データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 上川外務大臣G7外相会合議長国記者会見記録

[場所] 飯倉公館
[年月日] 2023年11月8日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

1 冒頭発言

【冒頭】

 昨7日から本日8日にかけまして、ここ飯倉公館において、G7外相会合を開催いたしました。また、会合の成果として、間もなく、G7外相声明を発出する予定であります。

 御参加いただきましたG7外相に感謝申し上げます。その上で、議長を務めた私から、今回の外相会合の成果につきまして、簡潔に紹介をさせていただきます。

【総論】

 まず、今回の会合は、対面で今年5回目のG7外相会合となりました。私にとりましても対面で2回目の会合となります。これは、我が国が、本年のG7議長国として、国際情勢が目まぐるしく変化をし、世界の分断が深まる状況において、G7として従来以上に結束をし、連携して様々な課題に対応できるよう、精力的に取り組んできた結果であります。

 今回の会合においても、まさにG7外相が現下の課題に真剣に向き合っていることが肌で感じられるような会合であり、また、これまで培ってきたG7外相の信頼関係がわかる、とても率直なやり取りを行うことができました。

【中東】

 9月のG7外相会合後の1か月余りの間にも、国際情勢は大きく揺れ動きました。特に、中東情勢については、先月来、G7間で緊密に連携してきています。今回の会合においても、昨日のワーキングディナーにおいて、予定時間を大幅に超え、2時間以上にわたり、まさに膝をつき合わせて突っ込んだ議論を行うことができました。昨日は時には激しい議論が行われ、極めて率直でお互いに遠慮のないやり取りでありました。

 そして、G7メンバーの間で、

ハマス等のテロ攻撃を断固として非難すること、

二つ目に、人質の即時解放を求めること、

三つ目に、ガザにおける人道危機に対処するための緊急の行動をとる必要があること、食料、水、医療、燃料、シェルター及び人道支援従事者のアクセスを含む妨害されない人道支援を可能とすること、特に人道支援を容易にするための人道的休止及び人道回廊を支持すること、

四つ目、国際法、特に国際人道法の遵守が重要であること、

五つ目、紛争の更なるエスカレーションや、より広い地域への拡大を防ぐ必要があること、

六つ目、ガザの持続可能な長期的解決に取り組むことや、二国家解決が公正で永続的な平和への唯一の道であること、

などで一致しました。

 今回、G7として初めて、今般の事態やその対応について、まさに現状における人道的休止やその後の和平プロセスを含め一致したメッセージを文書の形でまとめることができたことは、国際社会においてG7が責任ある役割を果たすという観点からも、我が国が本年のG7議長国としての務めを果たすという観点からも、重要な成果となったと考えています。

 こうした点について、G7議長国として、今後、グローバル・サウス諸国を始めとする国際社会のパートナーに説明をし、理解を得ていくとともに、これらの国々と協力しつつ努力を積み重ねていく考えです。

【ウクライナ】

 ウクライナ情勢に関しては、本日午前にG7メンバー間で議論をするとともに、午後にクレーバ・ウクライナ外相をオンラインで招待をし意見交換を行いました。そして、中東情勢の緊張が高まる中でも、G7として、結束して厳しい対露制裁や強力なウクライナ支援に取り組む姿勢は不変であること、中長期的な復旧・復興のために官民一体となって取組を加速させていくこと、平和フォーミュラのプロセスを国際的なパートナーと共に進める必要があること、で一致している旨伝えました。

 G7として、一日も早くロシアの侵略を止めることが引き続き優先課題であり、外交、人道、財政、安全保障面を含め、あらゆる面で必要な限りウクライナを支援してまいります。

【インド太平洋(中国、北朝鮮等)】

 インド太平洋についても議論しました。特に中国に関しては、G7として、中国に率直に関与し、我々の懸念を直接表明することが重要であり、同時に、グローバルな課題や共通の関心分野について中国と協働する必要があることを改めて確認しました。

 北朝鮮に関しては、G7として、北朝鮮による度重なる弾道ミサイル発射及び安保理決議違反である北朝鮮からロシアへの武器・弾薬供与を強く非難しました。また、G7各国からは、拉致問題の即時解決に向けた支持が改めて表明されました。

【中央アジア、グローバル・サウス等】

 さらに、今回、G7外相会議として初めて、中央アジア5か国とオンライン形式で対話しました。中央アジア諸国からは、G7各国からの協力に期待が示されるとともに、こうしたG7との対話を行うことについて前向きな発言がありました。

 今回のアウトリーチ・セッションを含め、国際的なパートナーへの関与の強化は本年の日本議長年の優先課題です。G7長野県軽井沢外相会合やG7広島サミットでの議論を経て、その重要性に関するG7のコンセンサスは確固たるものになりました。

