データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 量子の未来のためのカナナスキス共通ビジョン

[場所] 
[年月日] 2025年6月17日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 我々G7首脳は、コンピューティング、センシング及び通信を含む量子技術が、世界中の社会に重要で変革的な利益をもたらす潜在力を有することを認識する。過去10年間の研究開発における重大な進展により、これらの技術は、グローバルな課題に対処し、今や、金融、通信、輸送、エネルギー、保健及び農業等の分野において経済的及び社会的利益を生み出す準備が整っている。これらの技術はまた、新たな防衛能力を可能とし、現在のデータ保護システムを脅かすため、国家及び国際の安全保障に広範な影響を及ぼす可能性がある。

 我々は、量子技術の潜在力を最大限に実現するためには、投資を動員し、資源を最適化し、研究及び商業化を進め、サプライチェーンを確保し、インフラ、人材及び市場へのアクセスを促進し、共有された利益及び価値に整合的な形で導入し、リスクを管理しイノベーションを引き出すための信頼できるエコシステムを構築するべく、政府、研究者及び産業界が国際的に協働することが必要であることを認識する。

 この目的のため、我々は以下にコミットする。

1. 量子科学技術の研究開発や、責任あるイノベーション及び商業化への官民投資を促進するとともに、商業化を加速し民間投資を誘致するため、研究者、産業界及びその他のステークホルダー間のパートナーシップを支援する。

2. 零細及び中小企業が開発したものを含め、様々な分野における量子技術の有益な応用の開発及び導入を促進する。

3. 全てのステークホルダーが、量子技術の研究、開発及び実施の全ての段階において、創造者、ステークホルダー、指導者及び意思決定者として意義ある形で参画するための機会を支援する。

4. 女性及びグローバル化に取り残されたコミュニティを含む全ての人々に向けた、量子分野における新たな雇用に必要なスキルを個人に身につけさせるためのイニシアティブを支持し、ベストプラクティスを共有し、人材育成政策を促進する。これらには、実習制度、科学、技術、工学、数学(STEM)及びコンピュータサイエンス教育、並びにメンターシップが含まれる。

5. 学術界と産業間の国際交流、機微技術の流出防止、知的財産権の保護、より優れた相互運用性の促進等の措置を通じて、志を同じくするパートナー間の、開かれた公正な市場環境及び信頼できるエコシステムを支援する。

6. このイノベーションの初期段階においては世界的な規制の枠組みがまだ適切でないことを認識しつつ、科学的な専門知識に基づき、民主的価値、自由及び基本的権利に沿った公開のかつ国際的な対話を通じて、量子技術への信頼を促進する。

7. 量子技術に関連するリスクに関する理解を分野横断的に深め、量子サプライチェーンを確保し、研究セキュリティ及びインテグリティを確保し、データ及び通信ネットワークの保護のための量子耐性のセキュリティ対策及びソリューションの時宜を得た導入を促進する。

8. NMI-Qイニシアティブを通じたものを含め、信頼できる国家計量標準機関間の連携を強化し、志を同じくするパートナー間で重要な測定及び試験を推進する。

9. G7量子技術合同作業部会を通じて、産業界、専門家及び学術界と協力し、異なるメンバー間でプロジェクトの自主的な共同呼びかけ等を通じて、研究、開発及び商業化に関する協力についての情報を提供し、イノベーションと導入への取組方法に関する政策対話を前進させ、商業及び防衛用途に向けて進展するこれら技術の潜在的な社会的影響を評価する。

 本年の国際量子科学技術年において、我々は、この課題について具体的な進展を図るため、志を同じくするパートナーと協力し、連携して取り組む。

(了)