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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] G7産業・デジタル・技術大臣会合中小企業におけるAI導入のためのブループリントに係る閣僚声明

[場所] モントリオール,カナダ
[年月日] 2025年12月9日
[出典] 総務省
[備考] 
[全文] 

背景・文脈

我々、G7産業・デジタル・技術(IDT:INDUSTRY,DIGITALANDTECHNOLOGY)担当大臣は、カナダ・ケベック州モントリオールに集い、各国の中小企業における安全で、責任ある、信頼できるAIの使用を加速させるための実践的な手法を検討した。2025年6月の「繁栄のためのAIに関するG7首脳声明」のコミットメントに応え、我々は、小規模企業を含む中小企業が価値と生産性を高める形でAIにアクセス、適応、活用する環境を整備するために企業、業界団体及び政策立案者が広く実施できるような具体的な行動を示す。

我々はAIを経済・社会を大きく利する可能性を持つ変革的な汎用技術として認識する。我々は引き続き負の外部性の緩和、個人データの保護と知的財産権の尊重、安全性の強化にコミットするが、特に中小企業によるAIの広範囲での導入はこの可能性を実現するための鍵である。中小企業によるAI利用は急速に増加しているが、的を絞った対策が必要な特定の障壁に直面しているので、彼らは大企業に比して導入のペースが遅い。中小企業の障壁を克服するための政府、企業、その他の組織による努力は技術の正の影響を加速させるだろう。

セクター内外におけるAI広範な普及に加え、企業レベルで生産性の向上を達成することはAIのポテンシャルを発揮するために必要である。我々は中小企業が自社の企業戦略やコア・サポート機能へのAI統合のための努力を支援すること、そして幅広い業務分野でAIモデル・システムを効果的に活用、連携、革新できるようにより広範な労働力を巻き込み、力を与えることの重要性を認識する。

我々は中小企業をAIバリューチェーンに統合し、中小企業のAIイノベーションを強化する、動的で自律的かつ強靭なAI導入エコシステムの構築は有益と考える。我々は民間事業者のリーダーたちと連携し、取組を主導する。中小企業は、AIのアーリーアダプターになることや、知見を共有すること、新しいAIサービスで市場ギャップに対処すること、セクター・産業内での協業的なAI導入と商業化の取組を進めること等を通じて、これらのエコシステム構築・形成にあたり重要な役割を担うことができる。特にスタートアップはダイナミックで中小企業に配慮したエコシステムの構築や中小企業のニーズに沿ったAIソリューションの展開において重要な役割を担うことができる。

我々は中小企業のニーズ、特性が地域、産業、規模、デジタル成熟度、成長意欲等の観点から多岐に渡ることを認識する。中小企業のAI導入に向けた旅路は、したがって既製の生成AI製品の取得からビジネスニーズに合わせたAIモデルのカスタマイズ、基礎的なAIリテラシーの構築から高度な社内能力・スキルの維持、特定用途の試行から業務全体への包括的な展開まで複雑さや野心度に幅広いバリエーションがあり得る。G7OECDディスカッションペーパー「中小企業によるAI導入」はAI導入の普及パターンや促進要因、政府が中小企業の特性に合わせる形で政策を調整する際に役立つAI導入者の分類等のツールを提供する。我々は政府と中小企業の積極的なコミュニケーションと協力を促進し、中小企業のニーズに対応し、効果的な実施を可能とすることを奨励する。

我々はカナダ議長国がG7各国からのインプットも踏まえて策定した中小企業におけるAI導入のためのブループリントを歓迎する。当該ブループリントは高いインパクトのある政策行動を示し、G7各国からのAI導入具体事例を提供することで、政府・中小企業の選択によりよいインプットを行う。我々はこの資源は中小企業がAI導入や商用化に関して直面している障壁を低減する助けとなることを確信する。

中小企業のAI導入を加速させる取組は2024年にイタリアのG7議長国のレポートである「特に中小企業におけるAI導入・開発の加速要因と障壁」を踏まえる。我々は経済協力開発機構(OECD)とカナダの3つの国立AI研究所(Amii,MilaとVector Institute)のブループリント策定に向けた情報の貢献を歓迎する。我々は2025年5月にニューファンドランドとOECDによって開催されたAIと中小企業のワークショップからの示唆についても感謝する。

政策提言

適切なインフラへのアクセスはAI導入・展開にとって不可欠である。接続性、計算資源、データ保管のストレージ、及び質の高いデータセットは重要な要素のうちの1つである。しかしながら、我々は現在提供されているインフラが必ずしも中小企業のアクセス・価格面でのニーズに合致しているわけではない点に留意する。したがって、我々は以下の点を重視する。

・信頼性が高く高速なブロードバンドインフラへの官民投資を継続し、特に未整備または不十分な地域コミュニティのインフラ構築に重点を置き、インターネット速度の向上、接続品質の改善、料金の引き下げを通じて、AI導入やDXへの参加機会の拡大・向上を図ること。

