データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7ファクトシート:ネクサス・アプローチを通じたジェンダー主流化の促進

[場所] 
[年月日] 2023年5月20日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1. 背景

 世界的にみると、過去何十年もの間、数多くの行動と成果がジェンダー平等の実現に寄与してきた。しかしながら、持続可能な開発目標、とりわけ、目標5(ジェンダー平等とすべての女性・女児のエンパワーメントを達成する)の達成に向けた進展は遅く、不均衡である。世界のいずれの地域においても、根深く構造的な不平等や、あらゆる多様性をもつ女性及び女児が社会的・政治的・経済的生活に完全かつ平等で意義のある参画をするにあたって未解決となっている制度的、法的障壁が未だ存在している。さらに、近年では、新型コロナウイルス感染症の大流行、気候変動の結果頻繁に生じている自然災害、また、とりわけ、紛争関連のジェンダーに基づく暴力の急増につながったロシアによる進行中のいわれのないウクライナへの侵略戦争を含む紛争や不安的な状況といった危機により、いくつかの分野においてその進歩が中断されたり、あるいは逆に後退させられたりしている。また、イランやアフガニスタンでは、女性や女児に対する人権侵害が増加している。

 しかしながら、女性や社会的に疎外された集団は、不平等な力関係の犠牲者であるだけでなく、変革の担い手でもある。彼らの知識や解決策を提供する能力は、地球規模課題に対処するにあたり評価されるべきである。とりわけ、世界中における女性の平和構築者、ジャーナリスト、人権擁護者及び市民社会活動家たちは、顕著な強靱性、主体性及びリーダーシップを発揮してきた。G7が、ジェンダー平等とあらゆる多様性をもつ女性及び女児のエンパワーメントの達成に向けた世界的な取り組みを主導することが急務である。

2. すべての政策分野におけるネクサス・アプローチの適用

 ジェンダー課題の断片化や疎外化を克服しつつ、国際的な取り組みにおいて、より一貫性があり、かつ、交差的なジェンダー主流化と的を絞った行動を通じて、進歩を加速させる必要がある。このような背景から、G7広島サミットにおいて、首脳は、あらゆる多様性をもつ女性及び女児並びに社会的に疎外された集団の完全かつ平等で意義のある参加を確保すること、また、関連政策間の「ネクサス」の強化を通じて、ジェンダー平等、並びに、あらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享受を実現すること、さらに、ジェンダー分野における変革の実現へのコミットメントを再確認した。

 ネクサスとは、ジェンダー平等に向けた政策の有機的な繋がりの概念を指す。2019 年、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)は、人々のニーズ、リスク及び脆弱性を効果的に軽減するとともに、予防の取り組みを支援し、人道支援の提供からそうしたニーズの終結へと移行することを目的とし、「人道・開発・平和の連携」に関する勧告を採択した(注1)。G7メンバーは、ジェンダー主流化を一層推進し、ジェンダー平等の政策や行動の効果を最大のものとするため、このような包括的なアプローチが必要であると考えている。G7メンバーは、世界のジェンダー不平等に対処するため、とりわけ、政治・安全保障、経済及び社会の各分野間におけるネクサス・アプローチの有効性を強調する。

 ネクサス・アプローチの一例は、女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security: WPS)アジェンダの実施プロセスに見ることができる。WPSアジェンダをあらゆる側面から実施するためには、国連安全保障理事会決議第1325号とそれに続くすべてのWPS関連決議に則り、あらゆる多様性をもつ女性による、紛争の一連の過程における紛争予防、紛争解決及び和平プロセスへの完全かつ平等で意義のある参加を促進し確実にすることが不可欠であり、国連加盟国はこの目的を達成するために国内行動計画を策定し、実行し、目に見える成果を生み出すために様々な分野のパートナーと協力することを奨励されている(政治分野)。女性の労働市場における完全な自立を保証するための資金的手段への完全なアクセスにより得られる女性の強靱性と経済的エンパワーメントは、持続可能で平和な社会を築くために同等に必須である(経済分野)。あらゆる多様性をもつ女性及び女児の保護、ジェンダー不平等の根本的な原因への対処、男性の関与の拡大に向けた啓発活動による性的暴力及びジェンダーに基づく暴力の予防の確保も必要である(社会分野)。さらに、各国が地球規模でのWPSアジェンダの推進を追求するため、地域的、国際的なリーダー、組織、国家と連携することは、このネクサス・アプローチの重要な構成要素でもある(政治・社会分野)。