 そして、G7として、引き続き、

法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化すること、

世界のどこであれ一方的な現状変更の試みは許されないこと、

気候変動、核軍縮、女性・平和・安全保障(WPS)などについて、G7の枠組みを超えて更なる国際的な連帯を築くべく取り組んでいくこと、

で一致しました。

【ALPS処理水】

 ALPS処理水に関しては、G7各国から、我が国の安全で、高い透明性を持ち、科学的根拠に基づく取組を改めて歓迎いただくとともに、海洋放出開始以降のモニタリング結果でもその安全性が示されていることを確認いただきました。

【結語】

 今回、G7外相間で、このような充実をした議論を行うことができました。G7外相間の連携はかつてないほど緊密です。引き続き、国際社会の喫緊の課題に対処すべく、連携していきたいと思います。

 これまでも述べてきているとおり、G7議長国としての任期は「残り2か月」ではなく、後「2か月も」あります。これから年末にかけて、引き続き精力的に取り組んでまいります。ありがとうございました。

2 質疑応答

【日経新聞 根本記者】

 中東情勢を巡りG7で一致した人道的休止の必要性に関し、バイデン米大統領は、イスラエルのネタニヤフ首相に3日間の戦闘停止を要請したとの報道があります。G7外相会合でもこの点を話し合ったのか、G7としてどの程度の期間が必要か、実現への道筋を伺います。

 また各国ではイスラエル軍の行動を国際法違反だと指摘するデモなどが広がっています。「法の支配」とグローバル・サウスとの連携を重視するG7議長国として、隔たりを乗り越えるために必要な取り組みは何か、ご見解をお伺いします。

 中東情勢の緊迫を契機に国際社会の分断が広がり、侵攻の長期化も相まってウクライナ支援が細る懸念があります。クレバ外相を交えたセッションでこうした懸念を払拭する成果は挙げられたのか、ご認識をお伺いします。

 また最後に、今回は初めて中央アジアを招きました。ロシアや中国と向き合う上での要衝になります。セッションを設けた目的と、G7と中央アジアの協力関係のポテンシャルについて、今回の議論も踏まえてご見解をお伺いします。宜しくお願いします。

【上川外務大臣】

 ご質問が幾つかの項目になっておりますので、その一つずつについて、ご説明をしたいというふうに思います。

 まず戦闘休止について、ご質問がありました。

 ガザ地区の人道状況の改善が目下の最優先課題であり、一般市民、とりわけ未来ある子供たち、また、女性・高齢者が被害に遭っていることに大変心を痛めております。まずは同地区の一般市民に必要な支援が行き届くよう、人道的休止、すなわち人道目的の戦闘休止、及び、人道支援活動が可能な環境の確保を求めて、様々な外交努力を重ねているところであります。

 こうした中、今回のG7外相会合におきましては、G7として、ハマス等のテロ攻撃を断固として非難した上で、ガザにおける人道危機に対処する必要性、特に人道支援やそのための人道的休止や人道回廊の重要性等を確認をいたしました。

 これらの点を含め、G7として初めて、今般の事態に関する一致したメッセージを文書の形でまとめることができたことは、国際社会においてG7が責任ある役割を果たすという観点からも、また、本年のG7議長国としての務めを果たすという観点からも、重要な成果となったと考えております。

 今回の成果も踏まえまして、今後更に、G7を含む関係国や、また、関係者等との間で連携を深め、外交努力を積み重ねてまいりたいと考えております。

 その上で、第三国間の個別のやりとりや、また、会合における議論のこれ以上の詳細を述べることについては差し控えさせていただきます。

 続きまして、デモや隔たりについてのご質問がございました。

 世界各地でイスラエル・パレスチナ情勢に関連したデモが発生していることは承知をしております。我が国として、引き続き深刻な懸念をもって情勢を注視しておりまして、ハマス等によるテロ攻撃を断固として非難した上で、事態の早期沈静化と共に、人質解放・一般市民の保護の重要性、また国際人道法を含む国際法に従った対応等を求めてきております。

 その上で、国際的なパートナーへの関与の強化は本年の日本議長年の優先課題であります。これまで、G7長野県軽井沢外相会合や、またG7広島サミットでの議論を経て、その重要性に関するG7のコンセンサスは確固たるものになったと考えております。

 我が国といたしましては、こうした取組も含め、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化すべく、多様性と包摂性を重視するきめ細かな外交を通じて、いわゆる「グローバル・サウス」と呼ばれる国々を含む国際社会の幅広い支持と関与を得るための外交を引き続き推進してまいりたいと考えております。

