データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明

[場所] 
[年月日] 2023年5月20日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

 互恵的なパートナーシップを促進し、強靱で持続可能なバリューチェーンを支援することは、我々の経済及び世界経済の双方に対するリスクを軽減し、全ての人々にとっての持続可能な発展を確保する上で、我々の優先事項であり続ける。最近の出来事は、自然災害、パンデミック、地政学的緊張及び威圧に対する世界中のエコノミーの脆弱性を浮き彫りにした。我々は、2022年G7エルマウ・サミットでのコミットメントを想起しつつ、脆弱性を低減するとともに、それらを利用し助長する悪意ある慣行に対抗することにより、経済的強靱性及び経済安全保障に関する進行中の我々の戦略的協調を強化するため、今日、追加的な措置をとることとする。これは、G7クリーンエネルギー経済行動計画で示されたサプライチェーンの強靱性を強化するために我々がとっている関連する措置を補完するものである。我々は、グローバルな経済的強靱性を高めるために、サプライチェーンの多様化及び地域の価値の創出を促進し、全ての地域の労働者及びコミュニティに利益をもたらす形で、サプライチェーンにおける低・中所得国のより重要な役割を支援することによるものを含め、G7の間及び全ての我々のパートナーとの間の双方で協力することの重要性を強調する。我々は、依存関係を助長するように設計された非市場的政策及び慣行に対処し、経済的威圧に対抗していく。我々は、安全保障のために不可欠な、又は国際の平和及び安全を脅かし得る、明確に定義された狭い範囲の機微技術が、より広範な技術の貿易に不当に影響を与えることなく、適切に管理されることを引き続き確保していく。我々は、経済的強靱性及び経済安全保障を強化するための我々の協力が、良好に機能するルールに基づく国際的な体制、特にWTOを中核とする多角的貿易体制の維持及び改善に根ざすものであることを確認する。これらの目的のため、我々は、毎年継続して成果を出すため、G7枠組みを通じて包括的な形で協働し、連携していく。

グローバルな経済的強靱性の強化

強靱なサプライチェーンの構築

 新型コロナウイルスのパンデミック及びロシアによるウクライナに対する侵略戦争は、世界中の国々のサプライチェーンの脆弱性をむき出しにした。サプライチェーンの混乱は、開発途上、新興、先進エコノミーに同じように壊滅的な打撃を与えている。我々は、透明性、多様性、安全性、持続可能性、信頼性が、G7内外の信頼できるパートナー国との間での強靱なサプライチェーンネットワークを構築及び強化するに当たり不可欠な原則であることを認識する。我々は、全ての国に対し、これらの「強靱で信頼性のあるサプライチェーンに関する原則」を支持することを奨励する。我々は、グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)の実施を通じたものを含め、より広い国際社会、特に開発途上国の強靱性の構築を支援するとの我々の強い意志を再確認する。我々のパートナーシップは、国際法を遵守し、自由で公正であり、互恵的な経済及び貿易関係を促進する。エネルギーその他の経済的依存関係を武器化する最近の事案から教訓を得て、我々はそのような行為に断固として反対する。我々は、特に重要鉱物、半導体及び蓄電池などの重要物資について、世界中のパートナーシップを通じて、強靱なサプライチェーンを強化していく。我々は、供給混乱に対処するための意思疎通のチャネルを強化するため、また、それぞれのシナリオに基づくストレステストから得られたものを含め知見とベスト・プラクティスを共有するため、取組を強化していく。

強靱な基幹インフラの構築

 我々は、特にデジタル領域における基幹インフラの安全性と強靱性を強化するために協力することの重要性を強調する。我々は、モバイル、衛星及びコアネットワーク、海底ケーブル、コンポーネント並びにクラウド・インフラを含め、情報通信技術(ICT)エコシステムの強靭性を強化するプロジェクトを歓迎する。我々は、信頼できるベンダーによる革新的で競争力のあるデジタル・エコシステムを支持し、サプライヤーの多様化への取組を歓迎し、安全で、強靱で、確立されたアーキテクチャと並んで、開かれた、相互運用可能なアプローチに向けた市場のトレンドについて、技術的に中立な形で、議論を継続する。日本のG7議長国下で、オープンRANの早期展開が進んでいることを背景に、我々は、オープンアーキテクチャや、セキュリティに関連する側面や機会について意見交換を継続していく。我々は、通信機器及びサービスの技術標準の策定において、技術的に中立な形で、オープン性と相互運用性を可能にするため、開放的で、グローバルで、市場主導で、かつ包摂的なマルチステークホルダー・アプローチを支持する。我々は、このようなインフラには、プラハ提言やEUの5Gツールボックスで述べられているような既存の施策に沿って、厳格な設備評価が必要であることを議論した。我々は、ベンダー及びサプライヤーがもたらす政治的、経済的、及びその他の非技術的な性質のリスクを評価する必要性を再確認した。我々は、それぞれの取組を通じて得られた情報やベスト・プラクティスを共有することにより、強靭な基幹インフラを構築するための取組を継続していく。

