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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 海洋安全保障及び繁栄に関するG7外相宣言

[場所] カナダ、シャルルボワ
[年月日] 2025年3月14日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1. 我々、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国及び米国の外相並びにEU上級代表は、国際の安全を強化し、経済的繁栄を促進し、海洋資源の持続可能な利用を確保する、法の支配に基づく、自由で、開かれ、安全な海洋空間に向けて貢献するとのG7の確固たるコミットメントを再確認する。

2. 海洋の安全保障及び繁栄は、国際的な安定、経済的強靭性及び全ての国の福祉の基礎であり、海洋生態系の保全と持続可能な利用は、地球上の全ての生命にとって不可欠である。世界貿易の80%以上は海上で輸送され、世界のデータの97%は海底ケーブルを通じて流通している。海上航路の混乱は、国際的な食料安全保障、重要鉱物、エネルギー安全保障、世界的なサプライチェーン及び経済的安定に直接的な脅威をもたらす。我々は、戦略的な争い、航行及び上空飛行の自由に対する脅威並びに不法な海運活動を含め、海洋安全保障に対するリスクが増大していることに深い懸念を表明する。これらの分野における国家の行動は、紛争及び環境破壊のリスクを増大させ、全ての国の、特に世界の最も貧しい層の、繁栄及び生活水準を危険にさらしている。

3. 我々は、海洋における全ての活動を規律する法的枠組みとしての国連海洋法条約(UNCLOS)の役割を認識する。

4. 我々は、リューベック(2015年)及び広島(2016年)で採択された海洋安全保障に関するG7声明を想起する。我々は、海底ケーブルネットワークの安全確保及び遺棄漁具対策を含む様々な問題について、他のG7閣僚トラック及び作業部会を通じて現在進行中の関連作業を歓迎する。我々は、海賊行為、海上武装強盗、人身取引及び沿岸国の海上法執行能力の強化に関するものを含む、海洋空間に関連する国際組織犯罪及びテロに関するG7の取組も歓迎する。我々は、沿岸国が自らの海洋安全保障に対する脅威に共同で対処することを支援するための、地域的な海洋安全保障枠組みの重要性を認識する。我々は、ギニア湾の海洋安全保障に関するG7メンバー及びパートナー間の主要な対話の場となっているG7++ギニア湾フレンズ(本年カナダが議長を務めるG7++FOGG)のような既存のイニシアティブを歓迎する。

安全な海並びに航行及び上空飛行の自由への新たな脅威

安定の強化:

5. 我々は、公海及び排他的経済水域における航行及び上空飛行の自由並びにそれらのその他の国際的に適法な利用に加え、国際法の下で規定されている無害通航権、通過通航権及び群島航路帯通航権を含む、その他の海域における関連する権利及び自由の重要性を強調する。我々は、台湾海峡並びに南シナ海、紅海及び黒海におけるものを含む、力の行使及びその他の形態の威圧を通じて、このような自由を制限し、管轄権を拡大しようとする最近の不当な活動に対し、高まる懸念を共有する。我々は、埋立て及び拠点構築並びにそれらの軍事目的での利用を通じたものを含め、地域の安定を損なうおそれがある形で、現状を一方的に変更しようとする中国の不法で、挑発的、威圧的かつ危険な行動を非難する。我々は、沿岸国が、境界未画定海域において、海洋環境に恒久的な物理的変更を引き起こす一方的な行動を最終的な合意への到達を危うくし又は妨げる限りにおいて控えること、及び、それらの海域において、実際的な性質を有する暫定的な取極を締結するためにあらゆる努力を払うことの重要性を強調する。我々はまた、危険な操船、商業船に対する無差別攻撃並びに法の支配及び国際法に基づく海洋秩序を損なうその他の海洋における行動を非難する。我々は、2016年7月12日の仲裁裁判所による仲裁判断が、仲裁手続の当事者を法的に拘束する重要なマイルストーンであり、当事者間の紛争を平和的に解決するための有用な基礎であることを改めて表明する。我々は、台湾に関する基本的な立場に変更はないことを再確認し、国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する。我々は、黒海におけるウクライナの港からの輸出再開を歓迎する。黒海における商業船舶の航行の自由は堅持されなければならない。