 教育もまた、その一例である。世界人権宣言に述べられているように、教育は、すべての国又は人種的、若しくは、宗教的集団の相互間の理解、寛容及び友好関係を増進する(注2)。それはまた、非暴力的な紛争解決能力を育む(政治分野)。女子の科学、技術、工学及び数学(STEM)教育の促進は、権利と機会均等へのアクセスの問題であるが(社会分野)、それはまた、世界経済を活性化させ、女性の才能とキャリアの機会を拡大させつつ労働市場の形態を変えるであろう(経済分野)。女性をデジタル世界から排除したことにより、過去10年間の低・中所得国の国内総生産は、本来得られるべき額を1兆ドル下回った(注3)。教育はまた、ジェンダーに基づく偏見とステレオタイプを撲滅し、ジェンダー平等を妨げる根本的な原因を除去することを目的とした社会規範や構造的障壁に取り組むための重要な手段である(社会分野)。

 ジェンダー平等は、女性及び女児が性と生殖に関する健康と権利( sexual and reproductive health and rights: SRHR)を行使し、健康で自己決定が可能な人生を送る機会を有するための基本的な前提条件である。SRHRを行使する能力は、すべての女性及び女児が労働市場や、経済的・政治的・文化的及び社会的生活のあらゆる分野において完全かつ平等に参加できるようになるための前提条件でもある。したがって、すべての個人のSRHRを保護するためにも、教育、経済、政治及び社会といった分野の視点からの包括的なアプローチが必要である。

 ネクサス・アプローチを通じて、G7メンバーは、政策、プログラム及びイニシアティブが、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの多方面にわたる分野、とりわけ上記の3つの分野において効果的に貢献することを確保しつつ、一層のジェンダー主流化を探求していく。様々な紛争や人道危機は、既存の不平等を悪化させ、あらゆる多様性をもつ女性及び女児に不均衡な負担を強いており、このことがあらゆる生活領域において、あらゆる多様性をもつ女性及び女児の完全かつ平等で意義のある参加の実現を困難にしているほか、すべての人権の完全な享受を達成する上でも未だ大きな障害となっている。これらの課題に対処するためには、包括的かつ総合的なネクサス・アプローチが決定的に必要である。G7の各メンバーがそれぞれのアプローチを採用しているように、世界のジェンダー平等への歩みを加速させ、促進するためには、国内分野においても包括的かつ総合的なアプローチが必要である。

3. 私たちの行動

 G7メンバーは、ネクサス・アプローチを強化するため、すでに様々な取組を実施してきた。世界中で行われているこのような複数国による、あるいは、個々によるイニシアティブの具体例は以下のとおりである。これらは、互いに補完し合うことで効果を最大化し、ジェンダー平等の実現と、あらゆる多様性をもつ女性及び女児のエンパワーメントに貢献する。

(1) プロジェクト、ファンド等

a. 紛争関連の性的暴力の被害者・サバイバーへの支援を含む、WPSアジェンダの実施

i. G7メンバーは、WPSアジェンダの実施をあらゆる面から支援する、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国際連合機関(UN Women)、国連人口基金(UNFPA)及び女性の平和と人道のための基金(WPHF)への支援を通じて、WPSアジェンダを実施しており、また、サバイバーを包括的に支援するため、紛争関連性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)や紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所(OSRSG-SVC)等の国際機関や特定の基金を通じて紛争下の性的暴力に対処するための支援を強化してきている。

ii. G7メンバーはまた、効果的かつ包摂的な紛争予防及び復興を確保し、平和構築の意思決定プロセスにおける女性の完全かつ平等で意義のある参加を促進するために、G7女性・平和・安全保障パートナーシップ・イニシアティブを通じて、国内及び地域のWPS行動計画の策定と実施の促進に取り組んできている。

b. 開発途上国における女性の経済的エンパワーメントへの支援

i. G7メンバーは、アフリカの女性が直面する420億ドルの資金的格差を埋めるための汎アフリカ的イニシアティブである、アフリカの女性のための積極的金融アクションイニシアティブ(AFAWA)に取り組んでおり、資金的支援や技術的支援のほか、法律・政策・規制改革の支援を含む実現のための環境整備という3つの柱を通じた総合的なアプローチをとってきている。