 次に、三点目、ウクライナ支援ということでご質問がございました。

 我が国といたしましては、ロシアによる侵略に苦しむウクライナを強力に支援し続けていかなければならないとの考えは変わりはありません。

 今回のG7外相会合におきましては、本日午前にG7間での議論を、また午後にクレーバ・ウクライナ外相をオンラインでご招待し意見交換を行いました。そして、中東情勢の緊張が高まる中にあっても、G7として、結束して厳しい対露制裁や強力なウクライナ支援に取り組む姿勢は不変であること、また、中長期的な復旧・復興のために官民一体となって取組を加速させていくこと、そして、平和フォーミュラのプロセスを国際的なパートナーと共に進める必要があること、といった点につきまして、一致することができました。

 G7として、一日も早くロシアの侵略を止めさせることが引き続きの優先課題でありまして、外交、人道、財政、安全保障面を含め、あらゆる面で必要な限りウクライナを支援していく考えであります。

 最後に、G7と中央アジアの協力関係のポテンシャルに対してのお尋ねがございました。

 今回、今年の優先課題のひとつが、国際的なパートナーへの関与の強化、そうした観点から、今回G7外相会合として初めてとなります、中央アジア5か国とオンライン形式で対話をいたしました。

 我が国は、「中央アジア+日本」対話・首脳会合を来年開催する予定であります。今回の議論も踏まえ、中央アジア諸国とG7の協力を更に発展させるべく、引き続き取り組んでいく考えでございます。

【ロイター通信 村上記者】

 過激派組織ハマスによるイスラエル南部への奇襲攻撃から1か月が経ちましたが、イスラエルによるガザ攻撃は激しさを増し、現地の人道危機は悪化の一途をたどっているようです。多くのG7諸国はガザの人道的休止を求めてきましたが、この2日間、G7各国外相と行った話し合いは、この人道的休止の実現にどのような効果があったでしょうか。

 危機を解決し、危機が他の地域に波及するのを防ぐために、G7として、実際にいかなる役割を果たすことができるとお考えでしょうか。

 また、紛争がある程度解決した後、G7はガザの将来にどのように関わっていくとお考えでしょうか。

【上川外務大臣】

 まず、人道的休止、そしてG7の役割についてということでありますが、今回の会合は、10月7日のハマス等によるテロ攻撃以降、初めてとなる対面でのG7外相会合でありまして、G7外相による中東訪問等も踏まえ、まさに膝をつき合わせて、突っ込んだ議論を行うことができました。

 その結果、G7として、ハマス等のテロ攻撃を断固として非難した上で、ガザにおける人道危機に対処する必要性、特に人道支援やそのための人道的休止や人道回廊の重要性等を確認をいたしました。同時に、中長期的なガザの将来に取り組むことや、二国家解決が公正で永続的な平和への唯一の道であること等を確認をいたしました。

 これらの点を含めまして、G7として初めて、今般の事態に関する一致したメッセージを文書の形でまとめることができたということにつきましては、国際社会においてG7が責任ある役割を果たすという観点からも、また本年のG7議長国としての務めを果たすという観点からも、重要な成果となったものと考えております。

 また、ガザ地区の将来につきましては、共同声明においても、ガザの持続可能な長期的解決に取り組むことや、また二国家解決が公正で永続的な平和への唯一の道であるということを確認をいたしました。

 今後、今回の成果を踏まえまして、さらにG7を含む関係国や関係機関との間で連携を深め、外交的な、外交努力を積み重ねていきたいと考えております。

【産経新聞 原川記者】

 会合の重要なテーマの一つとなりました「インド太平洋」に関してお伺いいたします。インド太平洋においては、中国が引き続き、力や威圧による一方的な現状変更の試みを続けています。最近も、中国海警局の船がフィリピンの軍の船に衝突する事案がありましたし、また台湾周辺で中国軍機の活動が活発化しています。また、日本に対しても東シナ海の日本のEEZ内にブイを設置したり、また福島第一原発の処理水の放出をめぐって偽情報の発信、また日本産水産物の輸入全面禁止措置、これらを続けています。そこで、お伺いしますが、先ず、議長国として中国をめぐる諸懸案について具体的にどのように提起されましたでしょうか。

 また、中東情勢の緊迫化やロシアによるウクライナ侵略の長期化によって、インド太平洋への国際社会の関心が低下しているとの見方も一部にありますが、そうした中でインド太平洋、そして中国というテーマについて、G7外相間でどのように議論し、またそれらの重要性についてどのように位置づけられたか、これについても伺いたいと思います。以上、宜しくお願いいたします。

