[文書名] 強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明
我々、日本、オーストラリア、ブラジル、カナダ、コモロ、クック諸島、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、大韓民国、英国、米国、ベトナム及びEUの首脳は、手頃な価格で安全かつ栄養がある食料へのアクセスは人々が尊厳を持って生きるための基盤であることを再確認し、世界が現世代で最も高い飢饉のリスクに直面し、悪化するグローバル食料安全保障の危機に対応するため、また、国際市場における安定性と予見可能性の強化を通じたものを含め、より強靱で持続可能かつ包摂的な農業・食料システムを構築するため緊密に協力する重要性を共有した。
我々は、国連食料システムサミット2021(UNFSS)及び100か国以上の署名国によって2022年に承認されたグローバルな食料安全保障のためのロードマップに示された主要な行動並びにグローバル食料安全保障に関するG20の取組に留意しつつ、グローバル食料安全保障と栄養を強化するために、国際社会と協力して、共同で以下の行動を取る意図を有し、他のパートナーに対し、我々のこれらの取組に参加するよう呼びかける。
1.食料安全保障の緊急の危機への対応
世界の食料安全保障は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック、エネルギー、食料及び肥料価格の変動、気候変動の深刻な影響、武力紛争などの複合的な要因やリスクによって脅かされており、女性、子ども、障害者を含む最も脆弱な立場にある人々に不均衡な影響を及ぼしている。ウクライナにおける戦争が、特に開発途上国や後発開発途上国において、世界中で進行中の食料安全保障の危機を、更に悪化させた。
我々は、ウクライナにおける戦争の悪影響に深い懸念をもって留意し、この戦争が計り知れない人的被害をもたらし、成長の抑制、インフレの増大、サプライチェーンの混乱、エネルギー及び食料不安の増大、金融安定性に対するリスクの上昇といった世界経済における既存の脆弱性を悪化させていることを強調する。
我々は、特に世界における食料安全保障及び人道状況への影響に照らし、国際法、国連憲章の原則並びに領土一体性及び主権の尊重に基づく公正で恒久的な平和を支持する。
我々は、黒海穀物イニシアティブ(BSGI)の全ての参加者に対し、その最大限の能力での円滑な実施を必要な限り継続し、完全に履行することを求めるとともに、引き続き最も必要としている人々に穀物を届けることの重要性を強調する。
国連報告書や関連する報告書によると、2021年には世界中で最大8億2800万人が飢餓に直面し、2022年には開発途上国や後発開発途上国をはじめとする58の食料危機に直面している国で2億5800万人が緊急食料支援を必要とすると推定されている。
我々は、以下を含め、緊急の食料安全保障の危機に対応するために協働する。
- アフリカの角地域のような、危機及び深刻な食料不安の緊急事態を経験している国々への多分野にわたる人道支援を支持する。
- 飢饉を回避し、持続可能で強靱な食料システムを構築するための緊急援助と重要な開発援助の資金ギャップを埋めるために、他の国際ドナーや民間部門のパートナーから人道支援と開発支援の資金を大幅に増やすよう提唱する。
- BSGIの拡大と延長、EUの「連帯レーン」の継続、ウクライナの農業部門の回復を含むウクライナとロシアからの穀物輸出を支持するとともに、穀物の違法な移動を特定し証明するための、国連のいかなる取組も支持する。
- 食料及び農産物の不足のリスクを減らし、価格変動の緩和により市場を安定させるため、ルールに基づく、開かれた、公正で、透明性のある、無差別的な国際貿易を促進する。
- 最も緊急なニーズを優先付けし、取り上げ、人道状況の更なる悪化を避け、食料システムに対する責任ある投資を加速するために、「食料安全保障のためのグローバル・アライアンス(GAFS)」、「食料危機に対するグローバル・ネットワーク(GNAFC)」、「世界農業・食料安全保障プログラム(GAFSP)」などを通じて、ドナー、在ローマ食料関連国連3機関である国連食糧農業機関(FAO)、国連世界食糧計画(WFP)及び国際農業開発基金(IFAD)を含む国連機関、国際金融機関(IFIs)並びに国際開発金融機関(MDBs)間の連携を強化する。
- WTOルールと整合的であり、持続可能かつ効率的な、現地の、地域の、及び国際的な食料生産とバリューチェーンを強化するための即時の支援を支持する。