ii. G7メンバーは、世界銀行グループによる児童保育イニシアティブへの投資、ウフル成長基金I-A、フェム・ブラジル、ジェンダー公正・平等アクション(GEEA)基金を支援するとともに、エネルギーにおける女性のエンパワーメント加速化(AWEE)プロジェクトの実施や、グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)の枠組みの中でのパワー・アフリカなどを通じて、女性のための環境分野の雇用の増加を図ってきている。

iii. G7メンバーは、金融商品及びサービスへのアクセスの拡大、能力構築、ネットワークの拡大、メンターの提供、女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)を通じた国内と世界市場とを繋げる機会の提供により、女性起業家、とりわけ、女性が経営する中小企業を支援してきている。

iv. G7メンバーは、ケアのためのグローバル・アライアンスを通じて、ケアの不平等な分配がジェンダー平等と社会に与える重大な影響に対処することを求めてきている。ケアのためのグローバル・アライアンスは、無償のケア労働における不平等に対処し、ケア・エコノミーを強化する。それにより、ネクサス・アプローチの経済及び社会分野に直接的に貢献する。ケアのためのグローバル・アライアンスのメンバーは、政治面において、有償及び無償のケア労働者の権利、資源及び代表性へのアクセスを促進するための法律や改革を推進している。

v. G7メンバーは、女性に対し、リーダーシップの機会、質の高い雇用、金融及び経済参加を強化する製品やサービスへの改善されたアクセスを世界市場全体において提供するための投資を動員する、2Xチャレンジ、2Xコラボレーション及び2Xグローバルを通じて、開発金融機関/国際金融機関や、より広範な民間部門に世界の女性への投資を促すよう働きかけてきている。

c. 性的暴力及びジェンダーに基づく暴力との闘い

 G7メンバーは、UN Women、UNFPA、国連開発計画(UNDP)、国際連合児童基金(UNICEF)及び国際家族計画連盟(IPPF)を含む、市民社会及び国際機関が実施する様々なプロジェクトを通じて、オンライン、オフラインを問わず、性的暴力及びジェンダーに基づく暴力の防止と対応への支援を強化してきている。また、G7メンバーは、共同で声をあげ、ジェンダーに基づく暴力を非難し、サバイバー中心の正義、説明責任の追及及び支援を提唱してきた。人工知能の普及は、女性及び女児に対するいわゆるディープフェイクを含む標的型のオンライン上の脅威やハラスメントの爆発的な増加につながり得るため、こうした努力はとりわけ重要であり、G7メンバーは協力を強化する必要がある。

(2)意識向上とアドボカシー

G7メンバーは、ジェンダー平等とあらゆる多様性をもつ女性及び女児のエンパワーメントを達成するため、また、社会、政治及び経済分野における指導的地位や意思決定プロセスへの女性のアクセスを一層円滑にするため、以下のような意識向上やアドボカシーを通じてジェンダー主流化を促進してきている。

a. SRHRを守るための提唱

 G7は、母子保健を含む包括的なSRHRを促進してきている。後退に直面しているSRHRを擁護し促進するためのより幅広い努力の一環として、G7メンバーは、プライマリー・ヘルスケアのレベルにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の必須要素の一部として、SRHRに関する情報が含まれることを引き続き提唱していく。

b. HeForSheキャンペーン

HeForSheは、ジェンダー関連課題への男性の関与と参画を高めることを目的とする UN Women が主導する啓発キャンペーンである。いくつかのG7メンバーを含む、様々な国やセクターのHeForSheチャンピオンは、リーダーシップにおける男女同数の達成、ジェンダーに基づく暴力の終焉、その他多くの今日最も重要な平等に関する問題について、試行錯誤を経た解決策を共有してきている。

c. 国際女性会議(WAW!)

日本は、2014年以降、ジェンダー関連の国際シンポジウムを開催してきている。2022年は、男女の賃金格差、女性の意思決定への参画、SRHRと女性及び女児の身体的自立を含む女性の健康と尊厳、また、女性とデジタル・STEM、女性と環境・グリーン社会、WPS、女性と防災等、幅広い課題について参加者が議論した。

d. 平等を目指す全ての世代フォーラム(GEF)