6. 力による現状変更の試み:我々は、東シナ海及び南シナ海におけるものを含む、特に力又は威圧による一方的な現状変更の試みに反対する。我々は、地域及び国際の平和と安全を脅かし得る、海洋における威圧的で危険な行動によるものを含め、力及び新たな地理的事実の確立による現状変更の試みを体系的に追跡し、報告する手段を実施することを約束する。

7. 重要な海洋及び海底インフラの保護:我々は、海洋の下にある死活的なエネルギー及び通信インフラが、我々の経済をつなぎ、我々の繁栄に不可欠であるという事実を認識している。我々は「安全で強靭なデジタル通信ネットワークのためのケーブル接続性に関するG7共同声明」(2024年)及び「グローバルにデジタル化された世界における海底ケーブルの安全性と強靭性に関するニューヨーク共同声明」(2024年)を想起する。我々は、海底通信ケーブル、海底インターコネクター及びその他の重要な海底インフラが、破壊行為、稚拙な操船技術、又は無責任な行動によって重大な損害を受けてきたこと、それが影響を受けた地域におけるインターネット又はエネルギーの途絶、世界的なデータ送信の遅延、又は機密通信の侵害の可能性につながってきたことに関する懸念の高まりを共有している。我々は、重要な海底及び海洋インフラの全体的な強靭性を向上させるため、産業界との協力を強化し、リスクを軽減し、運用上の課題に対する障害を軽減するとともに修理能力を強化する。この点に関し、我々は、欧州委員会及びEU外務・安全保障政策上級代表が2025年2月に採択した「ケーブルの安全保障に関するEU行動計画」を歓迎する。

8. 海上犯罪:海賊行為、海上武装強盗、海洋における武器取引及び制裁の回避、人身取引、違法薬物取引並びに違法・無報告・無規制(IUU)漁業を含む海上犯罪は、海洋安全保障、航行の自由並びに我々の経済及び繁栄を引き続き阻害している。我々は、これらの海上犯罪に取り組むために協力してきたが、海洋における違法活動は新たな分野にまで拡大し、対処を要する喫緊の課題となっている。我々は、2024年のイタリアの議長国の下で講じられた、移民の密入国と闘うためのG7アクションプランを歓迎する。

9. 貿易の自由の保護:過去1年間、紅海におけるホーシー派の無差別攻撃は、船舶及びその乗組員の海洋安全保障を危険にさらし、国際貿易を混乱させ、近隣諸国を環境上の危険にさらしてきた。また、イランによる軍事、資金及びインテリジェンス上の支援により可能になっているこうした違法な攻撃は、中東とイエメンの緊張の高まりの一因となっており、イエメン国内の和平プロセスにも深刻な余波を及ぼしている。ホーシー派により「拿捕」されているギャラクシー・リーダー号の船体は、即時に解放されなければならない。我々は、紅海における航行の自由を確保するために関与し、重要航路を守り、地中海をインド太平洋に結ぶスエズ運河を通じた定期的な貿易の流れを回復することを支援してきた全ての国の取組を評価する。この観点から、我々は、EUの「アスピデス」海洋作戦及び米国主導の「繁栄の守護者」作戦の取組を称賛する。

