兵器のいかなる使用も許されないとの我々の立場を改めて表明する。

 我々は、本年2月に、国際社会の広範な支持の下に採択された国連総会決議である「ウクライナにおける包括的、公正かつ永続的な平和の基礎となる国連憲章の諸原則」決議(A/RES/ES-11/6)を改めて想起し、ウクライナの包括的、公正かつ永続的な平和を実現する ための具体的な取組を引き続き追求していく。我々は、引き続き外交にコミットしており、また、国連憲章に沿った基本原則を平和フォーミュラにおいて掲げるというヴォロディミ ル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領の真摯な努力を歓迎し、支持する。実行可能な戦後和 平のため、我々は、関心のある国及び機関並びにウクライナと共に、ウクライナが自らを守 り、自由で民主的な未来を確保し、将来のロシアの侵略を抑止することを支援するための持 続的な安全保障や他のコミットメントに関する取決めに引き続き達する用意がある。我々は、ウクライナが自らの国民のために前向きな未来を構築することを支援することを決意する。我々は、ウクライナが欧州政治共同体において重要な役割を果たしていることを歓迎する。

3.原子力安全及び核セキュリティ

 我々は、ロシアによるザポリッジャ原子力発電所(ZNPP)の著しく無責任な占拠及び 軍事化に対し、最も重大な懸念を表明する。我々は、国際原子力機関(IAEA)の専門家 の継続的な駐在及び現場における原子力安全と核セキュリティの確保に焦点を当てること を含む、ウクライナにおける核物質と原子力施設の原子力安全及び核セキュリティを強化し、並びに保障措置の適用を強化するためのIAEAの取組を支持する。我々は、IAEA事務 局長による「原子力安全及び核セキュリティに不可欠な7つの柱」への支持を再確認し、い かなる状況においても原子力施設の安全と核セキュリティを確保し、及び促進することの重 要性を強調する。この文脈で、我々は、この目的のためのウクライナにおけるIAEAの取 組に対するG7の貢献を強調し、他国にも支援の提供を求める。

4.ロシアの侵略戦争を止めるための支援

 我々は、ロシアの侵略から自らを守るウクライナに対し、そのニーズに応じながら、安全保障上の支援を続けることにコミットする。

 我々は、各国の事情に沿って各国から提供される軍事及び防衛支援を調整する上での、ウクライナ防衛コンタクトグループの重要性を強調する。

5.ウクライナの復旧・復興に向けた支援

 我々は、ウクライナが必要とする経済支援を確保することへの我々の強いコミットメント を再確認する。日本のG7議長国としてのリーダーシップの下、国際社会と共に、我々はウ クライナが2023年及び2024年初頭に必要な財政支援を得ることを確保してきた。 我々は、国際通貨基金(IMF)の拡大信用供与措置(EFF)が承認されたことを歓迎し、 このプログラムが支援するウクライナの改革の速やかな実施を期待する。このプログラムは、ウクライナのマクロ経済及び財政状況の安定化を支援し、より長期的な経済の持続可能性に 貢献し、他の国・機関や民間部門からの更なる資金支援の促進を支援するものである。我々は、「ウクライナ復興ドナー調整プラットフォーム」における議論の進展を歓迎し、ウクライナ、パートナー国及び関連する国際機関と更に協調するという我々の意図を再確認する。我々は、ウクライナの復旧ニーズに対処することにコミットする。我々は、ウクライナの重要インフラの修復、復旧及び復興を支援するための共同の取組を継続する。我々は、我々の改革への援助と支援が十分に調整され、適切に順序付けられ、相互に強化し合うことを確実にするための主要なメカニズムとして、このプラットフォームを使用することを決意する。このプラットフォームは、ウクライナのニーズに合致するドナーによる支援を調整し、欧州への道に沿った形で、ウクライナの改革アジェンダを推進し、民間部門主導の持続可能な成長の促進を助ける上で中心的な役割を果たすであろう。我々はまた、ウクライナのエネルギー分野支援に関するG7+外相会合の取組を歓迎し、ウクライナのエネルギー・インフラの復旧及び改善に対する我々の継続的な支援を改めて表明する。我々は、人道的地雷処理、戦争に関連するがれきや汚染管理に関する経験、知見及び専門知識の共有を含め、ウクライナの持続可能で強靭な復旧及びグリーンな復興を支援する用意がある。

 我々は、貿易・投資を通じたものを含め、保険やリスク管理のためのその他のツールによって促進され得る、ウクライナの復旧及び復興における民間部門の役割の重要性を認識している。この観点から、我々は、世界銀行グループ、欧州復興開発銀行(EBRD)、欧州投資銀行(EIB)及び我々の開発金融機関(DFI)によるマンデートに従った取組を歓迎する。これらの取組は、多数国間投資保証機関(MIGA)におけるウクライナ復興・経済支援信託基金(SURE)の設立や、DFI及びEBRD間の更なる協調や共同融資の効率化を通じて、より広くウクライナや影響を受けている国への支援を行うための、5月12日の東京でのウクライナ投資プラットフォーム立ち上げを含む。我々は、本年6月にロンドンで開催されるウクライナ復興会議が、ウクライナの復旧及び復興の機運を高めることを期待する。