UN Women が開始した平等を目指す全ての世代フォーラムは、2021年にフランスとメキシコが共催し、ジェンダー平等への不可逆的な進歩を達成するための5年間の行動の行程を開始した。それは、400億ドルの資金拠出の公約を含む一連の具体的で野心的、かつ、変革的な行動を基礎としている。また、女性の権利に関する1995年の北京行動綱領の野望の実施を確実なものとし、持続可能な開発目標(SDGs)を達成することを目的としている。同フォーラムは、「ジェンダー平等のためのグローバル加速計画」を立ち上げ、6つの行動連合―ジェンダーに基づく暴力、テクノロジーから、経済的正義及び気候正義に至るまで、ジェンダー平等を達成するために必要な最も重要な行動を特定した様々な関係者による連携―を開始した。また、同フォーラムでは、女性、平和、安全保障、人道的行動に関するグローバル・コンパクトを立ち上げた。G7メンバーは、フォーラムの様々な行動連合に関与しており、GEF の勢いが持続し、その完全な目的が達成されるよう、UN Women 及び様々なコミットメントを行ったものたちがさらなる行動を起こすことを要請する。

e. 国連フォーラムにおけるLGBTIコアグループ

 G7メンバーは、2008年に創設された国連加盟国による非公式な地域横断的グループである国連LGBTIコアグループのメンバーとして活動しており、その主な活動は、LGBTQIA+に関する問題についての認識を高め、共通点を探し、コアグループ以外の国連加盟国と他の関係者との間で、開かれた、相互敬意を持った、建設的な対話や協力の精神に基づいた関与をすることである。

f. 説明責任、モニタリング、データ

 G7メンバーは、ジェンダー平等に関するSDGsのコミットメントの実施にあたり、OECDDACのジェンダー平等政策マーカーを活用するなど、OECDとの協力も行っている。さらに、年次でジェンダー平等の進捗を測定し、ニーズを見える化するための説明責任の枠組みを強化するため、2021年の英国議長国下でのカービスベイ首脳コミュニケにおけるG7としての公約実施の観点から、G7ジェンダー・ギャップ・ダッシュボードをOECDとの協力を得つつ準備し、2022年のドイツ議長国下において公表した。G7は、2023年日本議長国下においても、ダッシュボードを更新するとともに、性別に基づくデータの収集の促進に引き続きコミットする。G7は、G7ジェンダー・ギャップ・ダッシュボード及びG7のジェンダー平等に関するコミットメントの実施に関するG7報告書を含む、ジェンダー平等の達成に向けたG7のコミットメントの監視と説明責任メカニズムの促進及び形成に引き続きコミットする。

4. すべての閣僚会議を通じたジェンダー主流化の実現

 2023年に開催された、G7のこれまでの9つの閣僚会合では、以下に示すように、成果文書において、ジェンダー平等並びにあらゆる多様性をもつ女性及び女児のエンパワーメントについて様々な観点から議論し、これにより、ジェンダー主流化が一層促進され、ネクサスの概念を推進するための基盤となることが期待される。

(1)G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合

コミュニケのリンク:

https://www.env.go.jp/content/000127829.pdf

または

https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230417004/20230417004-2.pdf

(2)G7長野県軽井沢外務大臣会合

コミュニケのリンク:

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100492726.pdf

(3)G7倉敷労働雇用大臣会合

コミュニケのリンク:

https://www.mhlw.go.jp/content/10501000/G7labour_jp.pdf

(4)G7宮崎農業大臣会合

コミュニケのリンク:

https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kanren_sesaku/G7_G20/attach/pdf/230306-5.pdf

(5)G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合

コミュニケのリンク:

https://g7digital-tech-2023.go.jp/topics/pdf/pdf_20230430/ministerial_declaration_dtmm_jp.pdf

(6)G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議

コミュニケのリンク:

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/g7/g7_20230513_1.pdf

(7)G7仙台科学技術大臣会合

[コミュニケからの引用]

我々は、歓迎的でステレオタイプに囚われない科学的活動、研究活動の環境を創出するために多様性及び包摂に関する我々の共通の価値を促進してきたG7ジェンダー平等アドバイザリー評議会を支援することにコミットする。

コミュニケのリンク:

https://www8.cao.go.jp/cstp/kokusaiteki/g7_2023/230513_g7_kariyaku.pdf

(8)G7富山・金沢教育大臣会合

宣言のリンク:

https://www.mext.go.jp/content/20230515-mxt_kouhou02-000026703_3.pdf

(9)G7長崎保健大臣会合

コミュニケのリンク:

https://www.mhlw.go.jp/content/10500000/001096404.pdf


(注1) OECD 2023, "DAC Recommendation on the Humanitarian-Development-Peace Nexus" p.3

(注2) 世界人権宣言第二十六条

(注3) UN Women, United Nations Department of Economic and Social Affairs, 2022, "Progress on the Sustainable Development Goals The Gender Snapshot 2022", p. 15