・AIの計算資源やクラウドインフラ(共有インフラを含む)への官民投資を加速し、特に価格の手頃さ、利用可能性、競争の促進に重点を置く。これにより、中小企業の制約や予算に沿った条件・コストで計算資源やクラウドリソースの利用可能性が向上し、中小企業の成長を促進しつつ健全な競争を促すサービスの登場が期待される。

・AIモデルの訓練に不可欠で、中小企業のAI導入・イノベーションを促進する高品質でプライバシー保護・知的財産権尊重のデータセット(業種別データセットを含む)の利用可能性を高めること。特に、医療、金融、重要インフラなどの高リスク分野を支援するためには、必要に応じて匿名化・非識別化された業種別データセットへのアクセスが重要。これらの達成には、ニーズが特定された分野で官民連携を構築・投資することが重要。

・オープンソースおよびオープンウェイトのAIモデル・システムが、中小企業による導入や実験

の障壁や管理上の負担の低減にどのように寄与できるかを検討し、より広範な開発者人材の活用

や新たな環境でのソリューションの適応・再利用の容易化を図るとともに、標準化されたソリュ

ーションがこれらの目標達成を支援できることに留意する。また、これらのモデル・システムお

よびそれを支えるエコシステムが、継続的な有用性を確保するために責任を持って適切に管理・

維持される必要があることを確認する。

企業レベルでのAI導入の成功には、AIとその機会に関する認識、強いリーダーシップ、包括的な計画及び企業の全体的な企業戦略への整合が求められる。したがって我々は企業と業界団体がAI、データに投資を行い、多面的な意思決定を促進、従業員やその代表を巻き込み、変革への備えを強化し、投資収益率の見通しを高めることを奨励する。我々はAI導入ロードマップ(セクター特化のロードマップを含む)が価値主導の導入と事業目標への整合を導くものであり、パイロットや段階的な展開はリスクを緩和し、拡大支援に役立つことに留意する。また、我々はAIの実験や部門横断的な協働を受け入れる企業文化の醸成、そのための効果的な変革管理や評価の重要性を強調する。また、中小企業におけるAI活用事例の利点について認識を高めること、障壁や財務面の課題を克服するために開かれた透明性のある対話を促進することの重要性も認識する。さらに、相互学習、ワークショップ、会議、イベント等のエコシステム活動が、中小企業やスタートアップ間で好事例を広めることができる点も強調する。

スキル向上、リスキリング、能力開発は中小企業が効果的かつ責任を持ってAIを統合する上で必要不可欠である。また、従業員が責任を持ってAIを展開し、自らの役割を適応させ、仕事の流れを通じてイノベーションを推進できるよう、知識と自信を持たせることが重要。AIイノベーションの急速な進展により、質の高い学習機会が豊富に生まれている。我々は基礎的な学びと役割別研修を組み合わせたプログラム、特定の業種や住民の独自の運用・技術に関するプログラム、中小企業と大学や研究機関を繋ぐプログラム(特にAI人材を直接企業に配置するもの)の支援の重要性を強調する。我々は中小企業に対して、継続して学習する文化をはぐくみ、職場でのAI導入に際して積極的に社員を関与させることで、AI時代において従業員が排除されるのではなく力を与えられることの価値を強調する。我々は女性やグローバル化によって取り残されたコミュニティの住民がプロセスに関与されるように促されることで機会均等を確保することの価値を認識する。我々はまた、公的機関、企業、業界団体が中小企業の特定ニーズに合わせた最適な研修とつながるための共有スペースを創出することを奨励する。

官民連携を含め、中小企業への資金支援メカニズムを拡充させることは、彼らがAI導時に直面する資金へのアクセスの障壁に対処するために重要。政府、企業及び業界団体は中小企業のニーズに合致したイノベーティブなAIによる製品やサービスを促進するため、研究開発支援や中小企業に焦点を当てたイノベーション拠点の支援を通じて協力すべき。我々は適切な法令に則って実施される場合、サービスモデルの共同調達、学習、AIライセンスやクラウドインフラの共同購入、専門家の協働雇用等を通じて、中小企業のリソースを集約し、規模の経済を創出するセクターイニチアチブやネットワークを奨励する。最後に、商工会議所、研究・イノベーションセンター、業界、セクター団体、信用組合、地域開発銀行などの信頼できる仲介機関を活用し、中小企業がAIエコシステムの導入を促進できるよう、アドバイザリーサービスと資金支援を組み合わせて提供することに価値を見出す。

イノベーションを促進する環境と、規制やガバナンスに関する明快かつ実用的なガイダンスの組み合わせは、公平な競争環境を確保し、中小企業による効果的で信頼できるAIの導入を可能とする。法律・評判に関するリスクへの懸念が対処されない場合、企業はAIの利点を十分に活用できず、不適切な形でAIが展開される可能性がある。中小企業がこれらのリスクに対処するリソースは限られていることから、広島AIプロセスで認められたベストプラクティス等に基づく中小企業向けのツールキットや指針の開発を支持する。政府や規制当局は中小企業の運用実態を考慮した枠組みや標準の策定を促進することが望ましい。国境を越えてAIガバナンス枠組みの互換性を強化することは、中小企業にとって明確性を高め、コンプライアンスに係る負担の軽減にも繋がりうる。