国際的なルール及び規範を損なう有害な慣行への対応

グローバルな経済的強靭性を確保するための非市場的政策及び慣行への対応

 我々は、蔓延する不透明かつ有害な産業補助金、国有企業による市場歪曲的慣行及びあらゆる形態の強制技術移転といった幅広い非市場的政策及び慣行、並びに戦略的依存関係及び構造的な脆弱性を作り出すその他の慣行を利用する包括的な戦略に関し、新たな懸念を表明する。したがって、非市場的な政策及び慣行に対処することは、経済的強靱性、そして経済安全保障を強化する上で不可欠な側面となり得る。脆弱性を助長する目的での非市場的政策及び慣行の利用が増加していることに鑑み、我々は、既存の手段を効果的に用いるとともに、適当な場合には新しいツールを開発する必要性を再確認する。我々は、公平な競争条件を歪める非市場的政策及び慣行に取り組むためのより強力な国際的なルール及び規範を引き続き積極的に発展させていくとともに、これらの問題により良く対処するためにWTOにおける取組を強化していく。

経済的威圧への対処

 世界は、経済的脆弱性及び経済的依存関係を悪用し、G7メンバーや世界中のパートナーの外交政策及び国内政策並びにその立場を損なうことを企図する経済的威圧の事案の憂慮すべき増加に直面している。我々は、G7メンバー及び小規模なエコノミーを含む我々のパートナーに対して、要求に従い適合することを強制することを通じ、経済的依存関係を武器化する試みが、失敗に終わり報いを受けることを確保すべく、協働していく。我々は、多角的貿易体制の機能及び信頼を損なうのみならず、主権の尊重及び法の支配を中心とする国際秩序を侵害し、究極的には世界の安全及び安定を損なう経済的威圧について、深刻な懸念を表明し、全ての国に対してその使用を控えるよう求める。我々は、それぞれの国内において、威圧的な経済的手段の使用を抑止しそれに対抗するため、既存の手段を活用し、その効果を検証していくとともに、必要に応じて新たな手段を開発していく。我々は、WTOにおけるものを含む既存の共同の取組の重要性を認識しつつ、経済的威圧に対する共同の評価、準備、抑止及び対応を強化するため、

「経済的威圧に対する調整プラットフォーム」を立ち上げ、連携を強化していくとともに、G7以外のパートナーとの協力を更に促進していく。我々は、この調整プラットフォームの下、早期警戒及び迅速な情報共有を利用し、定期的に協議を行い、協力して状況を評価し、協調的な対応を追求し、経済的威圧を抑止し、それぞれの法制度に従って、適当な場合にはそれに対抗する。また、我々は、適当な場合には、連帯及び法の支配を堅持する決意の意思表示として、対象となった国家、エコノミー及び主体を支援するため、協調する。

デジタル領域における有害な慣行への対抗

 我々は、企業に対してデータのローカライゼーションを不当に要求する規制、又は適切な保障や保護なしに、政府がデータにアクセスすることを許可する規制について、懸念を表明する。地政学的及び地経学的な変動の結果、グローバルなビジネスのバリューチェーン及びサプライチェーン、特に我々の基幹インフラに関わるそれらのものがリスクにさらされている。そのため、我々は、不当な影響力、スパイ行為、違法な知見の漏えい及び妨害行為からグローバルなバリューチェーン及びサプライチェーンを保護するため、デジタル領域における悪意ある慣行に対抗することを追求するための戦略的対話を深めていく。

国際標準化における協力

 我々は、世界経済における技術標準の重要性を認識し、次世代の技術を形成する、開放的で、自主的で、コンセンサスに基づく標準の策定を共同で支援するという我々のコミットメントを再確認する。これらは、我々の共通の民主的価値と原則に沿った、包摂的なマルチステークホルダー・アプローチに基づくものであるべきである。我々は、共通の価値と原則を考慮し、情報共有及び確立された標準化プロセスへの関与を通じて、国際標準化に関連する問題について、それらが発生した場合には、特定し、対処していく。我々は、国際標準化に関する活動において、より広範な官民のステークホルダーを含め、情報共有を通じて、我々の協力を深化させるとともに、効果的な標準化を支援していく。このため、我々は、「デジタル技術標準に関するG7連携のための枠組み」を通じた協力を含め、我々の継続的な連携を再確認する。

国際の平和及び安全への脅威に関する共通の懸念への対処

重要・新興技術の流出防止による国際の平和及び安全の保護

 我々は、重要・新興技術に関するG7パートナー間の研究開発を深めるに当たり、我々が開発する最先端技術が、国際の平和及び安全を脅かす軍事力の増強のために利用されることを防止するために連携する共通の責任及び決意を確認する。そのために、我々は、そのようなリスク及びそれらに対処するために必要な政策手段に関する共通理解を更に高めるため、適当な場合には、情報と経験を共有するとともに、各国の状況に応じて、輸出及び投資に関するものを含め、必要な場合には更なる措置を講じていく。我々は、デュアルユース技術を保護するための我々のエコシステムに存在するギャップが悪用されないよう、輸出管理分野における協力のための多国間での取組を更に強化していく。我々は、国際の平和及び安全を損なう目的で軍事力及びインテリジェンス能力を使用し得る主体が当該能力を強化する上で中核となると評価される、一部の狭い範囲の技術の発展が、我々の企業の資本、専門的知見、知識によって加速されることを防止することに共通の関心を有する。我々は、対外投資によるリスクに対処するために設計された適切な措置は、我々の機微技術が国際の平和及び安全を脅かす方法で利用されることを防止するために連携して機能する輸出及び対内投資に関する特定された既存の管理手段を補完するために、重要となり得ることを認識する。我々は、我々の経済安全保障上のツールキットを今日の課題に適合させるために引き続き取り組む中で、これらの共通の目標に関連して民間セクターに対して明確性を提供していく。また、我々は、我々の努力の効果を最大化させるため、引き続き、実現可能な場合には、協調し、教訓を共有していくとともに、アプローチの調和を追求していく。