6.汚職対策及び司法制度改革

 我々は、汚職との闘いに関するウクライナ政府と国民の継続した決意及び取組を歓迎し、良いガバナンスを支援し投資家の信頼を向上させる効果的な改革アジェンダの継続的な履行を促す。

 我々は、特に司法部門及び法の支配の促進において、必要な制度構築とウクライナの欧州への道に沿った実質的な法改革を進めるウクライナの取組を支持する。

7.制裁及びその他の措置

 我々は、ロシアが違法な侵略を遂行する能力を更に損なうために、協調した制裁及びその他の経済的行動を講じることにおいて引き続き結束している。具体的には、我々は、それぞれの法的権限及び手続並びに国際法と整合的な形で、次の措置を講じている:

i) 我々は、我々の経済へのロシアのアクセスを更に制限する。ロシアの軍事産業基盤の鍵となる部門を支える投入物にロシアがアクセスすることを阻止するために講じられた従前の措置を基礎として、我々は、産業機械、工具及びロシアがその軍事機構を再建するために利用しているその他の技術の輸出など、ロシアにより戦場で使用されているものを含めた、ロシアの侵略に重要な全ての品目の輸出が、全ての我々の管轄下において制限されることを確保するために我々の行動を拡大する。我々は、製造、建設、輸送といったこれらの主要分野で活動する者及びビジネスサービス分野を更なる対象とする。我々は、ロシアから、ロシアの軍事機構を支えるG7の技術、産業設備及びサービスを枯渇させる。我々は、農産物、医療品、人道用製品を我々の制限的措置から引き続き守り、第三国への潜在的な波及効果を避けるためあらゆる努力を継続する。

ii) 我々は、前線に物資を輸送する団体を対象とすることを含め、ロシアに対する我々の措置の回避や迂回を更に阻止する。我々は、我々の制限的措置の有効性を高めるために、

「ロシアの支配層(エリート)、代理勢力、オリガルヒ」(REPO)タスクフォース及び実施調整メカニズムを通じて取組を続ける。我々は、G7の措置に対する第三国の理解を強化するため、制限されたG7の物品、サービス又は技術がそこを通じてロシアに提供され得る第三国に関与している。我々は、我々の措置が迂回されず、意図した効果をもたらすことを確保するために、これらの国々が行ったコミットメントに留意し、奨励する。

iii) 我々は、第三者に対してロシアの侵略への物的支援を直ちに停止するよう求め、そ うしなければ深刻なコストに直面することとなることを、改めて表明する。我々は、ロ シアに対して武器を供給している第三者を阻止し、これに対応するための連携を強化し、ロシアの戦争を物的に支援する第三国の主体に対し、引き続き行動を取る。

iv) 我々はまた、ロシアがウクライナでの戦争を進めるために、国際金融システムを利用することを更に制限するために取り組む。我々は、ロシアの戦争の資金調達を故意に支援する者に対して更なる措置を講じる用意がある。我々は、ロシアの銀行の第三国支店が制裁を回避するために使用されるのを阻止することを含め、ロシアが我々の金融措置を迂回するための手段を更に減じるための措置を講じている。我々は、不可欠な取引のための金融チャネルを残すべく調整しつつ、ロシアの金融部門に対する必要な行動を取り続ける。

v) 我々は、輸出禁止並びに海上輸送されるロシア産原油及び石油精製品の上限価格措置を含むこれまでに我々が講じてきた措置を基礎として、ロシアのエネルギー収入及び将来的な採掘能力を制限する適切な措置を講じることにより、ロシアの違法な侵略の資金を調達するための収入を引き続き減少させる。我々は、ロシアのエネルギー及び物資への依存を劇的に低減してきた。我々は、ロシアが我々に対してエネルギーを武器にすることがもはやできないように、この道を歩み続けることを決意する。我々は、供給の多角化を追求する国を支援するため取り組むことを含め、ロシアからの民生用原子力及び関連製品への依存を更に低減する。我々はまた、ロシアの金属からの収入を減らすための取組を継続する。さらに、我々は、ロシアの石油及び石油製品の上限価格措置を堅持することに引き続きコミットしており、波及効果を回避して世界のエネルギー供給を維持しつつ、これらの上限価格の回避に対抗するための我々の取組を強化する。

vi) ロシアがダイヤモンドの輸出から得ている収入を減らすために、我々は、ロシアで採掘、加工又は生産されたダイヤモンドの取引及び使用を制限するために引き続き緊密に協力し、追跡技術を含め、将来の連携した制限的措置の効果的な実施を確保することを目的として主要なパートナーと関与し続ける。