【上川外務大臣】

 先ず、ご質問の点でありますが、中国をめぐる諸懸案の提起についてということでお尋ねがございました。

 これら諸懸案も念頭に、冒頭、私申し上げましたとおり、G7の同僚との間で、中国に率直に関与をし、我々の懸念を直接表明することが重要であり、また、グローバルな課題や共通の関心分野について中国と協働する必要があることを改めて確認をしております。

 加えて私からは、中国との直接対話の重要性、これに言及しつつ、日中関係を含む最近の動きについて説明をいたしました。

 続いてインド太平洋・中国に関する議論とその重要性ということでございますが、我が国は、アジアで唯一のG7メンバーであります。そして本年のG7議長国として、このインド太平洋に関する議論を重視してきたところであります。4月のG7の長野県軽井沢外相会合を含めまして、これまでの累次にわたるG7外相会合において、インド太平洋地域に関する議論を深めてまいりました。

 今回のG7外相会合におきましても、インド太平洋に関するセッションを開催したところであります。私から、インド太平洋における最近の動向等について説明をいたし、G7メンバーとの間で、インド太平洋地域の諸課題について率直な意見交換を行い、G7の結束が引き続き極めて重要だと、こうした認識で一致をいたしました。

 引き続き、年末までのG7議長国としての役割をしっかりと果たした上で、このインド太平洋に関するG7の結束といった本年の成果を、来年の議長国であるイタリアに対してしっかりと引き継ぎ、様々な形での意見交換を続けていきたいと考えております。

【AP通信 山口記者】

 中東問題についてお尋ねします。ガザ地区の軍事衝突や人道状況が悪化し、イスラエルが米国の人道休止提案を拒否するなど事態が緊迫し、各国の立場も微妙に会議の前は異なっておりましたけれども、G7として一致したメッセージが発信できたことの意義について先ずお尋ねいたします。

 更に、大臣が直前に現地を訪問なさって、一番強調すべきと思われたことは何か、そしてそれはどのように会議で反映されたのでしょうか。

 また、イスラエルに国際批判が高まっておりまして、日本にとって中東地域全体の不安定化はエネルギー供給の観点からも懸念されます。この点も併せて、イスラエル・パレスチナ双方にこれまで配慮してきた日本の外交姿勢をどのようにお考えでしょうか。宜しくお願いいたします。

【上川外務大臣】

 幾つかのご質問が入っておりましたけれども、先ず、今回のG7会合や中東訪問の意義との関係性ということでお尋ねがございました。  今回の会合は、10月7日のハマス等によるテロ攻撃以降、初めてとなる対面でのG7の外相会議でありました。私自身、先週の中東訪問を通じまして、ガザにおける人道危機に対処するための緊急の行動をとる必要性を強く認識したところであります。こうした問題意識を踏まえ、今回G7外相との間で、まさに膝をつき合わせて、突っ込んだ議論を行いました。

 その結果、G7として、ハマス等のテロ攻撃を断固として非難した上で、ガザにおける人道危機に対処するための緊急の行動をとる必要があること、そして特に人道支援やそのための人道的休止や人道回廊の重要性等を確認したところであります。同時に、ガザの持続可能な長期的解決に向けた取り組み、これにつきましても、二国家解決が公正で永続的な平和への唯一の道であるということにつきましても確認をいたしました。

 これらの点を含めまして、G7として初めて、今般の事態に関する一致したメッセージを文書の形でまとめることができたということは、国際社会においてG7が責任ある役割を果たすという観点からも、また我が国が本年のG7議長国としての務めを果たすという観点からも、重要な成果となったと考えております。

 続いて、中東地域全体の情勢、また日本へのエネルギー供給についてのご質問もございました。

 日本は原油輸入の約9割を中東地域に依存しておりまして、エネルギー安全保障の観点からも、同地域の平和とそして安定は極めて重要と考えております。

 今回、G7として、地域のパートナーと共に、紛争が更に激化することを防ぎ、また、より広い地域に拡大をするということをなんとしても防がなくてはいけない、こうしたことで取り組むことで一致したところであります。

 続きまして、イスラエル・パレスチナ外交姿勢ということでのご質問がございました。

 日本はイスラエル・パレスチナ双方と友好の関係を築いてまいりました。中東各国に対して話ができるという日本の立場を利用して、短期的には事態の沈静化、そして中長期的には「二国家解決」の実現に向けて、イスラエル・パレスチナ双方を含む関係各国に対して働きかけを続けてまいりたいと考えております。

 地域の平和と安定のためには、イスラエルとパレスチナが平和に共存する以外の解決策はありません。今般の事案が中東和平の道を閉ざすことになってはならず、「二国家解決」を支持する日本の立場は変わらない、そうした姿勢でこれからも外交を続けてまいりたいと思っております。