2.将来の食料安全保障危機への備えと予防
我々は、食料安全保障危機及び栄養不良のリスクを予防又は最小化し、危機発生時の早期対応を促進する重要な側面として、市場の透明性を高め、WTOルールと整合的ではない歪みを最小化し、正確な情報及び分析の利用可能性を強化する重要性を認識する。
我々はまた、食料安全保障上の危機に対応するために推奨される行動について共通の理解を深めることの重要性を認識する。したがって、我々は、以下の目的に向けて協力する意図を有している。
(1)市場の透明性と食料及び栄養の危機への備えを強化するために
- 農業市場情報システム(AMIS)を、対象を肥料や植物油に拡大するとともに、在庫に関する情報を含むデータ提供を改善するというG20の取組への支援を通じて強化する。
- 国際穀物理事会(IGC)を含む国際機関によるデータ収集・分析、FAOの早期警告モデルの開発を支援し、深刻な食料不安のモニタリングと分析のための世界標準としての総合的食料安全保障レベル分類(IPC)、グローバル食料安全保障の危機に対する関心を高めるためにGNAFCの枠組みで開始された食料危機に関するグローバル報告書
(GRFC)、マルチドナー50x2030イニシアティブ、GAFS世界食料・栄養安全保障ダッシュボードなどの国際機関によるデータ収集、分析及び普及にかかる相乗的な取組の重要性を認識する。
- 既存の危機対応及び備えに関する戦略が存在する国において、その実施を支援し、他の国々及び関連するステークホルダーと世界銀行の支援を通じて、必要な場合には、GA FSの枠組みの中で、食料安全保障危機対策計画(FSCPP)の策定とその実施に寄与する。
- 地域における食料供給の途絶に対応するため、ASEAN地域におけるASEAN+3 緊急米備蓄(APTERR)、2013年の食料安全保障に関する東アジア首脳会議(E AS)宣言の実施に関する2022年の新たなコミットメント、ASEAN統合食料安全保障枠組と2021-25年の食料安全保障にかかる戦略的アクションプラン、及び西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の地域食料安全保障備蓄を支持する。
(2)危機時に推奨される行動に関する共通の理解を深めるために
- 6月にG7議長国である日本とIGCが共催する食料輸出国と輸入国との間の食料安全保障危機に関する対話を歓迎し、支持する。
- この対話に基づく危機対応における貿易及び市場の透明性に関する指針及びベストプラクティスの特定と策定に貢献する。
- 輸出禁止または制限からのWFPの食料購入の除外に関するWTO閣僚決定を想起しつつ、農業貿易は、ルールに基づく、開かれ、公正で、透明で、予測可能で、包摂的で、無差別的かつWTOのルールに整合的でなければならないことを再確認し、輸出禁止また
は制限からのWFPの食料購入の除外に関するWTO閣僚決定及び食料不安への緊急対応に関するWTO閣僚宣言を想起する。
- グローバル食料安全保障に影響を与える措置に対応するためのより具体的な行動を求め、関連する課題について第13回WTO閣僚会議(MC13)交渉において有意義な結果 を目指す。
- GAFSやGNAFCなどのメカニズムを通じて、最も影響を受ける人々のための緊急人道支援や緩和策を含む食料危機対応に関するドナーの協調を促進する。
- 肥料の効率性と土壌の健全性の向上に関する取組に注力する。
3.全ての人のための強靱なグローバル食料安全保障と栄養の実現
全ての人々のための強靱なグローバルな食料安全保障及び栄養の実現は、人間一人ひとりのより良い未来のための我々の共通の目標である。
我々は、2030年までにSDGsを達成するための道筋を整え、十分な食料を享受する権利を漸進的に実現し、強靱で持続可能で、効率的かつ包摂的な食料システムを構築し、必要とする人々が現在そして将来にわたって、手頃な価格で安全かつ栄養がある食料と健康的な食事にアクセスすることを可能にするため、協働することをコミットする。
我々はまた、農業・食料システムにおける気候変動への適応及び緩和及び、農業と生物多様性の強い相互関係を認識しつつ、生物多様性の損失を止めて、反転させること、あらゆる形態の栄養不良を防止し、食品ロス及び廃棄を削減することとともに、伝統的な知識を活用すること、女性及び女児が食料不安及び栄養不良の影響を不均衡に受けることが多いことから女性を食料システムの主要な当事者として関与させるジェンダーに配慮したアプローチを促進することの重要性を強調する。
我々は、以下の行動を取るために手を取り合う。