8.損害の責任

 我々は、ロシアがウクライナの長期的な再建の費用を支払うようにする我々の取組を続け る。この文脈で、我々は、欧州評議会の枠組みにおける、また、国連総会からの要請に応え るための、ロシアによるウクライナ侵略により生じた損害を登録する機関の設立を歓迎する。REPOタスクフォースでなされたコミットメントに沿って、我々は、ロシアによる侵略に 関連して制裁を受けている個人及び団体の資産を特定し、制限し、凍結し、差し押さえ、適 切な場合には、没収又は剥奪するために、我々の国内の枠組みの中で利用可能な措置を引き 続き講じる。我々は、我々の管轄下で動かせないようになっているロシアの国家が有する資 産の保有状況について完全に把握するための取組を進めている。我々は、それぞれの法制度 と整合的に、ロシア自身がウクライナにもたらした損害を支払うまで、我々の管轄下にある ロシアの国家が有する資産を、引き続き動かせないようにしておくことを再確認する。

9.アカウンタビリティ

 ロシアによる民間人及び重要な民間インフラへの攻撃など、戦争犯罪及びその他の残虐行為に対する不処罰は、認められてはならない。我々は、ウクライナ政府により開催された国際会議「United for Justice」での取組を認識し、ウクライナの領域で行われた国際法の下での最も深刻な犯罪に対する責任を追及するブチャ宣言を想起する。

 この文脈で、我々は、国際刑事裁判所(ICC)などの国際的なメカニズムの取組を支援することによるものを含め、責任を有する者の責任を国際法と整合的な形で追及するとの我々のコミットメントを改めて表明する。我々は、占拠されたウクライナの地域からロシアへの子供を含むウクライナ人の不法な追放及び移送を強く非難し、この観点から、ICCの捜査の進展を最大限の注意を持って引き続き注視し、これらの子供の帰還を求め続ける。我々はまた、ウクライナ人に対する紛争関連の性的暴力及びジェンダーに基づく暴力の事例を非難する。我々は、ウクライナに対する侵略犯罪の訴追のための国際センターの設立を歓迎する。

 加えて、我々は、この文脈で国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の取組を歓迎し、全ての子供たち、特に、侵略戦争によって影響を受けた子どもたちの教育の保護と、被害を受け、脅かされたウクライナの文化財及び文化遺産の保全の重要性を強調する。我々は、ロシアの侵略が国際スポーツに与える影響にも注意を払っている。スポーツ団体の自律性を完全に尊重しつつ、我々は、公正なスポーツ競技と、ロシア及びベラルーシの選手が国家の代表として出場することが決してないようにすることに焦点を当てている。

10.脆弱な国への支援

 ウクライナへの支援と並行して、我々は、ロシアのウクライナに対する侵略戦争によって悪化した脆弱な国々の増大するニーズに対処するための我々のコミットメントを再確認する。特に、我々は、ロシアによる食料の武器化は、経済の脆弱性を増幅させ、既に酷い状況にあった人道危機を悪化させ、世界的な食料不安と栄養不良を前例のないレベルにまでエスカレートさせてきたことを強調する。我々は、2022年10月にIMFにより承認された食料ショック融資枠を通じて提供された重要な緊急融資を歓迎し、脆弱な国々に対する追加の取組を支持する。我々は、影響を受けている国や人々を支援するために、食料安全保障のためのグローバル・アライアンス(GAFS)を通じたものを含め、迅速な支援を引き続き提供する。我々は、EU・ウクライナの連帯レーンを通じたものを含む、ウクライナの農産物の輸出を引き続き支援する。この観点から、我々は、黒海穀物イニシアティブ(BSGI) の拡大及び延長を支持し、ロシアに対し、グローバルな食料供給を脅かすことを止めるとともに、BSGIが最大限の能力で運用されることを認めるよう求める。我々は、「ウクライナからの穀物」イニシアティブにコミットし続ける。我々の貢献は、国連世界食糧計画(W FP)と連携して、最も脆弱な国々への人道的食料援助の提供を支援している。我々は、エネルギー安全保障の強化と気候変動に関するコミットメントの達成のため、引き続き具体的な共通の行動に専心する。ロシアによるウクライナ侵略に端を発した世界的なエネルギー危機による影響を抑えるため、天然ガス及びクリーンな燃料の市場のモニタリング及び供給セキュリティに関する国際エネルギー機関(IEA)タスクフォースなどを通じて、脆弱で影響を受けている国々を支援するため、連帯して協力し続ける。

11.結語

 我々は、「平和の象徴」である広島から、G7メンバーが我々の全ての政策手段を動員し、可能な限り早くウクライナに包括的、公正かつ永続的な平和をもたらすために、ウクライナと共にあらゆる努力を行うことをここに誓う。

(了)