安全な輸送及びサプライチェーンの安全保障

10. 安全でなく不法な輸送行為の制限:不正な船舶登録及び船籍登録機関を含む、安全でなく不法な輸送行為の増加は、世界貿易及び環境的な持続可能性に重大な脅威をもたらす。我々は、安全でなく不法な輸送が、産業界、政府及び市民に多大なコストを課していることを懸念している。ロシアの収入獲得能力は、探知を避け、国際的な安全、環境及び責任に関するルール及び基準を回避するために、日常的に船舶自動識別装置の無効化又は「なりすまし」を行っている、しばしば古く保険が不十分で整備不良の船舶からなる影の船団を通じた、G7+(プラス)による石油のプライス・キャップ政策を回避するための広範な取組によって、維持されてきた。北朝鮮は核・弾道ミサイル計画を追求し続けるとともに、特に、石油及びその他の国連が禁止する物品の禁止された「瀬取り」を含む不法な海上での活動を通じ、制裁の回避を継続している。G7の連携を通じ、我々は、北朝鮮による、国連安保理により課された制裁を回避するための、不法な活動に関与する「闇」の船舶の使用を明るみに出した。ロシア及び北朝鮮は、報じられているロシアから北朝鮮への石油製品の移転といった海上経路を通じたものも含め、経済関係を強化している。無規制の「闇」の船舶は、IUU漁業を行い、海洋生物の棲息環境を破壊し、漁業資源を枯渇させ、生物多様性及び食料安全保障に悪影響を及ぼしている。無規制で、保険が不十分な「闇」の船舶は、北極や南極のような脆弱な生態系を含む海域に海難事故の高いリスクをもたらす。我々は、制裁の回避、武器移転、違法漁業及び不法取引に関与する、未登録の又は不正登録された、無保険で、必要な基準を満たさない船舶の使用を防止するため、G7及び他のパートナー間の連携を強化することにコミットする。我々は、関連する国際機関に対し、不法な海上での活動を特定し追跡する手段として、衛星を利用した船舶追跡を拡大し、個々の船舶の移動及び「瀬取り」に関する包括的なデータ記録を確立することにより、海洋状況把握を向上させることを奨励する。我々はまた、地域の国々の法執行及び海洋状況把握に関する能力構築にコミットする。

11. 影の船団タスクフォース:違法で、安全でなく、又は環境を危険にさらす活動に関与する影の船団の監視及び探知を強化するため、あるいはその利用を抑制するため、我々は、北欧・バルト8か国(デンマーク、エストニア、フィンランド、アイスランド、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スウェーデン)及び可能であれば他国を、参加しているG7メンバーに加わるよう、影の船団タスクフォースに招待し、この地域で活動的な他国の成果を強化する。このタスクフォースは、制裁の迂回、安全若しくは環境規制の遵守の回避、保険料の回避、又はその他の違法行為への関与を目的とした違法操業を含め、影の船団及びその旗国による海運セクターでの違法操業を防止するための行動を推進する、2023年12月6日の国際海事機関(IMO)の決議A. 1192(33)による加盟国及び全ての関係するステークホルダーへの要請に対して、タスクフォース参加国による対応を構成するものとなる。

12. 海上サプライチェーンの強靭性並びにエネルギー及び食料安全保障の強化:海上サプライチェーンは、世界経済を支え続けるが、地政学的緊張及び環境的な要因の双方に起因する、現在及び将来双方の様々な脅威に直面している。海上の混乱は、消費者コストを引き上げ、輸送時間を増加させ、輸入国の需要を低減させ得るほか、その結果、輸出国の生産者にとっては収入の減少と競争力の低下を意味する。海運におけるこうした脆弱性は、特に、小島嶼開発途上国(SIDS)及び後発開発途上国(LDC)を含む、安定した輸送経路に依存している開発途上国にとって、エネルギー及び食料安全保障を損ない得る。我々は、「ウクライナからの穀物」スキーム及びインド太平洋に関するASEANアウトルックといった、エネルギー及び食料安全保障を促進することを意図した、G7パートナーが関与し支援する海上イニシアティブを歓迎する。我々は、地政学的危機の時代におけるものを含め、海上サプライチェーンの強靭性を強化し、エネルギー及び食料の安全保障を守るためのベストプラクティスを特定するべく、(アフリカ統合海洋戦略2050に従い)アフリカ連合及びその他の関連する国際機関との協力を呼びかける。