(1) 全ての人々のために食料安全保障及び栄養を前進させるために
飢餓ゼロ(SDG2)を達成し、必要とする全ての人々の食料及び栄養へのアクセスを確保するための取組を、以下の方法で強化する。
- 食料安全保障及び栄養に関する行動においてジェンダー平等を主流化することも目的として、FAO、WFP、IFAD、FAOの「南南協力及び三角協力」、世界食料安全保障委員会(CFS)、GNFAC、GAFS、「食料安全保障危機に関する地中海閣僚級対話」などの関連イニシアティブ及びプラットフォームへの関与を通じたものを含め、世界、地域、国レベルで行動を調整する。
- 開発途上国及び後発開発途上国の食料安全保障のニーズを満たすために、「在ローマ食料関連国連3機関のレジリエントイニシアティブ」や2021年から2027年までのサヘル合同行動計画などの統合的手法を活用する。
- 人道的な活動だけでなく、脆弱な人々を対象とするより広範な栄養イニシアティブの中で統合された行動としての、セーフティネットの役割を果たすことができる学校給食プログラムを含む、より広範な社会保護及びセーフティネットの対応においても、的を絞った費用対効果の高いアプローチを支持する。
- 農業、保健、社会保護、水と衛生、教育などの関連政策に栄養目標を組み入れることを支持する。
- 持続可能で栄養に配慮した農業・食料システムを通じて、手頃な価格で健康的な食事及び安全で栄養がある食料へのアクセスを改善し、栄養不良の治療及び予防に関する製品・サービスの利用可能性、負担可能性、質を向上させる。
- グローバルな成長のための栄養に関する東京コンパクトに基づき、ドナー、民間部門及び市民社会を含むステークホルダーと共に、フランスが主催する次の栄養サミットにおける野心的な成果に向けて関与する。
- 若者やその他の脆弱な状況にある人々等にとって働きがいのある人間らしい仕事を創出し、貧困削減に貢献し、健康的な食事へのアクセスを改善する包摂的な食料・農業政策を支持する。
- 微量栄養素の欠乏症に対処するために、現地の環境やニーズに適応した栄養強化食料の開発、製造、生産性の向上及び使用を支持する。
(2) 強靱で持続可能な農業と食料システムを構築するために
以下の方法を通じて、気候変動に関する強靱性、生物多様性の保全、投入財の保全と持続可能な管理、現地の、地域の、及び国際的な食料生産の支援など、強靱で持続可能かつ生産性の高い農業と食料システムの達成を推進し、協力する。
- 国連食料システムサミット(UNFSS)2021で特定された全ての行動分野での取組を促進するため、7月に開催される国連食料システム・ストックテイキング・モーメントにおいて、パートナーシップを構築する。
- (a)責任ある投資を促進しつつ、食料システム(製造並びに加工、流通、消費、コールドチェーン、持続可能な食料環境及び消費者行動等を含む食料サプライチェーンなど) への投資を増やすこと、(b)農業関連のインフラ整備(例.特に後発開発途上国のための、また輸出競争に関するナイロビ閣僚決定に対するWTOのコミットメントに沿った農村インフラを含む農業関連インフラ(貯蔵、灌がい、輸送、連結性等)の開発、(c) 農業のための水の入手可能性と安全への対処、(d)適切な場合には、有機農業、気候スマートな、アグロエコロジカルな、自然に基づく解決策及びエコシステムを基盤とするアプローチ並びにその他の革新的アプローチの推進、及び(e)大規模農産物市場と結び付けるための、女性及び若者を含む小規模農家や零細農家への支援の強化を含む中長期的な活動を支持する。
- 財政その他のインセンティブが持続可能性を促進することを確保しつつ、特に開発途上国における長期的な食料安全保障と栄養を改善するために、革新的資金、ブレンディッド・ファイナンス・モデル及び官民パートナーシップを含む多様な金融手段へのアクセス性を改善する取組を促進する。
- WTOのコミットメントに沿って、既存の国内農業資源を公正かつ適切に利用し、かつ食料安全保障と栄養状況の改善を図るために、公正で開かれた貿易を促進しつつ、全ての国において持続可能な地方の生産性及び生産の潜在力を活用する。
- より強靭な食料システムを構築し、食料安全保障を促進し、栄養がある食料を手頃な価格かつ入手可能にするための不可欠な基礎として、ルールに基づく、開かれた、公正で、透明性のある、予測可能で、非差別的な貿易を推進する。
- 管理のための研究を通じたものを含め、食料生産に影響を与える越境性の病害虫を制御し管理する取組を支持する。
- FAO、IFAD、国際農業研究協議グループ(CGIAR)が開発した知識と実証の基礎を活用しつつ、また、農業ブレイクスルー・アジェンダの成果とその優先アクションの実施及び気候スマートな研究開発及びイノベーションへの投資を促進するための「気候のための農業イノベーション・ミッション(Aim for Climate)」の取組に留意しつつ、気候スマートな農業や、適切な場合には、アグロエコロジカルな、自然を基盤とする解決策、生態系を基盤とするアプローチ及びその他の革新的アプローチの促進を通じて、気候ショックに対処する。
- 先住民及び地域コミュニティにとっての利益を高めつつ、特に、過去の投資不足のために、強靱性、食料安全保障及び栄養に貢献する潜在力を引き出せていない伝統作物や固有作物を含め、気候変動に作物や家畜を適応させ、その生産性を持続的に高める取組を支持する。
- 2023年の国際雑穀年における雑穀に関するものを含む、ただしこれに限定されない、気候変動に強い作物の啓発活動や研究を歓迎し、雑穀のような気候変動に強い作物の育種を目的として食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGRFA) が対象とする遺伝資源へのアクセスと活用を促進するため、条約の完全な実施の重要性に留意し、2023年のG20首席農業研究者会議(MACS-G20)において農業研究者の支持を得た「雑穀とその他の古代穀物国際研究イニシアチブ(MAHARISH I)」の立ち上げを歓迎する。
- 関連するWTOルールに沿った、また、パリ協定の目標に整合した現地の肥料生産を支援する。
- 生物多様性の保全を支援できるような、環境中への栄養損失を低減するための効率的な肥料の使用及びアグロフォレストリー並びにその他の革新的なアプローチを促進する。
- アフリカ肥料・土壌健全性サミットや「包括的アフリカ農業開発計画(CAADP)」を含む、食料安全保障と栄養のためのアフリカのアジェンダを支援する方法について、アフリカ連合に関与する。
- 持続可能な漁業を奨励し、この観点で、海洋の持続可能性と繁栄の確保に向けて第12 回WTO閣僚会議(MC12)で採択された漁業補助金に関するWTO協定の迅速な発効を支持する。
- 小島嶼開発途上国(SIDS)に対し、漁業を含む固有の食料安全保障及び栄養の課題を支援する方法について関与する。
- 消耗した土壌が生産性と持続可能性を制限している地域において、土壌の健全性と肥沃度を改善するための幅広い適切な政策と慣行を支持するために、土壌データを作成し利用する取組を推進する。
- 小規模生産者のための持続可能で強靭な食料システムの開発を支援するために、地域の生産システムの強化、地方及び地域の需要への対応、市場の構築、食品ロスの削減に関するIFADへの関与を支援する。
- インドによる「環境のためのライフスタイル(LiFE)」などの教育及び行動に関するアプローチである進行中の取組に留意しつつ、革新的な解決策や持続可能な技術の活用や、最終処分場の有機廃棄物の再利用によるものを含め、農業、食料及び廃棄システムを通じて食品ロスや廃棄を削減する取組を支持する。
- 食の安全、持続可能な食料生産及び環境の管理に取り組むためのワンヘルス・アプローチの採用を支持する。
-イノベーション及びテクノロジーを促進し、食料システムのあらゆる段階において以下により導入する。
- 農業と食料システムにおける更なるデジタル化への研究開発(R&D)及び責任ある投資における民間部門への関与を促進する。
- スタートアップ企業、学術機関、先住民や地域コミュニティ、女性、そして、市民社会の団体を含む、農業・食料システムにおける全ての知識保有者を、特にその革新的な技術、慣行及びアプローチの認識と活用を促進することを通じて支持する。
- 人口増加に直面する中で世界の食料生産量を増加させるために、緩効性肥料などの利用可能な技術や、十分なサービスが行き届かない地域での農業適応に向けた活動の利用により生産性と効率性を持続可能な形で高め、また、世界規模での生産を持続的に強化するための取組を支持する。
- 化石燃料ベースの投入財への過度の依存を減らす、生物学的投入財及び生産管理の開発を支援する。
- 相互に合意された条件に基づく技術協力や適切な移転プログラムなどを含め、開発途上国や後発開発途上国の技術へのアクセスを強化し、農家、特に開発途上国の小規模農家や零細農家の技術向上及び能力開発を支援し、適切な場合には、現代的、ハイテク、強靱かつ環境に優しい慣行を含め、農場レベルでの持続可能な農業の慣行を採用する機会を拡大させる。
(了)