13. 安全で強靭な港湾及び戦略的水路の推進:重要な港湾インフラに対する外国による管理又は影響力は、貿易、防衛及び安全保障並びに経済的安定において脆弱性を生み出す可能性があるため、港湾の所有権及び運用管理は国家安全保障にとり重要である。港湾の強靭性もまた、経済的安定と世界貿易にとり極めて重要であるが、港湾は、環境悪化、異常気象現象及び地政学的な紛争によるリスクの増大に直面している。港湾の安全強化及びインフラの現代化は、安全で効率的な海上貿易を維持するために不可欠である。戦略的な水路及び主要な海上交通の要衝の所有権及び管理が、潜在的な敵対勢力による過度な影響に対して脆弱にならないことを確保することもまた、国家安全保障にとり不可欠である。我々は、敵対勢力がサプライチェーン、軍事作戦又は戦略的資源の流れを活用しないことを確保するべく、情報通信技術(ICT)システムに関するものを含め、各国の司法における所有権構造、港湾管理及び強靭性の精査の重要性を強調する。我々は、港湾のICTインフラのための強固なサイバーセキュリティ基準を促し、海上物流ネットワークにおける悪意あるサイバー事案に対する強靭性を高め、主要なサプライチェーン拠点に対する独占力を削減し、安全かつ透明性のある港湾所有権を促し、重要インフラ及び戦略的水路に対する外国からの望ましくない又は過度な影響を制限し、そして、その他の方法でこうした潜在的な脆弱性に対してより焦点を当てることを促すべく、パートナー及び関連する国際機関と協働する。

14. 海洋の不発弾(UXO)は、海洋環境、漁業者及びその他の海域利用者の安全、並びに様々な海上での経済活動に重大な危険をもたらす。我々は、海洋からUXOの除去を加速させるため、外交努力を強化し、各国当局、関連する国際機関及び地域機関、並びに関連する産業界の間でベストプラクティスを共有することにコミットする。

海洋資源の持続可能な管理

15. IUU漁業に対する執行強化:IUU漁業は、漁業資源の減少及び海洋生物の棲息環境の破壊の主な原因となっている。IUU漁業は、世界中の全漁業活動の3分の1を占める可能性があり、世界経済に年間230億ドル以上の損害を与え、また、開発途上国を含め、永続的な経済資産としての漁業に悪影響を及ぼしている可能性がある。我々は、エクアドル、ペルー、コスタリカ、フィリピン及び太平洋島嶼国フォーラムのメンバーにおけるカナダ主導の闇の船舶探知システムを歓迎し、自らの漁業がIUU漁業の脅威にさらされている他のパートナーを支援するべく、このモデルを同様に実施することに価値を見出す。我々は、データの共有及び透明性が、悪質な行為者をさらすことによって、この闘いにおいて重要な役割を担うこと、また、技術の進歩が、強固な監視、統制及びサーベイランス並びに執行状況を支援することができることを認識する。我々は、関連する国際機関と共に、またそれらを通じて、公海上の漁業資源を持続的に管理するためのルールを確立・強化し、2022年のG7オーシャンディールに基づき、探知技術の更なる開発、航空機による監視及び公海船舶乗船検査を含む措置の執行を改善するべく、IUU漁業対策の更なる進展を奨励する。

16. 我々は、2025年6月9日から13日までフランスのニースで開催される第3回国連海洋会議を歓迎する。

パートナーシップ

17. このG7海洋安全保障及び繁栄宣言は、主要港、大規模な商船隊又は膨大な登録船籍が存在する国、並びにIMO及びASEAN等の関連する地域及び国際機関といった、G7外のパートナーとの協力のための枠組みを提供する。我々は、自由で、開かれ、繁栄し、安全なインド太平洋地域を含むG7諸国の取組の下、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を構築し、世界の海洋空間の持続可能な発展へのコミットメントの下、主権及び領土一体性の原則に整合的な、本宣言に示された目標を前進させるためのパートナーとの強固な協力を歓迎する。

18. 我々は、本宣言の目的を支援し得る、2025年にイタリアが主催する世界海上保安フォーラム及び北極海上保安フォーラムを含む、海上保安機能に関する協力を歓迎する。

2025年3月14日

カナダ、シャルルボワ